暫く飛ぶと、前方に人影が見えた。大半のやつが空を飛ぶ事ができるから飛んでいることは不思議では無いのだが、今はその大部分が寝ている。そんな中起きているやつがいるということは…怪しいな。
「おーい!」
「あら?誰かしら?でも、隣にいるのは魔理沙じゃない」
俺が呼びかけると人影はその場に停止しこちらを向いた。どうやら魔理沙は知り合いらしい。
「ん?あ、えーと…そう!レティ・ホワイトロックだ!たしかそんな名前だった気がするぜ!」
ホワイト?随分と見た目通りの名前なんだな。白い服と白い帽子、周囲には雪が舞っていて冬そのものを体現しているようだ。さながら雪の精霊と言ったところだろうか。今のところ幻想郷で精霊に会ったことはないが多分どこかにいるはずだ。
「で?隣のカッコいい男性は誰かしら?魔理沙の彼氏?」
「なんでそうなるんだぜ!」
男性と女性が並んでたらカップルと間違われるというか、カップルではないかと冷やかすのは外の世界でも幻想郷でも変わらないらしい。
「お前、霊夢に同じこと言ったこと忘れたのか?俺は堀内定晴だ。よろしくな」
「私はレティ・ホワイトロックよ。冬の妖怪みたいな存在なの」
また、随分とアバウトな表現だなぁ。自分自身のことぐらい把握しておけよ…って言っても俺も自分のことを全て把握している訳じゃないしなぁ。狂気など全く意味が分からない。
『おい。俺のおかげで暴走せずに済んでるんだぞ。もっと敬え』
ああ。分かってるって。狂気が抑えているおかげで俺が怒ることは殆ど無い。狂気はそういう存在なのだという。
「それで?何の用なのかしら?」
「え?ああ。実は幻想郷中が睡眠欲に包まれるっていうよく分からん異変が起こっているらしいんだ。そんな時に起きているのは怪しいなと思ってな」
現在の幻想郷で起きている人物は大体怪しいと見ていいだろうと考えている。まさか犯人も寝ているなんてオチはないと思うし…もしそうであれば多分永遠に見つからない。
「私は冬以外に活動することなんて殆どないのよ。だから冬にずっと眠っているなんて勿体ないことできないわ」
「なるほど…何か知っていることは無いか?」
「ごめんなさい。何も知らないわ」
冬しか行動しない妖怪もいるのか。まあ、動物でもある季節しか動かないやつとかいるし似たようなものか。妖怪にも得意なもの、苦手なとのがあるわけだしレティは暑いのが苦手なのかもしれない。
特に有力な情報は手に入らなかったし、レティと別れて俺達はまた冥界に向かって飛び始めた。
結界を超えて階段の上を飛んでいく。しばらくしたら俺が妖夢に剣術を教えている白玉楼が見えてきた。今日は練習日じゃないから俺の来訪に驚くかもな。
「ん?ええ!?何で定晴さん来てるんですか!あれ!?練習日間違えたかなぁ…」
「いや、間違えてない。別の用事だ」
うん。予想通りだったな。幽々子に聞いたんだが、妖夢は怖がりらしい。勿論自分自身が幽霊だからお化けとかは怖くないらしいのだが、ドッキリや正体不明のよく分からないやつとかは怖いのだという。ついでに心配性であることも聞いた。幽々子が俺にこの話を振ってきたということは、俺に妖夢を怖がらせろって言う事なんだろうが俺は女子を怖がらせて楽しむような性格じゃないので却下だ。
「な、なんの用事ですか?」
「実はな?今幻想郷で眠くなるっていうよく分からん異変が起きているらしいんだ。何か知らないかと思ってな」
冥界は厳密に言えば幻想郷の外となるので同じ異変が適応されているのかはわからないが、まあ知らないなら知らないでもいいだろう。
「特に怪しいものは見てないですけど…幽々子様なら何か知っているかもしれません。幽々子様ー!」
妖夢が大きな声で幽々子を呼ぶ。すると奥の方からゆっくりと幽々子が出てきた。その手にはドーナツが握られている。既に何個か食べたのか、口には汚れやカスが付いている。客人を前にして隠す気のない食い意地だ。俺たちは今更不快な思いになることもないけど。
「話は聞いていたわぁ。そうねぇ…私はよく分からないのだけど、あの閻魔なら今の堕落している幻想郷を見て何かしら行動を起こすんじゃないかしら」
「閻魔って、映姫のことか?」
「そうよぉ」
紫に食事を作るとかなんとか言って霊夢に擦り付けたあの閻魔かよ。次会ったら今度こそ長い説教…もとい、ありがたいお話が延々と続くこととなるだろう。一度聞けば収まるかとも思ったけど、あんな性格のやつが一回で終わるとも思えんしなぁ。
「取り敢えず彼女に聞いてみればぁ?」
「何か今日の幽々子はいつにも増してフワフワしている気がするなぁ」
「気のせいよぉ」
もしかしたら、異変の影響が幽々子にも出てるのかもな。妖夢はシャッキリしているが、内面は幽々子と同じように眠たくてフワフワしているんじゃなかろうか。
「幽々子様、このペースで食べたら食糧難に陥ってしまいます」
「なら妖夢、買ってきてよぉ」
「何でですか!たまには自分の足で動くことも重要だと私は思います!」
「えー…」
おっと、幽々子と妖夢が漫才じみたことを始めてしまった。このままここで見ていても良いのだが、隣の魔理沙がいい加減不機嫌だ。そろそろ誰かしらと戦わせないと面倒なことになるかもしれない。レティには申し訳ないが、冥界からの帰り際にでも戦ってもらうとするか。
「よし、魔理沙。次は映姫に会いに行くぞ」
「本当に会いに行くのか?」
「ああ、もちろん」
魔理沙は映姫と会うことを嫌がっているが仕方ないだろう。俺もあまり会いたくないが、異変解決のためにやむなしである。
俺達二人は冥界を後にした。
妖夢「我が家のエンゲル係数がぁ…」
幽々子「良いじゃないそれくらい」
妖夢「ああぁ…」