ト キ 「シンプルな答えね。じゃあ、なんで飛びたいの?」
フルル 「空に行ってみたいから」
プリンセス 「なんか漠然としてるわね……」
イワビー 「ペンギンが飛ぶんだぜ。すげーじゃねえか」
コウテイ 「飛ぶ理由は、それだけで十分だろう」
ジェーン 「そうですね。とってもすてきなことだと思います」
---- プリンセス ----
プリンセス 「けっこう、難しいわね……」
ジェーン 「なんか、ふらふらしてますね」
プリンセスが操縦する飛行機は、不安定に左右に揺れていた。飛行機は左に旋回をはじめ、高度が下がっていった。
プリンセス 「あれ? まがってる? ……だめ、なんで下がるの!? 落ちる!」
ツチノコ 「旋回するな。機首を上げて、パワーを……」
プリンセス 「やってるわよ!」
プリンセスの操縦する飛行機はゆるく左に旋回しながら高度を下げていき、海に墜落した。
ツチノコ 「まあ、最初はこんなもんだよな」
---- イワビー ----
イワビー 「おおお! 上がる上がる! きっもちいいぜー!」
イワビーが操縦する飛行機は、離陸後、急角度で上昇していった。低い雲が近づいてきた。
プリンセス 「すごい……。 よくこんな急上昇できるわね……」
ツチノコ 「無茶するな! 失速するぞ!」
低い雲を抜けた瞬間、突然機体が不安定になり、飛行機は急降下した。
イワビー 「おわああ! 言うこときかねえ!」
イワビーはスティックをガチャガチャと動かしたが、飛行機は操縦不能のまま回転しながら落下して、林に墜落した。
コウテイ 「ハイジャンプ、ということか」
フルル 「花火みたいだねー」
プリンセス 「その例えはなんかちがう気がするわ……」 ※1
---- ジェーン ----
ジェーン 「えっと、あれ、どうやるんでしたっけ?すみません。手順をもう一回確認します」
マーゲイ 「準備は大切ですからね」
ツチノコ 「慎重なのはいいが、ちと不安だな……」
ジェーンの操縦は、離陸直後は不安定だったが、慣れると安定してきた。ジェーンは、着陸のために飛行機の進路を滑走路の方向に合わせようとしたが、うまくいかず、飛行場のまわりを数回旋回した。飛行機はなんとか滑走路の延長線上に乗り、ゆっくりと降下していった。
ツチノコ 「高い……無理に降下するな!
ジェーン 「ごーあら?」
ツチノコ 「上昇するんだ! 早く!」
ジェーン 「……上がらない! ……間に合いません!」
飛行機は深すぎる角度で降下して、滑走路の中ほどに墜落した。
コウテイ 「これ、めちゃくちゃむずかしいぞ……」
---- コウテイ ----
ツチノコ 「いい感じだな。そのまま右へゆっくりと旋回……どうした?」
コウテイ 「…………」
コウテイは、白目をむいて気絶していた。
ツチノコ 「気絶してるー!!」
イワビー 「わかってたけど、このタイミングかよ……」
コウテイが操縦する飛行機は、パイロットが気絶した後も、なぜか安定して直線飛行していた。
ツチノコ 「どうなってんだ……なぜ落ちない……」 ※2
プリンセス 「ある意味天才ね……」
飛行は安定していたが、旋回も着陸もできなかった。
ツチノコ 「いったん休憩して、もう一回だ」
---- フルル ----
フルルは、離陸と水平飛行では安定した操縦をみせた。
ツチノコ 「すげえ、初めてでこんなに……」
マーゲイ 「これは、隠れた才能ですか!?」
フルル 「機内食にジャパリまんがほしいなー」
ツチノコ 「そんなもん出ねえよ! ……次は、着陸だ」
フルルが操縦する飛行機は、進路を滑走路に合わせ、ゆっくりと降下していった。
ツチノコ 「もうちょっと下げろ。コースがずれてる! ……行き過ぎだ! 角度が深い……」
フルルの操縦する飛行機は、滑走路の中央から大きく右にそれて、ドスンと荒っぽく着陸した。右の主脚が滑走路わきの草地に接地し、飛行機はまっすぐに滑走できず、さらに右にそれて、滑走路を逸脱して停止した。
ツチノコ 「実機なら
フルル 「…………」
フルルは無表情で、うつむき加減だった。
プリンセス 「え? ……フルル、どうしたの?」
マーゲイ 「お、落ち込むことないですよ!」
イワビー 「おまえすげえよ。上がってすぐに落ちたやつもいたんだぜ?」
ジェーン 「着陸、むずかしいですよね。初めてでここまでできれば十分だと思いますよ」
コウテイ 「最後までやりきったんだ。自信をもっていい」
フルルが顔をあげて、PPPのメンバーの方を見て、やわらかい表情になった。
フルル 「おなかすいたなー」
プリンセス 「……いつも通り、よね……」
フルル 「いつもどおりだよ」
---- コウテイ (再挑戦)----
休憩して再挑戦したコウテイの操縦は、気絶した時よりも不安定だった。
コウテイ 「だめだ、どうすれば」
コウテイの操縦する飛行機は、低空で上昇と下降を数回繰り返したあと、海に墜落した。
ツチノコ 「さっきの安定感はなんだったんだ?」
---- マーゲイ ----
マーゲイの訓練前。
マーゲイ 「……はあ、はあ、この棒、みなさんの汗が、ぬくもりが……ふふふ、うへへへ……」
マーゲイはスティックをにぎって、恍惚とした表情をしていた。
ツチノコ 「変態かおまえ!」
マーゲイの離陸は不安定だったが、水平飛行では非常に安定した飛行をみせた。
プリンセス「こっちも意外な才能かしら?」
だが、着陸では侵入高度が低すぎたうえに、滑走路の端ギリギリを狙って下りたため、滑走路手前の林に墜落した。
マーゲイ 「やっぱりフルルさんはすごいです……」
その日の訓練が終わった。
シミュレーターのそばに、ツチノコとタイリクオオカミ(以下オオカミ)がいた。
オオカミ 「今日はいい顔がたくさん見られたよ」
ツチノコ 「人数が多すぎたな。あすも記録をたのむ」
ツチノコがオオカミの手元を見た。
ツチノコ 「それ、スケッチじゃなくていいのか?」
オオカミは、標準ズームレンズと外付けストロボ ※3 を付けたデジタル一眼レフカメラを両手で持っていて、カメラのストラップを首にかけていた。
オオカミ 「味気ない気もするけど、記録するだけならこれでいいんだよ。いいものをくれたね」
温泉宿の畳敷きの部屋に、PPPのメンバーとマーゲイが座っていた。
マーゲイ 「人数が多いとむこうに迷惑かもしれないですね。スケジュールの都合もありますし」
コウテイ 「それなら、今後はフルルにPPPの代表として、飛行訓練をやってもらう、というのはどうだ?」
ジェーン 「いちばん上手でしたからね」
プリンセス「そうね。それがいいわ」
イワビー 「やったなフルル! PPP代表だぜ」
フルル 「…………」
マーゲイ 「では、今日は予定通りロッジへ向かいましょう」
フルル 「もうちょっと練習したいな」
フルル以外「ええー!」
プリンセス「なんで? わたしたちの中で一番うまくできてたじゃない」
フルル 「あれじゃ、飛べないから」
マーゲイ 「お気持ちはわかりますが、もう時間も遅いですし……」
イワビー 「練習ならきょうじゃなくてもできるぜ?」
フルル 「ほかの子に、まけちゃうから」
コウテイ 「……なんとかしてやりたいな」
ジェーン 「……ここに泊めてもらうことって、できないですか?」
マーゲイ 「ギンギツネさんに、交渉してみましょう」
夜。
シミュレーターで、フルルがひとりで訓練していた。そこへ、風呂へ向かうキタキツネとギンギツネが通りかかった。
ギンギツネ 「熱心ねえ」
キタキツネ 「ぼくもあそびたい」
ギンギツネ 「お客さんが優先よ。あしたにしなさい。それに、あなた訓練が必要ないくらいうまいじゃない」
キタキツネ 「ギンギツネはへただよね。飛びかたが気持ちよくなかった」
ギンギツネ 「わたしは、飛行機で飛ぶ、っていうのがどういうことなのか、いまだによくわからないから」
キタキツネ 「ぼくがおしえてあげる。だいじょうぶ、やさしくするから。いっしょに気持ちよくなろう?」
ギンギツネ 「……あ、あとでね……」
ギンギツネは顔を赤くして目をそらした。
プリンセス 「あなたたち、なんの話してるの?」
ギンギツネ 「!」
ギンギツネが驚いてビクッとなった。プリンセスが奥の部屋を出て、廊下を歩いてきた。
ギンギツネ 「……これは、えっと……キタキツネが、飛んじゃうくらい気持ちよかった、というか……その……」
キタキツネ 「ちがうよ、ギンギツネはへただから、あとでぼくが気持ちいいことをおしえてあげるんだよ」 ※4
プリンセス 「……なかよし、なのね……」
ギンギツネ 「ちがうわよ! いや、ちがわないけど!」
プリンセスが、シミュレーターの方を見た。フルルはわき目もふらず、訓練を続けていた。
プリンセス 「すごい集中力ね……」
その後、フルルは毎日のように、温泉宿でシミュレーターの操縦訓練をした。
ロッジのイベントスペース ※5 に、PPPのメンバーが集まっていた。
プリンセス 「あの子、今日もいないの?」
ジェーン 「きのうも温泉に泊まったそうです」
マーゲイ 「熱心なのはいいのですが、レッスンの予定がずれてしまいますね」
プリンセス 「本業をわすれてしまっては困るんだけど……」
イワビー 「あいつ、なんであんなに必死なんだ?」
コウテイ 「なにか理由があるんじゃないか?」
ジェーン 「PPPの代表だから、責任を感じているんでしょうか」
イワビー 「そんなこと気にするタイプじゃねーだろ」
プリンセス 「代表になるまえ、最初の訓練のとき、あの子、すごく落ちこんでた……わたし、あの子のあんな顔はじめて見たわ……」
マーゲイ 「表情が消えてましたよね」
イワビー 「ちげーよ。そこじゃねえよ」
コウテイ 「わたしたちに励まされたあとの顔、痛々しかったな」
ジェーン 「ちょっと心配ですね……」
数日後の温泉宿。
[ 副操縦士選抜試験 第1回 兼 操縦訓練 第2回 ]
PPPのメンバーとマーゲイが、フルルの試験を見守っていた。
手順通りの離陸。安定した直線飛行、高度を保ったゆるやかな旋回。
ツチノコ 「前よりはるかに安定してる……」
そして苦手だった着陸。フルルが操縦する飛行機は、一回で滑走路の延長線上に乗り、微調整をしながらゆっくりと降下していった。飛行機は進路を滑走路のセンターラインに合わせて、滑走路端の着陸位置へ下りた。軽い衝撃と共に主脚が接地した。機体はほとんどバウンドせず、少し滑走して前脚が接地した。そしてそのまま滑走路の中央を走り、滑走路に十分余裕を残して減速した。
ツチノコ 「文句なしの合格だ。どうやってこんなに上達したんだ……」
フルルがシミュレーターを降りて、PPPのメンバーがそれを迎えた。
イワビー 「いえーい! やったぜフルル!」
プリンセス 「フルル、よくがんばったわ!」
コウテイ 「おめでとう。やはりわたしたちとはレベルが違うな」
ジェーン 「一生懸命練習した結果ですね。ほんとうにすごいです」
マーゲイ 「……ぐす、ぐす……フルルさ……ぐす……すばらしい、です……みなさんの、友情に……感動しました……」
プリンセス 「マーゲイ! 鼻水をふきなさい!」
オオカミ 「いい顔いただいたよ」
廊下の角に隠れていたオオカミが、カメラを手に現れた。
イワビー 「またかよ!」
マーゲイ 「……ひどい顔、撮られちゃったあ……」
ツチノコ 「オレは写る必要なかっただろ……」
写真の背景に写り込んでしまったツチノコは、顔を赤くしてそっぽを向いた。
フルル 「ぱぱらっちだね」
コウテイ 「……フルル、なんでこんなにがんばるんだ?」
ジェーン 「ペンギンが空を飛べたらすてきだから、ですよね?」
イワビー 「だよな!」
プリンセス 「でも、それだけじゃないわよね? この子の必死さ、ふつうじゃないもの」
フルル 「空には、会いに行きたいひとがいるから」
プリンセス 「フルル……」
イワビー 「あいつか……」
ジェーン 「一番のファンでしたからね……」
コウテイ 「いや、ファン以上だろう」
プリンセス 「……フルル、空に行ってもね、あのひとには……」
プリンセスの隣に立っていたイワビーが、プリンセスの足をこつん、と蹴った。
マーゲイがうつむいて、目元をこすった。
マーゲイ 「……ぐす…………」
コウテイがマーゲイを見た。マーゲイの顔はひどく暗かった。
コウテイ 「マーゲイ? どうした?」
マーゲイ 「……なんでも、ありません……」
つづく
※1 PPPのメンバーは、ライブなどのイベントで花火を見たことがあるので、花火がどんなものか知っていました。
※2 自動操縦ではありません。
※3 外付けストロボは、シミュレーターの稼働中は邪魔になるので使いませんでした。
※4 この夜は、ギンギツネのほうが教える側になってしまったようです。
※5 勝手に設定を作りました。屋内で、床や壁の作りは、アニメでキャラクターが集まって会話していた部屋(食堂?)と同じで、宴会場くらいの広さです。フルルが温泉宿で操縦訓練を行っている間、PPPのメンバーはここでレッスンをしていました。
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
「ひこうじょう(通常版)」では、フルルはこんなに飛ぶことを熱望している感じではなかったのですが、「ペパプ・イン・ザ・スカイ!」の影響でこうなりました。
[ 『第2話』 初投稿日時 2018/06/03 20:35 ]