思ったより、内容が盛りだくさんになってしまいました。
あと……突っ込まないでくだされば幸いです。槍だけに。
それは、本当にたまたまだった。
その日、彼は城下町ビスクの西
この
そんな
素材の使い道を買い手へ
ちなみに、売買は交渉で決まるほか、買い値を掲げている店へ売り渡してもよい。もちろん取引価格は常に変わるし、競争があれば大きく動く。住居費を得るための一環として、露店の動向にはそれなりに目を配っているつもりだ。
「いらっしゃい、いらっしゃい。
「海水と木炭を売っていただける方、それぞれ70Gと40Gでお願いしますー」
「
「うむぅ、あいにく
「旅の商人が20,000G? 東
そんなざわめきをかき分けるようにして、目当ての人影を探す。
「こんにちは」
彼が声をかけたのは、
「おっ、兄ちゃん、まいどっ!」
握手を交わしながら笑顔を向けてくる。友人と同じ種族だが、目の前のそれはまた一味違う。のんびりとか人なつこいとか言うよりも、快活な感じがする。
「今日も
ひとつうなずいて、彼は買い取り価格を尋ねる。これまたいつも通りだったので、亜鉛を20と樹脂を200ほど手渡す。しめて62,400Gの収入となった。知人の
「まいどありっ!…って、お金を払っといて言うのもおかしいか? とにかく、おかげさま。ありがとうな」
お辞儀を交わしながら彼も応じる。
「こちらこそ。いつもこんなに儲けさせてもらって悪いぐらいだよ。本当にありがとう」
ついつられて、敬語を使うことを忘れてしまう。もっとも当人も"堅苦しくない方がいい"と言ってくれるので、それに甘えているが。
そうして取引を終えて別れの挨拶をすませ、
「あのー、すみません」
耳へ入ってくる、柔らかな
「私ですか?」
問いかけると、長身をしなやかに折り曲げる形で反応があった。
「急にお声掛けして失礼しました。木工や鍛治をされているかとお見受けしたものですから…」
彼は
「はい、やっていますが…どうかしましたか?」
ごまかす必要もないのでひとまず答え、続きを促す。
「良かった……実は、
作製依頼だった。出先でこのような話が舞い込んでくることは滅多にないので、少なからず驚いた。
挙がった品目から察すると、この
「
願ってもない好条件だった。1も2もなく彼は承諾し、納入期限と連絡先、受け渡し場所を控える。
「なるべくお待たせしないようにしますね。手元に材料も揃っているので、遅くても2日以内にはご連絡できると思います。ところで…」
もう1つ、必ず確認しなければならないことがあった。材質だ。
彼としては、耐久性と威力と軽さ、どれを重視するかで使う素材が決まると考えている。また、修理の素材をどのくらい手に入れやすいかも無視できない。
それらを総合的に考慮して、彼は
また、銀もよく
「なるほど…他の素材にはどのような特徴が?」
問われて彼は、鋼をまず取り上げる。最も硬いだけあり、その一撃は他の追随を許さない。引き換えに
また、黄金についても
そうした特長と難点を説明した上で、相手の出方を
「それでしたら、外見のこともあるので、銀でお願いできませんか?」
「分かりました。
片膝をついて
「はい。どうぞよろしくお願いいたします」
先方も膝を折ってくる。同じような仕草でも優雅さが違う。無骨な武具に身を包んでいてもそれは変わらない。さすがは美貌で知られる種族だなぁと、少しうらやましくなった。
ひとまずその場は別れ、忘れないうちに受注内容と連絡先を書き留める。こうなると善は急げだ。一刻も早く製作にかかろう。
「ただいまー」
足早に帰宅した勢いのまま玄関の戸を開け閉めする。派手な音が鳴り、売り場の男の子と女の子が揃って小さく飛び上がる。
「あ、ごめん。びっくりさせちゃったね」
誰に対しても素直に謝れるのは彼の取り柄だ。我ながら少し慌てていたかもしれない。少し落ち着こう。ふぅ、と1つ息をつく。
「お、お帰りなさい…どうしたんですか?」
鳩が豆鉄砲を食ったような表情のまま2人が見上げてくる。それに応えて、彼はことのあらましを語ってきかせた。途中で、いつものブドウ果汁でのどを潤す。
「……というわけ」
「へぇ~、そんなこともあるんですねぇ。すごいなぁ」
少女も遠慮がちながら、
「おめでとうございます」
と頭を下げてくれる。一緒に喜んでくれる人がいるのは本当に良いものだと思う。より嬉しくなるし、やる気も出てくる。
ひと心地ついたところで、中2階にある本棚へ足を向ける。
かたや、
また、発注者がこだわったように、銀は"しろがね"と言い表すほど光を白く
工程そのものは単純だ。
気持ちを新たに、金床の前に立つ。
灼熱した銀を、精魂込めて鍛える。打ち損じると完成度が大きく落ちる。しかし冷えてしまうと思うように整わなくなるので、時間との勝負でもある。音と手応えを頼りに延ばし、本体と持ち手を手際よく作っていく。おおよそ整ったところで、一気に水へつけて冷やす。
立ち上る湯気。やっとこを持ち上げると現れる白銀のきらめき。表面を丹念に眺め、冷却時にできる
最後に、手になじむ触感と滑り止めの役割を兼ねて、木綿の布束を握りへ巻き付ける。片手で布地を突っ張り、もう片方で武器を回しながら作業を進めていく。いくら切れ味が良くても
これを一度に2本ずつ、2種類ぶん繰り返していく。
明らかに作業量が多く、根を詰めている様子だった。だが販売員たちは、遠目に見守るなり飲食物を置いておくなりに留めている。女の子が眉を
日はとうに落ち、お店を片づけて帳簿をまとめる時間となった。家主は相変わらず、わき目もふらずに仕事へ打ち込んでいる。
やがて、周囲では販売員たちが、忍び足で玄関を出る者や
結局、灯りは一晩じゅう絶えず、鍛錬の調べは夜通し続いたのだった。
空が白み始める。鳥がさえずり出す。入れ替わりに、窓の明かりがようやく消える。
火を落とした溶鉱炉と熱の取れた金床のそばで、大の字になっている
叩き終えた注文品は朝焼けを受けてきらめき、辺りを照らす。光と陰、そして際立つ輪郭。4本とも会心の作に仕上がったことがはっきりと分かる。何よりも、
静かに寝息を立てる家主を起こさないよう、少年は戸口に手を添えて扉をくぐり、販売所へと出る。朝の空気を吸い込みながら拭き掃除に取りかかる。陳列棚を磨き始めたところで遠慮がちな開閉音が聞こえ、お手伝いの女の子が顔を出した。
「おはよう。寝られた?」
小声での問いかけに、小さなうなずきがあった。…が、次の瞬間、あくびをかみ殺して涙を目尻に溜める。
「ムリしなくていいよ? まだ少し早いから、ちょっと寝ておいでよ」
しばらく見つめた後、
「うん……ありがとう」
一声告げて頭を下げ、もと来た扉をそっと通り抜ける。
「あ、そうだ」
後ろから呼び止められ、足を止めて振り返る少女。それに向けて軽く手を振り、少年は言葉を継いだ。
「
再び首を縦に振り、少女は戸の隙間へと消えた。
「すごくがんばってたもんね…」
そう言葉を残して。
頬に
どうやら、依頼品の完成と同時に眠り込んでしまったらしい。床の上でのびるとは恥ずかしい限りだが…誰かがさりげなく毛布をかぶせ、敢えて起こさずにいてくれたらしい。そんな小さな心遣いが、起き抜けの心に温かく沁みてくる。
毛布を畳み、空腹に悲鳴を上げる胃袋へ
すっかり掛かり切りになってしまったが、満足のいく出来栄えになった。
これなら、間違いない。
毛布のこともあり、気分は爽やかで晴れやかだった。
さて、発注者へ連絡を取らなくては…とぼんやり考えていると、外の声が耳に飛び込んできた。
「いらっしゃいませ~。悟りの石をいろいろ置いてます~。いかがですかー?」
そうだ。
外出は、軽く水浴びを済ませてからにしよう。汗だくだし、あちこちも汚れている。臭いもきついだろう。
そういえば、耳鳴りのような、羽音のようなものが周りを飛び回っているような気がする。視界の端にちらちらと黒い点が見えるあたり、どうやら本当に
「……うげっ」
気のせいではないと分かったとたん、顔がひきつってしまう。耳を澄ませる。話し声が聞こえる。まだ接客中らしい。
…まずい。
ここで姿を見せれば、お店の
だから、顔は出せない。絶対にできない。
大げさと言うなかれ。悪い印象はひとたび付くとなかなか
第一、雰囲気づくりにあれほど悩み、絵まで探し回ったというのに。売り子たちの努力へ感謝とねぎらいを込めて、ふさわしい1枚をやっと手に入れたのに。
…そして気づいた。
よくよく考えてみれば、誰かが入ってくるのもまずいではないか! 汚れまみれ、汗まみれ、蠅まみれ…想像しただけで
…その時、救いの閃きが彼に差し込んだ。
そうだ。
2階の井戸を使おう。
差し当たり、顔と頭、あとは手だけでも何とかしよう。毛布も洗っておこう。
気配りを見せてくれたのが誰なのか。それは、小脇に抱えた毛布の風合いが教えてくれた。あの少年の成長ぶりが実感できて、我がことのように嬉しく思う。だからそこ、なおさら恩を
そうと決まれば…と、階段を
「どうしたんですかぁ? 階段から落ちたりしてないで…」
騒音につられて様子を見に来た女の子が、見上げた姿勢のまま身をひきつらせて
目に入ったのは、家主が
目の隠れた乱れ髪。
井戸の手前に立つ男。
引き結んだ口元。
高く見上げ、見下ろされる角度。
そして、顔の
こわい。
まるで、井戸の中から這い上がって来た人のように見えたのだ。
「ひ…あ…や…」
身を震わせ、みるみるうちに目が
「わわわ、ちょ、ちょっと待って、泣かないで! お願い!」
両手を胸の前で振りながら、押しとどめようとして足が出てしまい…その先に段がなかった。派手な断続音を立て、水しぶきを頭から
顔と頭を洗っている最中に声をかけられて振り向いただけだったのだ。不機嫌そうに見えたのも、目や口に水が入らないように力を込めていたから。場所と状況と傾斜と陰影とが、ある意味で芸術的にかみ合った結果だった。
「ったたたた…」
今度は苦痛に顔をしかめる彼の横で、少女が腹を抱えて笑い転げている。体を真っ二つに折り、先ほどとは別の涙を浮かべて。
「あはっ、あはは…ご、ごめんな、さい、だって、ひっく、噴水みたいでおもしろかったの、きゃ、ははは…」
どうやら、髪の毛から
今泣いたカラスがもう笑う、とはよく言ったものだなぁ、と思う。
"まぁ、痛い思いはしたけど…笑ってくれたし、臭いもハエも取れたから良しとするか"
苦笑いと安堵の混じった表情を浮かべながら、彼は濡れた頭を手ぬぐいで包み込んだ。
髪の毛が乾くのを待つ間に、見積もりを出しておくことにする。たたき台を作っておけば交渉しやすいからだ。
当然だが、価格設定は作り手によってまちまちになる。彼の場合、材料費と作製難易度、そして品質から算出している。手間賃は相談して決めてきたが、"安い"とよく言われる。奉仕しているわけではなく、ふんだくろうとしない
ただ、他の職人とあまり売値が開かないように注意してはいる。彼は出かけることが多いが、それには価格調査の意味合いもあった。
自分は、いわば"真の達人"とでも呼べる人たちに比べれば、まだまだ慣れていない。それだけ未熟だ。そう自覚している。
しかし、商売は商売だ。
そんな思いや価値観に付け入られ、足元を見られることは避けなくてはならない。自身自身のためにも、仲間のためにも。
どういうことか。
「安くて高品質なのが当たり前」
「頼めばまたすぐ作ってくれる」
と買い手が思い込む危険性があるからだ。
そうなれば厄介なことになる。気軽に装備を使い捨て、気安く次の装備を要求するだろう。そして、少しでも価格や品質に不満が出れば、
「ぼったくりだ!」
「前は安く売ってくれたじゃないか!」
「けち! へたくそ!」
と、さも当然のように主張し、
だからこそ…
"
品物の価値を表す形として。
そして何よりも、
「わざわざ作りたくない、売りたくない」
と思う買い手を
そういったことを検討した上で、提示する額面を定める。"少し高いかも?"と感じる設定だが、そのぐらいで実際はちょうど良いのだということを、彼は経験から学んでいた。
人が
けれど、争いたくはないのだ。
取引相手とも、商売仲間とも。
そこは揺るがないし、そんな自分が好きだった。
作製した武器が、すべて
手紙には、そのような内容がしたためられていた。
「素晴らしい…」
形の良い唇から呟きがこぼれる。切れ長の目をさらに細めながら、満足そうに微笑む。こんなに早く、しかも4本とも最高品質で来るとは。
生産のことはよく分からないが、早く見られること、そして身に付けられるのは実にありがたい。
攻撃の速さと射程の長さを見込んで、突き主体の武器を選んだ。とは言え、槍のような
最近、手持ちの
しかし、見て回った常設店舗の
人通りの多い場所なら、装備の相談に乗ってくれる人もいるだろう。そう考えて城下町ビスクの西
温厚そうな雰囲気だし、声もかけやすそうだ。自分の勘を信じてみたが、図に当たったらしい。説明の分かりやすさ、仕事の早さ、細やかさ、実直さ。示された金額も思ったほど高くない。手間賃は相談でと書いてあるが、短期間で作り上げてくれたし、向こうの希望に
そう心を決め、ゆっくりと到着を待つことにした。
受注した時の約束どおり、先方はすんなり支払ってくれた。手間賃についても、優雅な仕草と笑みを絶やさず出してくれたところを見ると、預金高の心配は要らないのだろう。
青年は新品の武具をさっそく手に取り、具合を確かめている。飛び跳ねたりこそしないものの、足取りや動きに弾みを感じるあたり、どうやら満足してもらえたようだ。
「お世話になりました。またの機会がありましたら、よろしくお願いいたします」
片膝をついて別れの挨拶をする。こちらもつい、同じようにして返す。
最後に手を振り合って、その場を別れた。
けっこういい買い物になったな。
金額もそれなりにかかったが。
足が出ずに済んだのは幸い。減った残高は、新しい装備を活用すれば取り戻せる。いや、増やせる。何より、この美しい装備が自分のものになった。何者にも代えがたい喜びだ。
槍を手足のように使いこなすその日まで、たった今この手に収まった武器たちは活躍してくれる。実に頼もしいではないか。
ものづくりのことは分からない。
だが、ものの重みは伝わった。
あの人に頼んで、良かった。
人混みに消えた"生みの親"へ、青年はもう一度、手を振った。
改めて振り返る。
あの時、あの場所で、たまたま居合わせた。それがなければ今回の話もなかったのだから、不思議で奇妙な巡りあわせだった。
次のご縁があるかは分からないが、あるといいな…と思う。
小さな出会いが、後から見れば大きなきっかけになっていた…そんなことが、世の中にはたくさんある。この話もそんなきっかけの1つになっていたとしたら、ありがたいし、嬉しい。
さて…ちょっと疲れたな。
帰ったら、まずは心行くまで眠るとしよう。
ちょうど日も暮れたことだし、時間的にも良さそうだ。
さて、玄関 戸が顔面を張り倒す。
「えええええぇぇ!?」
「きゃああああ、だ、だいじょうぶですか…」
開く扉と、近づく彼。
お読みくださり、ありがとうございます。
「槍、出てこないじゃん!」
というツッコミをいただきそうですが、ゲームの仕様上、こうなりました(汗)。
もし気になる方は、"MoE" "槍" で検索してみると、分かると思います。
今回は、あっちへふらふら、こっちへよろよろ、収拾のつかない文章になってしまいました(大汗)。
とりあえず公開しましたが、いろいろ手直しすることになりそうです。
少しでも内容や文脈が整理できるといいなぁ、と思います。
実際には、
「電話」に相当するアセットや施設がないので、文中では「手紙」の形を取りました。
まさか、
このような読み物を書く場合、どうしてもある程度の現実性が必要になってくると感じているので、苦心、もとい工夫のしどころです。
まだまだ未熟な筆者ですが、今後とも応援をいただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。(筆者 拝)