東方十能力   作:nite

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八十七話 土蜘蛛ハウス

ヤマメに連れられ家に入る。

横穴に作られているせいか壁や床はボコボコで、家具は大体が木製でキッチンだけが石造りである。

ヤマメに勧められ席に着くとお茶が出てきた。地底はお酒を水と同じ感覚で飲んでいる節があるからお茶が出てきたことに安堵する。

 

「あ、そうそう。実はそろそろ私の友達も来るから」

「ん?じゃあ俺達はお邪魔じゃないのか?」

「いいよいいよ。友人が増えれば私達も嬉しいし」

 

ふむ…中々器が広い妖怪のようだ。まあ幻想郷は基本的にウェルカムな雰囲気なので、余所者排除という意識が強いのは妖怪の山くらいだ。そこでも河童たちのような奴らもいるし第一印象で決めてはいけない。

 

「そろそろかな…」

 

ヤマメがそう言うと同時にドアを叩く音。

どうやらその友人が来たようだ。

ヤマメがドアを開けて出ていく。その後もう一度戻ってきた時には手に一つの桶を抱えていた。

 

「紹介するね。私の友達のキスメだよ」

 

と言って桶を出す。

もしや無機物が友達なのかと一瞬不安になるが、ゆっくりと桶の中から人影が現れた。

 

「ど、どうも」

 

緑色の髪をした女の子が中から出てきた。

白い服と小柄な体型。さながら幽霊のような風貌をしているが、感じる力は完全に妖力。桶に入っている時は全く感じることが出来なかったということはこの桶も普通の桶ではないということか。

明らかに質量的に入れないと思うが…謎が多い。

 

「キスメは人見知りなんだよね。でも私より残忍だから気を付けてね」

 

紹介される時に残忍だと形容される気持ちは如何に…

話を聞くところによるとキスメは釣瓶落としという種族で、井戸や縦穴などから出てきたり落ちてきたりという妖怪のようだ。

残忍というのはキスメというより種族全体的に残忍なようで、井戸から出てきて子供を連れ去り食い殺すのだとか…多分由来は井戸に子供が落ちたとかだろうけど。

妖怪というのは人間の恐怖心や創造性が生んだ生き物であり、存在ある無しに関係なく噂されると生まれるらしい。

ということでキスメ自身が残忍かどうかは分からないという事で…だから一人食べてきたみたいな話は聞こえない。全くもって聞こえない。

 

「俺は堀内定晴だ」

「古明地こいしだよ」

「古明地って、地霊殿に住んでるっていう?」

「そうだよ〜」

 

ヤマメは反応が無かったが、キスメはどうやら地霊殿のことを知っているようだ。ヤマメはこんな雰囲気だし分かっていてスルーなのかもしれないが。

 

「ほら座って、お菓子あるよ。定晴たちも遠慮せずに食べてね」

「すまない。ありがとう」

「いただきまーす」

 

出てきたのは見たことの無いお菓子。地底独自のものだろうか。少し黒っぽい。

齧ってみるとほんのり甘く、少し歯応えがある。この味は…羊羹?羊羹だと思ってみてみるとなんとなくそんな気もする。

形こそ整っていないが、味や匂いは羊羹である。

 

「これって羊羹か?」

「うんそうだよー。よくわかったね。食べたことあった?」

「いや。蒸し羊羹は初めてだ」

「おおーそこまで分かるんだ」

 

やはりか。羊羹といっても種類があり、寒天の量で名称が変わる。多ければ煉羊羹。少なければ水羊羹といったように。

俺たちが食べているこれは蒸し羊羹というもので、寒天を使わず、小麦粉などを加えて作るもので蒸し固めて作っている。

形が整っていないのは単純に型が無いからだろう。それなりの器があれば作れるが、このように不格好な見た目になってしまう。

そしてあまり作られずマイナーなお菓子となっている蒸し羊羹を作った理由はきっと寒天がないからだ。地上と交流することがそれなりに増えた今でも流通はそこまで良くないのだろう。未だに地底に寒天がなくとも不思議ではない。 

 

「いやー初見で分かるなんてね。料理はする方?」

「それなりにな」

「え!作って!」

 

意外にも食いついてきたのはこいし。

どうやら地上の料理も色々食べてみたいらしい。地霊殿でもそれなりに色々な料理が出てくるが、それでは物足りないのだろう。たまに宴会にも参加しているこいしなら尚更だ。

 

「じゃあ機会があれば作らせてもらうか」

「やったー」

 

ふむ…あれだけ大きな地霊殿だ。キッチンの様子は見ていないがそれなりに広さがあるだろう。材料さえあれば大体なんでも作れると考えていいだろう。

 

「あの、定晴は地上の人?」

「あー、えっと…」

 

これは言ってもいいのだろうか。人間だからといって騒ぐような妖怪ではないと思うが、万が一それで何かあったら後始末が大変だし…

 

「うん!そうだよ!」

「あ、おい」

 

こいしがサラッと暴露。とてつもなく解せない。

だがこいしがそう言っても特に反応はなく、純粋に知りたかっただけなのだろう。

この様子だと案外地底の奴等に言っても何とかなる気がするが、油断は禁物だ。

しばらくヤマメの家で談笑していると、突如爆発音がした。旧都の方からだ。

 

「うひゃぁ」

「今日もやってるのかな」

「あの音は地上侵略したいって奴らのか?」

「そうらしいね」

 

となると俺の仕事の時間か。こいしには悪いが目的地まで来たし、今日はこの辺で終わりとして仕事に移るとしよう。

 

「すまないこいし。仕事の時間だ」

「りょうかーい。私も付いていっていい?」

 

これは慎重な判断がいるな。先に地霊殿までこいしを送る時間はないかもしれない。しかし一人で帰らせるわけにもいかない。地上侵略派の妖怪が暴れだしたとなると安全に帰ることができる確証はない。

かといって連れて行くのも危険ではある。勿論俺がいる限りはこいしに手出しをさせる気はないが。もしものことがあるとさとりに示しが付かないからな。

 

「私は能力でできる限り認知されないようにしておくからさ」

 

確かに意識が戦闘に向けばこいしを認知することはほぼ不可能だろう。となれば俺が戦闘に注意を如何に引かせるかが重要になってくるな。

 

「じゃあ俺は戦闘するかもしれないが、誰かに見られたと思ったらすぐに隠れろよ」

「はーい」

「ヤマメ、キスメ。楽しかった。ありがとう」

「また来てねー」

 

ヤマメに別れの挨拶をしてこいしと共に飛び立つ。

家から出ると旧都の方から音が響いてくる。どうやらそれなりに規模が大きいようだ。これは急ぐべきだろう。

 

「こいし、急ぐぞ」

「あいあいさー」

 

こいしと俺は更に加速して戦場に向かった。

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