ひこうじょう PPP編   作:くにむらせいじ

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第9話「空と海」

 オオカミが、メモリーカードをカードリーダーに差した。

 

オオカミ  「生きていたんだよ」

 

 画像閲覧ソフトで、撮影データをサムネイル表示させると、全ての画像が表示された。※1

プリンセス 「生きてた……」

イワビー  「すげえ! ぜんぶ残ってるぜ!」

ジェーン  「奇跡ですね」

コウテイ  「あのひとのおかげだな」

マーゲイ  「よかったですが、みなさん、もうあんな危険なことはしないでください……」

フルル   「プリンセスのことは忘れないよ」

プリンセス 「死んでないわよ!」

 オオカミが写真を大きく表示させて、一枚ずつ送りながら見ていった。

 

 機首を上げて、離陸滑走中の飛行機の写真。

ジェーン  「こっちの離陸もいいじゃないですか!」

コウテイ  「スピード感が出ているな」

フルル   「ちょっとぶれちゃったね」

 

 ショウジョウトキが、プレーリーを抱いて飛んでいる写真。ふたりの姿は小さく写っていた。

マーゲイ  「なんですかこれ?」

フルル   「なんだかわからないけど、とったよ」

ジェーン  「プレーリーさん、機内にいたはずなのに、どうして戻ってきたんでしょう?」

プリンセス 「なにかトラブルがあったって聞いたわ」

オオカミ  「あれは、飛行中に故障がおきてね。プレーリーが外に出て修理したんだ」

PPP   「外に出て修理!?」

マーゲイ  「い、いつもの冗談ですよね? オオカミさん」

オオカミ  「冗談ならよかったんだけど、今回は本当なんだよ」

コウテイ  「あっちはあっちで大変だったんだな……」

イワビー  「死人がでなくてよかったぜ……」

 

 背中を見せて、ベイパーとサンドスターを引きながら旋回する飛行機。

イワビー  「かっこいいぜ!」

プリンセス 「あのぐるぐる回ったところね。よく撮れたわ」

コウテイ  「気絶したところだ……」

マーゲイ  「すごい枚数ですね……ずっと連写していたんですね」※2

 

 宙返りで急上昇していく飛行機の写真。そして一瞬の背面飛行の写真。

 サンドスターの航跡が、曲線を描いていた。※3

フルル   「これは小さいね」

プリンセス 「すぐに高くあがっちゃうから、むずかしかったわね」

マーゲイ  「トリミングすれば、いい写真になりますよ!」

 

 滑走路上での連続ロール。

フルル   「しっぱいしちゃった」

 連続ロール中の写真にはブレがあり、主翼の端が見切れたりしていた。

プリンセス 「動きが激しすぎたのね……」

マーゲイ  「シャッタースピードが遅いとむずかしいですよ」

コウテイ  「これは見られなかったな……」

 

 (フォー)ポイントロール(90度ずつ一時停止しながらの360度ロール)。

ジェーン  「逆さまになってます!」

イワビー  「これ、ほとんどブレてないぜ」

オオカミ  「ちょっと暗くするといいかもね」

フルル   「ビデオで見たかったなー」

コウテイ  「うっ!」

プリンセス 「言っちゃだめよフルル!」

 

 ナイフエッジ(90度横倒し飛行)の背中。

プリンセス 「背中、大きく撮れたわね。ピントもばっちり」

フルル   「ごちそうさまでした」

ジェーン  「操縦むずかしいですよ、これ」

イワビー  「どうやったらこんな飛び方ができるんだ?」

フルル   「かたっぽだけパワーをあげたみたい」※4

 

 急降下から急上昇に転じ、“U字の底”で飛行機がベイパーに包まれた瞬間の写真。

イワビー  「すげえ、あの瞬間撮れたのか!」

オオカミ  「一瞬のシャッターチャンスだったのに、きれいに撮れているね。さすがだよ」

 

 ロールしながら急上昇したあと、一瞬空中に停止した飛行機の写真。

プリンセス 「すごい動き、というかこれ止まってたわよね」

フルル   「これも小さいね」

オオカミ  「写真では、動きを説明するのがむずかしい時もあるんだね」

ジェーン  「ごめんなさい! ビデオが撮れれば良かったんですけど……」

コウテイ  「わたしのせいだ……」

オオカミ  「だいじょうぶだよ。スケッチにどういう動きをしたのか書き込んであるんだ」

 

 不安定に回転しながら、木の葉のよう降下していく飛行機の写真。

フルル   「ぶれぶれだね」

 写真に写った機体の向きはバラバラで、ブレが激しかった。

オオカミ  「これは、どうしてもぶれてしまうよ。ランダムな動きからね」

ジェーン  「怖かったですよね、これ」

イワビー  「マジで落ちるかと思ったぜ」

プリンセス 「よく立て直せたわよね」

フルル   「キタキツネはちゃんとコントロールしてたよ」

フルル以外 「ええー!!」

プリンセス 「この子が言うんだから、間違いないのね……」

ジェーン  「ギリギリで立て直せたのではなく、制御不能になっていなかったんですね……」

コウテイ  「それであんな奇怪な動きをしていたのか」

イワビー  「ばけものだぜ……」

 

キタキツネ 「ぼく、ばけもの?」

ギンギツネ 「ちょっと、お邪魔するわ」

 画面を見つめる7人が振り向くと、ギンギツネがいた。そのうしろにはキタキツネが隠れていて、顔をのぞかせていた。

イワビー  「おわあっ! ……ばけもの、じゃなくて、けものだぜ!」

コウテイ  「どうしたんだ? ふたりとも」

ギンギツネ 「隠れてないで、前へ出なさい」

 ギンギツネが振り向いて、キタキツネに前へ出るようにうながした。キタキツネがギンギツネの前へ出た。

キタキツネ 「……ごめんなさい……。ぼくのせいで……たいへんなことに……。プリンセスが、しんじゃって……」

プリンセス 「だから死んでないわよ!」

ギンギツネ 「あなたなに言ってるのよ……。ここにいるでしょう」

プリンセス 「謝らなくていいわ」

ジェーン  「あれは、わたしたちがびっくりしすぎちゃったんですよ」

コウテイ  「あとでイルカの子に聞いたんだが、わたしたちと飛行機は、けっこう離れていたそうだ」

イワビー  「迫力がありすぎてビビっちまったんだ」

 オオカミが振り返った。

オオカミ  「みんな緊張していて、飛行機の動きに集中していたから、実際より大きく見えたんじゃないかな」

プリンセス 「あなたはみんなを楽しませようとしたのよね。ファンサービス。エンターテイナーとして、一番大事なことよ。むしろ見習わなきゃいけないくらいだわ」

マーゲイ  「でも、楽しませるにしても、安全にやってほしいです……。ちょっと位置がずれていたら、と思うと……」

プリンセス 「マーゲイ!」

ギンギツネ 「キタキツネには、ぜんぶ見えていたんですって。そうでしょう?」

キタキツネ 「……海のうえに、みんながいたから、カメラ、もってたから……」

イワビー  「カメラ!?」

コウテイ  「そこまで見えていたのか!」

ジェーン  「こちらを見て、安全な距離を保って、あの動きをしたんですね……」

イワビー  「やっぱりばけも……のじゃなくて、けものだぜ!」

フルル   「あやまらなくていいよ」

プリンセス 「ちょっと遅かったわね……この子」

イワビー  「ちょっとじゃねーだろ……」

ジェーン  「遅くないですよ」

コウテイ  「そうだな。遅くない」

フルル   「あのときのキタキツネ、すごかった。かっこよかったよ」

キタキツネ 「ぼく、うまくできてた? きもちよかった?」

フルル   「すっごくきもちよかったー。いろんなことしてくれて」

キタキツネ 「いっしょに飛んだら、もっときもちいいよ。フルルとひとつになりたい」

フルル   「よこになってまっすぐ飛ぶの、やりかたおしえて」

キタキツネ 「いっぱいおしえてあげる。こんどはフルルがぼくをきもちよくしてね」

ギンギツネ 「あなたそのきもちいいって言うのやめなさい」

キタキツネ 「ギンギツネには強すぎたね。フルルとなら、もっとはげしいのもできるよ」

ギンギツネ 「あれ以上!? だめ! やさしくしなきゃだめよ!」

フルル   「はげしいのやりたーい!」

ギンギツネ 「わたしみたいに気絶しちゃうわよ! 足腰立たなくなっちゃうんだから!」

マーゲイ  「……いい…………」

 マーゲイが鼻血を垂らして倒れた。

プリンセス 「なんというか、その……」

 プリンセスは顔を赤くしていた。

 イワビーは、フルルとキタキツネを見た。

イワビー  「このふたり、似てるぜ……」

ジェーン  「PPPが飛ぶときのパイロットは、もう決まりですね」

コウテイ  「このふたりが一番安全だろうな。……ふつうに飛べば」

プリンセス 「ファンサービスは遠慮しておくから、ふつうに飛んでね?」

キタキツネ 「“ふつう”に飛んでいいの!? やった!」※5

フルル   「たのしみだねー」

 

オオカミ  「みんな、ちょっと画面を見てくれるかな」

 オオカミが振り返った。

キタキツネ 「ん?」

ジェーン  「そうでした! 途中でしたね」

プリンセス 「わすれてたわ……」

コウテイ  「マーゲイ、おきられるか?」

マーゲイ  「な、なんでしょう……」

 マーゲイが立ち上がった。

イワビー  「なんだ? すげーもんが見られんのか?」

フルル   「キタキツネもいっしょに見ようよ」

 その場にいた全員が、画面に注目した。

オオカミ  「キタキツネはいいところに来てくれたよ。これは、みんなに、特にふたりに見てもらいたいんだ」

 オオカミが画面に向き直って、マウスをクリックした。

 

 一枚の写真が画面に表示された。その場にいた皆が目を見開いて驚いた。

 

オオカミ  「これは、今回のベストショット、いや、ホールインワンだよ」

 

 

 ロッジのイベントスペース。

 

 イベントスペースには、飛行機の修復や初飛行に関わった、たくさんのフレンズが集まっていた。舞台の大きなスクリーンに、プロジェクターの光が当てられた。まずジェーンが撮った動画の上映が行われ、そのあとフルルが撮った写真がスライドショーで表示された。舞台の上にはPPPのメンバーが立っていて、動画と写真の解説をしていた。舞台の端で、スライドショーの操作をしていたオオカミが、プリンセスの方を見た。

 

プリンセス 「待たせたわね! つぎが今回のベストショット、奇跡の一枚よ!」

 

 その写真がスクリーンに表示されると、観客からどよめきが起こった。

 

 

 その写真には、わずかに右の翼端を海面に接触させ、水しぶきをあげながら急旋回しつつ、カメラに正面を向け、猛スピードで向かってくるような飛行機の姿が、画面からはみ出さんばかりに写っていた。

 

 機体の角度が正面になったことで、二つのプロペラの回転ぶれが大きく写り、大きな存在感を放っていた。

 

 海面に接触していない左の翼端からはベイパーが発生していて、細長い白い筋が、急旋回のカーブを描いて後方へ流れていた。

 

 主翼の上面からもベイパーが発生していて、ベイパーは背景が暗いためはっきりと写り、翼が霧をまとっているように見えた。

 

 プロペラブレードの先端からもベイパーが発生していて、プロペラの外周にベイパーのリングができていた。

 

 両エンジンの排気管からサンドスターが噴き出していて、それは機体後方へ流れて、画面の左端に見切れていた。

 

 フロントガラス越しに暗い機内が写っており、パイロットの、ツチノコとキタキツネの「いい顔」が写っていた。

 

 ピントはしっかりと機体に合っており、機体のぶれもほとんどなく、特にフロントガラスまわりがシャープに写っていた。

 

 快晴の、やや斜めの順光だったため、写真全体の色がまぶしいほど鮮やかで、バランスよく陰影ができて、立体感のある写真になっていた。

 

 背景は上半分が青い空、下半分が青い海だった。空にはくっきりとした雲が少しだけかかっていた。遠くには山も写っていた。画面は水平がとれておらず、少し傾いていたが、それがかえって迫力を増していた。

 

 

 振り向いて写真を見ていたプリンセスが、フルルの方を見た。

プリンセス 「フルル、この写真に名前をつけるなら、なにがいいかしら?」

 

フルル   「……そらと、うみ!」

 

 

 

 

 

 

 「そらとうみ」の次に写っていた写真では、飛行機が下に見切れており、その次の二枚は空しか映っておらず、次の一枚は一面が暗い青色で、最後の一枚は真っ黒だった。

 

 

 

 オオカミが書いた漫画、「ひこうじょう」の背表紙には、フルルが撮った「そらとうみ」によく似たイラストが描かれていた。

 

 

 

 「そらとうみ」は、A4サイズで印刷され、ビーバーとプレーリーが作った木製の額に入れられて、ロッジの食堂、温泉宿のシミュレーターのそば、飛行場の格納庫の中に飾られている。

 

 

 

 壊れたカメラは、管制塔の窓のそばに置かれ、飛行場を見守り、空と海を見つめている。

 

 

 

 

 

 おわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※1 メモリーカード(作中に登場するのはSDカード)を水没させてしまった場合でも、乾燥させれば読めることもあるようです(筆者は水没させた経験がありません)。ただ、海水は結構きびしいと思います。真水で洗うか、オオカミがやったように綿棒で塩分を除去すれば読めるかもしれません。あと、水没後のメモリーカードを使うと、カードリーダーが故障する可能性もあります。

 また、サムネイルで表示できても、ファイルが壊れていることがあるかもしれません。

 

※2 「ずっと連写」といっても、連写可能枚数には限りがあるので、断続的な連写になります。

 

※3 PPPのメンバーは、宙返りを斜め下から見ていたので、写真に写った航跡は円形になりませんでした。上空(宙返りの頂点)で折り返してくるような写真になりました。

 

※4 以下は、ナイフエッジ・パスに関する解説です。これは、筆者のいい加減な知識によるものです。間違っているかもしれません。

 

 機体が90度横倒しになるナイフエッジでは、主翼で発生する揚力による飛行が困難なため、次の三つの方法で飛行します。

 

〔A〕胴体などで発生する揚力を使う。このために、進行方向(水平方向)より機首を少し上(空の方)に向ける。

〔B〕推力軸を、進行方向(水平方向)より上に向かうように傾ける(機首を上に向ける)。これにより、機体を持ち上げる力を得る。

〔C〕弾道飛行する(勢いで飛ぶ)。

 

 ナイフエッジでは、〔A〕〔B〕〔C〕に加えて、全部の舵面を駆使して、横倒しの姿勢を維持しつつ、高度を保って直線飛行します。ちょっと地味な科目ですが、難度は高いようです。あと、背中を見せる科目なので、写真映えが良いです。

 

 作中でフルルが言っていること、片方のエンジン(横倒しで、下になった方)の出力を上げたのは、〔A〕と〔B〕のためです。実際に、F-15のデモフライトで、片方のエンジンだけアフターバーナーをたいて、ナイフエッジを行っているのを見たことがあります。双発機ならではのテクニックです。

 でも、単発機でもナイフエッジは可能です。F-15はナイフエッジが苦手らしく、上の例では、苦手な部分を補うために、左右のエンジンに推力の差をつけていたのだと思います。それなので、双発のプロペラ機で推力の差をつける必要はないかもしれません。

 なぜフルルが左右のエンジンの推力の差に気づいたのかは謎です。

 それ以前の問題として、キングエアC90でナイフエッジを行うこと自体がありえないです。こんなことができたのは、機体を改造したことに加えて、キタキツネが天才すぎたためです。

 

※5 キタキツネは、リミッターを解除するつもりです。

 




 
 あとがき・設定が長いので、それは別の話(第10話扱い)として投稿します。


 [ 『第9話』 初投稿日時 2018/06/03 22:42 ]
 
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