こいしがスキップをしている。そんなに外に出たのが嬉しいのか、はたまた別の理由か。
こいしが言っていた地底の端っこというのは地霊殿の近くにある入口の反対側にある妖怪の山と繋がる穴があるところのようだ。
地霊殿近くの出入り口は博麗神社に直で繋がっているので頻繁に通ることは難しい。霊夢の機嫌的な意味で。
なので基本的に連絡通路には妖怪の山と繋がる穴を使っているらしい。間欠泉異変の後、地上地底間の行き来が前よりも多くなった事で使われる回数が増えたためかそれなりに整備されているらしい。逆に言うと地霊殿近くの穴は整備されていない。だからこそ来るときに俺は能力を使ってゆっくり降りることを余儀なくされたわけだが。
「そろそろ旧都を抜けるよー」
こいしがそう言って正面を指差す。
そこには旧都の出入り口である証拠の門があった。地霊殿から旧都に来た時に通った門と同じデザインで、少しこちらの方が大きい。出入りが多い分こちらの方が大きいものを運んだり大人数が通ったりするためだろうかと思ったりなんだり。
こちらの門の近くはとても栄えていて、露天や飲食店だけでなく宿やジムのようなものもある。人通りが多く、間違えるとこいしを見失ってしまいそうだ。
「こっちだよー!」
気付いたらこいしは門の下にいた。いつの間にか本当に見失っていたようだ。こいしは俺の前を先導するような形で歩いているためどうしても離れてしまう。人通りが多い場所ではできる限り近くにいないといけないな。これでこいしを迷子にさせてしまってはさとりに顔向けできない。こいしのことだから気付いたら帰ってきていそうだが。
なんとか人混みを抜けてこいしと合流。
「門を抜けるとぱったり人がいなくなるんだな」
「そりゃ旧都の外に用ないもん」
確かに。旧都の外は言い方は悪いが荒れている。明かりの整備や道の整備はしているがそれ以外はほとんど手つかずだ。
「こっち!」
こいしが手を引く。フラフラとしているようだが、きちんと案内役という自分の任を全うしているようだ。
こいしに連れられ橋の上へと来た。どうやらこちらの入口には小川が流れているらしい。幻想郷のやつは基本的に飛べるのに、しかもこの程度ならば飛べないやつも跳び超えることは可能だというのにわざわざ橋を架けてあげているというのは地底の人々のマメな一面ということか。
橋を渡り切るとそこには妖怪の少女が一人。こちらを睨んでいる。
「あら、私はこちら側にいたのに旧都の方から渡ってくるなんて妬ましい。しかも男連れなの?大層な身分ね妬ましい。しかも人間じゃない妬ましい」
「定晴気にしなくていいよ。この妖怪はそういうものだから」
「無視を決め込むの?妬ましいわね。この妖怪じゃなくて私は橋姫の水橋パルスィよ」
妬ましいと言いつつ自己紹介をしてきたパルスィ。
しかし驚いた。少し見られただけなのに人間だと分かるとは。もしや旧都にいる妖怪よりも力が強いのでは?
「パルスィはいつもここにいるんだよ」
「ただここで見回りをしてるだけよ。暇みたいに言わないでちょうだい」
橋姫だから監視役にされたのかな。旧都で活動している妖怪は鬼を主体にしているが、旧都から離れたところでは色んな妖怪がいるということか。
「地底の端にでもいくのかしら」
「そうだよー、定晴の案内」
「人間を案内するなんて酔狂ね。巫女や魔法使いにはしてなかったじゃない」
「霊夢や魔理沙は案内することもなく突っ込んできたからね」
二人は地底で何をしたんだ。異変解決とはいえ突っ込んできたと言われるほどには猪突猛進だったのだろうか。俺からすればこいしも中々に猪突猛進だと思うのだが。
「あ、堀内定晴だ。地上から依頼で来ている」
「仕事熱心なことね妬ましいこと」
高速で嫉妬心をぶつけられる。なんでもかんでも嫉妬しているのはやはり橋姫という種族だからこそか。
橋姫というのは元々橋の守り神の妖怪、というより人間であった。橋姫にまつわる伝承は多く、話によって嫉妬に狂う女性、愛する人を待つ女性、橋を守る女神など多岐に渡る。
妖怪というのは人間の恐怖や想像を実体化した存在なのでパルスィが元々人間だったというわけではないが、最初は橋を守る女性だったというのが一般的であり、嫉妬心や愛する人を待つといった伝承は直接橋に関連したものではなく、人物の呼び名が橋に由来していたりしてそれが混同してできたのが橋姫という種族の妖怪である。
パルスィは嫉妬の女性というのが前面に出ているが、それは多分幻想郷の人間や地底の妖怪の考えが『橋姫は嫉妬をする妖怪』という固定概念のようなものがあるからだろう。
悪さを好んでするような妖怪ではないため戦闘経験こそ少ないが、橋が架かっている場所では結構周囲にいることが多いので外の世界でも何度か見たことがある。何故か全体的に嫉妬心に憑りつかれているようではあったが。
「今日はどういうわけか通行人が多かったわ。どこにいったのかは知らないけど気を付ける事ね」
「おう、ありがとな」
意外にも優しい一面もある。橋姫というのは面白い種族なのかもしれないな。幻想郷では色んな種類の妖怪に会えるため俺自身の経験にもなっていい。別に妖怪のこと調べているわけではないが。
「それじゃまたねー」
こいしが別れの挨拶をし、俺もそれに便乗して挨拶。
地底というのも中々悪くない場所だ。