その関係で、内容は大まかに2つに分かれています。
マンネリズムという気もしますが、少しでもお楽しみいただければ嬉しいです。
"トール装備"をパンデモスの
ダイアロス島に伝わる
製法を記した『雷光の古文書』は装着部位ごとに章立てされ、7冊に分かれている。ただ、内容が古代文字で記されているため、解読に長けた者か、ヌブールの村でモラ族に混ざって住む、ドワーフのクウェルクに頼む必要がある。
彼の手元には足りない章があるので、時々こうして住宅地を探し回っている。珍しいものを見つけたり、新たに人と出会えたりもするので、いい気分転換になる。
ある家の中が、目に留まった。探している物が見つかった…からではないが。
見上げるような格子窓の向こう、薄い水色と
大きく平たい木の升に、灰を敷き詰めた作り。灰の上では、傘状に組んだ木炭が赤い光を慎ましく放っている。暖炉のたぐいだろうか…見るからに暖かそうだ。
「いらっしゃいませ~」
引き寄せられるように扉をくぐると、売り子たちが一斉に声をかけてきた。魔法使い風の
女性は背が高く、耳の長い端正な顔立ちをしている。コグニート族だろう。力仕事こそ他の種族に一歩譲るそうだが、魔法に秀で、武芸の技の切れも天下一品と聞く。また、美男美女ぞろいなために、その身を売り買いされてしまうとの噂も耳にする。目の前に立つ優美な姿には、気の毒な話に信憑性を与えそうな何かがある。
「何をお探しでしょうか?」
鈴の鳴るような声音に、はっと我に返る。
「あ、ああ、こんにちは。じつは、雷光の古文書を探してます」
彼の答えに、女性は手持ちの商品を取り出して並べ始める。
「こちらになります。力、生命、奈落、天空の章がございます」
彼が探しているのは知恵の章だ。見せてもらった章はいずれも入手し、作る部位も判明している。知恵の章は腰のはず、とはクウェルクの弁だが、彼も同感だった。読み解いてもらったところ、いずれも腰以外の作成法に触れていたからだった。
ちなみに、鎧は一式、すでに護衛戦士へ渡してある。依頼を受けた時、何章か欠けていたので鍛冶仲間の先輩へ協力を仰いだ。お礼代わりに、
そうした連携はもちろん大切だと思う。
作り手の力量がはっきり表れるだけに、事もなげに銘入りに仕上げた当人には脱帽するばかりだ。その一方、それが完全自作を目指す燃料になったのは間違いない。
欲しい章は見当たらなそう…と伝えても、美しい販売員は気を悪くした様子もなく、言葉を続けた。
「差し支えなければ、どちらをお求めか、お聞かせいただいても構いませんか?」
彼が事情を明かすと、形の良い眉をひそめた。
「知恵の章ですか…当方でもめったに入荷できず、希少価値さえついているとか。家主も困惑しているようです」
"まぁ…そうだろうな"
と、彼は思った。真相はよく分からないが、他の章ほどには出てこないのは承知している。だから、敢えて腰を据えてかかろうと決めている。
申し訳なさそうに話す店員へ、彼は軽く手を振り、笑いかけた。
「いえいえ、急がないので大丈夫ですよ。ところで…」
改めて、目を引いた床の構造物について尋ねる。家主からの受け売りですが…と女性は前置きしてから、音楽的な響きで説明をしてくれた。
これはヤマトの文化で
ヤマトと聞いて、彼は得心がいった。かの国からは畳や茅葺き屋根の家をはじめ、家具や飲食物、装備品などが伝わっている。どれも、独創的で趣のあるものばかりだ。彼の家にも、黒塗りに金細工を施したヤマトの箪笥が置いてある。艶やかな造形と色使いが見事で、落ち着きと上品さと煌びやかさが溶け合っている逸品だ。
家主が自分と同じいきさつで囲炉裏を作ったという話を聞いて、どことなく親しみを覚えた。
ダイアロス島には季節の変化は少ない。桜の花が十数年おきに咲き乱れ、1年と4カ月にわたって目を楽しませてくれるが、他にはこれといって見当たらない。雪が降ったり霧が出たりする地域はあるが、こちらは
家々を回る中で、珍しいものを目にすることはあった。青空に泳ぐ何本もの吹き流しだったり、ゆったり寝そべって日光浴を楽しむための椅子だったり、ひも状の灯火で飾り立てた樹木だったり。
目新しいものがある光景は、見ていて楽しい。興味もそそられる。彼が囲炉裏に魅せられたのも、そうした変化を取り入れたいという気持ちがあればこそだろう。
彼の家の床は石畳なので、囲炉裏は底冷え対策に都合が良い。周りを絨毯で囲めば、親友たちと落ち着いて、暖をとりながら語り合える。まさに、願ったり叶ったりだ。
「もし知っていたら教えていただきたいんですが、これを作るにはどうすればいいですか…?」
期待と熱意で声が裏返る。すると、女性はいささか困惑したように視線を落とす。
「お答えしたいのはやまやまでございますが、あいにく存じ上げません。家主でしたらご意向に添えるかと」
お手伝いの子どもたちは、2人を見比べながら成り行きを見守っている。そんな中、彼は内心の落胆を隠すように微笑みかけた。
「分かりました。では、また折を見て出直し…」
玄関が勢いよく開き、元気の良い声が響く。
「いらっしゃい! 何をお探しかな?」
彼の目の前に赤毛が躍る。彼と同じニューターの女性が大きめの瞳を輝かせ、腰を後ろへ引いて一礼する。
売り子たちの
「お帰りなさいませ」
の声で彼女が家主だと悟り、彼は自己紹介もそこそこに、囲炉裏の作り方を教わりたい、失礼で厚かましいがぜひにと、床に頭を擦り付ける。その勢いと態度に、家主は大きな目をさらに見開き、ついで腹を抱えて大笑いする。
「まぁまぁ、そんないきなり一度に言わなくても。とりあえず落ち着きなよ」
両手の平を軽く振ってなだめながら、彼女は言葉を続ける。
「あんたの思いは分かるよ。あたしも囲炉裏を見つけた時はそんなんだったし。見たところ、あんたも親方だろ?」
ばつが悪そうに、彼は頭をかいた。照れたり恥ずかしくなったりした時のクセだ。気にするなと言わんばかりに、この女親方は豪快に高笑いしてみせた。
「走り書きで良ければ、作り方を渡せるよ。どうだい?」
まさしく願ってもない話だった。1も2もなく彼は承諾し、お礼に金貨を2千枚ほど渡した。商売でもないのにと彼女はなかなか受け取らなかったが、教えに対価を支払うのは職人としてのけじめだからと説き伏せたのだった。
「そう言われちゃ仕方ないか。分かった。ありがたくいただくよ」
竹を割ったような性格なのだろう。もらうと決めたら、もう迷わないらしい。そんな態度が実に清々しく、好感が持てた。
囲炉裏に関する話を皮切りに、おしゃべりが弾んだ。彼女はまだ家を建てたことはなく、出来合いのものを入れたという。古代モラ族の様式は難しいのか、どんな材料が必要か、手順はどう踏むのか…などなど、あまりの熱意と勢いに、今度は彼がたじろぐ番だった。不思議と不快感が湧かないのが、この娘の人徳なのだろう。
こうしてしばらく談笑したあと、彼が帰ると聞くと、彼女は忘れ物だよと紙切れを持たせてくれた。ていねいにお辞儀する彼へ片手をあげてこたえながら、家主は目を細めた。
「探しもののことも承知したよ。手に入ったら連絡するから、その時はちゃんと買い取ってくれな?」
彼も極上の笑顔を向け、改めて一礼する。
「もちろん!今日は皆さん、本当にお世話になりました」
去りゆく手が1つに、見送る手が4つ。再会を約束する、ひとときの別れ。けれど不思議と寂しさは感じなかった。それどころか、家までの足取りはいつになく軽かった。新しいものへの期待だけではなく、彼女たちから元気を分けてもらったおかげだろう。
そして次の日。
"まずは、鉄の棒を2本、叩き延ばして断熱板をこしらえてから、その外側をセードロの板材で囲んで、炉の縁を組んでやる。断熱板とセードロは釘で打ちつけてやればいい。板材は5枚ほど、釘は16本ぐらい使ったかな。そうして炉ができたら、火山灰をたっぷり、2杯も入れてやれば過熱しないだろう。最後に、火種用の木炭を2本分、適当な大きさに切ったり割ったりしてくべてやれば、できあがりだ。"
…という説明書きどおりに作りあげた囲炉裏の効果はてきめんで、ほどなくして家の中が暖まってきた。その効果に驚きつつも、何かを乾かすのにも便利だろうなと、思わずほくそ笑んだ。書き取られた内容は分かりやすく、まるであの女親方が横で教えてくれているようだった。きっと、これも温もりの元なのだろう。
中2階の様子が気になったので上がってみる。すると、空気は暖まったはずなのに、机の辺りがひんやりして感じた。
今ある机は、青緑がかった大理石を何枚か切り出して組み立てたものだ。目を引くのは左右の側板で、手前の辺が弧を描くように窪み、古代モラ族の様式によく見られる蔦状の縁取り模様が彫ってある。そうして生まれた柔らかな風合いと素材の色合いは、涼やかで落ち着いた雰囲気を漂わせて、心地良い。
けれど今は、温もり要素が下で増えたぶん、机周りがより寒く見えてしまうのだろう。
…温かさを感じる机、か。
うん、これを機会に新しく組み立てるのも良いかもしれない。
よし、やってみよう。
手を打って気持ちを固めてから、家具の製法をまとめた帳面を開き、いろいろな机の設計図をめくっていく。紙面に目を泳がせながら、考えを巡らせる。
温度の印象は素材に左右されるから、今回は木を使おう。ただ、どうせ作るなら丈夫なものにしたいし、置き場所の都合も考えると今の机ぐらいの寸法が良さそうだ。
そうなると、セードロの木材か、鉄で補強した曲げ木のどちらかになるが、これは迷わず、セードロにする。
一番の理由が、白を基調にした塗装仕上げになること。それも、薄墨色の模様が混ざった優しい色合いなのが良い。これなら、温かく明るい雰囲気を出せそうだ。また、セードロの香りには虫除け効果があり、傷みにくいのも嬉しいところだ。
造形の方も申し分ない。天板を面取りして丸みを持たせ、縁に彫刻飾りを施した意匠には好感が持てる。手間はいくらかかかるが、それだけに気品が色濃く漂う。まるで、どこかの姫君の部屋に置いてあるようだ。
必要な材料を確かめる。セードロの板材が12枚、
まずは、金物箪笥に保存しておいたセードロの丸太を1ダース、板材へと切り出す。このうち、幕板と側板には、細かな
外へ出てひと息入れた後、別の工程へ取りかかる。
続いて、棚口や袖引き出しを右の側板へ取り付け、出し入れが引っかからない具合を探して微調整を進める。セードロには丸みや反りは少ないが、念のためそれらを考慮し、引き出しと机の間にあそびができるぐらいの加減を見極め、位置を決めていく。
この時点で全体の歪みがないことを確かめ、飾り彫刻と塗装を施す。塗料が乾くまでの間に、天板の面取りと塗装を進める。
ここまでくれば完成まであと少し。窓がないので正確な時刻は分からないが、夕方ぐらいだろう。お腹もすいてきたので、でき上がったばかりの囲炉裏にあたりながら食事をとる。
木炭からの熱には太陽からのそれとはまた違った魅力があるな、と彼は思った。柔らかく包み込むような、それでいて染み入るような感触が心地良く、ついつい気が遠くなってしまう。
「おっと、いけないいけない」
体の内側から湧き出す睡魔に抗い、頭を振って意識を取り戻す。まだできあがりではないので、もうひと踏ん張りといこう。
塗装は思ったより早く乾いている。囲炉裏の暖かさのおかげだろうか、ありがたい限りだ。引き出しと側板の具合や天板とのかみ合わせを、ていねいに見る時間ができる。
机を起こし、天板をはめ込み、仕上げとなるが、脚にがたつきや揺れがないかを最後に確かめる。これまた嬉しいことに、いい具合に収まった。ここまですんなりいくのは本当に珍しい。
こうして全体を眺めると、机の香りと色合い、それに形、どれをとっても満足のいく完成度となった。雪のような白さの中に、日だまりを思わせる淡い桜色の色合い。飾り彫刻が創り出す気品のあるたたずまい。
会心の出来となったこの机へ、記念代わりに自分の銘を刻みつける。
だいぶ体がだるくなってきたので、夜も更けて来たのかもしれない。がんばったのもあるだろうが…。
囲炉裏の火を落とし、中2階の寝台へ入る。脇に置いた石造りの机を見やりながら、雰囲気の変化が今から楽しみだ、と胸躍る感覚に、頬がついつい緩むのだった。
"おはよう"
…ん? どこからか声がする。
辺りを見回すが、不思議なことに誰の姿も見えない。第一、今は深夜のはずでは…?
"起きてるか~い?"
妙だな。自分はまだ眠っていないけど…おや、なんか揺れてるような…?
「おーい」
突然、視界いっぱいに広がる親友の顔。
「うぉわあぁぁっ!!」
後ろへ飛び退いた拍子に頭を、次いで背中を、したたかに壁へぶつける。
驚くわ痛むわで、頭の中は絶賛、起き抜け大混乱へと陥っていた。
なんという寝覚めだろう。
原因となった当の本人は、小さな体をまっぷたつに折り曲げて大笑いしている。
「いやぁ、悪い、悪い、そこまで、驚くとは、ね」
息も絶えだえになりながら、言葉とは裏腹にまったく笑顔が収まらないその様子に、彼は怒りとも呆れともつかない気持ちになった。
「つつつ…とりあえず、おはよう」
ふぅとため息をついて、気持ちを落ち着ける。まだ目尻に涙を浮かべてはいるが、だいぶ痛みは引いた。
かたや、やっと笑いの発作が治まったらしい親友は、手荷物から何かを取り出した。
「これさ、なぜか手に入った食材があったから作ってみた。食べる?」
そう言って差し出したのは、黒塗りの重箱。何かのタレのような匂いがほのかに漂ってくる。
ふたを開けると、白いご飯とタレの香りに加えて、焼き物の香ばしさが一気に広がる。
「ほぉー、なんかすごくおいしそうだねぇ。食いでもありそう。でも、これ、なに?」
彼は目と口を丸くし、そのまま首を傾げる。ご飯の上に、何かの蒲焼きとおぼしき肉を載せ、タレをかけた料理。
「あぁ、知らなかった? これ、うな重なんだ」
自分の言葉を繰り返しつつ、まだ首の角度が戻らない彼の反応を見て、持参したついでとばかりに当人は解説を加える。
「大デンキウナギの肉を使ったんだよ。疲れを取って精力を付けるのにいいんだってさ」
それを聞いて、家主の表情が神妙なものになる。大デンキウナギは、名前こそ『ウナギ』と付いているが、実際は巨大な海蛇の姿をしているそうだ。打たれ強いうえに水中戦になりやすいと聞いている。
「それ、けっこう貴重じゃなかったっけ?」
「だねぇ。まっ、だからこそ持ってきたわけだけど、おじゃまだったかな?」
そんなことを口にしながらも、腰に手を当てて左右へ揺らしてみたりしている。その仕草がどこか無邪気で、起き抜けの複雑な気持ちがどうでも良くなってきた。
「とんでもない。わざわざありがとう。あれ、朝ご飯、食べたの?」
「かるーくね。まぁ、まだ食べられるから、一緒にいけるよ」
口元を細めて笑うと頬の紋様がつり上がる。彼もつられるように微笑みを返す。
「ん…わかった。じゃあ、遠慮なくいただくね」
ちゃぶ台に置いた重箱をそれぞれつついていると、親友がふと尋ねた。
「そういや、何かの夢でも見てたの?」
彼は目を細め、口元をゆるめて答えた。
「うん。前の家のこと」
懐かしい風景だった。ここが、こじんまりした背の高い家だったころ、もう1人の親友と3人で、囲炉裏にあたりながらくつろいで過ごしたものだ。夢は、その空間を作り始めた時のことだったような気がする。
今の家になってから、3人で顔を合わせる機会をなかなか見つけられずにいるが、元気でやっているだろうか。
家は単なる
だからこそ…生活感のある空間を大切に、人の息づかいや温もりを絶やさないようにしたい。
あんな夢を見た後だからだろうか、自分が模様替えや季節感の出るものに興味を持つのは、そんな理由からかもしれないな…そんなことをぼんやり考えるのだった。
ご飯の温かさと蒲焼きの香りが、改めて染みわたった。(了)
MoE(Master of Epic)の舞台は、本当に不思議です。
よくあるファンタジーRPGの世界観のはずなのに、和風ものや季節ものが自然と混ざっています。
なぜかそれに違和感を覚えないのは筆者だけでしょうか。
今回は、そんな「不思議がさりげなく同居している光景」を題材にしてみましたが、どうも表現力不足だなぁと感じています。
(時々見直したり、手直ししたりしてはみますが…)
百聞は一見にしかずとも言いますし、
良かったらダイアロス島へお越しくださいませ♪
つたないところがいつもにまして多かったと思いますが、ご覧くださった方、ありがとうございます。(筆者 拝)