東方十能力   作:nite

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五百十六話 到着

塔の内部を進み、二階部分にたどり着く。階段とかにトラップでも設置しているのかと思ったけれど、特に何もなかったのは拍子抜けだ。

この階層にはたくさんの物資のようなものが置かれており、中には兵士たちが持っていたビームライフルのようなものも置かれていた。

見るからにやばそうなものも置いてあるこの部屋は、いわばこの塔の火薬庫。ここを爆破するだけでも戦争に対して有利に働きかけることができそうだが……

 

「あの兵器が残ってるんだ。このくらいじゃ痛手にはならないだろう」

 

クリスマスに俺のことを襲った兵器、そして、月に来てからもまた俺は攻撃を受けている。妖夢は一機落としたと言っていたが、あれは何台も存在しているとみていいだろう。

であれば、この程度の物資がなくなったところであの兵器だけでなんとかなる。依姫すらも気絶するに追い込まれたあの兵器があるだけですべての前提条件などひっくり返るのだ。

 

倉庫となっていた二階は天井が狭く、上がるための階段は来たところとは反対側に設置されていて歩いて通り抜けるしかない。俺は荷物の間を抜けるために一歩を踏み出そうとして、脳裏にちらつく記憶。

……そうか、確かにそうだ。

そもそもこの部屋に物資が置いてある意味が分からない。なぜなら、外にいる連中に対してこの部屋の物資が補給されているわけではないからだ。わざわざ下の方に補給物資を置くのであれば、前線に継続して供給するのが戦争に肝だが、外で観察していてわかっているように、この塔は外部に何も供給していないのである。

つまり、ここにこうして物資が置かれているのは……罠。

 

「【五芒星結界】!」

 

ちりっと肌を熱が焼く。

俺が結界を展開すると同時に、この部屋のすべての物資が爆発した。本来であれば部屋の中心にいるときに爆破するつもりだったのだろうが、俺が寸前で足を止めたせいで相手にも、俺が罠に気が付いたことに気がつかれてしまったわけだ。

爆発が正面からだけなのであれば、結界を使って防ぎきる。熱波は塔の壁で反射して色んな方向から来るけれど、衝撃さえなんとかなれば火傷程度はどうでもいい。身体強化をしながら再生をすればすぐに回復できる類のものだ。

 

「ふぅ……罠が何もないっていうのは流石にありえないか」

 

俺が結界を消すときには、この部屋に置いてあったものはすべてが吹き飛んでおり、壁やら床やらが黒く変色していた。塔自体が頑丈なのか、爆発が起きても建物自体にダメージが入ったということはなさそうだ。思った以上に熱波が反射してきたので、予想よりも体の火傷が多くなってしまった。

服が随分とチリチリになってしまったが、まあ裸になったわけではないからいいだろう。

 

「帰ったら廃棄だな」

 

俺は何もなくなった二階部分を進み、階段を上る。すると、三階部分もまた沢山の荷物が置かれており、同じように天井は低く階段は向こう側。

罠は一度きりとは限らないとは言うものの、流石にこれは露骨すぎるだろう。だが……

 

「……なるほど、俺が入らないと爆発はしないか」

 

先ほどは罠に気付いた結果として、奇襲として俺が外側にいるタイミングで発火していた。どうなるかは見えていたので結界で防ぐことができたのだが、それが効果がないと分かるとすぐに作戦を変えてきたというわけだ。

天井や床は扉と同じく斬ることができそうにない素材。扉のように何かが変わるような感覚もない。となれば上に進むには階段を上るしかないわけだが、そのためには通過しないといけない。

つまりまあ、爆発に確実に巻き込まれる位置に進まないといけないということだ。是が非でも全方位爆撃を成功させたいのだろう。奇襲が効かないのであれば確実に罠にかけるための作戦に、ということなのだろうが中々意地が悪い。

俺の結界は範囲が広くなればなるほど弱くなる。全方位に張ろうものなら、それぞれは弾幕を防ぐくらいの防御力しかなく先ほどの爆発を防ぐほどの効果は期待できない。

 

「ふーむ……」

 

魔術による減衰……俺の魔術ではそこまでの効果はないだろう。

爆発よりも早く走りぬける……文や妖夢ならできるかもしれないが、俺にはそこまでの敏捷性はない。

荷物を先に破壊する……結局爆発するなら、破壊しても威力が下がることはないだろうなぁ。

 

「ふーーーむ……」

 

どうしようかねぇ。と、だいぶ困り果てた俺の脳内に突如慣れ親しんだ声が響いた。

 

『ご主人様、大丈夫かしら?』

『お、待ってたぞ』

 

聞こえる声はルーミアのもの。地上に置いて行ったきり聞こえなかったその声を聞くと、妙に安心感も覚える。

 

『ご主人様どこにいるの?紫がスキマが繋がらないって嘆いてるんだけど……』

『紫もいるのか?ああ、紫に連れてきてもらったのか。俺は敵の塔の中に……と説明しないと分からんか』

『紫から事情は聴いてるから大丈夫よ。その塔は妖怪除けをしてるせいでスキマが通らないみたい。少し離れたところから移動するから、少し待っててちょうだい』

 

紫曰く月の都の外から中に繋がるスキマは開けないとのことだが、この塔にも同じ仕組みが備わっているらしい。内部に入ってしまえば最上層までつなげるのだろうけど、到着には時間がかかりそうだ。

式神召喚はできないけれど、通信ができるというのはありがたい。なんというか、心の余裕のようなものを持つことができる。安心感というのは、やはり戦いにおいてもパフォーマンスに影響を与えるものだからな。

 

「ならもうこれ無視でいいか」

 

紫が来てくれるなら、もはや爆発する階層を移動する理由もないな。さっさと合流するために下の階に戻るか。

そうして俺が階段を降りると……そこには、先ほど吹き飛んで何もなくなっていたはずの二階に荷物が積まれている光景を目にする。まるで何事もなかったかのように、物資が戻っているのである。

床や壁が黒くなっているのはそのままなので、爆発自体がなかったことになったわけではないみたいだが……塔の内部なら物資の転送くらいできるのかもしれないな。月の技術を使っていると言うのであればあまり不思議でもない。

 

「しょうがない。紫たちを待つか」

 

俺は荷物と荷物に挟まれた階段で、座って援軍が来るのを待つことにした。

 

………

 

時間にして十数分ほど。時計を持っていないので正確な時間が分からないが、まあ紫たちが飛んできたのであれば時間がかかったほうだろう。

紫を始めとして、ルーミアや幽香、フランなんかも援軍にいるわけだが、そんな彼女たちが荷物を挟んで向こう側にいた。

 

「定晴ー!」

「紫ー、スキマ開かないのかー?」

「なんかこの塔、スキマを開けないのー」

 

荷物越しで姿が見えない紫は、どうやら歯噛みしているようだった。どうやら、この塔は全体を通してスキマが通らないのだという。時空がぐちゃぐちゃになってるとかみたいだけど、そういう話はミキじゃないと分からない。

ということは、普通に塔を登るのはそのままなのか。くそ、面倒だな……

 

事前にこの階層が爆発するということはルーミア経由で共有している。だが、対処方法があるというわけではない。

紫もスキマでなんとかするつもりだったようで、スキマが開けないとなると彼女ではどうしようもない。というか、スキマがない紫ってただの大妖怪なのでは……?

 

「しょうがないわね。あなたたち、ちょっと離れてなさい。定晴もね」

 

ルーミアがため息とともに前に出る。そして、既に黒くなっていた床や壁をさらに黒く闇に侵食させていく。

俺の継承による闇とは全く違う規模で広がっていく闇はそのまま部屋全体を飲み込んだ。闇に包まれた荷物はもはや見ることすらできない。

 

「爆発させなければいいんでしょ。ならこのまま……」

 

と、暗闇の中から突然爆発音が聞こえた。先ほど俺を襲ったものと同等の爆発が、しかし闇から一切漏れることなく爆発する。そうして闇が少しずつ消えると、そこは爆発したあとの状態になっていた。

 

「流石だな」

「もちろんよ。闇はこういう「定晴ー!」……」

 

ルーミアの言葉を遮りながら、紫が俺に向かって飛び込んできた。いつもなら避けるのだが、今日くらいはな。

 

「おう、心配かけたな」

「本当よ!もうっ!」

 

優しく抱き留めてあげると、紫はそのまま泣き出してしまった。俺のために月に戦争まで仕掛けるだけの心配をかけてしまったのだ。それに、俺が死ななかったのは幽々子たちの尽力もさることながら、スキマの中で悪化しないように保護してくれたというのが大きい。

 

「よかった、よかったよぉ……」

 

幼子のように泣きじゃくる紫を優しく撫でつつ、紫の後ろにいるやつらからの視線を受け止める俺であった。

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