東方十能力   作:nite

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五百七話 つなぐ

ゆらゆらと揺蕩うように眠る

 

 

傷みがあるような、ないような、そんな中でふわりと意識が薄れる気配がする

 

 

何かが呼んでいる、何かが呼んでいるけれど、分からない

 

 

ふと、何かが目の前に垂れてきた

 

 

だからそれに手をのば

 

 

「あっがああああああ!」

 

 

掴んだ瞬間、体に痛みが走る。死んでしまうと思えるほどの衝撃と痛みが体を貫く。

口から血を吐き、体には強烈な痺れが起こり動けなくなる。ただ痙攣する体を無理に動かそうとすれば、内臓がぐちゃぐちゃになるような感覚を受ける。

 

でも、目は覚める。

 

何度かの痛みの後、少しずつ自分の状態を把握できるようになってきた。ここは意識の世界で、体は起きないままに意識だけが覚醒しているようだ。この状態、少し前にも陥ったことがあるのでなんとなく慣れてはいる。

体というものはなく、視界という概念もない。だが、感覚的に空間が広がっており仮想的な体と視界があるだけだ。

あの時、紫が引っ張り上げてくれたわけだが、今回はこの目の前の紐のようなものを伝っていかないといけないらしい。どこから伸びているのかは不明だが、外に出ることはできるのだろう。

 

「……っ!」

 

少し触ると、やはり激痛が走る。覚悟して触れているので声をあげる(声という概念も仮想的なものでしかないが)ことこそないものの、これを握るなど到底できそうにない。

だが、これを掴まなければ外には出られない。そも、あの時と違って失意で沈んでいるというわけではなく、何かがあって俺はここに落ちている。俺の気力がどれだけ持つか、それで俺が起きることができるかが決まる。

 

ぐっと紐を握る。激痛を伴うが、耐える。

一度、腕を伸ばしてさらに上を掴んだ。それだけで痛みは倍増し、腕を離してしまいそうになる。だが、離さない。離せるわけがない。

 

紐を握ること数度、ふと、紐に何かの意思が込められていることに気が付いた。

 

それは導き。何者か、上位存在によって現世へと繋がる道標。

それは思い。何者か、凡庸ながらも奇跡の力を持って記す思念。

それは向上。何者か、ただなんともなしに上に向かおうとする浮力。

それは信用。何者か、すぐに上に戻るだろうと思い願う信念。

 

だから、俺はそれを継承する。

 

道標を視界に。思念を希望に。浮力を腕力に。信念を胸に。

 

痛みなど、とうに忘れた。終わりが見えないことなど絶望する理由にはならない。上に向かおうとする力がある限り、上で待っている誰かがいる限り、俺は簡単には諦めることはできない。

やめることなど、できない……

 

………

 

「がはっ!」

「うわぁ!」

 

ドクッ、ドクッと心臓の音が聞こえる。倦怠感こそあるが、体を動かすことに問題はない。

 

「さ、定晴さん……?」

「んあ?……妖夢?」

「はい、はいっ妖夢です!幽々子様ー!定晴さんが目を覚ましましたー!」

 

周囲を見渡してみればここは白玉楼の屋敷の中。布団で寝かされていた……わけではないようだ。周囲には赤い血液が血だまりのようになっており、ぶっちゃけどう見ても致死量。

というかなんか頭がふらふらするし、俺これこのまま死ぬか?

 

「おはよう定晴さん!まずはこれを食べてちょうだい!」

 

と、幽々子が現れると同時に俺の口に何かを突っ込んだ。あまりにも勢いよく放り込まれるものだから、あまり咀嚼することもできずに喉を通る。

味はよく分からなかったが、肉か?ただ焼いただけの肉のようだったが、血液が足りていない俺にはちょうどいい。

 

「食べた?食べたわね?ほら、これらも食べなさい。私の仲間になっちゃう前に!早く!」

「お、おおう」

 

いつになく強い語気の幽々子に気おされるように、幽々子が持ってきた食料たちを頬張る。

生のまま食べられるものはそのままに、そうでないものも食べられるようにしただけの調理を施して。それでも、俺の体は回復し、再生されていく。俺の体には傷があったようだが、再生能力のおかげでしばらくすれば治ってしまった。

そうして食べることしばらく、やっと幽々子は状況を説明してくれた。

 

「紫に怒られる覚悟で助けてくれたのか」

「半ば押し付けられたようなものだけどね。でも、定晴さんのことを助けるためなら白玉楼も人肌脱いじゃうわよぉ」

 

ミキの考えは俺にもよくわからない。ただ知り合いだというだけで人を助けるようなやつではないのだ。

とはいえ、あいつが助けたいと思ったのならそいつは助かる。ミキに拾ってもらった時点で、俺は助かることがほとんど確定していたのだ。日頃は鬱陶しい存在であるが、感謝せねばなるまい。

 

「それで、俺はどうすればいい」

「私たちは貴方を起こすまでしか言われてないのよねぇ。こっからは、自分で考えてってことなんじゃないかしら」

「お告げは途中までってことか」

 

まあ神様らしいっちゃ神様らしいな。どこまでいけるかは分からないが、どうも期待されているようだから考えてみるとしよう。

まず、紫を止めに行くという選択だが……ふむ、んー、いや、これか?

月への道は紅魔館にあるらしいし、無効化を使えば紫も依姫も無力化できる。同時に無力化できないという問題点はあるが、まあなんとかなるだろう。継承の力を使えば、無効化でなくとも片方を止めることは可能なはずだ。

 

「じゃあ俺は月に行くよ。紫を止めなきゃな」

「あらそう?なら妖夢を連れて行きなさいっ」

「幽々子様!?」

 

俺の宣言に、幽々子が間髪入れずに妖夢を差し出してきた。裏切られたような表情で幽々子を見る妖夢に憐憫を持たずにはいられない。

 

「妖夢ったらさっきも大きな機械を切っちゃったのよ。足を引っ張らないわ」

「実力は疑ってねえよ。ただ、相手はあのスキマだ。刀だけじゃどうにも……」

 

と、俺の言葉を聞いて、幽々子を見ていた妖夢はばっと音が出るほどに素早くこちらを向いて、言った。

 

「いえ、相手がスキマ妖怪だろうとなんだろうと、私が切って見せます!」

 

力強い宣言。日頃の妖夢は少し自分の実力に懐疑的というか、まだまだ半人前という自覚が強いのであまり主張することはないのだが、今日はどうやら違うらしい。

手に持った刀を強く握りしめ、戦う決意は十分といったところ。幽々子の言った機械斬りとやらが、妖夢に自信をつけさせたのだろうか。

とはいえ、月に行くとするならば紫か依姫の相手をすることになるのだろう。まあ、止めに入ればきちんと止まってくれるだろうけれど、一撃くらいは防御する必要があるかもしれない。

 

「紫の一撃、神の一撃、抑えきれるか?」

「はいっ!」

 

よし。

 

「じゃあ幽々子、妖夢を借りるぞ」

「ええ、いってらっしゃーい」

 

妖夢を連れ、月へのスキマが開いているという紅魔館へと向かう。

尚、道中の時点で妖夢は少し後悔しているような表情をしていたが、そこで帰すつもりはないので普通に連れていくのであった。

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