ひこうじょう PPP編   作:くにむらせいじ

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 まえがき

 写真のノウハウみたいなものは、適当に読み飛ばしてしまって構いません。第4話と第5話は、そこを削ると半分も残らないのですが……。



第4話「練習」

 図書館。

 

PPPのメンバーとマーゲイ、オオカミが、はかせ・助手と向き合い会話していた。

はかせ   「プリンセスとマーゲイは字が読めるですね?」

プリンセス 「少しだけね」

マーゲイ  「かばんさんのようにはいきませんが、多少は」

助 手   「この本を貸してあげるのです」

 助手が机に数冊の本を置いた。

『デジタル一眼レフ入門』『ヒコーキ写真の撮り方』『デジカメ撮影テクニック 初級編』……。

オオカミ  「なかなかむずかしい本をもってきたな」

コウテイ  「これ、読むだけでたいへんだぞ?」

 プリンセスとマーゲイが本を手に取って、ページをパラパラとめくった。

プリンセス 「もう頭が痛くなってきたわ……」

マーゲイ  「専門用語や漢字が多くてほとんど読めないですね……」

ジェーン  「はかせたちはこれをぜんぶ理解しているのですね。すごいです」

はかせ   「あ、あたりまえなのです。われわれはかしこいので」

助 手   「カメラの使い方はあなたたちで勉強するのです。われわれはかしこいので」

イワビー  「理解してねーぜ……」

フルル   「これかっこいいなー」

 フルルが見ていた『ヒコーキ写真の撮り方』のページには、ジェット戦闘機が背中を見せて急旋回している写真があった。戦闘機の背景は青空で、くっきりした雲が散らばっていた。

オオカミ  「そう、その感覚が大事なんだ。本の解説なんか参考程度でいいんだよ。どんな写真が撮りたいのか、それが決まったら……いや、決まらなくてもいい。いい写真が撮りたいなら、とにかく撮って、撮って、撮りまくること。そして撮った中からいい写真を探し出すんだ。シャッターチャンスといい写真を見つける感覚が一番大事なんだよ。……そうですよね、はかせ」

はかせ   「その通りなのです。知識や技術は、あとからついてくるものなのです。本の解説よりも、自分の経験と工夫なのです」

助 手   「少し乱暴な考えかたのような気もしますが、間違いないでしょうね。加えて、本のなかに好きな写真を見つけたら、どんな撮り方をしたのか考えてみるのもいいでしょう」

オオカミ  「同じような写真が撮りたい仲間がいたら、撮り方を教え合うのもいいね。そのあたりは、絵を描くことに似ているね」※1

コウテイ  「しかし、その理屈だと習得するのに時間がかかるな」

ジェーン  「初飛行の日までは、どのくらい時間があるのでしょう?」

オオカミ  「まだはっきりとはわからないけど、二か月くらいだろうね」

プリンセス 「長いのか短いのかわからないわね」

マーゲイ  「レッスンの合間をぬって、なのであまり練習できないですね。途中でライブの予定が入るはずですし、移動の時間もありますよ」

イワビー  「どーすんだよ? 本番は失敗できねーぞ?」

オオカミ  「心配ないよ。エプロンからわたしがスケッチをするから、写真のほうは失敗してもかまわないよ。それに、バックアップとしてビデオカメラがあるんだ」

マーゲイ  「そんなものまであるんですか!?」

オオカミ  「今までほとんど使ってなかったけど、カメラケースの中にあったんだよ」

プリンセス 「びでお、かめら?」

イワビー  「またわかんねーことばが出てきたぜ」

オオカミ  「最初に練習できる日はいつかな?」

マーゲイ  「ちょっと考えてみます。たぶん、近日中には可能かと」

ジェーン  「カメラ、むずかしそうですね……」

フルル   「飛行機よりはかんたんだよ」

イワビー  「いや、おまえやったことないだろ」

 

 

 飛行場のそばの砂浜。

 

 コウテイが望遠ズームレンズ付きのデジタル一眼レフカメラを、マーゲイがビデオカメラ ※2 を海に向けて構えていた。海上を、モデルのトキとショウジョウトキが編隊を組んで、右から左へ通過した。コウテイとマーゲイがカメラを振った。

コウテイ  「見えない。どこだ?」

 カメラのファインダー内には空しか見えなかった。カメラのシャッター音がした。コウテイがファインダーから目を離し、肉眼でトキとショウジョウトキをちらりと見て、再びファインダーをのぞいたが、飛んでいたふたりは目の前を通過して遠くへ行ってしまった。

 カメラの液晶画面には、空だけが写った写真が表示されていた。

マーゲイ  「コウテイさん、はじめてなんですから、そう気を落とさずに……あれ?」

 コウテイは白目をむいて気絶していた。

イワビー  「緊張しすぎだぜ……」

 オオカミが左を見ると、トキとショウジョウトキがPPPのメンバーたちのもとへ戻ってくるところだった。オオカミがふたりを見上げた。

オオカミ  「また同じ動きをたのむよ」

 今度はプリンセスがカメラを構えた。さっきと同じように、海上をトキとショウジョウトキの編隊が通過した。カメラの連写音がした。

 カメラのファインダー内に、一瞬ふたりの姿が見えたが、すぐにフレームの外へ出ていき、空しか見えなくなった。

プリンセス 「えっ! どこ行ったの!?」

 カメラの液晶画面で写真を確認すると、トキとショウジョウトキの足だけが画面の左端に写っていた。

プリンセス 「うまくいかないものね」

オオカミ  「望遠レンズは視野が狭いから、被写体をとらえるのが難しいんだよ。とらえられても、一度見失うととらえ直すのはむずかしい。わたしも最初は苦労したよ」

 今度はジェーンが編隊を撮影した。

ジェーン  「失敗しちゃいました……」

 ジェーンの撮った写真は、ふたりが豆粒のように小さく写った写真に始まり、続いて大きすぎてふたりが画面からはみ出した写真があり、遠ざかって小さくなってしまった写真で終わっていた。

マーゲイ  「遠くから飛んできて、目の前を過ぎるとすぐにちいさくなりますから、ズームを使ってもシャッターチャンスは短いんですね……」

 再び編隊が目の前を通過した。

イワビー  「撮れたぜ!」

 イワビーが撮った写真は、トキとショウジョウトキの頭が見切れていたり、足が見切れていたり、大きく写りすぎてはみ出していたり、小さすぎてしまったりした。その中の1枚だけ、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで、画面中央に写っているものがあった。

フルル   「大きくしてみて」

マーゲイ  「フルルさん、それは……」

オオカミ  「それはちょっといじわるかな」

ジェーン  「これは、ぼやけてるんですか?」

 写真を拡大すると、トキとショウジョウトキの姿がぶれていた。

イワビー  「…………」

コウテイ  「たしかにいじわるだな……」

プリンセス 「この子はなんでそんなことがわかるの?」

オオカミ  「これは、ふたりを必死で追ったけど、スムーズに追えなかったんだね。動くものをぶれないように撮るためには、被写体をファインダーの同じ位置にとらえ続ける必要があるんだ。そのためには、被写体をしっかりと見つめる、というのが大切なんだよ」

ジェーン  「前後の写真を見ると、不安定なのがわかりますね」

イワビー  「思ったよりむずかしいぜ、これ」

オオカミ  「シャッタースピードはいくつになっているかな?」

イワビー  「わかんねーよ」

 マーゲイがカメラの液晶パネルを覗き込んだ。

マーゲイ  「500分の1ですね。シャッター優先で1000分の1くらいにしましょうか?」

オオカミ  「いや、絞りを開放に固定して撮った方がいいんじゃないかな」

コウテイ  「このふたりはなんの話をしてるんだ?」

 イワビーが再び撮影を行い、撮った写真を確認すると、連写して16枚撮影した中に、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで写っていたものが4枚あった。そのうち、ぶれの少なかったものは1枚だけだった。

イワビー  「だめだー成功率が低すぎる!」

ジェーン  「やはりみなさんこういう細かい操作はにがてなんですね……」

オオカミ  「多少のぶれは仕方がないよ。あまり気にせず撮ればいい」

コウテイ  「緊張しすぎると体の動きがかたくなっちゃうのね。踊りとおなじだわ」

 トキとショウジョウトキが海岸に戻り、ゆっくりと降下してきた。

 プリンセスがトキとショウジョウトキを見上げた。

プリンセス 「ふたりともー! つぎはこれを持って飛んでくれる?」

 今度はフルルがカメラを構えて、トキとショウジョウトキの編隊を撮影した。撮った写真を確認すると、3回連写して合計18枚撮影した中に、編隊が見切れておらず、ほど良い大きさで写っていた写真が12枚あり、そのうちの10枚はぶれがほとんどなかった。

オオカミ  「おどろいたな。でも……」

 トキとショウジョウトキの手にはジャパリまんが握られていた。

オオカミ  「なぜジャパリまんを持たせたんだ?」

プリンセス 「オオカミが、しっかりと見つめるのが大切、って言ってたから」

イワビー  「エサで釣ったのかよ!」

コウテイ  「みごとにフルルの潜在能力を引きだしているな」

ジェーン  「フルルさんはこういう機械の操作が得意なんでしょうか?」

 マーゲイがカメラを見た。

マーゲイ  「あれ? シャッター優先になってますね……。設定変えましたか? ……ええ! 250分の1!?」

プリンセス 「なんでそんなに驚くのよ?」

オオカミ  「400mmの手持ちでシャッタースピードが250分の1、というのはかなりぶれやすい。はじめてでこの成功率は驚異的なんだよ。でも、なんでこんなに遅くしたんだ?」

フルル   「あの写真みたいにしたいから」

プリンセス 「あの写真?」

 フルルが、カメラケースの上に置いてあった、『ヒコーキ写真の撮り方』を手に取って開いた。

 そのページにあった写真の飛行機は4発のプロペラ機で、高速回転するプロペラがぶれて写っていた。

オオカミ  「プロペラを意識して撮ったのか……」

ジェーン  「プロペラって、これですよね。撮り方でなにか変わるんですか?」

 ジェーンが写真のプロペラを指差した。

オオカミ  「この写真はプロペラがぶれていて、回っているかんじがするだろう? 早いシャッタースピードだと、これが止まってしまうんだよ」

コウテイ  「でもあのふたりにプロペラはないだろ? なんでフルルはそんな撮り方をしたんだ?」

フルル   「練習だからだよ」

マーゲイ  「練習だからって、いきなりこんなむずかしいことを……」

イワビー  「よくわかんねーけど、フルルがすごいってことだけはわかったぜ」

 

プリンセス 「ほんとうに、この子にはかなわないわね」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 飛行場の撮影ポイントに行くと、同じように写真を撮っている方に出会うことがあります。こういった方は、飛行機のことも、写真のことも詳しいです。情報交換するのも楽しいです。同じような写真を目指していると、同じことを考え、同じ場所に行くので、別の飛行場で再会する、なんてこともあります。

 

※2 マーゲイがビデオカメラで撮影した動画は、撮ったその場で確認したときはきれい撮れているように見えましたが、あとでロッジの管理用端末で再生したところ、手ぶれがひどいことが分かりました。

 筆者の撮影は基本ひとりなので、デジタル一眼レフのアクセサリーシューに、小型ボールヘッド付きアームを介してビデオカメラを取り付け、一眼とビデオの光軸を合わせ、静止画と動画を同時に撮影しています。このやり方だとビデオのズームの操作ができないうえに、液晶画面を見ないで撮影するので、撮ったものを見るまではどうなっているのかわからないです。写真がメインで動画はおまけ、と考えています。

 

 

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