魔軍参謀の憂鬱   作:黒岩

228 / 341
前回に引き続き今回もハートフルな話だけど、タイトルで察して()
そりゃあ書かざるを得ないよって。
というわけで皆大好き(?)へびさんが出てくる本編をどうぞ


魔人メディウサ

 大陸各地で稼働を始めた人間牧場。

 連鎖する絶望が大陸を彩り、血の匂いが充満する様は、人類にとって文字通り、具現化した悪夢そのものであり、陰鬱とした暗い気が、現実を侵食していく。

 だが一方で、魔物達にとっては紛れもない黄金時代の到来を意味していた。

 大陸は魔物達によって支配され、かつての人類圏であった地域を、魔物達は堂々と闊歩する。人間の街があるからと迷宮に籠もっていた魔物達の多くも這い出るようにして大陸中を埋め尽くし、好き勝手過ごし始めた。

 戦争のない平和な時代となり、長年人間と戦ってきた魔軍も人類を管理するための平時ともいえる任務に従事するようになった。

 大規模な動員は必要なく、人間牧場を管理、防衛するために彼らは働くようになる。仕事は無くならないが、それは平和的かつ牧歌的な日常の具現だった。

 朝起きて、朝食を摂り、同僚と談笑しながら牧場に出勤し、人間達の餌やりを行う。それが終われば人間達を苦しめるための虐待や暴行を行うなりして、放置。時折自由にさせては休憩を取らせたり、人うしを可愛がるための時間を与えたりするなどして、きちんと狂わない様に温情を見せる。そして人間を増やすためにも性交を強要させる時間も与えるのだから、人間にとっても良い時間であるだろうと。

 一日三回交代の当番に従事し、それが終われば魔物達は自由時間。牧場で引き続き人間を自主的に虐めたり、酒を飲んだり、野良の人間を狩りに出かけたりする。休日も大体このような感じであり、誰もが勝利の美酒を味わっていた。

 そして、同じ様に大陸中で暴れまわっていた魔人も、魔王からの命令を一つだけ残して自由に行動を始めた。

 その命令とは、人間牧場の責任者として一応の管理を行うこと。

 とはいえ、この仕事は配下である魔物将軍などに任せておけばよいので、特にやることはない。精々人間を苦しめるために己の欲望に忠実になることくらいである。

 

「人間牧場ねぇ。そんなのに時間を割いている暇はないけど……そうだな。実験に使う人間を幾らでも調達出来るのは便利かな」

 

 ある者は、己の目的の為の人体実験に、人間を調達したり、

 

「…………」

 

 ある者は、牧場を配下に任せて不干渉を貫いたり、

 

「飽きてきたのぉ。……活きのいい人間でも探しに、狩りにでも出かけるか!」

 

 またある者は、牧場運営を部下に丸投げしながら、最初は好き勝手女を犯していたが、段々とそれに飽きて野良人間狩りに出向くようになった。

 

 そんな中、この人間牧場というシステムを、誰よりも悦び、堪能している者がいた。

 

「――ひあっ、ぎ、うぐッ、ああああッ! うああああああああああッ!!」

 

 女の狂ったような悲鳴が響き渡り、死臭で充満した室内がある。

 そこは貴族の屋敷、一番偉い人間が住むような大きな部屋で、その部屋だけで生きるのに大体のことは済ませることが出来る生活空間だ。

 だがその空間には、幾つかの家具や調度品とは別に、地面に転がった多くのモノが存在した。それらが死臭を発生させているのだが、現在進行系で響いている悲鳴は、中央にある天蓋付きの赤いベッドの上から聞こえた。

 そこに見えるのは、二つの影だ。

 

「んっ、はぁ……うふふ、中々良い声で鳴くじゃない。ん、いいわね、もっと愉しめそう……ッ!」

 

「いやッ、あがっ、あっ、たず、ぎィっ! ふぐッ! やぁああああああああッ! うがッ!」

 

 聴こえるのは愉悦に満ちた女の声と、また別の女の絶叫。

 ベッドの上では、一体の魔人が、人間の美少女を虐めていた。

 2メートル程の長身と、黒のストレートの髪を靡かせたスタイルの良いその魔人は、美人と言って差し支えのない容姿を持っていた。

 しかし、その手足は猛禽類を思わせる異形のもので、口から覗く舌は、蛇のように細長いもの。

 そして恥丘からは、白の大蛇が生えており、その大蛇は、人間の少女の中に下から抉るように侵入し、中を抽送している。

 しかしそれはそんな甘いものではなく、中に入った蛇は膣を食い荒らして貫通し、腸や内蔵を蹂躙し、女性に拷問や暴行という言葉が生温いほどのを陵辱を行っていた。

 女性の絶叫と、涙と鼻水、口から漏れる泡や血、苦痛でぐしゃぐしゃになったその顔を見て、魔人はその頬に赤みを差しながら、口元を弓形に歪める。

 

「あは♪ もう壊れちゃうのかなー? でも駄目よー。もうちょっと私を愉しませてくれなきゃ……ッ、ん、はぁ……ほら、もっと激しくいくわよ。ふふふ……!」

 

「いぎゃああああっ! あぁ! いぎっ! がああああああああああああッ!」

 

 そうやって美少女の中を大蛇で蹂躙しながら、血に濡れた彼女の頬をぺろりと舐め、己も悦に浸るのは魔王ジルによって作られた魔人の一人。

 女の子モンスター、へびさん出身の魔人――メディウサ。

 女性をいたぶり、陵辱することが趣味の、最悪の魔人だ。

 そんな彼女の元に、ある者がやって来る。

 

「――ここにいたか。メディウサ」

 

「んっ……んー誰よ、こんな良い時に――って、レオンハルトじゃない。ノックもしないで女性の部屋に入ってくるとか、んっ、ちょっと酷いんじゃない?」

 

 扉が遠慮なく開け放たれ、外から金髪灼眼の魔人が入ってくる。音と気配に気づいて顔を向けたメディウサは、レオンハルトが入ってきたことに僅かに身を反応させたが、女性への陵辱は止めることなく、そのまま言葉だけで反応する。

 

「ふん……俺が来ることは予め通達しておいたはずだがな」

 

「ん、ふっ……あーそうなの? ごめんねー、ここ最近、ずっと部屋に閉じこもってたから兵の報告とか聞いてなかったのよ。――だからほら、()()()()()()()()()()()()?」

 

 と、メディウサが告げて差した先、床には到るところに、人間の死体が転がっていた。

 それらは全て、美少女、美女であった女性達だが、誰もが身体から臓物を引きずり出され、血を流し、凄惨な陵辱の後が見て取れた。

 身体中の傷は当たり前。中には、眼球がくり抜かれている死体や、全身の関節を外されてぐにゃぐにゃになった死体など、その他にも数多くの責め苦を受けたであろう少女たちの死体が足の踏み場もないほどに散らかっている。

 それを見て、レオンハルトは僅かに眉をひそめ、

 

「……お前の趣味の犠牲になった人間か。随分と多いようだが」

 

「んー、そう? 確か、50とか60くらいだと思うけど……途中から数えてないわねー。んっ、あれ、でもどうだったかな……ひょっとしたら100も越えてるかもだけど……」

 

「…………」

 

「でもまあ、どうでもいいわね。牧場があるから幾らでも調達出来るし。それでも、美少女だけとなるとちょっとずつ減っていくのが悩ましいけど……ッ、ふふ……っ!」

 

 メディウサはこともなげにそう言ってみせる。女性への陵辱を続けながら。

 

「あぁああああああッ! やめッ、いやぁああああああっ! ひぐっ、ひっ、あふっ!」

 

「…………そうか」

 

 と、メディウサが人間の女性を陵辱する光景と悲鳴をしばらく耳にしていたレオンハルトは、一度目を伏せた後に――その剣を抜き放った。

 

「ひああああああ! あっ――」

 

「っ! ちょっと! 何するのよ――」

 

 レオンハルトの魔剣が、一瞬で女性の首を斬り落とし、即座に絶命させる。これから、というところでその楽しみが奪われたメディウサは、文句を言おうとして――しかし、一度それを差し止めた。

 レオンハルトがその鋭い視線に重圧を乗せ、メディウサに突き刺していたからだ。

 

「――お前こそ、俺がいる前でいつまで遊んでいるつもりだ?」

 

「っ……何よ、ちょっとくらい――」

 

 と、再度の抗議の声をあげようとしたが、

 

「巫山戯るのも大概にしておけ。それとも――()()()()()()()()()?」

 

「っ――」

 

 それは最強の魔人が僅かに解放した殺気だった。

 魔人筆頭の地位に就くに相応しい存在感が、闘気とともにレオンハルトの身体から僅かに漏れ出ている。それを受けたメディウサは先程とは打って変わって表情を硬くすると、今度は観念したように、

 

「っ……はいはい、わかったわよっ」

 

 ふてくされた様に口を尖らせながら、レオンハルトに向き直る。

 我儘お嬢様、といった様な性格の持ち主であるメディウサは、普段から自堕落に過ごし、他のものを顧みようとしない性格の持ち主だが、さすがに己以上の強者ともなると、やはり渋々ではあるが従わざるを得ない。

 残念そうな息を漏らしながら、メディウサは首が無くなってしまった女性を、ゴミを地面に捨てるように無造作に投げ捨てると、大蛇を引き抜き、裸体を晒したままベッドの上である程度居住まいを正した。

 それを確認して、レオンハルトが目を細める。

 

「……そのまま話をする気か? 服くらい着たらどうだ」

 

「ええー? 面倒だし別にいいじゃない。……あっ、でもそっか。そういえばレオンハルトは巨乳好きだったわね。ということは、気が散っちゃうと――」

 

「――いい加減にしないと殺すぞ、メディウサ」

 

「っ……うそうそ冗談だって。直ぐに服を着るからちょっと待ってねー……ったく、もう怒ってるじゃないのよ……」

 

 レオンハルトの巨乳好きを、自分の豊かな双丘と絡めてからかおうとしたメディウサだが、更に強い殺気をぶつけられて発言を撤回する。そして億劫そうに、ぶつくさと文句を言いながらも、メディウサがベッドの上に戻り、そこらに置いていた服を手に取ると、もたもたと服を着ていった。

 そしてようやく、その白い巫女服のような衣装を身に纏うと、再びレオンハルトに向き直る。

 

「はぁ……自分で服着るのって疲れるわねぇ……ってことで、これでいいでしょ」

 

「……ようやくか」

 

 レオンハルトが殺気を解きながら、ようやく整ったか、と呆れるようにメディウサに言う。するとメディウサも、少し気怠そうにしながらも用件を問おうと口を開いた。

 

「それで、一体何しに来たのよ」

 

「牧場の稼働状況と、お前の様子を見に来ただけだ」

 

 魔人レオンハルトは人間牧場全体を取り仕切っており、魔人を統率する魔人筆頭でもある。

 だからレオンハルトは一応、行きたくはなかったが、他の魔人の様にメディウサの元にも訪れたのだ。

 

「ふーん、それは態々お疲れ様。牧場もちゃんと魔物達に任せてるし、私は元気よ。ジル様の命令通り、ちゃーんと人間いじめてるんだし、何も文句はないでしょ?」

 

「……ああ、そうだな」

 

 メディウサの言葉に、レオンハルトが淡々と頷く。

 事実、ここに来るまでにメディウサが担当する牧場の視察を行ったが、特に問題はなかった上、メディウサのやっている趣味も、咎めるものではなかった。

 だからレオンハルトは何も言うことはない。精々、注意することだけだ。

 

「魔人の行動は自由とはいえ、あまり仕事をサボるなよ。目に余る様なら俺が指導することになるからな」

 

「はーい。畏まりましたレオンハルト様ー。……ってことで、用件はそれくらい?」

 

 おどけるように恭しく一礼してみせ、メディウサは肩を竦める。レオンハルトが頷くと、

 

「ああ、これで終わりだ」

 

「そっ。じゃあもう帰る? 茶飲み話する雰囲気でもないみたいだし、私も続きを――って、思い出した。ちょっと提案があるんだけど」

 

「……何だ?」

 

 レオンハルトが踵を返そうとした瞬間、メディウサは今思い出したといった様子でレオンハルトを呼び止める。そして先程と同じ様な、愉悦に満ちた笑みを浮かべると、

 

「大したことじゃないんだけどね。私からも貢ぎ物上げるから、ちょっとした“便宜”を図ってほしいのよ。あまり仕事を割り振らないように」

 

「――何だと?」

 

 仕事をサボるなと言った直後に仕事をあまり割り振らないでほしいなどと言われ、レオンハルトの眉間に皺が寄る。再び重圧が高まるその前に、メディウサは軽い調子で言った。

 

「可愛い女の子、ちょーっとだけ分けて上げるから、その分だけ免除してほしいのよね。こういうの。ほら、好みな上に集めてるんでしょ?」

 

「……それで?」

 

 レオンハルトは肯定も否定もせずに続きを促してやる。話は聞くといった意思表示だ。それにメディウサはにこやかな笑みで、

 

「まぁ、だからそうねぇ……月に一人、差し出すから、面倒な命令とかはあまり回さないようにしてほしいなぁって。ジル様の命令とかなら仕方ないけど……魔軍とか動かす時はそっちに任命権とかがあるんでしょ?」

 

 魔人筆頭であり、魔軍参謀という立場から、魔人と魔軍の指揮権を預かっているレオンハルトに、仕事の割り振りの便宜を頼む。

 それを正しく理解したレオンハルトは、その鋭い視線でメディウサを見据え、

 

「……つまり、今以上の仕事を回すなと?」

 

「そんな感じ。――どう? 悪い話じゃないと思うんだけど」

 

「…………」

 

 メディウサからの提案に、レオンハルトは目を細めてしばらく思考する。

 はっきり言って、ふざけた提案であることには違いないし、魔軍を指揮する立場から考えれば、戦力に制限を付けるような提案は断りたいところだ。

 だが、レオンハルトは床に散らばった少女達を見て、思う。

 己がそれを断れば、その差し出される予定の少女達は、以前と同じ。戦争で捕らえられた者達の様に、苦しめられる。

 それどころか、相手はメディウサだ。魔物がやる以上に酷い責め苦を受けるだろう。それを少しでも救えると考えれば悪い話ではない。

 人権云々は今更の話だ。取引として考えるのならば、これからのことを考えても、受けたほうがいい話かもしれない。やることも、今までの貢ぎ物と同じだ。どんな道を選ぶかは当人次第で、人類圏に返すともなると今の時代では酷ではあるが、この女の元にいるよりかはマシだろうし、可能性が与えられるだけでも扱いは良い。

 ならば、とレオンハルトは答えを出しながらも少し悩んだ末に――メディウサに向かって告げた。

 

「……貢ぎ物は心身ともに無傷なものだ。お前や魔物に痛めつけられた者は認めない。その条件を飲むのなら、千年間、お前に面倒な仕事は回さないでおいてやろう」

 

「千年……悪くない、かな。それで条件は無傷ねぇ……ひょっとして、中古は嫌いなの?」

 

「壊れかけたおもちゃに興味がないだけだ。……それで、どうする? 条件を飲むのか?」

 

 レオンハルトに改めて問いかけられ、メディウサは、そうねぇ……、と少し考え込む。

 だが内心では、思ったよりも上手くいったかも、とほくそ笑んでいた。

 誰にも邪魔されずに己の欲望を満たすための提案だったのだが、千年という条件は破格ともいえる。出来れば貢ぎ物が続く限りはずっとと言いたいところだが、あまり欲張り過ぎるとご破産になる可能性もある。

 それに千年経った後に、もう一度提案すればいいことだ。

 ケーちゃん――ケイブリスからちょこっと聞いた、レオンハルトは、貢ぎ物を渡すとある程度便宜を図ってくれるという話は本当だったようだ、と、最近少し仲良くなった魔人からの情報とその成果に、メディウサは笑みを深める。女の子を月に一人、渡さないといけないというのはメディウサにとっても多少残念ではあるが、それくらいで何もしなくて良くなるなら別に構わないだろうと。

 そして目を細めて悪どい表情を浮かべると、

 

「――それでいいわ。月に一人、無傷の女の子で千年ね。それで、どうせ巨乳美少女がいいんでしょ?」

 

「……好きに判断しろ」

 

 契約が結ばれる。しかし、レオンハルトの表情はすぐれず、素っ気ない態度を取っている。

 実際内心では、千年なら問題ない、という思いや、こんな女と契約を交わしたことに虫酸が走る思いだったが、それは表には出さない。

 メディウサはそれに気づくこと無く、機嫌良さそうに告げた。

 

「りょうかーい♪ ……それにしても、随分と好きものよねー。月に一人で千年なんて。我らが魔人筆頭は、世界一のハーレムでも作るつもりなのかな?」

 

「…………そんなところだ。条件は必ず守れ。分かったのなら、俺はもう行くぞ」

 

「はいはーい。じゃあねー。便宜よろしくー。――あ、なんなら帰りに今月分の持っていっていいわよー」

 

「……ならそうしよう。ではな」

 

 レオンハルトは己の内心を隠しながら、最低の気分になるメディウサの部屋からさっさと退出した。

 そして対するメディウサは、レオンハルトが出ていって一人になった己の部屋で、欲望を隠すことなく、独り言を呟く。

 

「さぁて……これで千年間は、魔王様の命令以外で動かずにすむわねぇ」

 

 今までも充分に好き勝手していたが、これ以上牧場を任されたり、何か不意の任務を任されたりしなくなる保障は悪くないものだ。

 レオンハルトに命令されないのならば、他に命令してくるものはほぼいない。他の奴らはあんまり関わってこないからだ。

 仮に魔王の命令が頻繁に上がるなどして無駄に終わったとしても……癪ではあるが、月に一人くらいなら痛くも痒くもない。人間牧場にいる人間の数は膨大なのだ。その中でも美少女達はメディウサの趣味のために隔離してストックしてあるし、その中から適当に貢いでいけばいい。それ以外は全部メディウサのものだし、何も問題はないのだ。

 

「あー、楽し。今の世の中は中々に居心地がいいわねぇ」

 

 少し前までは人間が世界の半分を支配していた上に、己もただの女の子モンスターであり、肩身の狭い思いをしていたと思う。

 それがジルの時代になって、一変したのだから、ジル様様だ。

 ベッドの上から降りて、メディウサは伸びをすると、再び自堕落に過ごすために行動を起こす。

 

「お風呂に入って、魔物兵に部屋の掃除をさせて……そしたらまた、楽しんじゃおうかな……んー、次は、仲の良い姉妹とかがいいかな」

 

 再び服を脱ぎ、浴場へと向かったメディウサは、この後はどんな風に虐めようかと考えながら、悪辣な微笑みを浮かべた。

 

 

 

 

「――最悪の気分だな……」

 

 メディウサの人間牧場から適当な女性を連れて、その場を後にしたレオンハルトはメディウサの所業を思い出して、苛立ちを滲ませる表情を浮かべていた。

 そんなレオンハルトの元に、近くで待っていた己の使徒が声を掛けてくる。

 

「……終わった? って、その子は――」

 

 ハンティが神妙な顔つきで声を掛けてきたが、連れてきた少女を見て僅かに目を見開く。

 その問いに、レオンハルトは頷いた。

 

「……メディウサのストックから一人、連れてきた」

 

「……そう。じゃあ、あたしが運ぶよ」

 

「ああ」

 

 気を失った状態の少女を抱えていたレオンハルトは、それをハンティに手渡す。また女性を引っ掛けてきたのか、とハンティが茶化すようなことはない。これがそういうものではないことはハンティにも分かっている。

 特に相手がメディウサで、そのストックだと言うのなら、全員連れてきてもハンティは非難するどころか内心で称賛した末に快く協力するだろう。

 だが、それが難しいことは理解している。故に何も言わずに五体満足な少女を抱え、ハンティは歩き出すレオンハルトの後ろに続いた。

 

「……あのヘビ女は?」

 

「……相変わらずだったな。俺が出向いても変わらずに女を陵辱していた」

 

「っ……一緒に行かなくて良かったよ。抑えきれるかどうか分かんないからね……」

 

 前にメディウサに会った時のことを思い出してハンティが眉を立てる。その時も、メディウサは少女を捕まえて、外道という言葉が相応しいほどの陵辱を行っていたのだ。

 その光景を思い出すと腸が煮えくり返り、怒りが沸々と湧き上がってくる。長年色々なものを見て、昔よりかはドライになったつもりのハンティだったが、最近はまた直情的になってきたのも含めて、苛立ちが沸き立つのだ。

 

「……気持ちは分かるが、表には出すなよ」

 

「……分かってる」

 

 それよく理解しながらも、レオンハルトはハンティを宥める。

 個人的な趣味が微塵たりとも合わないメディウサは、レオンハルトとしても不愉快な存在だが、だからといって簡単に殺していいかと言われるとそうではない。

 今は戦争がないとはいえ、ただでさえ魔人の数が足りていないのだ。あんなのでも、必要な人材であることには違いない。己の譲れない部分を犯したのならばともかく、それ以外で消してしまうのは避けたいところだ。

 だからこそ、レオンハルトは趣味が合わないことを自覚しつつも、魔人筆頭として、仕事上は出来る限りは普通に接しているのである。

 だからハンティがイライラするのも理解出来る。同じく、趣味が合わないのだ。それもあって、ハンティは帰る途中の道中で、待っていたのだ。

 もっとも、

 

「――魔人メディウサ……その反応だと、よっぽど酷い魔人みたいね」

 

「……ああ。魔人一、趣味の悪い女だ」

 

 城に寄る予定のインデックスを、残していくわけにはいかなかったため、こちらの方が理由としては大きいのだが。

 基本的にはこちらからカラーの隠れ里――ペンシルカウに寄って、必要な資材であったり、相談を受けるのだが、今回はインデックスが城に一度行ってみたいと言うので、連れて行くところだったのだ。

 近くにメディウサの人間牧場があるため、そちらも済ませなければならないという事情での同行だったが、一緒に入れば危険はほぼないとはいえ、中々に肝が座っている。今もメディウサの所業を軽く聞いた上で、

 

「……ふーん。じゃあ私とは相性が悪いわね。いい女は、悪い女に目の敵にされるものと、相場が決まっているし」

 

「いや、そういう話じゃ……」

 

 ハンティがすかさずツッコむ。テンション低めではあるが、それでも指摘せざるを得ない辺り、ハンティの反応は衰えていない。

 しかしインデックスは得意気な表情で、

 

「だからハンティは私によくツッコむのよね?」

 

「――どういう意味よッ!!」

 

 ハンティがその意味に即座に気づいて魔法を放とうとしたが、インデックスは素早くレオンハルトの身体に隠れてしまう。そして顔だけを、身体の影から出すインデックスにハンティは歯噛みし、

 

「くっ、レオンハルトの後ろに隠れられたら当たらないでしょ! 卑怯者!」

 

「馬鹿ね、ハンティ。これは男がいる女だけが出来る最強の防御よ。男は女を守るもの。男は女にとって、最強の矛であり盾にもなるの。つまり、今の私はハンティを歯牙にもかけないわ。なんたってレオンハルトがいるものね」

 

「相変わらず屁理屈こねてくれるね……!」

 

「悔しかったらハンティも男を作りなさい。そしたら私の男であるレオンハルトと、ハンティの男である何某かで、戦わせることが出来るわ」

 

「っ……あたしは男なんて別に、必要ないからっ!」

 

 その発言はどうなんだ……、とレオンハルトが半目でハンティを見る。すると横からもう一人が、

 

「あー無理無理。無理ですようインデックスちゃん。私も大分長いことそんな感じのこと言ってきましたが、全然その気にならないんです」

 

 と、告げたのは諦めたように肩を落とすペールだ。ハンティの女子力の低さに呆れるように、インデックスに向かって説明する。

 そしてハンティの方も見て、

 

「それに、その気があったとしても……始祖様と付き合えるだけのタフな男性って中々いないと思いますよう?」

 

 インデックスもハンティを見て頷く。確かに、と、

 

「そうね。ハンティに対抗出来るくらいムッキムキのゴリラじゃないと駄目ね、きっと。それこそ、ぷちハニーの爆発を受けても死なないくらいのゴリラよ」

 

「そうですねー。どんなに高いところから落下しても平気で立ち上がるくらいのゴリラなら上手くいきそうですねぇ?」

 

 二人がくすくすと口元に手を当てながらハンティを軽くからかう。

 挙句の果てに、何か微妙な顔をしたレオンハルトまでもが、

 

「……まあ、魔人級と言うとあれだが……魔物大将軍を殴り倒せるくらい強い相手なら上手くいくかもな……」

 

「あははははっ! レオンハルト様ってばもう! それだともう、ゴリラの域越えてますよう!」

 

「ゴリラの域を越えたゴリラね……ハンティに似合いそうだわ……ぷっ、くふふ……!」

 

「あんたら……! というか、レオンハルトまで……!」

 

「……いや、すまん。何となく、な……」

 

 レオンハルトが失言した、という風に謝る。それを許したかはともかく、ハンティは自分を笑う罰当たりなペールとインデックスを見て、笑みを浮かべると、

 

「……なら、城に帰ったらあたしと模擬戦でもしようか、二人共。カラーの始祖として、鍛えてあげるからさ……」

 

「ひっ!? あ、あのう、それは……」

 

「……か、か弱くて可愛い私達を虐めると言うの? 始祖様が、そんなことするはず――」

 

 と、インデックスが再び言葉で誤魔化そうとする前に、ハンティは口端を釣り上げた獣のような笑みで告げた。

 

「あはは、大丈夫大丈夫。ちょっとばかし、親交を深めるだけだからさ……そもそも、今のあたしは使徒だし、ちょっとくらいやっちゃってもいいよねぇッ!」

 

「ひぃっ!? 始祖様がレオンハルト様みたいに!?」

 

「だ、大丈夫よ。レオンハルト様が守ってくれるわ。そ、そうよね?」

 

 と、インデックスとペールがレオンハルトを見上げて助けを求める。レオンハルトは二人の視線を受けて、呆れるようにため息を吐きながら、

 

「……まあ、たまには模擬戦もいいだろう。ペールは言わずもがな、インデックスも、カラーの女王として戦闘経験を積むのは悪いことではないしな」

 

「そ、そんな……」

 

「か、考え直してくださいレオンハルト様! 今の始祖様はゴリラというか猛獣ですよう!? それに――ひぃっ!?」

 

 がしっ、とペールの肩にハンティの手が置かれる。そして二人に向かっていい笑顔で、

 

「――帰るのが愉しみになってきたね、二人共……あはっ♪」

 

「……あ、これ死んだわ」

 

「ぐ、ぐぬぬ……こうなったら、勝ってしまえばいいんですよう! 一対一なら勝ち目はありませんが、二人なら――」

 

 ――しかし二人はレオンハルトの城に到着した後。直ぐにハンティに近くの山まで連れて行かれ、程々にボコられるのだった。




次回はちょっと休憩回というか日常回にしたいなって。鬱々としてくるし。そんで次くらいに勇者でも出そうかな()

 ▲ページの一番上に飛ぶ
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。