道を女が歩いていた。
少し年季の入っているように見える笠に黒ずくめの格好をしている。肌が覗くのは手先のみだ。
今が夜中だったら目立たなかったろうが、これでもかと光が降り注ぐ道を歩く女はかなり浮いていた。時折すれ違う者も、珍しい獣を見るかのようである。
(…うん、着替買おうか)
当人も自覚があったようだ。恥に歪む顔を隠すために笠を深くかぶり直し、足を早める。
(忍の国だからいいと思ってたが…甘かったなァ)
そう思っているうちに目的地が見えてきた。
帰って来るのは何年振りだろうか。少なく見積もっても20年はいっているだろう。
自分が最後にあの里を抜け出した時は振り返りもしなかったので、遠くから眺めるだけでは帰郷した気分にはなれない。そもそもあの里にはあまり…いや、全くいい思い出はない。
だが女にはきちんと目的があって来ていた。女には弟がいた。親には遭いたくないが、弟の無事を確認したかったのである。
最後に見た弟はまだ生まれたばかりであったが、今であれば既に家庭を持っているのかもしれない。
(いるといいけどなァ)
弟も自分に似ていたら、ひょっとすればあの一族から抜け出しているかもしれない。そう思うと歩みが遅くはなるが、女は決して足を止めることはなかった。
「観光で入国したいんですけれども」
嘘は言っていない。弟に会うのはついでだ。
無事が確認できれば後は色々見て回りたいと思っていた。
怪しい格好であったので、少し時間を取られると思っていた入国手続きはあっという間に終わった。
(それだけ治安に自信があるってか…悪さはできねーな)
確かにこの国の忍どもはどいつもこいつも人間じゃない。
それは逃げ出す前に十分味わっている。
「えー…っとと…んんー?」
入国したときに貰った地図を開き、女は唸った。
「全然違うじゃん…」
変わり果てた里にうんざりする。そして地図を見てるとチカチカする。もうそんなに若くないんだから細かいのは勘弁して欲しい。
「とりあえず図書館だな…」
仕方がないので旧図でも探して照らし合わせながら探すことにした。
図書館で旧図を見つけた女は目的地を現図に書き込むと、またもや唸った。様子が変わりすぎていて本当にそこに弟がいるのかわからない。
「住所録で探した方がいいのか…?」
また細かいものを見なければならないのかと嫌になりつつも住所録がないか探すことにした。
「あるし」
あっさり見つかった。忍の里としてこれはどうなんだろうか。まあ自分としては都合がいいので構わないのだが。
8年くらい前のものだが問題ないだろう。
「えーっと…う…う…うちは…」
ページを適当に捲り目的の名を探す。
「…んんん?」
見当たらない。そんなバカな。
もう一度探すとようやく見つけた。…が、やはり様子がおかしい。うちはが1つしかないのだ。
「…」
これはどういうことだろうか。あの傍迷惑一族は色々こじらせて里から出ていって、唯一良心的な人だけ残ったのだろうか。それともこいつが一族統一でもしたんだろうか。
どうやら弟を探す前にまだ調べることがあるようだ。
続ける気はあまりない。