依姫主導のもと会議が行われる。基本的に話しているのは月の都のお偉いさんで、俺は傍から眺めているだけだ。
内容は、先の戦いにおける負傷者の報告、装備の話、敵勢力について、そしてなにより首魁の居場所についてだ。
「月の技術の中で映像を送っている以上、相手は月のどこかにいるはずです」
「元月の都には何もないことが報告されています。遠いところの可能性もありますね」
「表ではないだろうか。表側からであれば、地上に比べても可能性は高いはずだ」
議論は白熱しているけれど、これといった決定打はない。先ほどの塔に技術者を派遣して逆探知のようなことをしようとしているようだけど、今のところよい報告はなさそうだ。
彼らと違って、俺たちは直接犯人の言葉を聞いているため、こちらはこちらで勝手に逆探知しようと頑張っている。紫が追っているのだけど、果たして見つけることはできるのか……
「地上の者、敵の情報はこれ以上ないのか」
「ないよ。声は変声していたし、姿が出ていたわけじゃない。ただただ罠なだけだったんだろう」
これ以上の進展はなさそうだと、俺は会議室を出た。妖怪の皆は月の空気が苦手なようで、この拠点エリアから少し離れた位置にいるのである。
拠点の中は人々が忙しく行きかっており、負傷者の搬送や装備点検などが行われている。そのうえ、拠点内には浄化の結界を張られているため、妖怪にはあまり好ましい環境ではなかったのである。そのため、既に破壊された廃墟エリアに妖怪たちは集まっているのだ。
「あら、おかえりなさい」
「おかえりー」
俺が廃墟エリアに行くと、簡易的なテントが置かれていた。月のものを借りたのかと思ったら、テントにはホームセンターのタグがついていた。もしかして、ついさっき買ってきたものなのだろうか。
テントと同じく、タグやバーコードが貼り付けられたままのテーブルやキャンプチェアが置かれていて、ここだけ見るとまるで月でキャンプをしているようだ。
「月の人たちも犯人の居場所を特定することはできてなさそうだったぞ」
「私が見つけ切れていないんだから、月に先を越されて溜まりますか。こっちはまだ追ってる最中だから、あっちよりも一歩先を行ってるわね」
「変に対抗心燃やすなよ。協力すればすぐだろうに」
「ふんっ」
紫のその様子に幽香がため息をつき、萃香がやれやれと肩をすくめた。
「月なのにあまりふわふわしなーい」
「結界領域内だと重力があるからよ」
「じゃあ結界から出たら!」
「窒息して死ぬわね」
フランとルーミア、ついでに妖夢は少し離れたところでぴょんぴょんしていた。いやまあ、ぴょんぴょんしているのはフランだけで、他の二人はそれを微笑ましそうに眺めているだけだけど。
「ルーミアと妖夢は月に来たことがあるのか?」
「私はないわ。さっき紫に連れられてきたのが初めて……のはず」
「私も初めてです。月の異変のときは私が来ていませんから」
幻想郷の本によると、かつて月が幻想郷に侵攻する形の異変があって、そのときに霊夢・魔理沙・早苗・鈴仙が出撃したと書かれていた。紆余曲折あって異変は解決されたわけだが、その時は普通の弾幕勝負で異変が解決していたはずだ。
なぜか、俺が幻想郷に来てから弾幕勝負だけでは解決しないような異変が増えて非常に困っている。そろそろ殺し合いじゃない戦いで平和的に解決させてもらいたいのだけど。
「お兄様はー?」
「俺は前に来たことあるんだ。もう何年も前の話だけどな」
「妖怪にとっても月人にとっても、数年程度はつい最近よ」
俺の言葉にルーミアが被せてくる。長命を生きる月の人々にとっては、俺が月に来たのもつい最近ということなのだろう。その割には、永遠亭で依姫と出会ったときは妙に感激されたような気がする。
まあ、人によっては数日でも久しぶりと感じると言うし、月人でも個人差があるのだろう。
「だからこそ、恨みなんかも忘れないって話。なんか敵は定晴のこと知ってるみたいだし、定晴が忘れるくらい昔の恨みの可能性はない?」
「だとしたら……本人に直接聞くしかないな」
確かに、俺が今まで受けた恨みはあまりにも多いだろう。外の世界の仕事で襲撃を受けたことは数知れず。死を知覚する能力がなければ、今頃俺はこの世にいないだろう。
流石に月に関係するような仕事はしていないはずだけど、たまにあいつら地上に対して調査的なことをしてるからな。まったくの関係はないとは言い切れない。実際、初めて月に来たときの仕事は、月が関連してるとは思っていないで巻き込まれたものだからな。
「見つけたっ!」
俺が月との因縁を思い返していると、突然紫から声が上がった。どうやら、犯人の居場所について特定できたらしい。
「ふふふ、今すぐに殺してあげたいところだけど……ひとまず、定晴、見つけたわよ」
「どこにいたんだ?」
「それはねぇ」
と、紫は既に攻略された塔を指さした。
「あそこよ」
「ん?隠し部屋があるとか?」
「似たようなものね。やつら、あの塔の地下にいるわ」
紫が探知した敵の居場所は、塔の地下数百メートル地点。すぐ地下というわけでもなく、衝撃などを和らげるという意味でも随分と深いところにいるらしい。
「あの塔、罠にするにしてはやたらと設備があって敵兵もいたでしょ?つまり、敵の拠点と罠の両面性を兼ね備えていたってわけね」
「分かりやすい道を作って、それを罠だと誤認させることで拠点の発見を遅れさせたわけか」
「でも、私の境界を操る能力には勝てなかったみたいね。ついでに、あの塔自体にかかってたスキマ能力弾きも解読したから、相手のところに直接乗り込めるわよ」
あの塔の中では紫はスキマを開くことができなくなっていた。というよりも、境界の力の全般が封じられていた。ついでにと言うが、どちらかと言えば解析が完了したおかげで地下にいる敵の位置を特定することができたのだろう。
そして、嬉々としてスキマを開く紫。多分、通った先には既に敵がいるのだろう。
「そうやってスキマを開くと相手にバレるんじゃないか?」
「また向こう側まで開通させてないから大丈夫よ。定晴の準備ができたら行きましょ」
精神的に乱れていた紫も、だいぶ落ち着いて判断できるようになった。ファイティングポーズをしていて好戦的な状態なのはそのままだが、待つということができるようになったようだ。
「んじゃ行くか」
俺の言葉に、周囲で待機していた皆の表情が引き締まる。
敵の位置を特定できているとはいえ、相手はあの戦略級兵器を動かすことができるような相手だ。出会った捕縛で終わるような相手ではないだろうし、激しい戦闘も予想できる。それに、あそこまで入念な罠を用意しているのだから、敵の拠点にも罠があると考えていいだろう。
相手はこちらを殺すつもりで攻撃してきている。ならば、俺たちも相応の覚悟をしなくてはいけない。
「忘れ物はないな。こっちには戻ってこないかもしれないからなー」
「「「はーい」」」
まるで遠足のような雰囲気で、俺たちはスキマに入る。俺は輝剣を出現させ、妖夢は既に刀を抜いている。ルーミアは封印解除状態だし、完全に臨戦態勢である。
さて、犯人の顔を拝むとしますか。