ひこうじょう PPP編   作:くにむらせいじ

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第8話「着陸」

 PPPのメンバーが海に潜り、沈んでいくフルルを追った。

 ジェーンとイワビーがフルルに追いついた

ジェーンがフルルの体を支えて、イワビーがフルルの首に絡まったストラップを外そうとした。

だがねじれたストラップは思うように解けなかった。

イワビー  『ダメだ! とれねえ!』 ※1

 プリンセスとコウテイが追いついた。

コウテイ  『むりにやるとよけいに締まるぞ!』

プリンセス 『ここはわたしが! みんなはフルルを引き上げて!』

 頭を下にして潜ったコウテイが、フルルを背中から羽交い絞めにして、逆さまになっていたフルルの体を戻し、持ち上げた。ジェーンは、前からフルルの両足を抱いて持ち上げた。イワビーはカメラのレンズ部分をつかんで持ち上げた。フルルは薄く目をあけてぐったりとしていた。ジェーンがフルルの顔を見上げた。

ジェーン  『フルルさん! しっかりして!』

 プリンセスがフルルの首に絡まったストラップを外そうとしたが、うまくいかず、左手でカメラのボディをおさえて、右手で、ストラップの根本のカメラにつながっている部分を、思い切り引っ張った。

プリンセス 『おねがい! はずれて!』

 

 突然、何かが高速で向かって来た。色は白と黒で、泡を引いており、小さな魚雷のようだった。

 

フルル以外 『うわあっ!!』

 それは一瞬で、プリンセスの手の上を通り過ぎて、すぐに見えなくなった。

 カメラのストラップの根本が切れた。イワビーが、自信が驚いたことと、ストラップが切れた勢いで後方へ飛んで、フルルから離れた。

プリンセス 『切れた!』

 カメラが、イワビーの手から滑り落ちた。プリンセスがカメラを、押しのけるようにしてフルルから離した。彼女は、イワビーがカメラから手をはなしたことに気づいていなかった。

 プリンセスが、ストラップを引っ張ってフルルの首から外そうとしたが、ストラップはプリンセスの手をすり抜けた。カメラが落下し、ストラップがフルルの首からするりと外れた。

イワビー  『なんだ今の! ……おわっ、カメラが!』

 ストラップの切れたカメラが、海中深くへ沈んでいった。フルルがそれに気づいた。

フルル   『カメラ、カメラが……』

ジェーン  『フルルさん、息が!』

イワビー  『しまった……カメラを追うぞ!』

コウテイ  『カメラはもうあきらめろ! 上がるぞ!』

プリンセス 『フルルを頼んだわよ!』

 イワビーとプリンセスがカメラを追って、海中深くに潜っていった。

コウテイ  『やめろ!』

ジェーン  『だめです!』

 

 イワビーとプリンセスは薄暗い海底にたどり着いた。海底は急な斜面になっていた。

イワビー  『まずい、転がり落ちたかも』

プリンセス 『どこかに引っかかってない?』

 ふたりは海底の段差にカメラが引っかかっていないか探したが、見つからなかった。ふたりは徐々に深い所へ進んでいった。周囲はさらに暗くなっていった。

 イワビーが苦しそうな表情になった。

イワビー  『だめだ、深いぜ……。それに息が……。いったん上がるぞ……』

 イワビーが海底を離れた。だがプリンセスは海底から上がらなかった。

イワビー  『おい!! ついてこい!!』

 イワビーがプリンセスの手を取ろうとしたが、プリンセスはイワビーの体を上へ突き飛ばした。

イワビー  『ぐはっ!!』

プリンセス 『先に上がって! 穴があるわ!』

イワビー  『むちゃ……するんじゃ……ねえ! ……だめだ、もう無理……』

 イワビーが海面へ向け上がっていった。プリンセスは斜面を下り、さらに深く潜っていった。深い所に真っ暗な穴が開いていて、プリンセスはその穴の中へ入ろうとしたが、入り口で止まり、手で口をおさえて、顔をしかめた。ひどく苦しそうな表情だった。

 

 突然、何かが高速で穴の中から飛び出してきた。先ほどと同じ、白と黒のなにかだった。それはプリンセスの目の前を通り過ぎて、海上へ向かって行った。プリンセスは驚いてうしろ向きに飛び、穴から離れた。うしろ向きに飛んだプリンセスを、再び潜って来たコウテイ ※2 が、抱き留めて羽交い絞めにして、引き上げていった。

 

 

 海上。

 

 プリンセスとコウテイが海上に上がると、それをほかのメンバーが迎えた。

プリンセス 「ぶはっ!」

 コウテイは、プリンセスを羽交い絞めにしていた腕を離し、ぐったりとしたプリンセスを優しく抱いた。

プリンセス 「はあ、はあ、はあ……」

イワビー  「無茶しやがって……」

 イワビーが、疲れた様子でプリンセスの方を見た。

プリンセス 「はあ……。そっちも……きつそうじゃない……」

ジェーン  「急に上がりましたけど、大丈夫ですか?」

コウテイ  「からだは痛くないか?」

イワビー  「へーきだぜ」

プリンセス 「この程度で、ペンギンが、潜水病になったらお笑いだわ……」 ※3

フルル   「よかった……。あとでちゃんと診てもらってね」

イワビー  「ごめんなフルル、カメラ、落としちまって……」

プリンセス 「あれは、コウテイでも暗すぎて無理だわ……」

フルル   「いいよ、ぬれちゃったらもうだめだから」

プリンセス 「……たぶん、助けてくれたのよね。あのびゅーんってやつ。深い所にもいたのよ? なんだったのかしらね……」

 

フルル   「……あれー?」

 フルルが右腕を上げた。

PPP一同 「ええー!!」

 フルルの右腕には、カメラのストラップが巻き付いていた。その手は、沈んだはずのカメラの、グリップを握っていた。フルルが持ち上げたカメラから、水がしたたった。カメラにかぶせてあった、簡易の防水カバーの中には水がたまっていた。

 フルルが右腕からカメラのストラップをほどいた。ストラップの切れた部分と、カメラの金具が、紫色のやわらかいプラスチックの輪でつながっていた。

プリンセス 「むらさきの、腕輪?」

コウテイ  「識別票、だな」

ジェーン  「これって……あのひとですよね」

イワビー  「あいつ、粋なことするじゃねーか」

 フルルは、紫の腕輪を見つめた。

 

 プロペラの音が聞こえてきた。PPPのメンバー全員が音のした方を見ると、飛行機を中心に、トキが左側、ショウジョウトキが右側についた3機編隊が、滑走路上を右から左へ通過するところだった。

 

 3機からサンドスターが放出された。飛行機から2本と、左右のチェイサーから、合計4本のサンドスターの航跡が、空に引かれていった。

 

 フルルが反射的にカメラを構えたが、ファインダーをのぞいても、白っぽいぼやけたものしか見えずなかった。電源スイッチはONのままだったが、シャッターボタンを押してもカメラは無反応で、ファインダー内の表示も消えたままだった。フルルがファインダーから目を離すと、離した目から涙がこぼれた。フルルは3機編隊を見つめた。

 

 飛行機が大きく翼を振った。

 

フルル   「会いたいひとは、空じゃなくて、海にいたんだね」

 

 3機編隊が滑走路上を通過し終え、飛行機が翼を振るのをやめ、3機編隊が遠ざかっていった。

 サンドスターの噴射が止まった。

 

イワビー  「フルル、それはちがうぜ」

フルル   「え?」

コウテイ  「合っているが、ちょっとちがうな」

フルル   「え? え?」

ジェーン  「そうですね。ちがいますね」

フルル   「えーー!」

 

 3機編隊は、かろうじて飛行機の形がわかる大きさにまで、小さくなった。

 

プリンセス 「ちょっとこわい、いえ、うらやましいわね」

 フルルがプリンセスの方を見た。

フルル   「そっちのほうがうらやましいよ」

プリンセス 「え?」

 プリンセスが下を向き、自分を抱いているコウテイの腕を見て、顔を赤くした。コウテイは、いつの間にかプリンセスに体を密着させて、プリンセスを強く抱きしめて、あごをプリンセスの肩に乗せていた。プリンセスがコウテイの腕をつかんだ。

プリンセス 「ちょっと! もうだいじょうぶだから、はなしなさいよ!」

コウテイ  「あ、ああ、わるい」

 コウテイが顔を赤くして、プリンセスを放した。

ジェーン  「あっ! ビデオ撮るの忘れてました!」

 

 

 

 3機編隊が、左に旋回して戻ってきた。

 

プリンセス 「見えたわ!」

イワビー  「遠すぎてよくわかんねーよ」

 編隊が、遠くの海上を右から左に、滑走路と平行に直線飛行 ※5 しているが見えた。コウテイが、再びジェーンを後ろから支えた。コウテイが振り返って飛行場の方を見ると、助手が巨大な矢印のパネルを持って浮かんでいるのが見えた。矢印は左を向いていた。

コウテイ  「滑走路は変わっていないな」 ※6

 ジェーンがビデオカメラを飛行機に向けて、望遠側へズーミングすると、飛行機が脚を下げるのが見えた。

ジェーン  「足がおりました!」

フルル   「着陸するね」

 

 3機編隊がゆるやかに左に旋回して、滑走路に進路を合わせた。

 

 ジェーンが3機編隊をビデオカメラで追った。

 

 飛行機がゆっくりと高度を落としていき、着陸した。機体はバウンドせず、スムーズにに滑走路を走った。プロペラの音が大きくなり、飛行機は減速していき、すぐに静かになった。チェイサーのふたりは高度を保ったまま飛び、上から飛行機を見守りながら、滑走路上を通過した。

 

フルル   「きれいな着陸だね」

 PPPのメンバー全員が、飛行機を見つめていた。

プリンセス 「フルル、こんどはあなたの着陸が見たいわ」

 

 十分に減速した飛行機が、滑走路の端でゆっくりとUターンを始めた。

 

コウテイ  「……それは、中からか、外からか、どっちだ?」

ジェーン  「迷いますね」

イワビー  「両方見ればいいじゃねーか」

 

 

 

 初飛行翌日のロッジ。

 

 オオカミが、水没した一眼レフカメラの、内部に残った水を可能な限り抜いた。

 

 一眼レフカメラから抜いたメモリーカードを、オオカミが、軽く濡らした綿棒で掃除して、付着した塩分を除去していった。

 

 一眼レフカメラは、その後数日かけて乾燥させたが、電源を入れることも出来なかった。ファインダーをのぞいても、内部に残って固まった塩分が原因で、ほとんど何も見えなかった。分解修理は困難で、交換部品も無く、このカメラで再び写真を撮ることはできなかった。

 

 

 初飛行から数日後のロッジ。

 

 ロッジの管理用端末の前に、オオカミが座っていた。そのうしろにPPPのメンバーとマーゲイが立って、管理用端末のディスプレイの液晶画面を見つめていた。

 画面には、ジェーンが撮影した飛行機の離陸の動画が表示されていた。

プリンセス 「ちゃんと撮れてるじゃない」

マーゲイ  「ジェーンさんすごいです! コウテイさんのサポートも良かったのでしょう。さすがのチームワークです!」

 動画は細かいぶれがあったものの、きちんと飛行機をフレームにおさめて追っていた。

フルル   「ちょっとがたがたしてるね……もぐもぐ」

 フルルはジャパリまんを食べていた。

イワビー  「そういうこと言うなよ……。つーか食べてんじゃねーよ」

ジェーン  「緊張して手がふるえちゃいました……」

コウテイ  「あの悪条件でよくここまで撮ったな」

オオカミ  「すばらしいよ。資料的価値も高い。写真やスケッチでは、わからないこともあるからね」

 

 そのあと急旋回のシーンの動画が再生された。最初の急旋回の動画は、飛行機が直線飛行から機体を傾けて右に旋回を始めて、画面右に機首を向けた飛行機の背中が映り、すぐに飛行機がフレームから出ていって、ジェーンの「あっ!」という声が入って、しばらく不安定に揺れる空が映り、コウテイの「だめか!」という声が入って、カメラが下がって海が映って、動画が終わった。

プリンセス 「いきなりあんな動きされたら、ついていけないわよね」

マーゲイ  「でも飛行機が傾く動き、いいじゃないですか!そこが撮れただけで十分ですよ!」

 

 次の急旋回の動画は、飛行機が機体を90度近く傾けて左に急旋回を始めて、飛行機が画面左に機首を向けて背中を見せながら旋回をしていき、正面気味になってカメラに近づいてきて、カメラが真上を向いて、飛行機がフレームからはみ出し、切り返して旋回方向を変え、そのあとは飛行機が再びフレームに収まって、画面右に機首を向けて背中を見せて、背景の空が高速で流れ続けた。

イワビー  「すげーすげー、かっこいいぜ!」

 突然画面が大きく揺れて飛行機がいなくなり、カメラが下がって海が映り、ジェーンの「コウテイさん!」という声が入って、動画が終わった。

コウテイ  「わたしはここで気絶したんだな……。すまなかった」

ジェーン  「あれは仕方なかったですよ。緊張していたところにこの回転ですから」

フルル   「目がまわったね。おもしろかったよ」

プリンセス 「こんどぐるぐる回る振り付けをやってみない?」

コウテイ  「やめてくれ……」

 

 次の動画は着陸シーンだった。飛行機が脚を下げて、遠くでゆっくりと旋回し、滑走路に向かってゆっくりと下りてきて、着陸する一連の流れがしっかりと記録されていた。

オオカミ  「こちらも資料的価値が高いね。離陸と着陸の両方の動画が撮れたのは大きいよ。今後のフライトの参考になるね」

 

 最後の動画には、砂浜で楽しげにはしゃぐPPPのメンバーが映っていた。

イワビー  「こんなの撮ってたのかよ!」

ジェーン  「終わったあとね。ちょっとはずかしいわ……」

オオカミ  「みんないい表情だね」

コウテイ  「だれが撮ったんだ?」

ジェーン  「動きが激しいのに安定した画面ですね……」

プリンセス 「わたしは撮ってないわよ。……映ってるでしょ? ……さっきのはイワビー…… これはフルル……となりはグレープ……ジェーンもいる……うしろにいるのはコウテイね……」

 フルル以外全員が、マーゲイの方を見た。

マーゲイ  「……これは、PPPのPVに使おうと思って……」

フルル   「もぐもぐ」

 フルルは、ジャパリまんを食べながら画面を見つめていた。

 

オオカミ  「こんどはこっちを見てみよう」

 オオカミが、一眼レフカメラに挿入されていたメモリーカードをつまんで見せた。

 

 その場にいた全員が、それに注目した。

 

 

 

 つづく

 

 

 

 

 

 

 

※1 「じゃぱりまんがり」では水中で会話してるっぽいシーンがあるので、ペンギンのフレンズは、水中で会話できるようです。不思議です。

 

※2 コウテイペンギンの潜水能力は鳥類最高だそうです。

 

※3 フレンズの体は基本的にはヒトと同じ、という設定なので、潜水病(減圧症)になる可能性はあるかもしれません。今回は水深が比較的浅かったことと、それほど急激に引き上げたわけではなかったので、問題ありませんでした。

 

※5 「遠くの海上を右から左に、滑走路と平行に直線飛行」しているのは、飛行場のトラフィックパターンの、ダウンウィンド・レグです。滑走路の着陸側にまわるため、滑走路の使用方向とは逆方向(南から北)に飛んでいます。

 

※6 滑走路の使用方向は風向きによって変わります。基本的には向かい風で離着陸します。この場合は風向きが離陸時と変わっていなかったため、滑走路の使用方向も離陸時と同じでした。この時は南風で、滑走路番号は19でした。従って、初飛行は、北から南に向かって離陸して、滑走路の北側から侵入して着陸しました。

 

 

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