ひこうじょう PPP編   作:くにむらせいじ

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第6話「離陸」

 初飛行の日。飛行場のそばの砂浜。空には少し雲があったが、快晴だった。

 

 サングラスとマスク、それに加えて灰色の長いコートを着たPPPのメンバーとマーゲイが、林の中の細い道から砂浜に現れた。

イワビー  「だれもいねーな……」

コウテイ  「はあ、はあ……。みんな飛行場のほうへ行っているんだろう……。あとは、海の上だ……」

 コウテイが海を見ると、少し離れた所にイルカやクジラなどの海獣のフレンズたちが浮かんでいて、飛行場を見ていた。

ジェーン  「わたしたちと同じことを考える子もいるんですね」

プリンセス 「やっぱり意味ないわよこの変装……。それに、すごく蒸し暑いわ……」

フルル   「ジャパリまんいっぱい隠せるよー」 ※1

 フルルがコートを広げると、中に隠してあった小さなバッグや、内ポケットにたくさんのジャパリまんが入っていた。内ポケットの数が異様に多かった。

イワビー  「隠してどーすんだよ! なんでお前だけそんなにポケットがあるんだ?」

コウテイ  「……取っていいか? ……暑くてもう限界だ……」

マーゲイ  「だめです! 海に入るまでは付けていてください」

 林の中からがさごそと音が近づいてきた。

コウテイ  「この音は……」

イワビー  「だぜ……」

ジャイアント「よっ!」

 林の中からジャイアントペンギンが現れた。

フルル   「ジャイアントせ……もごっ」

 プリンセスが、フルルの口をマスクの上からおさえた。

マーゲイ  「えっと、どちらさまでしょう?」

ジャイアント「おまえらよくそんな暑苦しい恰好してられるなー。コウテイが死にそうだぞ」 ※2

プリンセス 「またバレてるじゃない!」

コウテイ  「このひとの前で隠し事は通用しないんだな……」

ジャイアント「しっしっしっ……。だれも見てないし、そんなもん脱げよ」

マーゲイ  「……もう変装はいいでしょう……」

 PPPのメンバーは変装を解いた。

ジャイアント「ちょっとだけアドバイスだ。飛行機はけっこうスピードが早いから、支えてるやつも協力してがんばって追えよな。緊張してかたくなると見失うぞ。パイロットも無茶しそうだから気をつけろ。飛行機を追うのに夢中になって、太陽を見るなよ」

フルル   「気をつけるよー」

プリンセス 「パイロットが無茶しそう?」

イワビー  「なんかいやな予感がするぜ……」

ジャイアント「あと、運が良ければあいつに会えるかもな。……というかそこにいるな」

マーゲイ  「あいつ?」

コウテイ  「ここに、いる?」

ジェーン  「なんのことですか?」

フルル   「気にしちゃだめだよ」

プリンセス 「そうね」

イワビー  「余計気になるじゃねーか……」

ジャイアント「じゃーな。カメラ海に落とすなよ。絶対に落とすなよ。フリじゃないぞ」

ジェーン  「落としませんよ! 怖いこと言わないでください!」

 ジャイアントは飛行場の方へ去っていった。

コウテイ  「あのひとも初飛行を見に来たんだろうか?」

プリンセス 「気にしても、しかたないわ……」

 

 飛行場の方から飛行機のエンジンスタートの音が聞こえてきた。

マーゲイ  「時間通りですね」 ※3

プリンセス 「いくわよ! ここはフルルが!」

フルル   「え? え?」

コウテイ  「掛け声だ」

フルル   「おー」

イワビー  「そうじゃねーよ!」

ジェーン  「フルルさん、なんでもいいですから、気合を入れるような言葉を」

フルル   「……えっと、とーるぞー」

一同    「おー!」

 

 

 初飛行のメンバーは以下の通り。

 

・ 機  長 : ツチノコ

・ 副操縦士 : キタキツネ

・ 機上整備員: アメリカビーバー・オグロプレーリードッグ

・ 付き添い : ギンギツネ

・ チェイサー(随伴機): トキ・ショウジョウトキ

・ 管  制 : アフリカオオコノハズク(はかせ)・ワシミミズク(助手)

・ 地上整備員・記録係(エプロン側): タイリクオオカミ

・ 地上整備員・マーシャラー    : ハシビロコウ

・ 記録係(海側): フルル (写真撮影)・イワビー・プリンセス(フルルのサポート)

           ジェーン(動画撮影)・コウテイ(ジェーンのサポート)

 

 

 海上。

 

 PPPのメンバーが、海上で立ち泳ぎして待機していた。そこは、滑走路を挟んでエプロンの真正面で、少し飛行場から離れた位置だった。低い防波堤があるため、エプロンにいる観客はほとんど見えなかったが、管制塔と、格納庫と、高い所にいる鳥のフレンズが見えた。そのほかの背景は、林と山と空だった。イルカやクジラなどの海獣のフレンズたちは、PPPのメンバーよりも前の、飛行場に近い位置に浮かんでいた。※4 PPPのメンバーは、今までと同じく、プリンセスとイワビーがフルルを両脇から支え、コウテイがジェーンを後ろから抱く形で支える、という形で組んだ。弱い波があり、PPPのメンバーは少し上下に揺れていた。エプロンには飛行機が駐機しており、二つのプロペラを回していたが、脚まわりが防波堤に隠れて見えなかった。

イワビー  「まだ動かねーのか?」

コウテイ  「いつも以上に慎重だな」

ジェーン  「初飛行ですから、無理もないですよ」

 ジェーンが、ビデオカメラの液晶画面を開き、電源を入れた。

プリンセス 「動いた!」

 フルルがデジタル一眼レフを構えた。フルルは、カメラのストラップを首にかけていた。ジェーンがビデオカメラを構えて、録画を開始した。

 デジタル一眼レフのファインダーに、ゆっくりと滑走路へ向けてタキシングしていく飛行機の姿が映った。数回シャッターが切られた。飛行機は滑走路に乗り、ゆっくりと滑走路の端へ移動していった。滑走路の端に着くと、ゆっくりと向きを変えていき、一瞬カメラに正面を向けた。カメラの連写音がした。飛行機が滑走路の離陸方向へ機首を向け、止まった。※5

 

 プロペラの音が変わり、大きくなった。飛行機が左のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。一瞬静かになり、再びプロペラの音が大きくなった。飛行機が右のエンジンの出力を上げ、すぐに落とした。再び静かになり、アイドリングの音が響いた。

 

 フルルがカメラを少し上へ向けた。飛行機の上には、チェイサーの、トキとショウジョウトキが浮かんでいた。フルルがカメラを飛行場の方に向けた。そちらには、はかせと助手が浮かんでいて、はかせが緑色の巨大な旗を下げていた。フルルはファインダーごしに、ジェーンはカメラの液晶画面ごしに、ほかの三人は肉眼で、それを見つめた。

 

 アイドリングの音が長く続いた。

 

 はかせが緑色の旗を上げた。

 

 フルルとジェーンがカメラを飛行機に向けた。

 

 飛行機のプロペラの音が変わり、大きくなった。飛行機が動き始めた。飛行機は徐々に加速していった。

 フルルとジェーンがカメラを横に振った。飛行機はさらに加速していき、機首を上げた。カメラの連写音がした。

 

 飛行機の主脚が、路面から離れた。

 

プリンセス&イワビー&コウテイ「飛んだー!!」

 

 やや急角度で上昇していく飛行機を、フルルとジェーンは無言で撮り続けた。ふたりを支えるPPPのメンバーは、ゆっくりと飛行機の方に向きを変えつつ、波に耐えた。

 飛行機が少し不安定に揺れながら遠ざかっていき、点のように小さくなると、同じように点のように小さくなったチェイサーのふたりが、飛行機に追いつくのが見えた。フルルはファインダーから目を離し、海面にカメラをつけないように少し腕をおろして、飛行機が飛び去ったほうを見つめた。ジェーンは録画を止め、少し腕をおろした。

フルル   「とんだ……」

プリンセス 「とうとうやったわね!」

イワビー  「すげー速さだったぜ……」

ジェーン  「息が止まるかと思いました……」

コウテイ  「緊張した……」

ジェーン  「コウテイさん、気絶しませんでしたね」

コウテイ  「海の上で気絶したら死ぬだろう」

イワビー  「フルル! 写真を見せろよ!」

 フルルが持つデジタル一眼レフの液晶画面に、離陸の様子をおさめた写真が表示された。失敗写真もあったが、おおむね成功していた。

イワビー  「さすがフルルだぜ!」

プリンセス 「やっぱりすごいわ!」

コウテイ  「ジェーンのほうはどうだ?」

 ジェーンが持つビデオカメラに、離陸の様子の動画が表示された。それはしっかりフレームに収まっていた。

ジェーン  「大きい画面で見てみないとわかりませんが、うまくいったみたいです」

コウテイ  「みんなで見るのが楽しみだな」

 PPPのメンバー全員が、飛行機の飛び去ったほうを見つめた。飛行機は、かろうじて肉眼で見えた。

ジェーン  「上がるとき、ちょっとふらついてましたね。……だいじょうぶでしょうか?」

 フルルがカメラを構えた。ファインダーに、遠ざかりながら軽く左右に旋回を繰り返す飛行機の姿が見えた。

フルル   「練習してるね」

コウテイ  「予定通りだな」

プリンセス 「とりあえずひと安心、てことね」

フルル   「旋回してるよ」

 望遠レンズ越しに見える飛行機が、ゆるい旋回を始めた。飛行機はゆっくりとUターンして、進路をこちらに向けようとした。

 突然、飛行機が、ガクンと、右に大きく傾いた。

フルル   「かたむいた」

コウテイ  「どうした? なにがあったんだ?」

フルル   「こわれちゃったかも」

フルル以外 「こわれたー!?」

プリンセス 「フルル!! どうなってるの!?」

フルル   「もどった……」

 ジェーンが、ビデオカメラを望遠側にズーミングした。

ジェーン  「高度が下がってますね……」

フルル   「ふらふらしてる」

イワビー  「やべえよ! 落ちるぜ!」

フルル   「よくみえない……海の上、すべって、る?」

イワビー  「飛行機が海の上をすべるってどういうことだよ!」

プリンセス 「きっとそういう訓練なのよ!」

 プリンセスが、若干無理やりに笑顔を作った。

コウテイ  「そんなの予定になかったぞ?」

 

 

 10分ほど経過。

 

イワビー  「すぐに戻るんじゃなかったのか?」

フルル   「ずっと低いまま…………赤いのが飛んでる……」

 飛行機のいるあたりから、赤い点が見えて、徐々に大きくなってきた。

 飛行機が上昇した。

フルル   「あがった」

ジェーン  「ショウジョウトキさん? が、向かってきますね……。あれ? 下になにかありますよ」

フルル   「プレーリーだね」

プリンセス 「プレーリーは、中にいたんじゃないの?」

イワビー  「意味わかんねーよ! なんでふたりが戻ってくるんだ!?」

コウテイ  「なにかすごいトラブルがあったのか?」

 

 ショウジョウトキがプレーリーを抱いて、管制塔の方へ飛んでいった。

 

 フルルがデジタル一眼レフで、ジェーンがビデオカメラで、ショウジョウトキ+プレーリーを撮影した。

フルル   「ちいさい」

 

 ショウジョウトキは、プレーリーを管制塔の屋上に降ろして、飛行機の方へ戻っていった。

 

 

 しばらくして、飛行機が戻ってきた。飛行機を中心に、トキが左側、ショウジョウトキが右側についた、3機編隊になっていた。

 

フルル   「もどってくるね」

 飛行機の姿が徐々に大きくなってきた。大きさが変わっているほかはあまり変化がなく、飛行機は止まっているように見えた。

 フルルがファインダーから目を離し、飛行機を見つめた。やがて肉眼でも翼や二つのプロペラがはっきりと見えるようになった。ジェーンがビデオカメラを飛行機の方に向けて、望遠側へズーミングした。

ジェーン  「安定していますね。あれ? 足が上がってますか?」

 フルルもカメラを構えて飛行機の方に向けた。

フルル   「足が上がってるね」

コウテイ  「足は上げないんじゃなかったか?」 ※6

プリンセス 「余裕があったからテストしたんでしょう」

 飛行機は少し高度を下げて近づいてきた。数回シャッター音がした。

フルル   「下りないみたい」

イワビー  「通過するのか? シャッターチャンスだぜ!」

プリンセス 「ファンサービスね!」

ジェーン  「2、3回やってくれるとうれしいんですけど」

フルル   「アンコール!」

イワビー  「アンコールはまだはえーよ! …………なんだ?」

 プロペラの音が大きくなった。飛行機が加速し、急速に近づいてきた。

 

フルル   「速くなってる」

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 フンボルトペンギンは比較的暑さに強いようです。

 

※2 暑い地方に生息するペンギンもいるようですが、コウテイペンギンはさすがにつらいんじゃないかと思います。マーゲイは暑さに強いので、そのあたりがあまり理解できていませんでした。

 

※3 マーゲイは時計を持っていませんが、太陽の位置+体内時計で時間をはかっています。

 

※4 PPPのメンバーが、の海獣のフレンズたちより後方に位置取りした理由は、

・ 防波堤に近い位置だと防波堤が邪魔で地上にいる飛行機が見えにくいため。

・ 滑走路に近いと滑走路上を飛行する飛行機を見上げる感じになってしまい、写真映えが良くない(そういう写真もありだと思いますが)ため。

・ 飛行機が不意な動きをした場合でも、順光側にいられるため。

・ 望遠レンズがあるので多少引いた位置でも問題ないため。

  です。

 PPPのメンバーは、事前の練習でこれらがわかっていたため、飛行場から少し離れた、後方に位置取りしました。海獣のフレンズたちは、飛行場に近いほうが見やすいと考えて、前の方に位置取りしました。

 

※5 この飛行場には滑走路と平行にのびる誘導路が無く、エプロンと滑走路が直結しています。離陸する飛行機はエプロンを出てすぐに滑走路に乗り、滑走路上をタキシングして滑走路の端まで移動し、Uターンして離陸します。着陸はその逆になります。

 

※6 新型機の初飛行ではランディングギア(脚)を下げたまま飛ぶことが多いようです(下りなくなったら困るので)。ただ今回は本当の初飛行ではなく、レストア後の初飛行で、そういう場合に脚の上げ下げをどうするのかは知識不足でわかりません(機種などの条件によって違うかも)。このおはなしでは、ツチノコとビーバーが慎重だったため、脚を上げない予定だった、ということにしています。

 




 第6話「離陸」 あとがき

 読んでいただきありがとうございます。

 第6話のサブタイトルは当初、「スポッターズ」でしたが、それは何か違う、それにわかりにくい、と思ったので、シンプルに「離陸」にしました。

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