にとりと別れた俺たちは急いで幽香のもとに向かう。が、俺の家に寄って先に道具を手に入れなければならない。組み立てをするのに必要だからだ。
河童のところで借りようとしたが、俺が知らないような道具や幻想郷でしか使わない道具など、分からないことが増えてしまったので諦めて自分のものを使うことにした。河童たちの使う道具は幻想郷に似合わないほどに先進的で、外の世界にないような道具も多かったのだ。
まあ、慣れた道具の方が作業が進むっていう話も聞くし問題ないだろう。
「定晴の家来るのも久しぶりな気がするぜ」
「基本俺の家じゃなくて博麗神社で会うことが多いからだろ」
家に着くなり倉庫へと向かう。よく使う道具というのは幻空に入れて管理しているものの、あまり使わない工業製品などはこうして倉庫に入れているのだ。過度なテクノロジーがあるものは紫に回収されたものの、単なる道具とかは未だにここに入りっぱなしである。
俺の記憶だと、ここ最近建設業の手伝いをしたことはない。数年前にバイトとして参加したのが最後で、そこからずっと道具類は倉庫の中に眠り続けているはずだ。
「道具無しじゃ出来ないのか?」
「流石にきついところがある」
魔理沙の質問に端的に言葉を返す。
とはいっても使う道具はよくあるありふれた物ばかりだ。金槌、定規、テープ…などなど。
近年は使わないものだとはいえ、たまに自分でも使うような道具なので倉庫の入り口近くに置いてあるような気がしたんだが、中々見つからない。もしかして他のところに片づけてしまっただろうか。
幻空の中には入っていなかったことはさっき確認済みだし…かといって家にある収納スペースといえばあとは…階段下の物置か?あそこは出しにくいから物は出来るだけ入れないようにしているのだが、もしかしたら間違えてそこに収納している可能性があるな。
倉庫の扉を閉め階段下の物置部屋に向かう。家は俺が暇なときに掃除しているから全体的はきれいなのだが、倉庫や物置はどうしても掃除が行き届かないことが多い。まあ何が言いたいのかというのかと、物置部屋の埃っぽさが凄い。病原体がいたら嫌だから入る前に浄化能力を使って部屋を一通り洗浄する。
「その力は便利だなー」
「掃除ができるわけじゃないけどな。消毒みたいなもんだ」
「暇があれば私の家にも使ってくれよ」
ここもまあ驚くほどに汚く…魔理沙はずんずんと入って行ってしまったが…探すのに手間取ったものの、数分ほどでお目当てのものが見つかった。そういえば階段の手すりが割れた時に修復するために使ったあと、ここに片づけたのを同時に思い出す。
道具は幻空の中に片づけてしまって、俺たちは幽香のところまで急ぐ。あまり長引かせてしまっては異変の影響がどんどんと大きくなってしまう。
「おーい!持ってきたぞー!」
「やっと帰って来たわね。全然帰ってこないから、少しだけ心配したわ」
凛としつつも、こちらを伺うような声色。幽香は冷酷だとか恐ろしいだとかの印象があるが、実際のところは相手を思いやれる優しくいい子なのである。
あまり会話をしたがらないという話も聞くが、いざ植物の話となればマシンガンの如く言葉が飛び出してこちらが圧倒されてしまうほどだし、紫だとか萃香だとか、昔馴染みとの会話ではそれなりに話がはずんでいることを俺は知っている。
閑話休題。
幻空から作業着を取り出すのも後回しにして、組み立て作業を開始した。今日は幻想郷が麗らかに眠る晴天なのだ。雨に降られたり風が強くなることもないだろう。
河童製品とはいえ、作り方は意外と簡単であった。なんとなく既視感があるなと思いながら…ああ、これテントを組み立てる感覚に近いのか。
「それを花たちの周囲に置くのね」
「ああ、そうだ。実際は囲うだけだが」
幽香が河童のビニールを見て呟く。既にある程度形になっているので、幽香でもどう使うのかが分かるのだろう。
まずは骨組み。これはにとりのところで貰ってきた『普通の状態ならば柔らかいが、魔力や妖力を込めると固くなる』という幻想郷ならではの素材がある。霊力を流す技術が必要なので、外の世界で扱える人はほとんどいないだろう。
俺はこれを使って、俺の頭の中にあるビニールハウスの形をイメージしながら変形させた。花のサイズなので大きくはないものの、外の世界の人が見てもビニールハウスだと分かるような見た目に仕上がった。
続いて幕だ。これもついさっき貰った新素材『幻想ビニール』を使う。幽香と魔理沙に手伝ってもらって一気に被せてしまう。被せたらビニールと骨組みが離れてしまわないようにテープなどで固定する。
これでビニールハウスが完成したので、あとはこれを花に傷をつけないように被せる。一つ一つ被せるのではなく、花壇全体を覆うように骨組みを作ったので、作業自体はそこまで大変ではない。
幽香が見ている手前、花に一切触れずにビニールハウスを設置するのは過剰にストレスがかかったものの、なんとか何事もなく設置が完了した。
「おー!これはすごいな!」
「確かにこれなら成長を妨げず、更に花粉が遠くまで飛んでいくことも防ぐことが出来る…」
「まあ本当は内部の温度を操作するためのものなんだけどな。周囲への影響をなくすことにも使えるだろ」
ビニールハウスの中で今もなお花粉を巻き散らしている花を見ながら話す。異変の元凶たる花粉は断ち切った。あとは時間が解決してくれる。
俺たちは、それなりに労力をかけつつ、異変を解決したのであった。