定晴の能力がいまいち分からなかった人は確認をしてください。
山を歩くこと数分、俺は遠くから声が聞こえるのに気が付いた。
どうやら声の主は右前方にいるようで、内容はあまり聞き取れないが何かを叫んでいるようで、声の声量や感情からしてそこまで緊急ではなさそうだが、何をしているのか気になるし悪い妖怪が何かをしようとしているのなら止めなければならない。
今度は歩かずに目的地まで一直線に飛ぶ。
声がした方へ来てみると、河童が木にぶら下がってブランブランしていた。体に紐が巻き付けられ、その紐は結構太い枝に固定されている。いわゆる蓑虫状態だ。紐に拘束された状態で自分一人でほどくことはまず無理だろう。
「あ~、誰か止めて~」
どうやら結構長い時間宙ぶらりんの状態が続いていたらしく、叫んではいるがどことなく気が抜けた声になってしまっている。遠くから聞いたら分からないが、近くでその様子を見ると緊急性がそれなりに高いことに気付く。
「おい、大丈夫か?」
「ふぇ~?誰か分からないけど助けて~」
顔は向こうを向いているから分からないが、にとりや異変の時に河童の工房近くにいた子ではなさそうだ。
取り敢えず助けを求めているということだったので、少々強引だが枝と河童の間の余分な部分を輝剣で切った。すると河童は重力に従って地面に落ちた…というか叩きつけられた?ずっと不可抗力で浮いていたから着地に失敗したようだ。
「いてて~」
「大丈夫か?」
「あ、うん…よいしょ。」
河童は自力で立ち上がる。立ち上がった瞬間少しだけよろけたが、それでもなんとか立て直して体を安定させることができたようだ。
立ち上がって自由が利くようになったからか、河童は俺の方を向いてきた。一瞬人間が助けてくれたことに驚いた表情を見せたが、しばらくすると自己完結したようでお礼を言ってきた。
「ありがとね~人間。君のことは他の河童から聞いているよ。」
「ん?他の河童から聞いているだと?」
他の河童ということはにとり達異変を手伝ってくれた河童のことを言っているのだろうか。
正直河童に対して俺は何もできなかった。火災だってにとりが消火してしまったし、火傷をしていた河童を見つけたのは魔理沙、俺も治療をしてはいるがこれは正直その場にいた奴らの中にも同じことが出来る妖怪はいただろう。それこそ発明品なんかを出して俺より更に効率的に回復させることができたかもしれない。感謝こそされたがあれは俺の手柄ではない。
まあ、少なくとも河童に協力した、という事実が残っているようだし知られていても不思議ではないがな。
「なにやら妖怪に臆することなく友好的に接してくれる人間なんだとか。河城が今まで会った盟友の中でも相当友好的な部類に入るって言ってた。」
成程…友好的な人間ときたか…確かに初めて会う妖怪でも攻撃してこなければそれなりに友好的に接するけどさ、霊夢だって妖怪に…あ、だめだな。あれは友好的なのではなくただ面倒ごとを減らしたいからだ。魔理沙も霊夢よりかは友好的なのだろうが、それでも最初に妖怪を吹き飛ばすなんてこともあるようだ。
その点魔理沙をよく一緒にいるアリスはどうなのだろう。そこまで気性が荒そうには見えない、というか人里の子供たちには人形劇を見せたりもしているようだが、妖怪に対してはどう接しているんだろう。
それはそうと、この河童。なんでこんなことなったんだろう。
「それを訊かれてしまうと…少し恥ずかしいんですけど、新しい発明品である【紐掛けフッ君】を試そうとしたところ暴発してしまい、自らが紐に掛かってしまった…というわけです。もし攻撃的な妖怪が来ていたらどうなっていたか分かったもんじゃないですね。」
それもそうだな。全体的に見ると友好的…というか非攻撃的な妖怪が多いイメージのある妖怪の山だが、攻撃的な妖怪もたしかに存在している。それらはいつもなら天狗たちに成敗されているのだが、今日は天狗たちが一日の遅れを取り戻すべく色々なところを奔走しているぐらいである。攻撃的な妖怪に一匹や二匹、見逃していたとしても不思議ではない。
「私が発明品に引っかかってた原因なんてどうでもいいんですよ。ここをこう調整してしまえば…ほら!この通り暴発しないはず!」
「この通り、って言われても見た目では何も判断できないんだが。」
「それもそうだね。よかったら試用、見ていきます?」
急いでいるわけではない…というと少し語弊があるが、少なくとも今すぐにどうこうしないといけない、といった話ではないし折角誘われたなら見てみようではないか。
河童に軽く返事をして少し後ろに下がる。
狙いの的は目の前五メートルぐらいのところにある木の枝だ。
河童は機会を構えて…引き金を引き発射!したのだが…何故か紐が出てこない。河童が発射口をのぞき込む。そんな風に不用心に確認するからさっきみたいな事態に陥ってしまうのだろうけど、俺が今それを言ったところで河童は聞いちゃいないだろう。
河童が【紐掛けフッ君】を振る。するとやっと紐が飛び出した。あろうことか俺に向かって…
「どわ!?」
躱そうとしたがどうやら追尾機能があるらしく足に絡まり、そのまま木の枝に引っかかる。今度は俺が蓑虫状態ってことだな。この状態、見た目より数倍きついんだな。よくこの状態でずっと待っていたな。
というか…
「うひゃー!すみません!ちょっと待ってください、解除しますから~」
どうして俺の方を向いてしまったのだろうか。勿論わざとしたとは思いたくないが、それにしても人がいる方向に向けてはいけないのは常識だろう。外の世界でもエアガンや細長い棒状のものもそうだが、学校では輪ゴムやシャープペンシルを向けても怒られる。人に向けて武器を向けるというのは、即ち攻撃対象と見なしている、ということの表れだからだ。それに単純に危ないしな。国家間で同じ事をしてみたら、一度しただけで戦争に発展んしかねない。それほど注意が必要な行為なのだが…
というか解除に時間がかかりすぎている。もうこの際また切ってしまうか。河童には悪いが、どのみちもっと改良を加えなければいけないのだし、紐はまた調達してもらおう。
ということで俺は躊躇せずに紐を切る。手で触れていなくても操ることができる輝剣はこういうときに凄い役に立つ。
「あ、切っちゃいましたか。結局制作し直しのようだし良いんですけどね。」
少し河童の顔が曇る。悪いことをしたとは思っているが、後悔はしていない。することに後悔はしないのが俺のモットーだ。
さて、これでもうこの河童は大丈夫だろう。
俺は他に困っている人を知らないか、秋姉妹と同じように訊いてみる…すると
「あー、さっきから結構色んな天狗が飛んでいるみたいで、それもあまり急いではいないようだったからもしかしたら一段落着いたのかもね。」
やはり天狗は対処が早い。もう終わったのか。俺の株価を上げる目的はほとんど達成できなかったが、無理やり問題ごとを引き起こしたいわけではないし、大人しく別の場所に行くことにしよう。
「分かった、ありがとな。じゃあ俺は別の場所に行かないとな。」
だが、その前に天狗たちのトップ、天魔に話を通さなければいけないだろう。一応依頼をしてきたのは天狗側なのでその報告に行かなければいけないわけだ。
天狗たちの話だと天魔の住宅兼仕事場の御所は山の山頂近くにあるらしい。一応山の斜面を見ながら天魔の御所を目指すのが一番効率的だろう。
というわけで俺は妖怪の山を離れるためにも一度天魔の御所に向かうことにした。