瞬間───霊華が『何か』の背後に回る。
その速さはさながら瞬間移動。紫は普通に目で追い、霊夢はなんとかギリギリ見れ、魔理沙にいたってはいきなり背後に回ったからか霊華のもといた場所と移動した場所を驚愕とした顔で見た。
「っはぁぁ!!!」
まずは一発、と言わんばかりの拳を『何か』に放つ。しかし全く喰らってないようで『何か』はビクともしない。
「...ちょいめんどいな」
誰にも聞き取れないレベルの小さな声で霊華は呟く。普段の彼ならまず言わない言葉だ。
実は、霊華の能力である『能力を消す程度の能力』は霊華自身しか知らない...いや、ある一人を除いて霊華が誰にも教えてない弱点がある。それは──万能ではない、ということだ。
そう、この能力を持ってしても完全にどんな相手でも能力を消せるわけではない。自分よりも実力が上な相手...例えるならば霊華の師匠の先代の巫女、八雲紫やかつて妖怪の山の頂点にいた鬼のような上級の妖怪等には完全には消せない。
しかしだ、それならば何故霊華は全てを汚染する『何か』を前にして無事なのか?
──それは霊華が『自身が汚染される能力』を消したからである。『能力』の基準は霊華が定める。よって無事なのだ。しかし自身に使うことは非常に強い反動が来るらしいからあまり使わない事が多いらしい。反動込みにしてもチートだろこれ。
...さて、先程述べた霊華の能力の弱点だが、どうにか出来ないわけではない。方法は物凄く簡単、対象を弱らせればよい。どこまでかは相手にもよるがとにかく弱らせればよいのだ。
ちなみにこの事を知っているのは先代の巫女だ。彼女は勘で紫に教えると後々面倒くさい、と察し霊華に誰にも言わないようにさせたのだ。現に紫はこの事を知らないため霊華を恐れつつも頼りにしている。
霊華は『何か』を錯乱させるように動く、動く、とにかく動く。並大抵の存在なら見切ることさえも難しいレベルに。
だが翻弄されるだけの『何か』じゃない。突然何もないはずの場所に光線を飛ばした。
「ッチ!!」
そこには左肩に少し光線が当たり一部が火傷した霊華。確実に相手は霊華よりも上の存在であった。
◇ ◇ ◇ ◇
「お兄ちゃん!!」
「...え、『お兄ちゃん』?」
「え?あ......」
霊夢の突然な叫びに魔理沙が反応する。当然だろう。いつもは霊華のことは『馬鹿兄貴』と軽く罵倒しているあの霊夢が物凄く心配そうにそういったのだから。
それに対して紫はニヤニヤしながら言う。
「あら、魔理沙は知らなかったのかしら...霊夢の素はこっちなのよ?」
「ちょ!!何言ってんのよ紫!!」
「そうか...霊夢はお兄ちゃんっ子なんだな...」
「ッ~~!!」
霊夢の顔は今物凄く真っ赤だ。その様子はもはや霊華が今死闘を繰り広げていることなんて忘れているよう。
しかし、すぐさま霊夢はハッとして霊華のほうを向き直した。
「お兄......馬鹿兄貴は大丈夫よね?」
まるで独り言のように呟かれたその言葉に紫が反応する。
「...えぇ」
それだけ、たったそれだけの返事なのだが霊夢は安心したのかフーッとため息をついた。
「(何やってるのよあの子は!早くあの技を出しなさいよ!あれさえ出せればすぐ終わるはずでしょうが!)」
なお、紫は内心とても荒れていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「...大分いい感じだな」
そういった霊華の目の前にはある程度弱ってしまい、移動能力、攻撃防御能力が無くなった『何か』がいた。
「こいつ体力半端ねぇから面倒くさかったな...後で紫に文句でも言うか」
さて、と霊華は自身の霊力をため始めた。全身に回していた霊力を一つに集める。
「『忘却式』......」
それが今────一気に大きな光線として放たれる!
「『神隠し』っ!!!!!」
その光線に包まれた『何か』は...跡形もなく消えてしまった。当然、文字通りである。その存在がそこにあったとは思えないほどだ。
──その瞬間、霊夢と魔理沙から何かが消えた。
「...あれ?」
「ん?」
さっきまで霊華の戦いを見ていた霊夢と魔理沙は意味が分からなさそうにスキマを見た。
霊夢は紫を見つけてから言う。
「...ねぇ紫、馬鹿兄貴はどこにいるの?」
「お、霊夢!あそこにいるぜ!何かボーッてしてんなぁ...何してんだ?」
「確かあそこは無縁塚...霖之助さんの商品回収かしら?」
何か様子がおかしい。そう思っても仕方がないだろう。
「(流石『忘却式 神隠し』ね...魔理沙はともかく霊夢まで技に干渉させるなんて...)」
『忘却式 神隠し』。これは霊華の編み出した霊華のみの究極奥義である。やり方はただただ単純、霊力を貯めてぶっぱする...だけらしい。この技を少しでも喰らった者は存在が消される。そしてそれに関わった者からそれに関する記憶を全て消してしまうのだ。
『何か』はこの技をくらってしまった。よってそれを見た霊夢と魔理沙から『何か』に関する情報が消えてなくなってしまったのだ。
それだけではない。『何か』によって汚染されていたはずの無縁塚が今では何事もなかったかのように平然としている。
『何か』は最初から存在なんてしなかった、そういう世界になったということだ。
ちなみに紫は自身に非常に高度な結界を張っていたのでギリギリ干渉せずに済んだ。ゆかりんもなかなかチート。
「(まぁ、だから連れてきたんだけれどね)」
紫は知っていた。だから霊夢と魔理沙を連れてきたのだ。
紫はパンパンと手を叩いて霊夢と魔理沙を呼ぶ。そして博麗神社へ通ずるスキマを開いた。
「もう分かったでしょ?霊華には私から言っておくから先に帰ってなさい」
「...分かったわよ」
「霊夢、露骨に喜びすぎだぜ?いくらお前の兄貴が無事だったからってさ」
「ッうるさいわね魔理沙。退治してあげましょうか?」
「わ、悪かったぜ...」
こんな微笑ましい光景を見つつ、紫は霊華が最初にこの仕事をするときに交わした契約を思い出していた。
『紫、この仕事のことは霊夢には内緒に頼む』
『あら、どうしてかしら?教えた方が協力してくれると思うのだけれど?』
『いや...な?霊夢は博麗の巫女だし...な?余計な心配させたくないってか...な?』
『...フフッ、分かったわよ』
『お、おう...何でニヤついてんだ?』
『内緒よ...さて、行ってらっしゃい』
『...行ってきます』
「フフッ、本当はお互いがお互いのこと大好きなのにねぇ...不器用な子達。それがまた可愛らしいのだけれどね.........神社倒壊は勘弁してほしいけど」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
霊華が神社に帰宅後......
「ふぅ...疲れたなさすがに」
「馬鹿兄貴!!どこほっつき歩いてたのよ!!」
「あー...ちょっとな」
「全く......おかえり」
「!...ただいま」