「ルーミア、あれは何度もできるか?」
「力の供給さえしてくれればできるわよ」
「よし、任せた」
紫が落ち着きを取り戻し、赤面したのを生暖かい目で見つつ、俺たちはそのまま塔を登ることにした。
俺を攻撃した兵器の出所ということで紫も攻撃予定だったらしく、ちょうどいいからと犯人の顔を拝むことにしたのである。
上の階の荷物爆弾トラップも同じくルーミアの能力で解除してもらっていると、紫がぼやき始めた。
「とはいえ、塔を登るのは面倒よねぇ」
「スキマが使えないと、貴女ってただの妖力の塊よね」
「貴女だって植物生やせないただの妖力の塊のくせに」
紫と幽香が口喧嘩を始めたのを見つつ、俺はこの塔の性質について考察する。
紫のスキマが外部干渉のみならず内部干渉することもできない。幽香の植物は生えてこないし、訊いてみたところフランの能力で破壊することもできないという。
月の都には紫のスキマを弾くような結界があるというが、この塔はその上位互換というわけなのだろうか。発動方式が何であれ、紫の能力を弾くなど相当なリソースが必要なはずだが、こんな辺鄙な場所で用意するのは難しいように思える。
もしかしたらここの真下に地下資源が埋まってる可能性もあるが、あまりスッキリはしない。
「終わったわよ」
「ん、ありがとな」
ルーミアが荷物爆弾の除去を完了したので思考を中断する。どれもこれも、首魁に直接聞けば分かる話だ。
一旦一番上に向かうことに集中しておこう。
「ここからずっとこうなのかしら」
「いや、流石にそろそろ別の手法を試してくると思うが……」
そも、同じ罠など二回も置く時点で効果は半減以上に意味がないものになる。少なくとも次は別の罠が仕掛けられていると考えればいいはずだが……
「紫、どれくらいで一番上に行けると思う?」
「え?そうねぇ……外から見た感じと、内部の構造から見るに、十階くらい?一階とこの階層とで高さが違うからなんとも言えないけれど」
つまりあと七階くらいか。このメンツなら大抵のことはなんとかなるだろうし、さっさと登ってしまおう。
階段を上り、四階へと移動する。
部屋の構造自体は二階や三階と同じようになっているようで、天井は低い部屋となっている。そして、その部屋にはまるでスパイ映画のように沢山のレーザーが張り巡らされていた。ここまではっきりと視認できるレーザーともなると、触るだけでも致命傷になるほどの熱量を持っている可能性が高い。
「俺、スパイ映画見てて、なんでレーザーを隙間なく配置しないんだろうって思ってたんだよな。創作物だからって理由はあるんだろうけど、実際に見てわかった。視認性が終わってる」
張り巡らされている、と説明したものの、実態で言うとレーザーの壁だ。あまりにも大量のレーザーが飛び交い交差し侵入者を通さんとしている。レーザーが多すぎて、照射しているはずの機械すらも見ることができない。
「見えないから破壊できなーい」
「フランの能力は見えないと使えないんだっけ」
「そうなの。目で見て、手元に持ってくるから」
能力の詳細はよく分からないものの、フランの破壊ももう少し視認性をあげないと使えそうにない。
試しに結果を使って遮蔽物を作ろうとしたら、一秒も持たずに破壊されてしまう。強度をあげてもあまり変わらず。ずっと霊力を込め続けるという方法ならできそうだが、今後のことも考えると燃費が悪い。
「妖夢、あんた斬りなさいよ」
「む、無理ですよ。光は私じゃ斬れません!」
「単純に大質量攻撃したら壊せたりしないかしら」
「中途半端に壊れてこっちにレーザーが飛んでくるぞ」
「萃香さんの能力で抜けれたりしません?」
「ん-、ちょっとでも触れたら蒸発しちゃうからなぁー」
隙間が少しでもあれば、こじ開ける的なアプローチもできそうなものだが、ここまではっきりと壁のようになっているとどうすればいいのか見当もつかない。質量があるようなものでもないので、剣で斬るのも難しい。ふーむ困った。
「実は見た目だけで、触っても大丈夫とか」
「触った瞬間この部屋が封鎖されて階層ごと吹き飛ばされる可能性があるから試すのは却下」
フランの提案に俺は早めに待ったをかける。
正直、俺の勘だと触った瞬間熱量で燃えるように思えるのだけど、それはそれとして別のトラップのトリガーになっている可能性を捨てることはできない。触れた瞬間防護扉が下がって爆発……というのは、創作物の見過ぎかもしれないけれど、月なら本当にやりかねない。
因みに、似たようなことを河童が作った結果、たまたま迷い込んでしまった雛が巻き込まれてボロボロにされたという話を先日本人から聞いた。月の技術で同じものを作る場合は、妖怪が消滅させられる可能性すらもある。
閑話休題。
「定晴、何かないの?」
「うーん……」
何かできたかなぁ。幻空の中もごそごそしてみるが、特に使えそうなものも……
「これとか」
「その水鉄砲は片付けておきなさい」
取り出したのは河童印の水鉄砲(殺傷能力あり)
水は充填済みだけれど、この状況で使えるかと言えば……いや待てよ。
「水……水か。よし、ちょっと皆一個下に降りてくれ」
「何するつもり?」
「試してみたいことがある」
紫たちが移動すると同時に、階段を完全封鎖する。頑丈さはいらないが、隙間があってはいけない。
そしたら、俺は魔術を使って一気に水を生成していく。水は少しずつ部屋に溜まり、足元を濡らす。そしてある程度水が溜まり、靴の底が濡れて気持ちが悪くなる。まあ、これくらいは我慢だ。
「よし、そしたら……」
心の準備……よし。
「風、からの雷!」
一気に風を発生させて、地面にちょっとだけ溜まっていた水が浮く。レーザーに触れた水は蒸発するが、それでも雨が降ったように部屋に水が舞い上がる。
そこに雷を通してあげると……フラッシュにも等しい雷伝が発生し、体に痺れが伝わる、その前に無効化を発動させて耐える。魔術で起こした雷は人を殺すほどのボルトを発生させたので、そのままだと俺もまとめて死ぬ。
「お、うまくいったな」
一瞬の光のあと、部屋にあるレーザーはほとんどが消え、残っているものも薄くなっていた。これなら当たっても痛いくらいで済むだろう。
階段を塞いでいたものを取り払うと、皆が心配そうな表情で顔を出した。
「す、すごい音が鳴ってましたけど……」
「うわー、やったわね定晴」
機械は大抵の場合過剰な電気に弱い。だから、水を伝導材にして、部屋中に雷を通したのだ。予想通りレーザーの機械はバチバチと壊れて使い物にならなくなっている。
ということを説明すると、ルーミアが呆れた顔をした。
「その、自分は大丈夫でしょ、みたいなことする癖やめなさい。本当に大丈夫だったとして、私たちにストレスよ」
紫たちが頷き、萃香が笑う。
……解せぬ。素晴らしい解決策だと思ったんだけどなぁ。