魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

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勇者の覚悟

 魔物大将軍ヴラドの戦死。

 その報は少なからず、魔物達に衝撃を与えた。

 魔王と魔人達の出陣によって、負けるはずがないと考えていた魔物達はその一件で改めて身を引き締めたとも言えるだろう。

 そんな中で、その報を眉をひそめて聞いていた魔人がいた。

 

「……ヴラドが死んだ? それは本当の話なのか」

 

「はっ……そのようです」

 

 魔人レオンハルト。

 今回の戦いにおいても魔王ナイチサの供回りを務め、魔軍の総指揮を行っている魔人である。

 そんな彼は司令部の中で、魔物大将軍リーからヴラド戦死の報を耳にした。

 まさか、という思いである。レオンハルトは思わず確認を取ったが、それが本当の話である念を押されると吐きかけた息を飲み込み、詳細を尋ねる。

 

「……ヴラドの軍はどうなった?」

 

「はい。幸いにもカミーラ様が上手く立て直したそうではありますが……それでも、兵達の動揺は小さくありません」

 

「……だろうな。殺ったのは誰だ?」

 

「兵の証言では、人間の戦士……いわゆる、冒険者の様な格好をした金髪の人間だと。おそらくは男です」

 

 質問を重ねていたが、その発言には引っかかる。半ば確信を得つつも、確認を取るために、

 

「おそらく? それは……女顔、中性的な見た目をしているということか?」

 

「はい。そのようで」

 

 リーの回答に、やはり、と思い至る。レオンハルトの予想が正しければ、ヴラドを倒したのは勇者に他ならない。

 しかし、以前は魔人未満の戦闘力しか保持していなかった。

 それがヴラドを倒せるようになるまで成長したということは、

 ……用心しないとな。

 勇者は危険な存在だ。ヴラドを倒したのであれば、他の魔人であっても油断は出来ないだろう。

 

「……まさかヴラドがやられるとはな」

 

「はい……私も、信じられません」

 

 同じ魔物大将軍ということもあってか、リーはそれなりにショックを受けているようであった。

 実際、ヴラドがやられたことにはレオンハルトも驚いている。ヴラドは、魔物大将軍の中ではコウウに次ぐ強さを持っていたからだ。

 ヴラドを倒せたということは、バルカやリーも危ない。コウウであればどうかは分からないが、精神的に参ってしまっているコウウでは厳しいだろう。

 そして、一先ずは対応を取らなければならなかった。

 

「……全軍にその情報を共有しておけ。位置を捕捉し次第、俺に知らせろ」

 

「はっ……そのことなのですが……どうやらカミーラ様が、その人間の捜索に躍起になっているようでして」

 

「何? カミーラが?」

 

 まさか仇討ちか何かか、と一瞬思ったところでカミーラの性格を鑑みて、それはないと断じる。答えはすぐにリーの口から語られた。

 

「ヴラドはどうでもいいが、活きの良さそうな獲物には興味があると……そういうことを仰っていたそうです」

 

「……なるほどな。カミーラらしい」

 

 戦闘狂とまではいかないが、あれはあれで結構好戦的な性格をしている。仕留めがいのある獲物であれば、狩りを愉しめる――そんなところだろう。

 カミーラなら大丈夫だとは思うが、勇者相手だと多少の不安はある。

 そして魔物大将軍達も、これ以上潰されると魔軍を組織する上での支障が多く出てきてしまう。それを思えば、次に行う手は、消極的な安全策だ。

 

「……バルカとコウウにも通達しろ。各自、その地の攻略は一旦止め、本隊に合流しろ――と」

 

「! それは……それでいいのですか?」

 

 リーの問いに、ああ、と頷く。その訳は、

 

「問題ない。どの道一つ一つ着実に潰していけばこちらの勝ちだ。大将軍達が各個撃破されて兵の離散を招くよりは、俺やナイチサ様がいる本隊で暴れてもらった方がいい。本隊なら多少の距離はあっても、直ぐに駆けつけることが出来るからな」

 

 魔物大将軍という替えのきかない存在を失えば、先程も言ったように多くの魔物兵が敗走してしまう。いなくなったとしても立て直しは可能ではあるが、そうなってしまえば面倒も多いし、安全策を取った方がいい。

 こちらが有利な状況だからと、手を拱いたり余裕を持ちすぎると、足元を掬われてしまいかねない。軍略には、時にリスクを飲み込んでリターンを取ることが必要な場合も大いにあるが、今はその時ではないのだ。相手の駒は一つしかないのだから、こちらはそれに対応して受けきってしまえば勝利。少なくとも、悪くなることはない。

 もっとも、相手が個人で、一定の強さを持つ以上、完璧に対応して、被害を無くすというのは不可能。

 ゆえに本隊にいてもらうことで、もし狙われた時も、こちらが駆けつけることが出来るし、いざとなれば最強の手札が残っている。

 総じて、本隊にいた方が危険性は少ないのだ。万が一の事態にも対応がしやすい。

 

「魔王様には俺から伝えておく。お前も含めた魔物大将軍達は一刻も早く、兵を纏めてこちらに合流しろ」

 

「はっ、畏まりました。直ぐに行います」

 

 リーは恭しく一礼すると直ぐにその場から立ち去り、自分の職務に戻っていった。

 その後ろ姿を見て、レオンハルトは思う。

 ……もうすぐで寿命とはいえ……戦場で死んでいい理由にはならないからな……。

 これまで千年以上も自分の部下として働いてきたリー。相手が勇者で、寿命が近いとはいえ、避けられる戦いで無残に死なせたくはなかった。

 だからレオンハルトは、心に決める。

 もし勇者がここに来たのなら、少なくともその時が来るまでは、何度でも殺してやろうと。

 立ち回りは難しいが、だからと言って、眼の前の危険を放置出来るほど非情ではない。

 レオンハルトはその後、身内の者達にも連絡を行った。勇者の人相、特徴を教え、

 

 ――もし勇者を目撃したら逃げることを優先し、直ぐ様俺に知らせろと。

 

 自分なら何とか出来るし、何とかしてみせる。自分の強さを信じながらも同時に、愉しみのようなものをやはり感じてしまうのだから、自分の事ながら呆れる思いだ。

 レオンハルトは心の内側で複雑な心境を渦巻かせながら、改めて勇者のことを伝えようと、ナイチサがいる人間の街であった場所に向かった。

 

 

 

 

 そうしてヴラドの戦死から一ヶ月後。

 残った三人の魔物大将軍が魔王ナイチサと魔人レオンハルトが統率、指揮を行う魔軍の本隊に集められた。

 

「――王手飛車! ですわ」

 

「ぐ、ぬおおおお!! このような厳しい手順が……! ぐぬぬぬぬ……負けました……!」

 

「はい。この勝負、108手を保ちましてバルカさんの負けですよう。なので罰ゲームお願いしますね。今回の罰ゲームはわさび寿司10貫を食べきることです。はい、リアクションどうぞー」

 

「ふ、ふふふ……私を見くびるな……魔物界切っての天才軍略家である魔物大将軍の私が、こんな少し辛い程度の食べ物で屈するはずが――辛っ、辛あーーーっ!?」

 

「はい、ナーイスリアクション!」

 

 魔軍の本隊。その一部、レオンハルト軍の者達が集まるその場所では、レオンハルトの使徒であるキャロルとペールが、一足早く呼び寄せられたバルカとともに遊んでいた。

 それを見たハンティは呆れたような半目で声を掛ける。

 

「……アンタら、何やってんの?」

 

 一応、今は軍議中。そう聞いていたはずなのだが、レオンハルトもいなければ軍議を行っている様子もない。そのことをハンティは、後ろにいるリーと、もう一体に視線を向けつつも問う。するとペールが悪びれた様子もなく答えた。

 

「だってー……話し合うことなんてないんですよう。大将軍が三体集まってる上に、戦いは基本、魔王様が前進するのに合わせて進むだけなんですよう?」

 

「なのでわたくし達は大将軍らも含めて、戦う時以外は、意外と暇ですわ! あ、今の駄洒落はレオンハルト様リスペクトですわ!」

 

「まぁ……そういうことなのですハンティ様。平にご容赦を」

 

「……はぁ、しょうがないね……」

 

 最後にリーが申し訳無さそうに謝罪した時点で、本当に今はやることがなかったのだろう。ハンティもサボりを追求することは諦めて息を吐く。――後、キャロルのそれは本人はリスペクトのつもりでも周りから見たら馬鹿にしてる様にしか見えないから止めた方がいいと思った。

 世界のあちこちで魔軍が人類を攻め立て、夥しい数の死傷者を出しているが、まるでそんな風には見えない。ハンティはこれでも憂いているのだが、魔王の勅命である以上、自分に出来ることは少ない。出来る限り苦しまないように人を殺すことと、

 ……カラー達の避難は終わったけど、人に出来ることはもう……。

 この場で表立って言うことは出来ないが、カラーを避難させるためにハンティは少し離れていたのだ。

 森から出ないのは元からそうでもあるが、なるだけ森の奥深くへ行くよう伝えておいた。隠れ里の原型だけなら出来ているが、まだ準備は終わっていない。この状況で人間が襲ってくるとは思わないが、魔物が攻める可能性はなくはないのだ。

 だから保険として、森には少しの間ではあるが、ライゼンに行ってもらった。暫くの間飛び回り、森を見ててくれるらしい。魔物が来たら、それとなく追い返すとも言っていた。彼ならば安心して任せられる。

 だが、人間に対して出来ることはこれ以上ない。戦場で出会ったところで、見逃す意味もない。自分達が見逃したところで他の魔物にやられるだけだ。

 ならせめて、一思いに殺してやるのが情けだ。

 もっとも、そう考えているのは自分とレオンハルトくらいだろうな、と達観して思う。

 それが悪いというわけではない。むしろそういった割り切りが出来るペールや、そもそもそんな悩みが存在しないキャロル達は、時に羨ましく思うことすらある。

 これは自分の性分なのだな、とその考えを己の内側にしまうと、ハンティは次に別の相手を見た。少し距離をおいた物陰に隠れる魔物を見て、リーに、

 

「……それで、コウウはまだあの調子なの?」

 

「……その……ええ、はい。ここに連れてくるのにも苦労したもので。闇討ちされるのでは、などと警戒して……」

 

「そんなわけないってのにねぇ……」

 

 遠く、物陰には二体の魔物。一つは大柄で、一つは小柄。彼らは物陰で遊びに興じている。

 

「はい! 次はコウウちゃんの番だよ!」

 

「お、おう……えっと……これでどうだ!」

 

「あっ、倒れた! やったー! 私の勝ちだよ!」

 

「あ……負けちまった。きゃんきゃんは強いなぁ……」

 

「えへへー、そうかな? じゃあ次は、コウウちゃんの得意なしりとりしよ!」

 

「得意ってわけじゃないんだが……いや……よし、次は負けねぇぞー!」

 

 魔物大将軍最強と名高いコウウと、最弱の女の子モンスターであるきゃんきゃん。

 何ともアンバランスな組み合わせの2人が、物陰で遊んでいた。

 精神的に不安定なコウウは、最弱で自分を襲う心配のないきゃんきゃんが近くにいないと、正気を保てないのである。こんな様では、戦いに出るどころか、噂の相手がもし現れても戦力にはならないだろう。

 

「それにしても……勇者ねぇ……」

 

 ハンティが何とも言えないような微妙な様子でその名を呟いてみる。どうにも胡散臭いというのが本音だ。強いは強いだろうから興味はあるが、本当にそんな相手がこの世界に存在するのか。存在したとしても意味はあるのかと懐疑的になる。

 ヴラドを倒したこと自体は凄いと思うが、その程度では世界を、人間を救うことなど到底不可能なのだ。

 そのヴラドが何十体と束になっても敵わないのが魔王なのだから。だから勇者なんて、などと思っているとその言葉に反応して、キャロルが、

 

「大丈夫ですわ! 勇者というどこの馬の骨とも知れない輩が、レオンハルト様に敵うはずありませんの!」

 

「……まあ、そうかもだけど」

 

「レオンハルト様の強さはバグというかチート級ですからねぇ」

 

 訳のわからない造語を用いながらペールも同意する。あまり声を大にして言いたくはないが、ハンティも同意だった。未だに底知れない強さ。あのザビエルを倒した藤原石丸ですら退けたレオンハルトが負ける姿など想像がつかない。もうここ何百年、石丸のもの以外は傷を負ったことすらないどころか、戦闘で膝を突いたことすらないらしい。本人が言っていたわけではなく、ペールの言ではあるが、確かにハンティも見たことなかった。

 勇者であっても、容易に退けるだろうという確信が、皆の胸の中にある。だからこそのこの空気なわけだが、

 

「……少し緩みすぎな気が……」

 

「ですかねぇ。あ、始祖様。先程ケッセルリンク様と一緒にやってきたエルシールさんが、差し入れにとお寿司握ってくれたんですけど食べます? かなり腕が上がってますよう?」

 

「わたくしのお勧めはイクラですの!」

 

「因みに、天才の私の好物はうにです。そして寿司と言えば、将棋指しは寿司の締めに、玉子、玉を食べて締めるのですぞ」

 

「……た、食べますか? ハンティ様……」

 

「…………」

 

 寿司桶に入った握り寿司を囲むようにして食べる魔軍の重鎮達を見て、ハンティは無言となる。

 そもそももう処理したとはいえ、少し前までは大勢の人間の死体が山積みにされていたこの場所で、生ものである寿司を食べれる神経がどうかしてるのではないかと思う。戦争であるため、ハンティも割り切ることが出来るが、色々と常識から外れてはないだろうかと。

 リーだけはこちらに気を使ってか、遠慮がちに勧めてきた。そういえば今日はまだ何も食べてないなぁ、とか思いながら、

 

「……因みにリーは何が好きなの?」

 

「私は王道を行く大トロ――あっ、いえ……中トロとか穴子とかですかな……?」

 

 その遠慮の仕方もよく分からないが、本人の中では変な葛藤があるのだろう。レオンハルトは穴子とかえびとか庶民的なネタの方が好きだったはずだし。気にしないことにする。

 ハンティは寿司を眺め、その中の一つを適当に取って口に放り込むと、

 

「……エルシールはエルシールで、本当に寿司作れるようになって……何やってるんだか……」

 

 料理とか家事は出来ない戦闘メイドだというのに、何故か寿司は握れるようになるとか、これはエルシールを褒めるべきなのか、メイド長さんを褒めるべきなのか悩ましい――と、暗に寿司の美味しさを認めながら、ハンティはこの戦争の行く末への不安を、ほんの少しだけ和らげた。

 

「コウウちゃん! 寿司貰ってきたよ! 一緒に食べよー!」

 

「寿司……寿司か……寿司と言えば俺は鮭が好きなんだけどよぉ……ん、待てよ……寿司? 寿司と言えば……JAPANの名物だ……JAPAN……JAPANと言えば……藤原石丸!? うああああああああ!? 石丸が、俺を殺そうと刺客を……! 新鮮な魚達を送ったのか……!?」

 

「どんな話の飛躍!?」

 

「エルシールさんからのものですわよ?」

 

「新鮮な魚を送ってくれるとか、藤原石丸って優しいですねぇ」

 

「毒でも入れるなら刺客とも言えなくもないが、普通の毒などでは魔物大将軍である我らは死なない。となれば、もう少し工夫をしなければ――」

 

「コウウ!? また発作か! くっ、きゃんきゃん頼む! コウウを抑えてくれ!」

 

 皆がマイペースにコメントをする。慌てているのはハンティとリーくらいだ。

 ふと、今この状況で勇者が来たらどうするんだろうと、ハンティは思った。今はレオンハルトもいないし。

 そんな賑やかさを見せながらも、戦いは更に激しさを増すのだった。

 

 

 

 

 しかし戦いから一ヶ月。魔王ナイチサが多くの人間を殺戮し、配下の魔人や魔物達がどれだけの暴虐を働こうと、その場に未だ、勇者は現れなかった。

 単に運が悪いのか、それとも考えがあるのか。時折魔軍の撃破報告だけは上がってくる。

 だが魔人や使徒による目撃情報も、交戦したという情報も上がってこなかった。どうにも各地で転戦を繰り返し、少数ながらも人々を救っているようである。例え雀の涙ほどの、全体から見ればさほど影響のない数の人間を救っていたとしても、根本的な解決には至らない。

 遂には、各地で地味に被害を与えてくる勇者にしびれを切らしたレオンハルトが、時折勇者を探して各地に視察に行ったりもしていたが、尽く空振りに終わった。

 時が経てば経つほど、嫌な予感を感じる中、遂に二ヶ月の時が過ぎた。

 ある丘の上では、一人の男が、眼下に広がる魔物兵の群れを見ていた。

 その傍らにいるフードを被った少年は、男の背中に声を掛ける。

 

「……そろそろ行動するんですか?」

 

「……はい。これ以上、僕のレベルは上がりませんし、そろそろ期限も来てしまいますから」

 

 そう丁寧な言葉で返したのは勇者クエタプノ。

 幾つもの戦いを潜り抜けた歴戦の戦士の顔となった彼は、傍らの従者に告げる。

 

「少々不安もありますが……決着を付けにいきます」

 

「……そうですか。まあ頑張ってください。応援してますよ」

 

 淡々と、勇者になって出会ってからのこの7年間、一度たりとも表情を変えることなかったお決まりの表情で、勇者の従者であるコーラは言う。

 普段ならクエタプノもそれ以上は突っ込まないが――今日は違った。

 

「……次に生きて話せるかどうか分かりませんので聞きますが……」

 

「? 何ですか?」

 

 クエタプノは言う。一息で、

 

「僕に隠し事してますよね?」

 

「……さあ? まあ人間なら隠し事の一つや二つ、あるものじゃないですかね?」

 

「……あくまでも、白を切るということですか……」

 

 そうやって煙に巻こうとするコーラに、クエタプノは吐息付きで続ける。それは彼が感じた疑問だ。

 

「じゃあ聞きますが……僕、ひょっとして死なないんじゃないですか? 勇者としての能力で」

 

「……へえ? どうしてそう思ったんですか?」

 

 ほんの僅かにではあるが、コーラが興味のような、感情の色を見せる。それを一つの収獲としながら、クエタプノは続けて言葉を放った。

 

「前々から違和感はありました。明らかに死んでしまうような傷でも死ななかったり、気づけば治っていたり……極めつけはあの日、一週間もの間、気絶するほどの重傷でありながら、僕は生きて動くことが出来ました。治療をただ受けたにしては色々と不自然です」

 

 一週間も飲まず食わずでいれば、怪我がなくとも普通は餓死する。しかしクエタプノは、普通に動くことが出来た。考えればおかしな話なのだと、

 

「もし、本当に死なないのなら、レベルが最大まで上がった今、例え何度負けようとも挑むことが出来ますし、有利ではないかと思い今日にしましたが……この勇者の力、まだ不可解な事は多いです。なので、他に何か隠していることがあれば今言って欲しいです。魔王を倒す為にも」

 

「…………」

 

 その真っ直ぐな言葉に、コーラは押し黙る。再び感情が読めなくなりながらも、クエタプノはじっと今まで旅をしてきた大事な仲間であるはずの少年を黙って見詰めた。

 そして約10秒。視線が重なり続け――とうとう、コーラは観念したように息をついた。

 

「……ま、分かってることならしょうがないですね。――そうです。勇者は死にません。都合のいい偶然や見切りの力が勇者を守りますし、例えどうしようもない致命傷を受けても生き返ります」

 

「!」

 

 その言葉に、予想はしていたものの僅かに目を見開いて驚くクエタプノ。

 しかしそれは一瞬。直ぐに表情を普段のものに戻して頷いた。

 

「……そうですか。……他には何かありませんか?」

 

「んー、まあ一つだけ面白い力というか仕様はありますが……これは最後に教えてあげますよ。一応、勇者としての能力は今ので一応、全て教えましたしね。神に誓ってもいいです」

 

 見切り。不死。不運と、いざという時の幸運。レベルが下がらない。勇者の剣が使える。異性にモテる。従者が現われる。

 これで勇者の力は全てだと、コーラは言う。何かからくりはあるとは言うが、神に誓って本当の事なのだと。

 クエタプノは目を伏せて少し考えた後、覚悟を決めた後、その息を呑んで頷いた。

 

「……分かりました。ならば行きましょう」

 

「納得してくれたみたいですね、勇者クエタプノ」

 

「…………行きますよ」

 

「っと、急に素っ気なくなりましたね……」

 

 そのコーラの言葉を、内心冷めた様子で聞きながら、クエタプノは崖下へ降りるため、宙に身を躍らせた。

 疑惑はある。嫌な悪寒もある。しかし、こうなった以上は自分のやるべきことは変わらない。

 クエタプノは人々を救い、戦いを終わらせるため、遠くに見えるその場所を空中から見据えた。

 

 魔軍の本隊が集まり、周囲を固める旧東部オピロス帝国の首都、テラ・ユークリッド。

 

 魔王ナイチサが拠点にし、死の街となった最後の戦いの場に、勇者クエタプノは向かったのだ。




勇者が(多分)ラストダンジョンに向かいました。ボスが沢山いそうだね(棒)

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