東方十能力   作:nite

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八十一話 日本人なら風呂だ。風呂。ただし一人に限る

風呂、特に浴槽がある風呂というのが日本での主流である。大体の家にはシャワーと共に浴槽があり、住人はそこで思い思いの時間を過ごす。曲を聴いたり、ストレッチをしたり。あるいは本を読む人もいるだろう。風呂の時間というのは食事や睡眠に並ぶほど至福な時間だと思う。

それは俺も例外ではない。

元々睡眠は少なめで良いし、食事なら自分で大体なんとかなる。しかし風呂だけはどうにもならないのだ。なので風呂というのは俺にとって貴重な時間なのである。魔法が満足に使えるならば良かったのに。

 

「風呂場はこっちで合ってるよな?」

 

迷いそうだ。看板でも立ててもらいたいぐらいだ。勿論その願いは叶いそうにないが。

一度道を間違えたが、なんとか風呂場に到着。

まさかの混浴。というかペットにオスメスの判断はないのか。紅魔館は女性しかいないから大丈夫なのだろうが、地霊殿には【多分】男性がいる…いるよな?

取り敢えず中に誰かいないかを確認してから入る。

扉を叩いて呼びかけもしたが反応無し。多分誰もいないだろう。

脱衣所に入り服を脱ぐ。着替えなどは幻空に入れてきているので問題ない。他人の家の風呂に入るのでエチケットの意も含めバスタオルを腰に巻く。

待望の浴場へ。やはり内部は広く、大浴場と言っても過言ではないだろう。

広めの浴槽とサウナというシンプルな構成。その代わり熱源は全て灼熱地獄の地熱であることを考えると単なる風呂ではないことは明白だ。

いつものように体を洗い、水をかけて泡を落とす。

風呂に入るときは一度浴槽のお湯をかけてから入れば熱に多少慣れるため体に悪くない。特に微温湯から熱めの湯に入るときなど、大きな熱の差ができるときはかけてから入らないと最悪体調が悪くなる。そうでなくとも立ちくらみのような感覚を覚える。

さて、入浴といこうか。

まあまあ熱め。だがそれがいい。俺は熱い風呂の方が好きなのだ。風呂に入っているという確かな感覚をかんじることができるからだ。

テレビで見た番組に憧れて一度はドラム缶風呂に入ってみたいと思っているのだが、中々その機会に恵まれずにいる。確かに自然の中で生活を強いられることもあったのだが、生憎ドラム缶というのはどこにでも転がっているものではないため、なんとか火の魔術を使い沸かしたお湯を被る程度のことしかできない。

閑話休題

風呂でリラックスをしていたら突然足に重みが。

なんだろうかと伸ばしていた足を上げてみたらそこにはこいしが。

もう一度言おう、こいしがいた。

 

「ぬわぁ!」

「ひゃあ!突然大きな声出さないでよ!」

 

こいしが怒る。

俺だってさすがに驚く。俺が入った時には誰もいなかったのに、気が付いたらこいしがいた。これがこいしの能力の真髄か。

というか俺はタオルを巻いているのに対し、こいしは裸である。だからといってどうすることもないのだが、男性の前だというのにそれでいいのか少女よ。

 

「もー、吃驚したじゃん」

「いやー、悪かった悪かった。こいしがいるとは思わなくてな。いつ入ってきたんだ?」

「最初からいたよ。返事はしなかったけどね」

 

なん…だと…

てか返事しろよ。なんのための確認だと思っているのか。こんなふうに混浴状態にならないように再三確認したというのに、それが無駄だったなんて…

こいしは自然に俺の隣に座り温まる。

 

「どう?地霊殿のお風呂気持ちいいでしょ。フランちゃんの所と違って入浴剤が入っているわけじゃないけど、その分少しだけ体に良い天然の成分が混じってるんだよ」

 

なんと。これは温泉だったか。

言われてみれば確かに効いているような気がしなくもないが…こいしの言うとおり本当に【少し】なのだろう。

家の風呂が温泉とはなんと贅沢な…とは思うが、やはりこういったところが地底の主の屋敷の特権なのだろう。それとも地底の家は大体が温泉なのかな。

こいしと共に風呂に入っていると、確実に面倒になる声が聞こえてきた。

 

「んにゅ。でもお燐、あいつなんだか信用ならない」

「大丈夫だって。さとり様やこいし様に手を出したりしないって」

 

まずい…第三者から見て今の状況は明らかに【手を出してる】ことにならないか?

どうしよう。出入り口はあそこしかないし…こうなったら…

 

「すまん!今俺が入っているんだ!」

 

素直に言って退出してもらおう。こいしはいない。俺しか入っていないのだと思わせるためにも自然な感じで…

 

「二人も来なよ!気持ちいいよー」

 

おいこらこいし!

まずい、非常にまずい。お燐とお空が俺とこいしの両方の声が風呂場から聞こえてきて困惑している。その困惑のままどっかへ行ってくれ。

しかし俺の願いは届かなかった。

 

「まさかこいし様、お兄さんと一緒に…にゃぁ!」

 

お燐に見られた。詰んだ。お空も来た。四面楚歌である。

お燐とお空はまだ服を脱いでいなかったのか服を着たままであるが、こいしは裸。その隣には俺。結論は…

 

「さとり様ー!大変ですー!」

「待って、待ってくれお燐ー!」

「やっぱり信用ならなった。ここで殺す」

 

お燐が猫モードで走り去り、お空が殺意増し増しで弾幕を展開しようとしている。

それをこいしは楽しそうに笑って見ている。

 

「こいし!なんとかしてくれ!」

「んー。じゃあ…きゃーお空!定晴に襲われちゃったー!」

 

まさに火に油。殺意の炎をメラメラと燃やしながら弾幕を展開するお空。俺はタオルのみのため、素肌とさほど変わらない痛みが襲う。

今度からは風呂のときも幻空に服を入れておくことを心に留め、再生を乱発して回復する。

流石にこいしもやりすぎたと思ったのか、ストップをかけた。

 

「ご、ごめん!お空やめて!」

「いいえ、こいつは私が殺します。こいし様は危ないので下がっていてください」

 

全く止まる気配のないお空。

こいしが少しオロオロしだした。さっき悪ノリしたせいで明らかに関係性が悪くなったことを感じたこいしは強硬手段にでる!

 

「やめてー!」

 

弾幕の展開。

まさかこいしから攻撃されるとは思っていなかったお空はその弾幕を避けきれず直撃。気絶。

 

「あ、どうしよう、これ」

 

こいしの困惑した声。確実に狼狽えているのが目に見て分かる。

すると丁度いいタイミングでさとりを連れたお燐が戻って来た。

 

「ほら!こいし様とお兄さん!これはだめです!」

「もうお燐。ちょっと落ち着きなさい」

 

そういってお燐を宥めると俺をじっとみつめて…

 

「なるほど。こいし、男性が風呂に入ってるときはちゃんとタオルを巻きなさい。それにきちんと返事をすること」

「う、うん」

 

今の惨状を見てこいしも素直に頷く。

地霊殿に来て一日目だというのにこの有様。この先どうやって生活すればいいのだろうか。

 

 

 


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