目覚めると、知らない天井だった。
嘘付いた、天井を見てなかっただけでここは地霊殿の俺の部屋だ。
隣にはさとりが座っている。
「おはようございます。勇儀さんと戦うなんて無茶しましたね」
「頼まれたことは断らない主義なんだ。それよりあの後どうなった?」
「勇儀さんと萃香さんが定晴さんを連れてきてくれました。面白かったからつい本気で殴ってしまったと謝っていましたよ」
勇儀は満足したようだが萃香には悪いことをしたな。確か萃香は俺との再戦を望んでいたはず。それを破ってしまった。また会った時にでも埋め合わせをさせてもらうとしよう。幻想郷にいるならどこかで会えるだろうし。
「定晴さんの能力の影響なんでしょうかね、一時間ほど前にこの部屋に運んできたというのにもう起き上がるとは」
「再生の能力だろうな、身体欠損ですら治せてしまうような力だ。自己治癒力が相当高くなっているんだろう」
さとりなら俺のことを大半分かるだろうに、わざわざ疑問形で話すなんて面白い性格しているな。
さとりの言っていることで正しい。俺の治癒力は他の人よりも数倍も高くなっている。しばらくすれば身体欠損ですら治せてしまう。初めて紅魔館に行った時にフランに吹き飛ばされた腕が治ったのも偏にこの再生力のおかげだ。
俺の職業柄怪我が多いのは仕方ないことだったので、その積み重ねもこの再生力に影響しているのだろう。勿論身体欠損は稀ではあるのだが。
「お腹は空いていますか?一応夕飯の時間ではあるのですが…」
「運動したし空腹だ。ありがたく夕飯を食べさせてもらうとするよ」
それにしても俺が出かけたのは昼前で、勇儀と戦って負けたのは体感からして三時程度だと思う。それが今は夕食時か。俺は大体三時間程度寝ていたという事か。勇儀はどんだけの力で俺を殴ったんだ。腹にダメージが入ったことは憶えているが、そこから先は全くもって憶えていない。
鬼の萃香が言うほど勇儀は力が強いんだ。俺みたいな人間が身体強化したところで衝撃で気絶してしまうのかもしれない。そもそも地面に叩きつけたというのに全然元気だったのだし、その程度のことは造作もないのだろう。
「夕食は食堂で食べますので準備ができたら来てくださいね」
「分かったそうさせてもらおうよ。すまない」
食堂はここからそれなりに距離のある。建物の中で距離のあるなんて表現をするのも不思議な話だが、実際紅魔館や地霊殿はそれほど広い。なんだかんだ言って白玉楼だって広いのだし、幻想郷は広い建物が多い気がする。
ところで夕食いうものは集まって食べるものだ。いや、俺がそう思っているだけではあるのだが。
集まって食べるということは地霊殿に住んでいる者全員ということなのだろう。ということは初対面で悪印象だったあのお空とも食べるということだろう。
随分と俺に対して敵対心を持っていたが、食事の時は大丈夫なのだろうか。
俺は一抹の不安を胸に食堂へと向かった。