東方十能力   作:nite

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六十四話 宴会【惰眠異変】

まるで示し合わせたように集まりだした人々は、三十分もすれば境内がいっぱいになるほどになっていた。

勝手に好きなところで酒を飲み始める面々を見ると、そもそも何の宴会かも分かってない奴が多かった。関係ないやつらからするとただ寝てただけだから致し方ないか。

俺が宴会料理を出すかと考えていたら、ふと後ろから猛烈な勢いで近付いてくる気配が!

 

「お兄様ー!!!」

 

早速の後ろからのタックル。声が聞こえた瞬間、振り向きざまに出力高めで身体強化を使用。だがその努力も虚しく軽々と俺の体は吹き飛ばされた。身体強化により怪我こそ無いものの、木にぶつかって背中を強打する。

足が浮いてしまうとどうしようもないんだよなと思いつつ、俺は痛みを堪えてフランを諭す。

 

「フラン…少しは加減しような…?」

「だって私のレーヴァテインを受け止めたお兄様だもの!このくらい平気でしょ?」

 

あれは受け止めたと言えるのだろうか。というかフランの身体能力はフランの武器より断然強い。

そういえば以前レミリアに何故素手で戦わないのか聞いたことがあるのだが、素手で戦う必要がある戦闘も無いし、あまり美しく見えない。弾幕ごっこが主な決闘法である幻想郷ならではの感性だろう。純粋に文字通り手を汚したくないといった女性の感性もあるのかもしれない。

身体能力だけだと少なからず怪我をする可能性があるし、武器を使う利点というのもある。かくいう俺も身体能力と併用して輝剣などを使用するので、あまり強くは言えない。

 

「ごきげんよう、定晴」

「こんばんは定晴様」

 

抱き着いてくるフランを撫でつつ見れば、ゆったりとレミリアと咲夜がやってきた。

先日は咲夜の様子がおかしかったが、今は特になにもなく瞠目している。やはりあの日はちょっと体調が悪かったのかもしれない。

俺の横で暴れるフランを見て、レミリアが小さく溜息をついた。それと同時に俺の方をじっと見る。

 

「またフランに吹き飛ばされたのね?そろそろ慣れなさいよ」

「俺の能力だと最大出力でも吸血鬼に吹き飛ばされるんだが…」

「鬼の力止めたんでしょ?なら行けるわよ」

 

今だから言うが絶対あの時萃香は力を抜いていた。それとも吸血鬼は鬼より力が強いのだろうか…流石に片手で巨石を持ち上げる腕力がある鬼に吸血鬼が腕力で勝るとは思いたくないが、吸血鬼も鬼という漢字が入っているので、冗談だと笑い飛ばすこともできない。

 

「お兄様!また一緒に食べよ!」

 

フランが俺の腕を引っ張る。それもまた吸血鬼の腕力によるものなので俺の身体はズリズリと動いてしまうが…今回は先にやらないといけないことがある。

キラキラした羽根をパタパタさせるフランを宥める。

 

「フラン、先行っててくれ。俺は料理を並べてこないといけないからな」

「それだったら私がしましょうか?」

 

ずっと瞠目していた咲夜が目を開けてこちらを見ていた。

進んで仕事をしようとする姿は従者として素晴らしいが…俺の従者というわけではないし、こんなところでも咲夜に働いてもらうわけにはいかない。

俺が断ろうとすると、先にフランが声を張り上げた。

 

「ダメ!折角の宴会なのに咲夜だけ働いたら!折角お兄様に会えるって嬉しそうに…」

「っ!?何いてっるんですかぁ!?」

「咲夜凄い噛んでる…」

 

フランが随分と大声で言うので俺は耳を塞ぐ。咲夜も咲夜でいつもの何倍も声を出すのでうるさくなる。宴会の喧騒もあって何を言っているかわからないが、どのみち断るつもりだったので構わない。咲夜には出来るだけ宴会を楽しんで貰いたいしな。

 

「自分でやるから大丈夫だ」

「そ、そうですか…」

 

妙にしょんぼりする咲夜を横目に、俺は三人と別れて大テーブルに近付く。別にテーブルに触れて置く必要はない。幻空から物を取り出すときは、その位置を意識していれば直接そこに出せるのだ。俺が動かずとも、机に料理が並べられていく。

今回作ったものは、酒を飲みたいやつらとつまみ的に食べたいやつらの要望をどちらも叶えることができるポテトフライ。そして、デザート的に一口サイズのゼリーを用意している。

俺が料理のほとんどをテーブルに出したあたりで、テーブルにふらふらと近づいてくる人影が二つ。

 

「美味しそうな匂いじゃな~い!」

「幽々子様!釣られるのが早すぎますよ!」

 

妖夢が強めに言うが、幽々子は聞く耳を持たず大皿に手を伸ばす。俺が置いた料理の匂いに釣られて現れたらしい。

幽々子を捕まえたいときは強いいい匂いがする料理を用意すれば簡単に誘き出せそうだ。幽々子自身が強いうえに能力を封じることができなけばどうしようもないので、今のところは問題なさそうだが…

妖夢はこの主を日ごろから守護し、世話していると思うと、妖夢の苦労に同情の念を送らざるを得ない。

 

「あ、定晴さん。こんばんは」

「あら~こんばんわ~」

 

まるで今気が付いたかのように挨拶をするが、それでも料理への歩みを止めようとしない幽々子。幽々子は大食いらしいし足りるだろうか…もし料理が姿を消そうとしたら、紫を呼ぶしかないかもしれない。

妖夢もまったくの非力というわけではなく、むしろ日頃から鍛錬などをしていてそれなりに筋力もあると思うのだけど…それだけ、幽々子の料理への執念が強いということだろうか。

一応大変そうなので幽々子に声をかけておく。

 

「他の皆の分もあるんだから食べ過ぎんなよ」

「大丈夫よ~」

 

視線を料理から逸らさず返答する幽々子。本当に大丈夫だろうか。

俺は密かにいくつかの料理を幽々子から離しながら、大テーブルから移動する。このあと来たら料理が何も残ってないかもしれないな。

さっきからフランがこっちのほうを見てそわそわしているので、俺が向かうと、そこには紅魔館の面々以外にもチルノたち子供と慧音、そして知らない子供もいる。彼女たちも寺子屋で面倒を見てる妖怪だろうか。

 

「どうしたんだ。こんなに人がいっぱいいるなんて珍しくないか?」

「あ、お兄様!皆紹介するね!私のお兄様よ!」

 

フランが元気いっぱいに俺のことを紹介する。

チルノたちは知ってるが、その後ろにいる背中に矢印みたいなのが付いている少女と閉じた目を付けた少女はあったことが無い。

どうやら前者は俺に対して能力を使っているらしい。なんで分かるかというと、俺の浄化の力により幻惑が効かないからだ。どうも彼女は俺に催眠だかなんらか術を現在進行系でかけているようだ。

また、もう一人は俺の周囲をうろちょろしていて落ち着きがない。術をかけているからか矢印少女は俺の方を見てムムムと唸っているしで、俺は落ち着かない。

ひとまず、俺の周囲を歩き回っている子を呼び止める。

 

「どうした?服に何か付いているか?」

「わあ!見えるんだー!」

「お兄様スゴーイ!」

 

俺が声をかけると、少女は止まって俺のことを賞賛。そしてフランも便乗するように賞賛してくるが…なんだこれ。本当は見えちゃいけないものだったりするのだろうか。

俺が若干後ずさりしていると、閉じた瞳の少女が自己紹介をした。

 

「私は古明地こいし!よろしくね!」

 

うろちょろするのをやめてフランの横に移動するこいし。じゃあもう一人は…と思っていたら、先にフランが紹介してくれた。

 

「向こうが封獣ぬえっていうの!ぬえちゃん、お兄様には幻術とか効かないよ?」

「なら早く言ってよー!何の反応も示さないから気持ち悪かったのよねぇ」

 

フランの声でうがーと声をあげる矢印少女もといぬえ。

聞くところによるとこいしが覚り妖怪、ぬえが鵺らしい。覚り妖怪といえば心を読むことだが彼女もできるのだろうか。何となく瞳が閉じているやつが気になるのだが…

鵺といえばやはり京都を混乱させたあの事件だろう。まあ正直幻惑が効かない俺にとってはただの一個体に過ぎないのだが。ぬえが鵺とは名前に捻りが無い様に感じるけど、名前に対して文句を唱えるのはナンセンスである。

なんとも珍しい妖怪二人だと思っていたら、こいしが補足をしてくれた。

 

「ちなみに私は心読めないからねー。というか読みたくないって感じ」

「なんでだ?」

「まあ、簡単に言うと心読んでも良いことが一つも無かったからかなぁ…」

 

暗い顔をしながら言うこいし。なにやら訳アリのようだが、あまり詮索するのもよくないな。

それにしても、今回一緒に飲むメンツは随分と子供比率が高いな。いや、妖怪なのでどれも実際は俺よりも生きているだろうけれど、精神的な話である。今回は慧音と咲夜、レミリア以外はみんな子供だ。

慧音は引率だろうからあまり酒は飲まないだろうし、咲夜は…微妙なラインだな。一応仕事中ってことになるのか?

この量の子供たちを収めるのは大変そうだと思っていたら、背後から声が聞こえた。

 

「あら、ちびっ子が沢山じゃない」

 

夜になったことで日傘を畳んだ幽香…つまり、今回の異変の首謀者である。まあ宴会に参加している大半のやつらはどんな異変だったかも把握していないので、幽香が犯人であるという意識のやつはほとんどいないだろうけど。

 

「幽香だー」

「幽香さん、こんばんは」

「ええ、こんばんは」

 

先んじて挨拶をしたのはチルノと大妖精。チルノのやつは挨拶というよりもただの呼びかけだったが、それよりもチルノたちが幽香がそこまで気安い関係だというのに驚きである。

どうやらたまに花畑で遊んでいるらしい。なお、花を傷つけると幽香の雷が落ちるので、そういったところで遊ぶチルノたちはいつもの半分程度のテンションらしい。

幽香だって異変を起こそうとしたわけじゃないし、こうやって異変が終わればいつもと同じように戻れる。幻想郷の宴会が素晴らしい点は、こういうところだろう。

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