顔が暗い妖夢を連れてやってくるは紅魔館。月との戦争における中間拠点という位置づけになっているらしいが、今のところ特に物々しい雰囲気とかは感じられず、入り口の美鈴もいつものように眠っている。
雪こそ降っていないけれど、まだ地面には雪が多く積もっていて普通に寒い。そんな中こうして眠っていられるとは……真夏の日も眠っていたので、美鈴はどんな環境でも眠ることができる特殊技能を有しているのかもしれない。
「むっ、むにゃ、あれ、定晴さん!?それに妖夢さんまで……」
そうして、起きるのも一瞬だ。一応、そこらへんは門番としての矜持があるのだろうか。
俺が近づいたらぱっと目を覚ましこちらに気が付いた。そういえば前に気を感じているとかなんとか言っていたが、眠っていても周囲の気には注意しているのかもしれない。
「回復したんですね!よかったー」
「ああ。それで、紫に会いたいんだが、月へのスキマっていうのはどこに」
「それは私が案内いたしますわ」
ふと、美鈴の横にいつの間にか咲夜が現れていた。もう、慣れた。
「ひとまず中へお入りください」
「そうさせてもらうよ」
「失礼します……」
「それと美鈴、寒い中眠るのは単純に危険だから、我慢ならないなら焚火でも起こしなさい」
「はいー……」
クリスマスパーティは散々な感じだったが、それでも時間は経過する。クリスマスが終われば、次は年末年始の準備が待っている。
だが、どうやら紅魔館はそうも言っていられないようだ。中では妖精メイドが慌ただしく飛んでいて、片づけをしているような雰囲気ではない。
「こちらです。私もちょうど顔を出そうと思っていて……」
と、咲夜に案内されたのは大ホール。中に入ると、そこにはルーミアや萃香、勇儀と幽香がいて、何やら困り顔を浮かべていた。
だが、俺が入ったことに気が付いた途端立ち上がったのはルーミアと幽香。そして、ルーミア以上の速度でこちらに飛びついてきた幽香を俺は優しく抱き留める。
「さだはるー!」
「大丈夫、大丈夫だから」
俺を見た瞬間泣き始めた幽香を優しく宥める。ルーミアはやれやれというような表情をしているが、それでも涙目になっている。
俺はこんなに心配してもらえたんだなぁ。
「はぁ、ありがと。いいわね、抱擁。今後もやりましょう」
「定晴、戻ってくると思ってたわ。ユズにはちゃんと連絡した?」
「ああそういえば」
ルーミアに言われ、俺は式神通信で連絡を行う。起きてすぐ幽々子に説明され、まっすぐここに来たので忘れていた。
連絡をすると、案の定泣いているような声で返答がきた。家に帰ったら、しっかりとメンタルケアをすべきだろうな。ユズは精神的に不安定だし、ちゃんと見ておかねば。
「それで、そんなボロボロな体で何しに来たわけ?」
「紫が月に行ってるんだろ?ひとまず、俺はそれを止めるために……」
「んにゃ、それはちょっと難しいかもね」
俺の言葉を切るように口を出したのは、紅魔館の器を使って酒を飲んでいる萃香だった。何とも言えない表情のままに、何もない場所を指さした。
「月のスキマはここにあった。そう、数十分前までね」
「まて、つまり紫に何かあったと」
「うーん、それは分からないけれど、少なくとも私たちは月へ向かう手段を失ったんだ。私も回復したら復帰しようと思ったんだけど、こうなっちゃどうしようもない」
だから皆困ったような表情をしていたのか。確かに、ここが最前線だとするならば、この部屋に入った時点でスキマが見つからなければおかしい話であった。
そして、萃香と勇儀の二人から、月で何が起こったのかを聞く。どうやらここにいる四人は月で戦闘をしていた面子であり、休息していた最中にスキマが消滅してしまったらしい。
「ひとまず、ルーミアに妖力貰って回復してもらいな~いざって時に動けないのは困るよ~」
「あ、ああ」
俺は座り(座ろうとしたら椅子が出現した)、回復に専念する。ルーミアも戦い終わりで妖力が少ないだろうに、俺に妖力を流してくれる。すると、まるでスポンジのように俺の体は妖力を吸収し力が回復する。
更に、横から幽香も妖力を流し始めた。俺が妖力で回復するのはルーミアが式神だからで、そうでない人の妖力は受け付けない……と思いきや、幽香の妖力もまた凄い効率で吸収する俺の体。なんだ、俺が寝ている間に妖怪になってしまったのか?
「回復作業中、定晴さんの体は確かに妖力、いえ妖力に限らず様々な力に対して不思議な反応をしていました。吐血していたことに気を取られていましたが、確かにどの力も吸収していたような?」
「それは……」
妖夢の言葉に、俺の体の状態を確かめる。
ルーミアと幽香から受け取った妖力は、一部が体の再生に用いられ、余剰分はそのまま体に蓄積されていく。試しに動かしてみると、二人の妖力は俺の中の力として混ざり自由に使うことができるらしい。
眠っている間のことはよく分からないが……これは、継承だろうか。名称からしても、他者の力をそのまま使うことができるという説明は納得がいく。
「はぁ、はぁ」
「二人とも、もう十分だ。休んでくれ」
「んー」
幽香の息が少し荒くなっていることに気が付き制止すると、幽香は俺にもたれかかるように力を抜いた。ルーミアもまた、俺の膝で寝転がるように脱力している。
「愛されてるね~」
「そりゃどうも」
萃香がニヤニヤとこちらを見てくるが、俺としてはどう反応すればいいのか分からない。
なんというか、今まで意識していなかったこととかが妙に気になってしまって気が散るというか。女性であるということを改めて意識させられているというか。
それはともかく。
「紫のところに行くにはどうすればいい?」
「んー、戻ってくるのを待つか……あとは、永遠亭にでも行ったら方法あるんじゃない?」
月の使者は紫に送ってもらっているわけではなく、独自の方法でこちらと行き来をしている。方法自体は永琳とかが知っているだろうし、もしかしたら装置か何かも置いてあるかもしれない。
昔俺が月に飛ばされたときは、月が地球に送り込んだ謎の機械によって拉致られたが……流石にあれは今の幻想郷を走っていないだろうし期待できないな。
「よし、妖夢、永遠亭に向かうぞ」
「は、はい!」
「あ、ちょっと!」
俺が動こうとしたら、横からルーミアに服を掴まれた。少女の見た目をしているが、その腕力は妖怪のそれなので、危うく転びそうになった。
「行くなら私も行くわよっ」
「私も行くわ」
「二人とも、戦ったばかりで疲れてるんだろ?」
ルーミアと幽香がついてこようとするが、見てわかるくらいには妖力が減っているし、疲労も溜まっている。幽々子の話だと、一撃で妖怪を消し去る兵器が狙っているらしいので、手負いを連れて行くことは……
「そんな顔したって、一番の手負いは貴方なの分かってる?」
幽香の指摘に、俺は顔をしかめる。
怪我自体は再生中。痛みはないこともない。霊力妖力ともに回復中。貰った分はあれど全快は遠い。
「分かった。じゃあ手伝ってもらおう」
それにまあ、こういうときに俺が何て言っても二人はついてくるので言い争いをする時間が無駄だ。こちらが折れるしかないのなら、早いところ折れてしまった方がいい。
と、仲間を増やして次に行こうとしたら、別の声が部屋の奥から聞こえてきた。
「おーにーいーさーまー!!!」
弾丸のように飛んできたフランを、ルーミアが闇を使って止めてくれた。吸血鬼の弾丸タックルなど、今の体で受けると俺が粉砕されてしまう。
「お兄様!大丈夫!?」
「大丈夫だ。回復した」
「嘘つき!ぼろぼろのくせに!」
俺が言った途端、フランから嘘つき呼ばわり。動く分には大丈夫だし、回復したというのも嘘ではないのだけど。
「私も行く!」
「フランが?」
「だって、みんなボロボロなんだもん!」
フランが見渡す四人のうち、三人は怪我とか疲労が溜まっていて、十全なのは妖夢だけ。確かに、全体的に見ればボロボロと言えるかもしれない。
「ふふん、お兄様は私が守るからね!」
「じゃあ頼もうかな」
この面子であれば、フランが暴走することもないだろう。二人同様、フランもまたこういうときは梃子でも動かないので、さっさと首を縦に振った方がいい。首を横に振ろうものなら、その腕力で無理やりに縦に振らせようとするような子たちだ。
とまあ、そういうわけで五人(咲夜にはちゃんとフラン外出の許可をとった)で次に向かうは永遠亭。
紫のスキマが消えたという事態に一抹の焦りを覚えつつ、急ぐようにして飛び立つのであった。