【MoE】 もっこす奮闘記   作:うにねこ

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藍染(あいぞめ)剛弓(ごうきゅう)を受注し、初挑戦する話です。

《藍染の剛弓の作成について》
製法(レシピ)必須です(材料を揃えただけでは作れない)。その入手条件も、自力だけでは達成困難な方だと思います。
・ 製作もかなり難しいです。木工スキル100で、成功枠はルーレットの約半分、M(M)aster G(G)rade(製作者の銘が入る)枠は4マスほど。
M(M)aster o(o)f E(E)pic の中で行う作業は、本文中ほどには煩雑ではありません。ルーレットの難しさを筆者なりに表そうとしたら、そうなりました。

《あらかじめご了承ください》
・ 特定の個人を批判・否定する意図はありません。
・ 「私はこう思う、こう感じる、こう考える」に徹するよう心がけました。
・ 今回は"真面目成分"と"1人の生産者としての言い分"が多いです。
・ 内容に不快感を覚えたり、何らかの被害や事態を生じたりしても、筆者は関知せず、責任も一切負いません。


《読んでも構わない、という方へ》
上記の点をご理解の上、
「読み物として楽しむからいいよ~」
という方、ありがとうございます。



【MoE】 もっこす奮闘記 武器作り編 弓の場合

 重装備の弩弓(ヘビー クロスボウ)をも軽々と上回る威力と重さになるだろうことが、設計図から読み取れた。使い手を相当に選ぶことは間違いないが、剛弓の名に(たが)わぬ逸品(いっぴん)になることもまた、確約されていると感じた。

 全体を藍色に染め上げ、花柄や(つた)模様を金細工であしらった長弓。その出で立ちからは、落ち着きと豪華さと気高さが感じられ、それらが芸術的な美しさへと昇華している。

 この"藍染(あいぞめ)剛弓(ごうきゅう)"の製法は、長くサスール王国の秘密とされてきた。かの国はエルビン山脈の高みにあり、近年やっと行き来ができるようになったばかりだ。訪れた当初、この国の者は、誰に対しても冷淡でよそよそしい。だが、イ・オーフェンという女性の依頼に応えることで、次第に打ち解けていく。そうなった時に初めて分かるのは、彼らの情の深さと、懐の深さ。特産品を安く販売してくれた時には、彼も驚いたものだ。そうした彼らの態度は、険しく厳しい山間(やまあい)の気候を乗り切るために培われた、1つの知恵なのかもしれない。

 彼の場合、知り合いのパンデモスの護衛戦士(ガーディアン)に頼んで、「ニクス」と呼ばれる金貨や銀貨を集めてもらった。サスールの民がそれらを取引に使うらしく、数十枚ほど渡すことで彼らの信頼を得た。戦士(いわ)く、ダイアロス島の各地に潜む盗賊たちから獲得したそうで、骨董品としての値打ちがあるとかないとか。ただ、普通のお店へ持って行ってみたところ、怪訝(けげん)そうな顔をされただけだったので、さほど需要はないのだろう。

 さて、藍染の剛弓はサスールの秘伝というだけあり、素材も多種多様なら造りも精巧で、作製に当たっての注意点も数多くあった。生半可な弓師では作れないことは一読しただけで分かったし、これをよくよく見ながら進めないと無理だ、とも実感した。しかしながら、この製法をここまで練り上げ、まとめ上げたゴウテツの思いは、一字一句を通してひしひしと伝わってくる。その熱意と気概には、ただただ脱帽するばかりだった。

 

 この製法を手に入れるに当たり、彼は交換条件となる"蒼天の宝珠"と呼ばれる宝玉を、古代のダイアロス島(Ancient Age)で探し回った。自作しようかとも思ったのだが、情報を集めた結果、あっさり諦めた。

 この宝珠は"原初の粉"と"蒼き竜眼石(ドラゴン・アイ・α)"を精錬するとできあがるのだが、素材のありかが問題だった。原初の粉と、竜眼石の材料となる"青竜石の破片"は、ともに物騒な場所へ(おもむ)くしかなかったのだ。前者は、原初の力が荒ぶる場所で()()()()()()得られるという代物だったし、後者は、死者の力と憎しみの記憶が渦巻くスルト鉱山から掘り出す必要がある。金貨や銀貨を集めてくれた当人でさえ、自分1人では無理だと言っていたから、よほど剣呑(けんのん)な場所なのだろう。

 ありがたいことに、よく差し入れを持ってくる親友が一緒に探してくれたおかげで、宝珠はほどなく見つかった。売値も手ごろだったので商談はすぐにまとまり、ゴウテツの(もと)へすんなり届けることができた。

 

 そうして手に入れた製法を帳面へ綴じ込み、改めて目を通す。第一印象からして手ごわいのが感じ取れたが、それでも大丈夫、作れると確信できる。それは本当に感慨深く、嬉しい限りだ。

 だが、ややあって彼は唸った。

 「"青い水中花(ミー チチン)"の花粉? いきなり珍しい素材が来たな…」

 思わずつぶやきが漏れる。

 青い水中花(ミー チチン)は、とある大樹の周りに広がる湖で収穫できる。ただ、水深5~8mほどの水底(みなそこ)に生えるため、水泳が苦手な彼は、息継ぎが2~3度ほど必要になってしまう。しかも、花粉はそう滅多に手に入らず、よほど運が悪いと丸1日がんばっても採れなかったりする。

 それを思うと頭が重たくなるが、仕方がない。腹をくくり、さらに内容を読み進めていく。

 "竹が3本、弦が1本、鋼鉄の鋳塊(スチール インゴット)が3本、金箔が3枚、動物のなめし革が1枚、大和魂の反物(ソウル オブ ヤマト)"

 「本当に素材もいろいろ凝ってる…。まぁ、金箔も手元で作れるからいいけど、よほど慎重に取り組まないとしくじるなぁ」

 初めて目を通した時にも感じたが、この製法をまとめ上げたゴウテツの熱意と真摯さには、本当に頭が下がる。同時に、"作れるものなら作ってみろ"という挑戦状を突きつけられたような気がして、彼の職人魂もまた激しく燃え上がった。

 「よぉおおおっしっ!!」

 珍しく雄叫びをあげ、気合いを入れる。

 まずは花粉の採取にかかろう。他の素材は揃っているし、依頼人に会うのは3日後だ。大丈夫、何とかなる。

 こうして作製に取りかかる瞬間が、本当に好きだ。

 

 その夕刻。

 3本の竹を縦長に割って、数枚の薄い板を削り出す彼の姿があった。なるべく太さや幅、たわみ方が均等になるように整えていく。そうしてできた竹の板を慎重に重ね合わせ、曲がりやずれを整える。これこそが、弓本体のいわば骨格となるのだ。

 続いて、鋼鉄の鋳塊(スチール インゴット)を叩いて棒状にし、薄く伸ばす。さらに薄い板状に延ばし、層状に重ね合わせる。これを3枚、用意する。これは鋼鉄にしなやかさを持たせる工夫のようで、ここで延ばし方にばらつきがあると、弓を引いた時に折れる恐れがある、と製法には注意書きがあった。それだけに、途中で休憩を入れながら、慎重に進めていく。特に手がかりとなったのは、叩いた時の音や、表面に反射する光の具合だ。

 そうしてできた鋼鉄の板を3枚、竹の板と代わるがわる重ね合わせ、打ちつけて、弓本体を形作っていく。このために重量がかさむが、一方で、竹のしなやかさと鋼鉄の頑丈さが両立できるのだった。

 弓は、頻繁に引き延ばしたり(はじ)いたりを繰り返すため、他の武器に比べるとどうしても傷みやすく、寿命が短くなりがちだ。そんな中で、重弩弓を軽く上回る威力と、銅製品に並ぶ耐久性の両立という破天荒ぶりには、まさに目を見張るほかない。

 しかし、感心してばかりもいられない。完成までの手順は、まだまだ残っているのだ。

 かなり疲れてきたが、もうひと踏ん張りする。藍染の布地を今夜のうちに作って。乾かすところまでいきたかったのだ。

 午前中に運良く収穫できた青い水中花(ミー チチン)の花粉を水に溶かし、大和魂の反物(ソウル オブ ヤマト)から切り取った布地を漬け込み、色ムラが出ないよう染めていく。どうにかまんべんなく染め上げ、屋上へ干したころには、月が中天に白く輝いていた。

 どうせ布地が乾くには時間もかかるし、さすがに少し眠い。続きは明日へ持ち越すことにして、寝床へと向かった。

 

 そして翌朝。

 少し身体はだるいが、両腕を掲げ、腹に力を込めて気合いを入れる。

 布地は半ば乾いていた。この分だと昼過ぎには弓へ巻きつけられるだろうか。日差しが当たると色合いが変わってしまう、と製法の注意点にあったのを見つけ、あわてて2階へ取り込み、干し直す。

 階段を駆け下りたあと、生産設備の脇に置いた箪笥の1(さお)から数本の弦を取り出す。動物のなめし革を縦に細く裂き、それを何本か()り合わせて作ったもので、引っ張りにはかなり強い。それぞれの長さや張り具合、傷みの有無、(はじ)いた時の鳴り方や戻り具合などを確かめる。弓の本体と同じぐらい威力を左右する部分なので、用心して選んでいく。うち1本がちょうど使えそうだったので、手間が1つ省けたことに胸をなで下ろした。残りの弦は、また折を見て手直しすることにしよう。

 他には、装飾用の金箔を打ち出さないといけない。鉄の鋳塊(アイアン インゴット)を金床へ置いて、3本の鉄の棒へと加工する。うち1本へ別の鉄鋳塊を巻きつけて形を整え、延ばし棒(ローラー)を作る。これで金の鋳塊(ゴールド インゴット)を何度も()し延ばして金箔へと加工する。残った鉄の棒2本は、後で皮帯(ベルト)の材料にでもして、裁縫の練習に使おう。余った素材はできるだけ再利用する主義だ。

 延ばし棒を作るまでは手慣れたものだが、金箔はこれまた細心の注意を払う必要があるので気が引き締まる。穴があいたり厚みにばらつきが出たり、凸凹や波模様が出てしまったりすると非常にまずいのだ。気付くと窓の外は夕暮れの闇へと染まりつつあった。

 気疲れする作業ばかり続いたが、ここまで来ればだいぶんはかどっているし、あと1日、余裕もある。落ち着いてやれば、しくじることはないはずだ。

 染めた布地の具合が気になるが、今日は無理をせず、ここで()めておこう。

 はやる気持ちを抑え、夕食を軽くすませると、早めに眠りについた。

 

 そして夜が明けた。

 充分に乾いたのを確かめ、たるみやシワ、形の狂いが出ないよう、こまめに見直しながら藍色の布地を弓本体へと巻きつける。その後、動物のなめし革を弓の中央へ巻き付け、手触りや太さに注意して握り部分を仕上げていく。

 ここでいったん休憩を入れる。玄関を抜け、全身をほぐすために軽く跳躍を繰り返しながら、外の空気を吸い込む。見上げると、太陽は気持ち傾いていた。朝から取り組んだのに、思いのほか時間がかかったらしい。

 けれど、ここまで来れば完成までもう少し。あわてる必要はない。

 やや遅めの昼食を取った後、藍染のところどころに金箔を貼り付け、模様を描いていく。曲線を多用した意匠と独特な絵柄の前にずいぶんと難儀(なんぎ)したが、脂汗をにじませながらも、どうにか製法に載っているとおりには描けた…と思う。

 最後に弦を張り渡し、弓が上下均等に曲がることを確かめる。これまた図面を参考にしながら、弓のしなり加減を決めていく。

 こうして、"藍染の剛弓"の処女作が、その姿を現した。

 

 「何とか形になった…いやぁ、手間暇かかったなぁ」

 

 弓を立てかけたとたん、緊張の糸が切れて床に座り込んでしまう。のどもすっかり渇いている。今の彼にとって最大の関心事は水分補給…なのだが、飲み物は反対側の窓際に置いた、ちゃぶ台の上だ。いつもなら何ともないその目的地が、限りなく遠い。

 どうにか苦労してたどり着いたが、そこで意識が遠のいてしまった。

 

 窓の外から照りつける日差しに飛び上がった。

 「わっ、寝過ごしたぐぉっ!」

 寝ぼけまなこを見開き、ついで鈍い音とともに涙ぐんで閉じる。のどの渇きに腕枕のしびれ、うたた寝、寝坊、そして中2階へ頭をぶつける。じつに締まらない1日の始まりであった。

 …まぁ、おかげで意識ははっきりしたが。

 窓からの景色を眺め、ふぅと安堵のため息をつく。太陽がこの窓から見えるということは、まだ午前中という意味になるからだった。

 お昼下がりには、注文した相手が来る。

 寝覚めは散々だったが、間に合うように起きられただけ良かったと言えるだろう。

 

 遅めの朝食を手早く済ませる。飲み慣れたブドウの果汁が体じゅうに染み渡り、生き返るようだ。その後、水辺で顔を洗って気持ちを引き締める。水面に映る姿で髪の毛が伸びてきたことに気づくが、今はおいておこう。

 

 さて、いよいよ本題。

 昨日できあがった弓の具合を確かめにかかる。

 初めてにしては上出来。思わず笑みがこぼれる。

 まずは、形になったことを喜び、自分をねぎらおう。あとは、仕上がりがどこまで完璧に近づいているかを、曲げたり伸ばしたりしながら確かめて…

 

 …その表情がだんだん曇り、気持ちが沈み込んでいく。

 

 剛性については、竹と鋼がしっかり支え合っている手応えで、充分納得のいく強度を確保できた。が、弾性については、弦を強く引いた時の抵抗感がほんのわずかに強すぎるように思える。

 つまり、より頑丈に仕上がったほどには、しなやかさが惜しくも付いてこられなかった…という感触だった。

 くどいようだが、出来そのものは良いのだ。工程の多さと造りの複雑さを考えれば、むしろ(おん)の字と言えるだろう。

 この弓につがえた矢は、凄まじいまでの威力を伴って標的を射抜くはずだ。使っているうちに張力がいくらか弱まってしまうが、その状態でも、図面の解説どおりの威力は保証できそうだ。

 ただ、もちろん戦闘中には使い込んだ弦を張り直せるわけもなく、そもそもが、弓や弦と対話するような繊細さを要する作業だ。張力、剛性、弾性などは弓ごとに異なるから、同じものを作れる者でなければ、直すのもまた難しい。技量の届かない職人が手を出せば、直ったように見えてもくるいが出やすく、それだけ弓の寿命も短くなる。

 それらを熟知しているがゆえに、太鼓判を押すには引っかかる完成度であることが分かるのだ。

 

 …注意深く、心血を注いで作業へ当たった結果がこれか。

 …初挑戦でここまでの品質になったのに、口惜しい。

 …けれど、出来をごまかしたくはない。

 …だから……銘は、刻まない!

 

 苦虫を噛み潰したような表情のまま、彼は決断を下した。

 深いため息とともに肩を落とし、そして眉をひそめた。

 

 もっとも、彼が顔をしかめたのには別の理由もあった。

 "銘が入って当然"

 脳裏に、発注者や買い手の(おご)りをぶつけられた時のことが浮かんだのだ。

 

 今回の買い手がどんな反応を示すかは、分からない。

 注文時には特に言われていなかったはずだが、いざ受け渡すという時になって、

「じつは…」

 となる可能性も、これまでの経験から、まったくないとは言い切れない。

 取り越し苦労で終わることを願いたいものだが…

 

 使い手が銘入りを求める気持ちは、彼にもよく分かる。

 なぜなら、

 "戦いが長引き、使い込んでも、威力や防御力が落ちない"

 という証になるからだ。

 武器ならば敵をより早く退け、防具や装飾品ならば死をより遠ざける。それは絶対の安心感と支えを生み、心置きなく戦える原動力となる。戦士たちや魔法使いたちからいろいろと話を聞いているし、自分が敵を目の前にしたら…と考えると、とても共感できる。

 だからこそ、銘の刻まれた装備に惚れ込む使い手は後を絶たず、高額で取り引きされるのも無理はない、と思うのだ。

 

 だが、それが行き過ぎて、

 "銘が刻まれて当たり前、それ以外は使う価値がない"

 という極端な考え方になるのは、どうにもいただけない、とも思う。

 彼もまた職人の端くれ。手を抜くつもりは毛頭ない。武器や防具のように命を預かるものならなおさらだ。銘入りに届かなかったとしても、その心意気は変わらない。

 ものづくりに関わる者なら、多かれ少なかれ持っているであろう思い。

 "作るからにはより良いものを!"

 という職人魂。

 静かに、熱くたぎる心。

 たゆまぬ努力と工夫。

 それらの結晶が、銘入りの武器や防具、装飾品や家具として店先に並ぶのだと、彼は固く信じている。

 実際、どんな名人でもうっかり気を抜けば平凡な仕上がりになるし、へたをすると作り損なってしまうことすらある。

 そんな世界だと身に染みているからこそ、

 "銘入りが作れて当たり前"

 などでは、断じてない。そう思うのだ。

 

 それなのに…

 職人たちの思いが、買い手の目を肥えさせているのだとしたら。

 構造の難しいもの、素材の調達や加工に手間取るものでも、

 "何がなんでも銘入りで!"

 という事態を招いているとしたら…本当に…何という皮肉だろうか。

 ならば、作り手の心意気は何のためにあり、どこへ向かえば良いのか。

 歯がゆさに憤慨し、天を仰がずにはいられなかった。

 

 そして、これも経験済みだが、そういった話になると、

 「そんなの知るか」

 「作り手の甘えだろう」

 「あなたの技量や工夫が足りないだけ」

 という声が出るのは、聞いていて何とも言いようのない気持ちになる。

 己の力量の中で誠心誠意、心を込めて取り組んできたし、技術の向上にも努めてきた。結果として銘入りに届かなかったとしても、手を抜いて作った覚えはない。だからこそ、そういった言葉にはとても落ち込むし、腹も立つのだ。

 今回のような場合、品質そのものは高水準にも関わらず、中途半端とされて材料費や手間賃だけで買い叩かれかねない。極端な話だと、無料で引き取られた挙げ句、

 「あなたが下手なだけでしょ」

 「ないよりはマシだから」

 などと、心ない言葉を投げつけられることさえある。

 残念だが、これは彼が頭の中で描いた話ではなく、見聞きしたり体験したりしたことだったのだ。

 物作りがむなしくなり、辞めたくなる瞬間の1つだ。さいわい、励ましや感謝をもらうことも多いおかげで、辞めずに済んではいるが。

 

 彼は、お金をやたら積んでほしいわけではない。製品が努力と誠意の結晶であることへの理解や、ねぎらいや感謝の気持ちの表れとして、ほどほどの対価が受け取れれば充分だと考えている。

 もちろん、職人が違えば考え方も違うだろうし、それをとやかく言うつもりもない。ただ、彼自身は、高すぎず安すぎず、を心がけているつもりだ。それでも安いと言われて多めにもらってしまい、かえって恐縮することもある。そんな時は素直にいただき、心からのお礼を口にするのだった。

 

 一方、それとは別に、

 "銘入りが当然、という考え方は、買い手自身の首を絞めることにならないか?"

 という思いもある。

 心ない言動にやる気をなくすのは彼に限らないだろうし、実際に辞めてしまう者や、その買い手からの注文に応じなくなる者も出るかもしれない。

 「それがどうした。代わりはいくらでもいる」

 と当人は言うのかもしれないが、彼の目には、そう簡単に済む話ではなさそうに見えるのだ。

 

 まず、作り手が減れば、装備も手に入りにくくなり、自然と価格もつり上がってしまうだろう。購入資金を賄うにも手持ちの装備を使い込まなくてはならず、寿命が早く尽きることになりかねない。

 加えて、稼げる敵ほど手ごわく、出没場所も限られることが多いと聞いている。それは、命の危険や場所の取りあいに繋がるのでは、と思う。狩りの効率が、かえって落ちるような気がするのは考えすぎだろうか。

 作り手はというと、傲慢な態度を取った相手とは関わりたくないだろうから、装備の提供や修理に応じなくなっても不思議ではない。もっと厄介なのは、そうした話はあちらこちらへ飛び火して、

 "あの人には気をつけろ"

 という噂の種になりやすいことだ。

 彼は言いふらしたり愚痴をこぼしたりする方ではない。回りまわって、自分へ返って来ると分かっているからだ。ただ、そうしたくなる者の気持ちは分かるし、その時、彼はたいてい聞き役になっている。

 

 何はともあれ、買い手が品質にこだわりすぎた果てが、

 "まったくおもしろくない事態"

 を呼び寄せるように見えて、彼は他人事(ひとごと)ながら心配になるのだった。

 それはしかし、彼のような作り手にとっても、

 "まったくおもしろくない事態"

 でもある。気まずくなるし、わだかまりを残す終わり方になるのだから。

 

 そこまで思いを巡らせ、彼は何かを追い払うように腕を左右に振った。

 あまりにも陰気くさい考えだったので、これ以上はよしておこうと思ったのだった。

 

 このあと会う相手には、品質についてちゃんと説明し、詫びを入れる。その上で、図面以上の威力は保証できることや、あとあとの手入れもしっかり面倒を見ることを話す。

 真心(まごころ)をちゃんと伝え、いたずらに揉み手をすることなく、毅然(きぜん)としていよう。そこからは相手次第なのだから、今のうちから思い悩んでも仕方のないことだ。

 そうして彼は、気持ちの整理をなんとかつけた。

 

 お互いに笑顔で、

 「ありがとう。お疲れさま」

 そんなふうに声を掛け合えたらいいなぁ…と思う。

 その方が作り手も買い手も気持ち良くいられるはずだし、

 「また機会があれば、よろしく」

 と、前向きな気持ちでがんばれるだろうだから。

 銘の有無をおろそかにするつもりはないが、心のやり取りは、より魅力的で大切なことのように、彼には思えるのだ。

 

 今回は、苦心したから報われた部分と、その割には少し残念な部分とが出た。それゆえに気持ちが沈んでしまったわけだが…

 

 落ち込んでもいい。

 でも、落ち込んだままにはしない。

 

 そう心を定め、お昼前の日差しと薫風(くんぷう)を胸いっぱいに吸い込む。

 

 つまずきは、次への足がかり。もっともっと、前へ進めそうだ。(了)

 




お読みくださり、ありがとうございました。
今回は、1人の生産者としての心の内を、赤裸々につづってみました。


今回、筆者が最も申し上げたいのは、
「お互いへの『お願い』『感謝』『ねぎらい』を大切に」
ということです。

前書きでも触れましたが、今回は繊細な話題だけに、
「私はこう思う、こう感じる、こう考える」
に徹するよう心がけました。
また、筆者が見聞きしたり体験したりしたことを元にして、話を組み立てました。
不快に感じる方もいらっしゃるとは思いますが、どうぞご容赦ください。


M(M)aster o(o)f E(E)pic に限らず、ネットゲームは"人付き合い"の世界です。
しかし、直接会えず、顔も見えないことが多いためか、安易に「ごり押し」「決めつけ」「挑発」をする例が多いような気がします。

筆者も、そのような目に遭い、
「MoEを辞めようか」
と思うぐらい、やる気をなくしたことがあります。

幸いなことに、仲間意識を持つ人の集まり(フェローシップ)の皆さんや、ツアーでお世話になった人たちのおかげで、その後も続けられていますが。

中には、そのまま辞めてしまう人がいるかもしれません。
でもそれは、本人も周りも望まない結末ではないでしょうか。
少なくとも、筆者は、そんな別れ方はとても寂しく、残念です。
何より、せっかく長続きしているMoEが()()()()()ように思えてなりません。

2018/07/4時点で、MoEは12周年を迎えました。
ここまで続いているMMOは、本当に貴重だと思います。
"過疎だ 過疎だ"という声もあるようですが、多くの魅力や安心感、居心地の良さなどがあるからこそ…だと思っています。

けれども、それを生かすも殺すも、作るも壊すも、結局はプレイヤー次第に思えます。
ゲームの雰囲気を、ひいては魅力を創り出す原動力になる、と思うからです。

だからこそ、
「短気を起こさないで、また一緒に楽しみませんか…?」
とお願いするのは……厚かましいでしょうか?
筆者も、"お疲れさまです。一緒に楽しみましょう"と声をかけたいなぁ…と思います。


画面の向こうの人たちは、生身の人間です。
性別・年代・職業はもちろん、生活リズムも大切に思うこと(価値観)も、みんな違います。

だから、"考えは違うのがごく普通"ですし、
「私はこう思う」
と考えを出し合わなければ、勘違いや誤解が増えて、こじれてしまうでしょう。
そうなったら、楽しむためのゲームが、全然つまらなくなるように思えます。

ただ、考えを出し合うことは、
「主張をごり押しする」
「相手を挑発する」
という形では、断じてないはずです。

"自業自得"という言葉があります。
自分の言動()結果()は、必ず自分()返ってくる()
という意味です。
今回の話題のような、
「買い手が『M(M)aster G(G)rade ありき』という考え方を押し通し、相手を傷つける」
という例も、その1つではないでしょうか。

"独り善がり"という言葉もあります。
文字に"善"とありますが、実は"善の要素:0.0000...(無限大)%"です。
自分だけ()正しいと思い込み()、他人の考えを聞かないこと」
という意味ですから。
インターネットは自己完結できる(独善に浸れる)場所だけに、とても陥りやすいと感じています。


だからこそ、後書きの冒頭でも挙げましたが、
「お互いへの『お願い』『感謝』『ねぎらい』を大切に」
と、筆者は思います。
MoEのようなネットゲームではなおさら。

大げさなお礼などでなくてもいいのです。
でも、心遣いがあるとないとでは、その後のやる気に雲泥(うんでい)の差が出ます。
ホントですよ~?
(あ、「お礼はどんどん弾んでくれぃ」な人には、ごめんなさ~い)


だから…けっして、
"特定の誰かをやっつけてやろう"
などという意図は、まったくありません。
"お互いに、笑顔になるために…"
という思いで書きました。
ご理解をいただければ、本当に嬉しいです。


また長くなってしまいました…もう、クセですね(汗)。
本文以上に重たい内容になってしまったかもしれませんが…。

お読みになり、何かを感じ取ってくださったとしたら、筆者冥利に尽きます。
最後に…MoEで巡り会えた方々へ、心より感謝申し上げます。(筆者 拝)
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