フルル 「速くなってる」
プリンセス 「追うわよ!」
飛行機が、PPPのメンバーの真上近くで機体を傾け、背中を見せて右に急旋回をはじめた。
フルルがカメラを振って、それを追った。カメラのシャッターの連写音が鳴り続けた。PPPのメンバーは、飛行機の旋回円の内側で、旋回の中心から少し外れた位置にいた。
ジェーン 「あっ!」
ジェーンのビデオカメラの液晶画面から、飛行機がいなくなった。 コウテイがジェーンの体を抱いたまま回転して、飛行機を追うのを助けたが、追い切れなかった。
コウテイ 「だめか!」
一方のフルルたち三人は、海上で一体となって回転して、飛行機を追い続けた。
飛行機は360度旋回すると、ちょうど飛行場のエプロンの前、PPPのメンバーのほぼ真上で切り返し、今度は左にに急旋回を始めた。
フルルはカメラを上に向けた。
フルル 「はずれた!」
フルルのカメラのファインダーから飛行機が出ていって、空だけが映った。フルルはいったんファインダーから目を離し、ちらりと飛行機を見て、再びファインダーをのぞいた。飛行機が旋回を終え、遠くへ上昇していくのが見えた。
イワビー 「なんだよいまの!」
プリンセス 「過剰なファンサービスね……」
フルル 「あれはキタキツネだよ」
コウテイ 「パイロットが交代したのか」
ジェーン 「戻ってきますよ!」
飛行機が降下しながら戻ってきた。
飛行機の両エンジンの排気管から、光の粒と、虹色に輝く四角い泡のようなものが噴き出した。
コウテイ 「なんだあれは!?」
ジェーン 「サンドスターです!」
イワビー 「まじかよ!」
飛行機が、スモーク代わりのサンドスター ※2 を引きながら、飛行場の近くへ差し掛かった。
フルル 「旋回するね」
プリンセス 「つぎはうまくやるわよ!」
飛行機が、左に急旋回を始めた。先ほどとは逆の動きだが、傾きは90度に近く、旋回半径が小さかった。翼端からベイパー ※1 が発生し、白い筋状の軌跡を引いた。筋状のベイパーは長くのびず、すぐに消えていった。主翼の上面にもわずかにベイパーが発生したが、機体が白いためはっきりとは見えなかった。2本のサンドスターの航跡は、ベイパーとは違って、長く空に残った。
フルルがカメラを振って飛行機を追った。プリンセスとイワビーがそれを支えながら向きを変えて、フルルの撮影を助けた。シャッターの連写音が鳴り続けた。
飛行機が360度の旋回を終え、飛行場の前で切り返して右へ旋回した。
フルルのカメラのファインダーには、機首を右に向けた飛行機の背中が映し出され、背景の雲が高速で横に流れていた。両エンジンの排気管からは、サンドスターが噴き出し続けていた。シャッターの連写音が、断続的に鳴り続けた。
飛行機はそのまま左旋回を続け、ベイパーとサンドスターを引きながら、らせんを描いて上昇していった。
PPPのメンバーは飛行機の旋回円の内側にいたため、フルルたち三人と、ジェーンとコウテイのペアはその場でぐるぐると回転した。
フルル 「めがまわるー」
イワビー 「もう無理だぜ!」
プリンセス 「……終わった?」
飛行機が旋回上昇を終え、直線飛行に移った。サンドスターの噴射が止まった。
縦のらせん状になったサンドスターが、キラキラと光りながら、ゆっくりと空に溶けていった。
ジェーン 「コウテイさん!」
コウテイ 「…………」
コウテイはジェーンから手を離し、気絶していた。しかしなぜか彼女は直立姿勢を維持して浮かんでいた。
飛行機が、再び降下してきた。サンドスターの噴射が再開。降下により加速した飛行機が上昇に転じ、垂直上昇、を通り越して背面になり、そのままの勢いで降下に転じ、上昇を始めた所に戻って、PPPのメンバーの真上近くで、垂直の円を描いた。
プリンセス 「……宙返り?」
イワビー 「フルル、今の撮れたか?」
フルル 「ちいさかった」
サンドスターの噴射が止まり、飛行機が再度上昇していった。
ジェーン 「すみません! こっちはあきらめます!」
ジェーンが、コウテイが持っていた防水袋にビデオカメラを入れ、波に揺られていたコウテイの体に抱きついて安定させた。
飛行機が反転して、滑走路に向けて急降下してきた。
プリンセス 「また来るわよ!」
サンドスターの噴射が再開した。
飛行機が、海側から見て右から左へ、滑走路上を低空で通過しつつ、エプロンの前でグルグルと右回りに2回連続ロール(横転)して、すぐに回転方向を変えて、左回りに2回連続ロールした。シャッターの連写音がした。
イワビー 「おおお!」
フルル 「かっこいー」
プリンセス 「むちゃくちゃするわね……」
飛行機は、サンドスターの噴射を止めてまた上昇した。
ジェーン 「ビデオ向きだったんですけど……」
飛行機が、クイックに反転して降下。サンドスターの噴射をスタートした。
そして、海側から見て左から右へ、滑走路上を通過。通過しながら、水平 → 90度横倒し(背中見せ)→ 背面 → 横倒し(腹見せ)→ 水平と、90度ずつ一時停止しながらのロールを行った。(
プリンセス 「今の! よかったんじゃない!?」
フルル 「いいかんじー」
飛行機は、サンドスターの噴射を止めてまた上昇。反転して降下。サンドスター噴射スタート。
そして、海側に背中を見せるように、90度横倒しになった。機首は少し上を向いていた。
プリンセス 「背中よ!」
イワビー 「シャッターチャンスだぜ!」
飛行機が背中を見せて、90度横倒しのまま、海側から見て右から左へ、滑走路上を通過。
(ナイフエッジ・パス)
フルル 「おいしー」
飛行機は、サンドスターの噴射を止めて上昇した。
ジェーン 「なんで背中をこっちに向けたんでしょう?」
飛行機は、反転して降下。サンドスター噴射スタート。海側に腹を見せる向きで、90度横倒しになった。
イワビー 「またくるぜ!」
プリンセス 「おなか?」
飛行機が腹を見せて、90度横倒しのまま、海側から見て左から右へ、滑走路上を通過。
フルル 「これもおいしー」
サンドスターの噴射が止まり、飛行機がまた上昇した。
ジェーン 「海と陸に、うらおもてを両方見せた、ってことですね」
イワビー 「ファンサービスだぜ!」
プリンセス 「やるわねキタキツネ……。わかってるじゃない」
飛行機は、やや緩い角度で、高高度へ上昇していった。
フルル 「たかーい」
プリンセス 「なんであんなに上がるの?」
ジェーン 「今までの感じだと、たぶん、急降下すると思います……」
飛行機は、十分に高度をとると、反転し、ゆるくS字に旋回して、飛行場近くまで戻ってきた。
イワビー 「デカいのが来るぜ!」
コウテイ 「……はっ!」
コウテイが意識を取り戻した。
飛行機が、飛行場前の海へ向かって急降下を始めた。
フルル 「はやーい」
イワビー 「海に突っ込むぞ!」
プリンセス 「はやく上げて!」
急降下していた飛行機が、低空で機首をガクンと引き起こして上昇に転じ、U字を描いた。“U字の底”で、飛行機の翼の上面から激しいベイパーが発生し、一瞬、飛行機がベイパーに包まれた。飛行機がロケットのように垂直に上昇した。上昇しながらドリルのように連続ロールを行った。
フルル 「花火みたいだねー」
プリンセス 「正しい例えね……」
飛行機のロールが遅くなり、同時に上昇速度が落ちていった。
イワビー 「あのときと同じだ! 失速するぞ!」
フルルは、カメラを真上に近い角度に向けていた。
フルル 「とまるね」
プロペラの音が静かになった。
プリンセス 「止まる?」
飛行機が一瞬、空中に停止した。
ジェーン 「止まった……」
イワビー 「止まったぜ……」
真上に投げた石が落ちるように、飛行機が機首を上に向けたまま後ろ向きに降下した。
コウテイ 「落ちた? 後退した?」
すぐに飛行機がくるりと回転し、機首を下に向けて降下を始めた。プロペラの音が戻った。
フルル 「キタキツネあいかわらずうまーい」
イワビー 「いや、そんなレベルじゃねーだろ……」
飛行機が不安定な回転を始め、海に向かって、ゆっくりと木の葉のように落ちていった。その動きは、ロールとスピンが混ざったような奇怪なものだった。降下するコースも直線ではなく、らせんとジグザグが混ざっていた。滅茶苦茶な方向に噴射されたサンドスターは、すじ状にならず、太く縦長の雲状に広がった。
ジェーン 「制御できてませんよ!」
コウテイ 「落ちるぞ!」
プリンセス 「あぶない!」
イワビー 「ダメだ!」
フルルは無言でカメラを飛行機に向け続け、シャッターを切った。
飛行機が海面近くで体勢を立てなおし、機首を引き起こし、海面に突入する寸前でわずかに上昇し、水平飛行に移った。
すぐに、飛行機が大きく右に機体を傾けて急旋回を始めた。PPPのメンバーからは飛行機の背中が見えた。シャッターの連写音がプロペラの音にかき消された。飛行機の右の翼端がかすかに海面に接触し、海面に白波を立てた。左の翼端からは筋状のベイパーが発生した。サンドスターの航跡が、海面近くに曲線を描いていった。
プリンセス 「向かってくる!」※3
飛行機がPPPのメンバーに一瞬正面を向けた。そしてPPPのメンバーの前を右から左へ、腹を見せて海面に白波を立てながら通過した。
PPP一同 「うわあっ!!」
PPPのメンバーは驚いて後方に倒れた。
フルルが、プリンセスとイワビーに引っ張られるかたちで後方へ倒れた。フルルの手からカメラが離れ、それはすぐに海に沈んだ。フルルの首にはカメラのストラップがかかっており、フルルはカメラにうしろ向きに首を引っ張られるように海に沈んだ。
プリンセス 「フルル!」
フルルは、首に絡まったストラップを両手で外そうとしたが、そのはずみと、フルルが水中で回転したことにより、カメラが水中で勢いよく回転し、ストラップがねじれてフルルの首を締め付けた。フルルの口から、ごぼ、と泡が海上に上がった。
イワビー 「やばい!」
ジェーン 「フルルさん!」
コウテイ 「追うぞ!」
フルルはカメラに引っ張られるように、逆さまに沈んでいった。
つづく
※1 ベイパー(ヴェイパー、べーパー)とは飛行機の周囲に発生する霧状のものです。飛行機のおこす気圧の低下により発生します。湿度が高い場所で、飛行機が激しい機動を行った際に発生しやすいです。今回は海上なので湿度が高く、ベイパーが発生しやすい条件でした。筋状になって後方に流れるものをベイパートレイルと呼ぶこともあります。これはあまり長く後方にのびず、すぐに消えてしまうことが多いです。回転するプロペラの、ブレードの先端から発生することもあります。似たものに飛行機雲(コントレイル)やアクロバット機のスモークがありますが、発生する原理が違います。
本当にキングエアC90からベイパーが出るのかはわかりません。そもそもこんな激しい機動を行うような飛行機ではありません。
※2 サンドスター噴射(スモーク)について説明します。
アクロバット機が出すスモークの代わりに、サンドスターを噴射しています。
飛行機の燃料タンクの一つに、サンドスターを混ぜた燃料が入れてありました。(サンドスタータンク)客席(前から1例目、右側)の下のレバーを引くことで、サンドスターを混ぜた燃料をエンジンへ送り込めるようになっています。サンドスターを混ぜた燃料をエンジンで燃やすと、一時的に推力が増します(謎のパワーアップ)。回転数アップよりも、排気による推力増加が大きいです。また、排気にサンドスターのキラキラが発生して、長く後方に流れます。すじ状になったサンドスターは、ゆっくりと広がって、風に流されながら、大気に溶けて消えていきます。線として見られる時間は、風などの条件によって違いますが、30秒くらいです。
※3 飛行機とPPPのメンバーの距離は少し離れていましたが、飛行機の見た目の迫力と音で、向かって来るように感じました。
第7話「機動」 あとがき
読んでいただきありがとうございます。
この機体(キングエアC90GT)でアクロバット飛行をするのはありえません。このおはなしでは、修復の過程で機体を改造したことと、キタキツネが天才すぎたため、ということにしています。正直に言うと、これらはアクロバット飛行をさせるための設定です。詳細は『通常版』に書いてあります。『PPP編』ではそのあたりが説明できていないのですが、『PPP編』ではそれほど重要なものではないことと、それを書くと『通常版』と重複するうえに、無駄に長くなってしまうため、書きませんでした。