【MoE】 もっこす奮闘記   作:うにねこ

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すっかり季節外れになってしまいましたが…。
たまにはこういう話にも取り組んでみようと思いました。

「肝試しイベント 2018」を題材にしています。

大して怖くないかもしれませんが、ご覧いただければ幸いです。
(季節も秋ですし、あまり涼しくならなくてもいいですよね?…と言い訳)

《おことわり》
説明不足や矛盾点が気になりやすい方にはお勧めしません。あらかじめご了承ください。




【MoE】 もっこす奮闘記 番外編 怪談の場合

 今日も仕事が無事に終わった。

 稜線(りょうせん)の向こうから、空が入り日色に染まっていく。

 ちょうどその頃、売り場の締めと記帳も終わり、その場にいた全員の手が()いた。

 

 珍しいな…と彼は思った。

 

 いつもより早く暇ができるのは、ありそうで意外となかった。さらに、

 "せっかくの時間、たまにはゆっくりしたい"

 そう思うのもまた、勤勉な彼にしては貴重なことだった。

 

 「少し、みんなで散歩でもするかい?」

 伸びをしながら、販売員たちへ声をかける。

 今、彼のお店を切り盛りしているのは4人。

 これまでは、住み込みの男の子と女の子、小柄な種族(エルモニー)の男性の3人でお店を回していた。だが、扱う悟りの石が増えて人手が足りなくなってきたので、少し前から大柄な種族(パンデモス)の女性が加わっている。

 「はい。この辺りはあまり出歩いたことがないので、ぜひ」

 新入りの彼女が、穏やかな口調と表情で答えた。他の販売員たちも目を細めてうなずいた。

 実は、彼としては気をもんでいた。パンデモスは、太古に争った記憶からエルモニーを恐れているらしい。体格の差からはとても信じられない話だが、彼はそう聞いたことがある。だから、来てくれたのはいいが険悪な雰囲気にならないか…と心配だったのだ。

 しかしいざふたを開けてみると、それは杞憂に終わった。彼女の種族(パンデモス)は見た目の勇ましさとは裏腹に、争いを好まない穏やかな人が多いというが、彼女もそうだった。折り目正しく、静かな笑みを絶やさず、その長身にもかかわらず圧迫感や威圧感は全くない。まとめ役の彼(エルモニー)も陽気で優しい性分なので、新しい仲間として抵抗なく受け入れてくれた。作業や流れをていねいに教えて回り、彼女もそれをよく飲み込んでいったので、むしろ折り合いは良かった。お手伝いの子どもたちも"お姉ちゃんができた"と喜んでいる。

 この人で本当に良かった…と、彼は安堵している。

 

 家に誰もいなくなるので鍵をかけてから、足元の茂みを踏みしめ、めいめいに歩き出す。

 空の彩りを写し取ったように、すべての風景が入り日色に浸されていく。空はというと、一足お先にと言わんばかりに紫色や瑠璃(るり)色へと染め替えつつあった。

 「わぁー、きれい!」

 ぐるりと見回した少女が、目を輝かせながら天を振り仰いだ。

 「星が出てるね。光の粉が散らばったみたい」

 少年もその横で、感じ入ったように瞳を上へと向けた。

 「涼しくて優しい空気だなぁ…こりゃ気持ちいい~」

 魔法使いの格好のまま、まとめ役が胸を膨らませて両手を突き上げる。

 「幻想的ですね…昼間に見てる景色と同じはずなのに」

 こちらも同じくローブに身を包んだまま、新入りの彼女が目を細めて辺りを眺める。

 そのような他愛もないおしゃべりを楽しみながら歩いていく。ふと見つけたものや感じたこと、自分の好きなことや気になること、どこかで聞きかじった(うわさ)など…話題は尽きない。

 その中で、もっとも背の高い彼女の、新しい一面が明らかになった。なんと、ニューターに(あこが)れているという。

 「色白で顔立ちが可愛らしく、背も高すぎないから…」

 夕焼けよりも赤く顔を染めての告白に、お手伝いの女の子が目を丸くしていた。

 高い身長、それと釣り合う魅惑的(みわくてき)な体つき、健康的な小麦色の肌。少女にとっては(うらや)ましいところだらけなのに、本人は正反対のことを望んでいる。そこに心底驚いたようだ。"(となり)芝生(しばふ)は青く見える"とはよく言ったものだと、彼も(はた)で見ていて思った。

 

 そうこうするうちに、天も地も、海を思わせる藍色(あいいろ)へと沈んでいく。昇りはじめた月が白く輝き、円い切り抜きを作る。持ち主たちの動きにつれて、刷毛(はけ)で延ばされたような影が形を(あら)わにしていく。山々は限りなく暗い灰色に塗りつぶされ、その輪郭をさりげなく浮かび上がらせる。

 家々の灯りが遠く見えるだけで、辺りには何もない。

 

 「そういえば…こんな話を聞いたことがあります」

 いつもの静かな声音のまま、パンデモスの販売員が語り始めた。

 「強欲(ごうよく)な女性がいました。充分に綺麗(きれい)な顔立ちと体型だったにもかかわらず、本人は不満でした。

 "なぜ、私はこうも冷たくあしらわれるのか。もっと相応(ふさわ)しい扱いを受けるべきなのに"

 と…」

 

 …それだけならよく聞く話なのだろうが、続きが違った。

 ある時、女性は"不思議な力を宿した硬貨"の噂を耳にする。なんでも、とある場所に眠る者たちが持っているらしい。

 思いこみの強い本人は、こう考えた。

 「死んだのにお金を持ち続けるなんて馬鹿げてる。それに、不思議な力があるなら有効に使わないとね」

 女性は各地を懸命(けんめい)に探し回った。人づてのことなので手がかりを見つけるのさえ苦労したが、ついに目的地を突き止め、足を踏み入れた。

 そこは丘陵地(きゅうりようち)に広がる墓地だった。昼間でも(きり)が晴れることはなく、うっそうと木々が生い茂っている。人はおろか生き物の(かげ)1つ見えず、足音さえ飲み込む静寂(しじま)が広がるばかり。ところどころに、池ほどもある水たまりや縦横無尽(じゅうおうむじん)に地下を走るほら穴、そして()き火があった。灯火は果たして、死せる者への慰めか、生ける者への道しるべか。いずれにせよ、まともな場所には思えなかった。

 それにもかかわらず、女性に(おそ)れは少しもなかった。ついに来られた、これで自分の願いが叶う、という喜びが心を占めていたのだ。

 女性は(くわ)を振り上げ、精力的に探し始めた。墓石を動かすだけの力はなかったので、その脇を掘り返すやり方で目的の品を集めていった。(ひつぎ)を暴き、横たわる(むくろ)のそばできらめく"それ"を見つけては、ためらいなく掴み取っていった。白骨化していようが、幼い娘のものであろうが、まったくお構いなしに。ただひたすらに、無我夢中で作業へ打ち込んだ。

 1枚、また1枚と手中(しゅちゅう)に収めるたびに、女性の心は満たされていった。黒く粘った熱い何かが、勢いと深みを増しながら広がり、飲み込んでいく。不思議と心地良い。身を任せてしまいたくなる。いつしか、初めの目的など頭の中からとうに消え去っていた。

 "これ"が、ありさえすればいい。

 見つけた私のものだ。全部、私のものだ。誰にも渡さない。

 

 いつしか全員の足が止まり、聞き入っていた。

 「なんと(ばち)当たりな…」

 いつもは陽気なエルモニーも(まゆ)をひそめている。その肩に少女がしがみつき、目を閉じて身を震わせている。

 「こわい……かわいそう…」

 「え? かわいそう?」

 少年が聞き返す。平静を(よそお)っているものの、声がうわずっている。けれどこの場合、その高めの響きがかえって周りを和ませる。

 「だ、だって…お墓、荒らしちゃったんでしょ…? ひどいよぉ…」

 話し手は大きくうなずき、淡々(たんたん)とした語り口のまま続けた。

 

 たくさん集まった。

 両手にあふれんばかりの、星屑(ほしくず)のような輝き。確かな手応えと重み。これ以上の満足はない。土と泥にまみれてまで集めた甲斐(かい)があったというものだ。

 何枚ぐらいあるのだろう…ふと、気になった。薪の上で揺らめく炎の明かりを頼りに、数え始める。

 「1枚、2枚、3枚…」

 夢中になるあまり、指の間から数枚こぼしてしまう。硬貨は薄暗いもやと深い草むらの中へ消えた。(あわ)てて地面をかき分けるが、落としたばかりの品は出てこない。勢いよく立ち上がり、辺りを探し始める。捜索範囲(そうさくはんい)が広がるにつれて足の運びも早くなり、駆け足へと変わる。息遣(いきづか)いもだんだん激しさを増し、激しいあえぎとともに走り回る姿となる。

 息を切らせながら左右を振り返ると、いつの間にか人影が現れていた。

 白装束(しろしょうぞく)に身を包み、長い耳と髪をなびかせた女性たち。うつむいたまま、ゆっくりと無言で歩んでいる。まるで、()せ物を求めてさまようかのように。

 生前の姿で焚き火のそばにたむろする数人の少女。"見た?""見てない""聞いた?""聞いてない"そんな(ささや)きが耳を打つ。

 他にも、そこかしこに気配(けはい)を感じる。

 「横取りされてたまるか。私のものだ。取り返さなきゃ」

 幸い、彼らは(おそ)ってくる様子はない。あちらも探すのに必死なのだろう。負けてなるものか。こうなったら亡者(もうじゃ)どもよりも先に見つけ出すまでだ。鍬もどこかへ放り出して走り回るうちに、足がもつれて転んだ。

 「まったく…汚れるじゃない」

 忌々しげに舌打ちしながら起き上がる。ふと、水たまりへ映ったものが目に飛び込んできた…。

 

 語り手は言葉を切り、にわかに沈黙の(とばり)が下りる。月明かりの下、白と黒に切り分けられた彼女の表情はいつもどおりだ。だが今は、それがより不気味(ぶきみ)に感じる。

 突然、一陣の風が吹き抜け、(ほほ)をなでる。誰ともなく身を震わせ、短く悲鳴を上げる。唾を飲み込む音が響く。

 「そ…その女の人は、な、なにを見たの…?」

 かすれた声で、男の子が小さく尋ねる。

 それを受けて、彼女はその先を続けた。

 

 水鏡を覗き込んでいたのは娘の顔だった。黒髪を片側へ流し、黒を基調とした半袖の衣服に身を包んだ姿。まずまず整った顔立ちと言えるだろう。

 しかし…表情も目の色も分からなかった。

 なぜなら…

 その瞳には漆黒(しっこく)が渦巻いていたから。

 その口元は暗闇(くらやみ)に覆われていたから。

 「お前は誰だ?」

 女性は問いかけるが、返事はない。

 「なぜ答えない!?」

 いきり立つと、その娘も同じように肩を(いか)らせてきた。

 「真似(まね)するな!」

 乱暴に腕を叩きつける。水しぶきが上がり、相手の姿が消える。

 「おのれ…どこへ行った。逃げるな、出て来い!!」

 水面を両腕でしゃにむに()き回す。()れそぼり、頭から(しずく)(したた)らせながら、やがて女性は立ち上がる。

 「何が何でも見つけ出してやる。(かく)れても無駄(むだ)だ…」

 そう、隠れても無駄なのだ。

 この場所へさえ、執念(しゅうねん)で行き着いた私からは…逃げられやしない。

 あいつが()ったのに違いない。でなければこうも逃げ隠れするはずがない。

 "必ず、(むく)いを受けさせてやる!"

 固い決意を胸に、女性は駆け出した。墓場をひたすら…ただひたすら。

 水面(みなも)に映ったのが自分自身だったと気づく、その時まで…

 

 全身でわななく子どもたちの背中をさすりながら、まとめ役(エルモニー)(なだ)めるように見上げる。

 「お、おいおい、この子らにゃあ、これ以上はキツいって…」

 もっとも、その当人の顔色も心なしか青ざめて見える。月光のせいではないだろう、たぶん。

 「う、うん、いや、だ、だいじょうぶ。へ、へーき、へいき」

 歯を鳴らしつつ、そんな台詞(せりふ)とともに少年がぎこちなく両腕を振り上げる。その隣で少女は耳をふさぎ、涙をためてうずくまっている。

 「あらぁ…ごめんなさい…ごめんなさい。怖がらせてしまって…」

 語り手を(つと)めた彼女がうろたえ、頭を何度も何度も下げる。来てからまだ日は浅いが、この人がここまで感情を出すのも珍しい。本当に困り、申し訳ないと思っているのがよく分かる。

 「怖くならないよう、静かに話しましたが…逆効果になったようですね…」

 「むしろ、怖さ倍増だって」

 間髪(かんぱつ)()れずツッコむ相方(あいかた)。が、その口元には柔らかな笑みが浮かんでいた。子どもたちもいくらか立ち直ったようで、音を立ててため息を()きながら、胸をなで下ろしている。それを見て、彼女もやっと顔を上げた。

 「こわかったけど、お話、じょうずで楽しかったです」

 少女も腕を伸ばし、彼女の手を取った。

 その手を包み込むように(にぎ)り返し、"ありがとう"の気持ちを伝える。その横で、少年もしきりにうなずいている。

 「そういうこと。まぁ、もうそんなに気にするなよ」

 小さな相棒(エルモニー)が締めくくる。つい先ほどまでの(うす)気味(きみ)悪く張りつめた空気が、みるみるうちに融けていく。

 「とりあえず帰ろうぜ。だいぶ(すず)しくなったことだし」

 (ひじ)から先が太い両腕を振り回しながら、続けて提案する。周りもうなずき、足を()み出したところで異変に気づいた。

 

 家主がついて来ない。

 

 立ったまま、まったく動かないのだ。そういえば、ずっと(だま)りこくったままのような気もする。

 「おーい、生きてるかー?」

 身長差を補うために軽く飛び跳ねつつ、両手を目の前で振ってみせるが、やはり反応がない。

 「まさか…」

 「ひょっとして…」

 誰かのつぶやきに別の誰かが重ねる。しばし見つめあった後、結論が異口同音(いくどうおん)に飛び出した。

 「気を失ってる…!」

 なんと、彼は目を開けまま、立ち尽くしたまま失神していたのだ。しかも、今まで誰も気づかなかったほど自然に。ここまで見事だと、特技と呼べるかもしれない。

 「ぶわははははは…」

 「あひゃははははは…」

 子ども2人がこらえきれずに吹き出し、大口を開けて笑い転げた。つられて大人2人も笑い出す。家主が一番の怖がりだったという事実も意外なら、ひっそり気絶することも想定外。そして周りに悟らせないほどの(たく)みさ。普段の様子からはまったく思いもよらなかったぶん、おかしくてたまらない。

 そうするうちに、当人が激しい(まばた)きとともに顔をしかめ、首を横に振った。どうやら意識を取り戻したらしい。

 「ん?なんでみんな笑ってるんだ?」

 (きつね)につままれたような彼の反応は至極(しごく)当然のものだったが、周りがさらに大爆笑したのは言うまでもない。

 

 結局、彼は後でもう1度、

 「怖いけど気になるから」

 と、話の続きを聞いたのだった。

 さすがに気絶はしなかったものの、気が遠くなった拍子にちゃぶ台へ頭を軽くぶつけ、こぶを作るはめになった。

 「あ、ありがとう」

 青ざめてこぶを押さえながらも、どうにかお礼を述べる。彼女はいつもの微笑(ほほえ)みをたたえてうなずき返す。

 「ところで、1つ気になることがあるんだけど…なぜその人は、水に映った自分の姿だって分からなかったのかなぁ」

 それに答えて彼女が語った内容はこうだった。

 身勝手な欲望に突き動かされて死者を冒涜(ぼうとく)するという罪を犯した女性は、心身ともに闇の瘴気(しょうき)に満たされてしまう。目と口が気味の悪いもやに包まれたのも、それが原因だった。服装も髪の毛もあふれ出す"それ"に染まり、そのせいで自分だと気が付かなかったのだ。

 だが彼は、それだけではないような気がしていた。誰しも、"自分を大切にされたい、自分のものを大切にしたい、これこそが本当の自分"という願いはあるだろう。この女性はそれらが極端に強く、そして利己的な方へ暴走しただけのように思えたのだ。私の中にも、ひいては誰にでも同じ危険性は潜んでいないか。そう考えると、つい恐ろしくなる。

 「いやぁ、よくそこまでいろいろ覚えてるねぇ。それに、すごい想像力だよ」

 すると、目の前の彼女はこんなことを言った。

 「実話という噂もありますよ。体験できるかもしれませんね」

 

 「え…」

 

 彼の記憶は再び途絶(とだ)えた。(了)

 




前回からだいぶ間が空きました。
すっかり時期を(のが)してしまいました(汗)。
文字数もいつもよりは少なめで、内容もいろいろ中途半端な感じもしますが、この手の話を書くのは初めてなので、大目に見てくだされば幸いです。

実は、元ネタのイベントでも細かな背景やいきさつは明かされていません。
筆者なりに「こんな感じの流れがあって、肝試しイベントの舞台へつながるのかな」と想像して書いてみました。
説明しきれてはいませんし、つじつまの合わない部分も多々あります。ですが、推理小説や解説、論文みたいに整合性を取ることを重視するよりも、雰囲気や場面の流れをがんばりたいと思いました。

ちなみに、筆者はいわゆるグロい表現は苦手です。読むのも書くのも…。
また、個人的には「それは怖いというより、気色悪いになるかな…」とも感じているので、残酷な描写はなるべく避けたつもりです。

今回つくづく思ったのは、怖い雰囲気を作り、描写できる人は本当にすごいなぁ…と。
筆者はとても怖がりで、読むのにも相当のエネルギーが要ります…えぇ、すっごくビビります。ホラーのフリーゲームのプレイ動画を見て、思わず悲鳴を上げるぐらい(笑い)。

なお、今回は生産に関わらない内容なので、「番外編」にしました。こういう話材も筆者にとっては新鮮だったので、時たま入れてみようと思います。

賛否両論とか、ツッコミどころ満載だとは思いますが、今後とも、暖かく見守ってくださると嬉しいです。

お読みくださいまして、ありがとうございました。(筆者 拝)
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