ロッジのイベントスペース。
プリンセス「早まったってどういうことよ!? あしたのはずでしょ!」
コウテイ「さっきはかせから連絡があったんだ。あしたは風が強くなりそうだから、早めるって」
プリンセス「時間は?」
コウテイ 「昼過ぎだ」
イワビー 「早く行かねーと終わっちまうぞ!」
ジェーン 「どうしましょう、もう間に合いませんよ!」
[ 副操縦士選抜試験 第2回 兼 操縦訓練 第4回 ]
海岸の飛行場のエプロン(駐機場)
今回の試験は、シミュレーターで成績の良かったフレンズが、実機を使ってハイスピードタキシー(滑走路上での高速地上滑走)を行うものだった。
エプロンには双発のプロペラ機が駐機していて、胴体後部左側のドア ※1 からキタキツネが乗り込むところだった。
飛行機から少し離れたところに、フルルとマーゲイが立っていた。
マーゲイ 「すみません。ほんとうに」
マーゲイは表情が暗く、声も暗かった。
フルル 「しょうがないよ」
一方で、フルルはいつも通りに見えた。
イワビー 「フールルー!!」
PPPの4人がフルルとマーゲイのもとへやってきた。
ジェーン 「……はあ、はあ、フ、フルルさんの番は?」
プリンセス 「……おわっちゃった、の?」
コウテイ 「ま、まってくれ……はあ、はあ……」
プリンセス 「結果は? どうだったの?」
フルル 「試験、受けられないんだって」
フルルは、いつも通りの顔だった。
プリンセス 「え?」
イワビー 「なんだよ、それ……」
コウテイ 「どういうことだ?」
マーゲイ 「残念ですが、わたしの判断で棄権しました」
プリンセス 「!」
コウテイ 「……シミュレーターまではいいが、その先は難しい、と言ってたな」
ジェーン 「……ここまで、ってことですか?」
プリンセス 「マーゲイ、ちょっと来なさい……」
マーゲイ 「はい……」
プリンセスは、マーゲイの手を引いた。ふたりは格納庫裏へ歩いていった。
フルル 「ふたりになったら、プリンセスがおそわれちゃうよ」
イワビー 「そりゃ、逆だろ」
ジェーン 「プリンセスさん、ほんきで怒っているときの顔でしたね……」
コウテイ 「マーゲイの命があぶないぞ」
格納庫裏。
プリンセスとマーゲイが向かい合っていた。
プリンセス 「なんで棄権させたのっ!? あの子、すっごくがんばってたのに!! 会いに行きたいひとがいるって……」
マーゲイ 「すみません! 安全のためです」
プリンセス 「そんなあぶないことじゃないでしょう!?」
マーゲイ 「わかってます。みなさん入念に準備していますし、安全なのでしょう」
プリンセス 「だったらなんで、なんでこんなことしたの!?」
マーゲイ 「あれは過去に例のないものです。ここから先はシミュレーターとは違います。予期せぬトラブルも起こりえます。とても悩みましたが、マネージャー、いえ、ファンとしては、メンバーの安全は絶対にゆずれないです。そのためには、わたしは恨まれても悪者になってもかまいません。万が一でも、三代目PPPが4人になってしまう可能性なんて、あってはならないのです」
プリンセス 「そんなこと……わかるけど! わかるけど、さきに相談なさいよ……」
マーゲイ 「言えなかったんです……」
プリンセス 「…………」
マーゲイ 「あの飛行機があと何回飛べるのかはわかりませんが、初飛行のあとでもチャンスはあります。あの飛行機は8人乗れるそうですから、十二分に安全であることが確認できたら、そのときは、PPP全員で飛びましょう」
「あの子はお客さんじゃなくて、じぶんで操縦したいのよ?」
「もちろん、そのときはフルルさんにパイロットになってもらいましょう。フルルさんと、もう一人のパイロットの操縦で、お客さんは、PPPのメンバーと……わたし。これで7人です」
プリンセス 「それ、なんだか夢みたいね。PPPがみんなで空を飛ぶなんて」
フルル 「飛べない
唐突にフルルが現れた。
プリンセス&マーゲイ「フルル(さん)!」
エプロン。
飛行機の左のエンジンが始動され、左のプロペラが回転を始めた。
格納庫裏。
イワビー 「こそこそしゃべってんじゃねーよ」
イワビー、ジェーン、コウテイも、格納庫の角から裏へまわってきた。
プリンセス 「…………」
マーゲイ 「全部、聞かれちゃいましたか?」
ジェーン 「ごめんなさい。聞いちゃいました」
コウテイ 「でも、隠すような話ではなかったぞ」
フルル 「あいた席には、あのひとに乗ってもらいたいな」
ジェーン 「ほんとうに、夢みたいですね……」
エプロン。
飛行機の右のエンジンが始動され、右のプロペラが回転を始めた。
エンジンスタートから20分ほど経った滑走路。
キタキツネの操縦による、ハイスピードタキシー試験が行われた。飛行機が滑走路上を走り、数秒間機首を上げた。
エプロン。
オオカミが、白い望遠ズームレンズを付けたデジタル一眼レフカメラを構えて、カメラを横に振った。同時にカシャカシャとカメラの連写音が鳴った。 カメラは、レンズの三脚座を介して、一脚に乗せてあった。※3
滑走路。
飛行機がエンジンの出力を落として減速し、前脚が接地して、プロペラの音が大きくなり、さらに減速した。プロペラの音が静かになった。十分に減速した飛行機は、滑走路の端でUターンして、戻ってきた。
エプロン。
格納庫裏からエプロンに戻ってきたPPPのメンバーとマーゲイが、キタキツネの試験の様子を見守っていた。
フルル 「キタキツネあいかわらずうまーい」
イワビー 「ここから見ただけじゃわかんねーだろ」
プリンセス 「この子が言うんだから、間違いないわ」
ジェーン 「たしかに安定していましたよ。今ちょっと横風がふいてますから、むずかしいはずなんですが」
コウテイ 「フルル以外、キタキツネのライバルはいなかったんじゃないか?」
キタキツネの操縦試験のあと、数人の操縦試験が行われた。
エプロン。
飛行機のエンジンが止まり、ツチノコが飛行機のドアからタラップを降りてきて、オオカミのもとへやってきた。
ツチノコ 「トラブルがあった。きょうはこれで終わりだ。」
オオカミ 「機体の不調か? 他の候補はどうなるんだ?」
ツチノコ 「おまえ、候補生になにか変なこと吹きこまなかったか?」
オオカミ 「なんのことだ? そんなことはしていないよ」
ツチノコ 「妙なうわさが流れてる。……後部座席に、ペンギンの幽霊が出るとか」
オオカミ 「ふふ、たしかに妙だね。おもしろいじゃないか」
ツチノコ 「おもしろくねえよ! 候補生が怖がって試験ができないんだよ!」
エプロンの、飛行機から少し離れた位置で、PPPのメンバーが訓練の様子を見守っていた。
プリンセス 「エンジンがかからないわね」
ジェーン 「なにかあったんでしょうか」
PPPのもとへマーゲイがやってきた。
マーゲイ 「試験はここで終わりだそうです」
コウテイ 「どうした? なにがあったんだ?」
ペンギンの幽霊のうわさのために、操縦試験は途中で打ち切られ、終了となった。副操縦士は、天才的な操縦をみせたキタキツネでほぼ確定になった。
プリンセス 「ペンギンの幽霊?」
イワビー 「なんだよそれ、こえーよ」
コウテイ 「妙に親近感のわく幽霊だな」
ジェーン 「試験が打ち切られるなんて、よっぽどですね」
フルル 「さっきそれっぽいのいたよ」
フルル以外 「ええー!!」
プリンセス 「なに言ってるのこの子!?」
ジェーン 「フルルさん、それって飛行機の中で見たんですか?」
フルル 「ぼんやりしてたけど、うしろの席にいたよ」
イワビー 「たしかにそれっぽいぜ……」
コウテイ 「マーゲイはフルルといっしょに乗ったんだろ? なにか見なかったか?」
マーゲイ 「うしろの席にはだれもいませんでしたよ」
プリンセス 「それって、もしかして……」
オオカミ 「君たち、ちょっといいかな?」
PPPのもとへ、オオカミが歩いてきた。彼女は、標準ズームレンズを付けたカメラを両手で持ち、首にストラップをかけていた。
操縦試験が打ち切られてから1時間ほど経ったエプロン。
オオカミが、PPPのメンバーのスケッチと写真撮影を行っていた。背景は飛行機だった。そこへマーゲイがやってきた。
マーゲイ 「いいですねえ、それ。使ってみたい!」
マーゲイはカメラを興味深そうに見ていた。
オオカミ 「かまわないよ。だだ、貴重なものだから、こわさないでね」
オオカミが、首にかけていたストラップをはずし、カメラをマーゲイに渡した。
マーゲイ 「これがあれば、PPPのみなさんのかわいい姿を記録して、いつでも、いつまでもながめることができる……ふふ、うへ、ぐへへへへ」
オオカミ 「……本当にこわさないでくれよ?」
マーゲイ 「使い方をおしえてください!」
オオカミ 「はかせたちに教えてもらったんだが、正直、わたしにもわからない部分が多いんだよ。お手本を見せるから、ちょっと返してね」
オオカミはマーゲイからカメラを受け取ると、使い方の説明を始めた。
オオカミ 「最初はぜんぶ自動でいいだろう。右手は、ここをにぎって、人差し指をここ、シャッターボタンの上へ、左手はレンズをこう、下からささえるように…………」
マーゲイはPPPのメンバーを、立ち位置、ポーズ、アングルを変えて撮りまくった。飛行機を背景にして撮るだけではなく、コックピットに座ったPPPのメンバーを、外付けストロボと広角ズームレンズを使って撮影した。オオカミは撮影のアドバイザーになった。
飛行機の翼のそばに立ったコウテイとプリンセスを、マーゲイが撮影していた。
マーゲイ 「プリンセスさんはそのまま、コウテイさんはプリンセスさんのうしろから肩に腕をまわして、もっとくっついてください……笑顔で!」
コウテイとプリンセスは、指示どおり、くっついて笑顔になった。ふたりの顔は少し赤かった。
マーゲイ 「いいですよー、最高です!」
ほかのPPPのメンバーが、その様子を見守っていた。
イワビー 「ふたりとも顔があけーな」
ジェーン 「なんでマーゲイさんはあのふたりをくっつけたがるんでしょう?」
フルル 「定番だからー」
イワビー 「どっちかっつーとマイナーだろ」
マーゲイ 「つぎは、つばさに座ってみましょう!」
ツチノコ 「オイ! やめろ!」
アメリカビーバー(整備・技術担当、以下ビーバー)「つばさに乗ったらこわれちゃうッスよ!」
オグロプレーリードッグ(整備・技術担当、以下プレーリー)「乗ってもこわれない個所があるであります」
ツチノコ 「ここから…………この線までだ」
ツチノコが歩いて、翼の上に乗ってもかまわない範囲を指差した。
プレーリー 「のぼるにはこの脚立を使うであります」
プレーリーが、飛行機の前に置いてあった脚立を持って来た。
ビーバー 「やめときましょう……。あぶないっスよ……」
ツチノコ 「ひとりくらいなら大丈夫だ。ただ、動翼は踏むなよ! 絶対に踏むなよ!」
ビーバー 「怖いこと言わないで……不安になってくるッス……。動翼のほかには、このふちの黒い部分もあんまりさわらないでほしいッス。それから、エンジンカウルの…………」
ジェーン 「どうよく、ってなんですか?」
コウテイ 「わかるように言ってくれ」
プレーリー 「動翼というのは、つばさの動く部分であります」
ビーバー 「主翼では後ろのふちの部分、ここと、ここッス」
ビーバーが主翼の後縁のフラップとエルロンを指差した。
ビーバー 「ここはは薄くてとってもデリケートッスから……」
フルル 「これが下にうごくんだよ」
フルルが、主翼の後縁のフラップを両手でつかんで、ぐい、と下に引っ張った。 ※4
ビーバー 「あああーー!」
ツチノコ 「なにしてんだオマエエエ!!」
コウテイ 「すごい反応だな。ちょっと大げさじゃないか?」
ボコン、と主翼の上から音がした。
イワビー 「こんなもん使わなくてものぼれたぜ?」
イワビーが主翼の上から、下に置いてあった脚立を見下ろしていた。立ち位置は主翼の中央よりやや翼端に近い位置だった。
マーゲイ 「やった! 今の撮れました!」
プレーリー 「おそらくすごい写真が撮れたであります!」
ツチノコ 「飛び乗ったのか!? コノヤロー!」
ビーバー 「しかもそんな端のほうに! つばさがしなってるッスよ!」
イワビーの乗った主翼が少し下にしなって揺れていた。
フルル 「ここは角度が変わるんだよ」
フルルがプロペラブレードの先端をつかんで、ねじる真似をした。 ※5
プリンセス 「この子けっこう詳しいのね。さすがだわ」
ツチノコとビーバーが、プロペラをいじるフルルを見て驚いた。
ビーバー 「やめて! 本当にあぶないっスよ!」
ツチノコ 「オマエは何もさわるなああああ!!」
オオカミ 「ほら、またシャッターチャンスだ。こういう時は連写を」
騒がしい飛行機の方を向いて、オオカミが小さなスケッチブックでスケッチを、マーゲイがカメラで撮影をしていた。カシャカシャと、カメラの連写音が鳴った。
マーゲイ 「はあ、はあ、すごい……いい写真がいっぱい……うへへへ……」
スケッチと写真撮影が終了した。
PPPのメンバーとマーゲイ、オオカミが飛行機の前に集まっていた。
オオカミ 「君たちに頼みたいことがあるんだ」
ジェーン 「はい? なんでしょう?」
マーゲイ 「受けるかは内容次第ですね」
オオカミ 「初飛行の日、海の上から飛行機を撮影してほしいんだ」
プリンセス 「ええ! わたしたち、カメラの使い方なんてわからないわよ?」
イワビー 「むしろ、そういうの苦手だぜ?」※6
オオカミ 「君たちは泳ぎが得意だろう? 海側から撮ったほうが順光になるから、きれいな写真が撮れるんだよ」
ジェーン 「じゅんこう、ってなんですか?」
オオカミ 「太陽の光が撮影者のほうから被写体に当たる、ということだよ。反対に、カメラが太陽の方を向いてしまうことを逆光といってね、そうなるときれいな写真を撮るのがむずかしくなるんだ。今回の場合は、エプロンからだと逆光になるんだよ ※7 」
イワビー 「むずかしいこと言われてもよくわかんねーよ」
プリンセス 「それなら、水棲の子とか、飛べる子のほうが適任なんじゃないかしら?」
ジェーン 「わたしたち、立ち泳ぎはあまり得意ではないんです」 ※8
マーゲイ 「アイドルは撮られる側で、撮る側ではありませんよ」
コウテイ 「どうしてわたしたちに頼むんだ?」
オオカミ 「君たちは飛行機を、飛べる子以上に理解している。特に、フルルさん。それは多分本能だよ。空を飛んでいたころのね」
コウテイ 「わるくない依頼だが、どうする?」
マーゲイ 「空を飛ぶかわりにはなりませんが、いいと思いますよ」
イワビー 「これは、フルル次第だぜ」
ジェーン 「フルルさん、どうしますか?」
フルル 「やってみたいな」
プリンセス 「決まりね」
つづく
※1 キングエアC90には胴体後部左側にドアがあり、外側に下向きにドアが開き、ドアの内側の面がタラップ(階段)になります。胴体中央右側には脱出口(窓のまわりが外れるもの?)があるようです。
※2 赤い豚のひとはフレンズとは逆の状態ですね。ちょっと違う気もしますが……。
※3 横方向の流し撮りなら、一脚があると便利です。オオカミは、試行錯誤しつつ、シャッタースピードを遅めにしています。
※4 引っ張っても多分動きません。キングエアC90の他の動翼、エルロン、ラダー、エレベーターは地面から高い位置にあるので、フルルの手は届かないと思います。
※5 手でプロペラをねじっても、多分ピッチ角は動きません。以前なにかのイベントで(たしかP-3Cの)プロペラをいじっている人を見かけましたが、エンジンがすぐに始動できない状態とはいえ、一般の人は触っちゃだめです(触りたくなる気持ちはわかりますが)。フルルはパイロット候補なので、飛行前の点検で触ったかもしれません。
※6 あの手(フリッパー)でどうやってカメラを操作するのかは謎です。意外と伸縮性のある素材なのか、外して指を出すのか……。
※7 エアショーで写真を撮る際によく悩まされる問題です。この飛行場の滑走路は南北にのびており、滑走路の西側にエプロンがあり、滑走路の東側が海です。初飛行は午前中に行われる予定なので、太陽は東寄りにあり、海側から撮ると(左側から光が当たる感じになりますが)順光になります。
※8 筆者は、ペンギンの泳ぎ方は水中を飛ぶ感じ、と思っており、浮かんで泳ぐイメージはありません。実際にはどうなんでしょう?