氷の魔道騎士   作:宙の君へ

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最大の必殺技と奥の手の必殺技は現在考え中


零度の頂点

「あの《世界時計(ワールドクロック)》が、たかが学生騎士に負けたっていうの!?」

「あれでたかがと言えるお前の度胸が羨ましい」

「彼は一体どんな騎士なんですか?」

「さっきも言ったがただの氷雪系伐刀者だ」

「そのただの氷雪系伐刀者にアタシが負けるって言いたいんですか!」

 

ステラは食らいつくように黒乃に迫った。

 

「お前達も本能的に感じただろう、アイツの規格外なまでの“暴力”を。近づくだけで相手を凍らせる極寒の氷。もはやただそこに『在る』だけで他者を圧倒する脅威。大した能力だ。あそこまで攻撃的な能力を有し、なおかつ使いこなしている者はそうはいない」

 

二人は固唾を飲み、黒乃の話を聞いていた。ただそこに『在る』だけで他者を圧倒する脅威ーーーーー

 

「だが、お前たちが《七星剣王》を目指すのであれば何れ越えて行かねばならない壁だ。何処までも高く見果てぬ壁だがなーーーー」

「それってつまり・・・・・・・」

「今年の七星剣武祭には深雪も出す」

 

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理事長室を出た凍夜を待っていたのは、彼も苦手としているあの男だった。

 

「やぁ、深雪くん」

「・・・・・・・桐原」

 

桐原静矢。対人戦最強と謳われる能力と《狩人》の二つ名を持つ、狡猾かつ尊大な態度が目立つ凍夜の同級生だ。

 

「君も七星剣武祭に出るんだ?」

「盗み聞きとは趣味が悪いな」

「たまたまだよ、たまたま。でも驚いたなぁ、君が《七星剣王》に興味があるなんてね」

「《七星剣王》?・・・・・ああ、優勝した際に与えられる称号か。そんなものに興味ない」

「あっはは!そう言うと思ったよ!そうだ、君はそういう人間だったね」

 

桐原は額を抑えなが高笑いした。

 

(本当に騒がしい・・・・・・)

「そろそろ校内選抜予選も始まる。もし当たったらお互い、いい試合をしようじゃないか」

試合(・・)になればいいけど」

「え?それってどういう・・・・」

「話はそれだけか?俺は帰る」

 

踵を返し、長い廊下を歩いていく。その姿を薄ら笑いを浮かべながら見ていた。

 

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魔導騎士が国家の戦力としての側面を持つ以上、当然戦闘技能が求められる。国家間の戦争はもちろん、伐刀者としての力を悪用する《解放軍》をはじめとするテロ組織やら犯罪結社に対抗するためにもこれらは必須だ。

 

『あの子がヴァーミリオンの《紅蓮の皇女》かー』

『すっげぇ美人じゃん』

『髪の毛が綺麗・・・・・・・燃えているみたいで素敵・・・・・・・・』

『まあ、それでもうちの深雪には勝てねぇよ』

『そうだよな!やっちまえ深雪!皇女サマに怖気付くんじゃねぇぞ!』

 

第三訓練場の中心に深雪凍夜とステラ・ヴァーミリオンの姿があった。レフェリー(黒乃)を挟み、二十メートルほどの間を空けて対峙する両者。

 

「アンタ。ホントに噂ほどの強さがあるのかしら」

「周りの野次にいちいち耳を貸す必要はない」

「わかってるの?アンタ、負けたらあのイッキとか言う奴が退学になんのよ?」

「なら勝てばいいだけの話」

「・・・・・・・・あくまでアタシに勝つつもりなのね」

「・・・・・・・・・・・・」

 

さも勝ったも当然、とでも言っているかのような余裕な態度が更にステラを苛立たせた。

 

(その鼻っ柱、へし折ってやるわ!)

 

「それではこれより模擬戦を始める。双方、固有霊装(デバイス)を《幻想形態》で展開しろ」

「傅きなさい。《妃竜の罪剣(レーヴァテイン)》!」

 

ステラは魂の具現である剣を《幻想形態》ーーーー人間に対してのみ、物理的なダメージを与えず、体力を直接削り取る形態で召喚し、目の前の男に突き立てた。

 

「ーーーーーーー起きろ、《氷闇の絶剣(アルマス)》」

 

虚空から現れたのは氷の刃と揶揄されても過言ではない程美しい直剣。刃の先端に行くにつれて赤みを帯びるそれは、まるで返り血のようにも見える。

 

「よし。・・・・・・・・・では、試合開始!」

 

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「ハァァァァアァ!」

 

開幕と同時にステラは一気に距離を詰め、炎纏う一刀を振り下ろす。力任せに叩きつける一撃は、一見粗暴に見えながらも恐ろしく鋭い。しかし大振りは大振り。避けるまでもない。凍夜はそれを片手で受け止めた(・・・・・・・・)

 

「ッ!?」

(アタシの一撃を受け止めた!?しかも片手で!?)

 

凄まじい轟音が鳴り響き、凍夜の後方は衝撃波で訓練場の地面に亀裂が走る。

 

(しかもアタシの渾身の一撃の衝撃を体を通して地面に逃がした・・・・?)

 

ステラは凍夜から距離をとり、構え直す。

 

(なんなのよコイツ・・・・・・・本気の「ほ」の字すら出してないじゃない・・・・・・!)

 

間違いなく遊ばれてるのは自分だ。

 

「こんの・・・・・ッ!」

 

轟、と風を鳴らし先ほどより数倍の速度で距離を詰めた。上段からの斬りおろし、それもまた片手で受け止められる。

 

(ヴァーミリオンの剣撃は一撃で大地に激震を奔らせる問答無用で相手を押し潰す一撃だ。本来なら彼女の一撃を受け止めること自体不可能・・・・・・・・)

 

『おおお・・・・・・・・・・・・・っ!!』

 

上がる歓声。彼らが見つめるのは、《妃竜の罪剣》。その焔が描く軌跡だ。それは研ぎ澄まされた剣技の軌跡。

 

「『皇室剣技(インペリアルアーツ)』か。西洋の棒振り(・・・)にも術理はあったか」

(動きが全部読まれてる・・・・・・・!?)

 

(何故深雪は魔力を使わない。しかも、人前では滅多に見せない霊装まで使って・・・・・・・・っ!まさか、深雪、まさかもうあの伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使っているのか!?)

 

ステラの剣戟をいなしながら凍夜の口角が釣り上がる。

 

「そろそろ時間だ」

「はぁ!?何がよ!」

「最初のあの一撃。中々効いた、こちらもお返しをしなくてはな」

 

「《白鳥の湖(スワンレイク)再演(リターンズ)》。受け取れ、お前の力を(・・・・・)

「え・・・・・・・?」

 

スっーーー、と《妃竜の罪剣》の上に《氷闇の絶剣》の刃を軽く乗せた瞬間、ステラの総身が軋みを上げながら地面にクレーターを形成した。

 

「あぁぁぁぁあぁぁああぁぁ!!??」

 

(《白鳥の湖(スワンレイク)》。発動したら一定時間魔力の行使が出来ない。一見デメリットしかない伐刀絶技だが、恐ろしいのは《白鳥の湖》発動中に受けたダメージを数十から数百倍の威力で相手に返す《白鳥の湖(スワンレイク)再演(リターンズ)》。ただでさえヴァーミリオンの最初の一撃は並の相手では両腕を粉砕される威力がある。だがそれを数十倍から数百倍の威力で倍返しされたら、ヴァーミリオンの両腕はもはや木っ端微塵で済まされない・・・・・・・・!ここはもう・・・・・・・・ッ!)

 

「《時間凍結(クロックロック)》!」

 

パンっ、と乾いた発砲音が響き、ステラは時間が止まったかのように悶えた姿で一向に動かない。その両腕は最早原型を留めていたなかった。

 

「誰でもいい!早くストレッチャーを!」

『見ろよ、ヴァーミリオンの両腕がひしゃげてるぞ・・・・・・・・!』

『何が起こったんだよ・・・・・・・・』

『やっぱり深雪はつえぇよ』

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

冷めた目でステラを見やると《氷闇の絶剣》を虚空へと化し、踵を返した。

 

「深雪」

「・・・・・・・・・・」

「いや、なんでもない」

 

そのまま訓練場を後にする。

 

(凍結能力を使わなかっただけ幸い、か・・・・・・・)

 

彼の名は深雪 凍夜。

世界最強の氷雪系伐刀者。

 

後に、《零度の頂点(ゼロ・ワン)》と呼ばれる者である。


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