東方十能力   作:nite

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五百五話 地上への追手

「幽々子様、どうしたのですか?」

「……いえ、早く次に行きましょう」

 

空をじっと見つめていた幽々子に、妖夢が声をかける。幽々子は首を小さく横に振り、移動を再開した。

博麗神社から出た二人は、鳴るお腹を抑えながら次の目的地に向かっていた。とはいえ、次に場所は目と鼻の先にあるのだが。

 

「もしもーし、こんにちは~」

 

コンコンと扉を叩き、中にいるだろう子が出てくるのを待つ。そしてしばらくすると、扉がガチャリと開き、中から胡乱な表情をしている一人の妖怪が出てくる。

主がおらず、同僚もいない、一人寂しく家で待っていたユズが現在のこの家の唯一の住人である。

 

「えっと、何の、用でしょうか」

「ちょっとしたお願いに来たのよぉ」

 

と、不安そうな顔をしていたユズが幽々子に背負われている自分の主の姿を見て目を見開く。

 

「主様!」

「大丈夫、大丈夫だから落ち着いて」

 

幽々子の声に、妖夢はやむなしと思う。なんせ、現在進行形で定晴の一部には血がついたままなのだから。

二つの神社を周って力を込められた定晴は、何度も口から血を噴き出した。それは各々の場所である程度拭き取っているものの、完全に拭い取るのは難しい。結果として、定晴はまるで殺されてしまったようになっているのであった。

少なくとも、出発したときよりも見た目で言えば悪化しているので妖夢としてもばつが悪い。正直これで本当に治療になっているのかも半信半疑なため、治るのかどうか詰め寄られたら言葉に屈する自信が妖夢にはあった。

 

「……つまり、私が、もっといっぱい、力を流せば、いいん、ですか」

「ええそうなの。流れ出る以上に力を流せばって言ってたけど、あまり無理はしないようにねぇ」

「わか、りました」

 

そうしてユズは妖力を流し始める。妖術という点ではまだまだ弱いユズではあるが、その身の妖力は大妖怪並にあるので流す量を増やしてもユズにはあまり負担にはならない。

式神通信を使ってルーミアにも助力してもらった方がいいが、彼女は現在戦闘中のはずなので、ユズはひとまず一人で定晴のことを支えることにした。

尚、後々ルーミアにはなぜ呼ばなかったのかと怒られることになる。

 

「幽々子様、それにしてもよく分かりません。こういう治療をするならそれこそユズさんたちだけで十分なのでは?他の人の霊力やらなんやらって、普通は体が受け付けませんよね。だからこそ血を吐いているわけですし」

「血を吐いていることと他人の力を流していることに関係はないわよ妖夢。あの人が大丈夫だって言うのなら、大丈夫なんでしょうねぇ」

 

幽々子の言葉を裏付けるように、定晴の口から血が溢れ出す。そろそろ、失血量が致命的な域にまで到達してしまいそうだ。

ユズの涙目を受け、幽々子は続けなさいと無言で目を送った。ユズは再度定晴に向き合い、力を流し始める。

 

「私、定晴さんにあとで謝らないといけないなぁ……」

「安心なさい妖夢。これはれっきとした治療なのだし、もしこれで怒るのなら私たちじゃなくてミキが怒られるべきよ」

 

なんせ、幽々子たちはミキに言われたことをそのままやっているだけなので。特にアレンジも思いつきもなく、淡々とミキに言われたことを実行しているだけなのだ。

そこらへんは定晴も察する能力が高いので、曲がり曲がっても妖夢が怒られるということはないだろうと幽々子は思う。例え定晴がこちらを怒ってきたとしても、怒りを受けるべきは主である幽々子なのだから、やっぱり妖夢が怒られることはない。

まあ幽々子が怒られる場面に出くわせば、妖夢も一緒になって怒られようとするでしょうけど、と幽々子は微笑んだ。

 

「……これで、いいん、ですか」

「ええ、ばっちりよ。それと、しばらく定晴さんに送る妖力を増やしておいてくれると助かるわ」

 

そうして、幽々子は定晴を背負いなおす。幽々子の服に定晴の血がつくが、幽々子は特に気にしない。亡霊だから血を見てもなんとも思わないっていうのもあるし、単純に定晴の血が忌避するようなものでもないから。

 

「行くわよー妖夢」

「は、はい!それでは失礼しま……」

 

閃光。

だが、妖夢の行動は早かった。目を潰されないように目を閉じたまま、妖夢の盾になるように素早く移動。そのまま、目を閉じたまま二振りを構え何が起きても大丈夫なように備える。

目の裏が元の色に戻ったのを確認してから、妖夢はその目を開ける。そこには

 

「な、なんですか、これ」

 

巨大な兵器が定晴の家に浮かんでいた。そして、家は結界によって守られていたものの、その周囲の木々はすべて焼き払われている。

 

「大丈夫かしら、妖夢」

「は、はい。幽々子様は……」

「今のくらいなら弾けるから大丈夫よ」

 

と、扇子をパチンと閉じて幽々子はそう言った。妖夢は気づかなかったが、着弾地点を逸らしたのは幽々子によるものであり、もし弾いていなければ妖夢は剣共々吹き飛ばされていただろう。

 

「そう、そこまでしてこの人を……妖夢、行くわよ!」

 

幽々子がはじき出されたように空を飛ぶ。それは今までにない速度で、妖夢が追いつくのに必死になったほどだ。

妖夢は分屋ほどではないにせよ、自分の速度には自信があった。準備時間さえあれば文屋にも負けない速度が出せると事実として知っていた。だが、幽々子の本気は妖夢をして追いつくのが大変だと知り少し落ち込んだ。

 

「あ、あれはいったいなんなんですか!?」

「知らないわ。でも、大方紅魔館で定晴さんを攻撃したやつと同類でしょう。追跡装置は外してたはずだけど、定晴さんの家に監視用の何かでも置いていたのかしら」

「つまり、狙いは定晴さんだと!」

「だから全力で逃げてるのよ。でもあれは……」

 

幽々子たちを追うように、兵器が横に滑るように移動してくる。逃がすつもりは毛頭ないようだった。

幽々子たちは知らないことだが、それは月で依姫と紫を襲った巨大兵器、その規模縮小版なのであった。だが、それは弱体化しているものではなく、範囲を絞り代わりに攻撃力を高めているという用途の違う兵器というだけ。

どちらの兵器も、起動用に一発弱い攻撃を行わなければいけないという欠点があり、奇襲するのには向かない。だが、例え備えられたとて防御を貫通して攻撃を与えることができる自信というのがその兵器には備わっていた。

 

「誰か乗ってるんでしょうか!?」

「多分遠隔操作よ。まったく、月は何を考えているのかしら」

 

狙いが定晴だけとはいえ、先ほどの一撃で幻想郷の森の一部が焼かれた。それは、明確な攻撃行動だ。紫たちが月に攻め込んだこととトントンだと思えば確かにその通りだが、紫たちが月人を殺さないように注意して戦っていたのに対し殺意を持って攻撃してきたという違いがある。

尚、幽々子たちは知らないことだが紫もまた兵器により殺意を持った攻撃を受けているので、既にそこの和平可能性は失われている。

 

「このまま逃げ切れるかしら」

「流石に難しいかと!」

 

兵器の移動速度は、全力飛行している妖夢たちとほぼ同等だ。しかし、相手が無機物である以上スタミナという概念がある妖夢たちは分が悪い。いつかは追い詰められて攻撃を受けることになるだろう。

むしろ、逃げ続けて体力がなくなったところを攻撃されるのであればダメージが多くなること間違いなしだ。正直言って、逃げ切るなどという希望は持たない方がよい。

二人と一機は、被害を抑えるために森の奥へと飛んで行った。

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