私はマシュ・キリエライト。カルデア唯一のマスターである先輩、
もちろん、私たちだけで成し遂げたことではありません。カルデアに遺された職員の皆さんや多くの英霊の皆さんのおかげなのですが・・・・ちょっとした疑問があるのです。
ぐつぐつぐつぐつ・・・・
大きな鍋の前に、一人の少女が立っている。その顔は真剣そのものだ。おたまを持って、鍋から汁をひと掬いすると、小皿に垂らし、それを啜る。
すると、満足そうに頷き、満面の笑みとなる。
「・・・・うん!今日もいい出来!ブーディカさん!これ運んでもらえる?」
「はいはい!お姉さんにお任せ!」
今日もにぎやかなカルデアの食堂。そのキッチンに立つのはブーティカ、タマモキャット、などの料理を得意とするサーバントたち。その中にマスターである矢島ヤヨイの姿がある。
このカルデアは噂の料理を得意とする赤いアーチャーが不在であるため、料理ができるものがローテーションを組んで調理に勤しんでいる。
カルデアでは、サーバントの魔力供給の為に膨大な電力を消費している。その消費量を少しでも減らすために、本来サーバントには必要ない食事や睡眠を推奨し、電力以外の魔力供給や魔力消費を減らしている。
そこで、レパートリーがそれほど多いわけではないが、自身も料理ができるため、積極的に彼女は調理場に立つ。実際、彼女の作る料理は評判が良い。また、ほうとうや牡丹鍋など大人数向けの料理が得意だと云う事もあり、作る側からも好評で、職員の多くからも、栄養バランスも良く、本格的な日本食を食べれると人気がある。
「ほう、これが『ほうとう』という料理ですか。」
「ええ、長野でもよく食べられている料理ですよ。私も小さい頃よく食べました。」
「拙者も、生前幾度も口にしました。まさか、ここでも食べられるとは夢にも思わなかったでござる。」
そう言って興味深そうにほうとうを見るのは、最近召喚されたケイローン。それを見て懐かしいと言いながら食べるのはアーチャーの浅上藤乃とアサシンの望月千代女だ。マスターであるヤヨイは信州、つまり長野県の生まれで、信濃と縁が深い彼女達とは特に仲が良い。
「ふむ、これはなかなか・・・この小麦で出来たものと、豊富な野菜、それに肉も入っている。・・・なるほどこれは良いですね、塩分も十分あるので、行軍などにはもってこいでしょう。」
「その通りでござる。昔は、信玄公が陣中食として好んで用いました。ですので、甲斐国は勿論、その支配が及んだ土地には広く広まったのでござる。」
調理がひと段落し、キッチンから食堂を見ると、サーバントたちが古参、新参を問わず談笑しながら食事をしている。このひと時が、ヤヨイにとって愛おしくてたまらない。そうしているとふと声がかかり、我に返る。
「先輩!そろそろ休憩なされたらどうでしょうか?」
「あ、マシュ。そうだね。けど洗い物もあるからなぁ~。なからになったら休むよ~」
「なから?あの、なからとは一体???」
「それは、丁度良い時、あるいはひと段落ついたら、という意味ですよ。」
「巴御前さん!」
「あ、御前!またうっかり方言使っちゃった。」
ヤヨイが口にした方言の意味を教えたのは、アーチャーの巴御前だ。彼女はヤヨイと同じ信濃の生まれだ。ときどき、信濃関係者が口にする方言を他の信濃関係者が解説することは、このカルデアではよくみられる光景だ。
「もう、巴で良いと申しておりますのに・・・・」
「あはははは、こればっかりはどうもねぇ・・・・」
苦笑しながらヤヨイは洗い物を始めた。
以前からヤヨイは巴御前のことを御前と呼ぶ。巴御前は名で呼んで欲しいというが、彼女はかつて祖先が仕えた相手を呼び捨てにはできないと言い、今でも御前と呼ぶ。
ヤヨイの祖先である矢島氏は源平合戦の折に木曽義仲に従い平家と戦った古い武士の家であり、どうしてもそのことを意識してしまっているのだ。
「不思議ですね・・・・」
「うん?マシュ、なにが不思議なの?」
洗い物をしながら、マシュの言葉に答える。
「いえ、かつて木曽義仲の側室であった巴さんが、その家臣の末裔である先輩に仕える・・・世の中どういうことがあるか分か らないと思いまして・・・・」
「・・・・確かにねぇ。それを言ったら千代女ちゃんもだよねぇ~」
「そうですね・・・・」
ヤヨイの家である矢島家、実は信濃望月氏に連なる一族である。この信濃望月氏は甲賀望月氏と深いつながりがある。そもそも、望月氏は信濃を発祥としているのだからそれも当然であるが。古来、望月氏は牧で朝廷のための馬を育て、献上していた一族である。信濃と甲賀の望月氏は同じ一族だったが、信濃で馬を育てる一族と贈られてきた馬を管理する一族とに分かれたのである。ヤヨイが生まれた矢島氏と望月氏は親戚のようなものなのであるため、千代女とヤヨイは大変仲がいい。二人はさながら、思わぬところで再会した叔母と姪のようである。
「マスター、こっちはおわったから、早めに抜けていいよ~」
「ありがとう、ブーディカさん!今日は疲れたよ~今日は特にたくさん作ったから~」
「確かにねぇ・・・・・」
二人はちらりと食堂の方を見た。誰とは言わないが、健啖家のセイバーが自称を含めて三人いるのだ。その胃袋を満足させるとなれば、生半可な量では済まないことは明らかである。
「でしたら、先輩!私たちと食べましょう!巴さんもどうでしょうか?」
「マスターがよろしいのでしたら」
「もちろん!御前と一緒に食べれるなんて光栄だよ~」
「もう、また御前と・・・・」
ヤヨイはエプロンを外し、伸びをすると、自分の分のほうとうとご飯、漬物を受け取り、食堂に向かう。途中、食事を済ませたサーバントや職員から今日の料理の感想を聞きながら三人は歩いていく。
マシュはその様子を見ながらこれまで召喚し、関わってきたサーバントたちを思い浮かべながら、ある一つの仮定にたどり着ていた。
(・・・・先輩が召喚の触媒になっているのではないでしょうか・・・・)
矢島ヤヨイの出身地に関係するサーバントたちは以下のようになる。
信濃の名家である浅上家に出自を持つ浅上藤乃。
甲賀望月の生まれで、矢島氏とつながりの深い信濃望月に嫁ぎ甲斐信濃二国の神子頭を勤めた望月千代女。
言わずと知れた、信濃屈指の武将であり矢島氏の主君筋である木曽義仲の愛妾である巴御前。
第六天魔王の娘である鈴鹿御前。彼女がかつて愛した坂上田村麻呂は信濃の諏訪大明神を信仰していた。
信濃の戸隠にまつられる竜神、九頭竜の申し子と云われる酒呑童子。
皆、信州に何かしらの所縁を持つものが少なからずいるのである。
(鈴鹿御前さんに至っては少々無理やりな気はしますが、先輩と関連のある方が多いような気がしてなりません・・・・し かし、だとしたらもう一つの事が説明が付きません。)
もう一つの事。それは、セイバーとアサシンが極端に多いことである。
セイバーの代表的なところを挙げると次のようになる。
騎士王アルトリア・ペンドラゴンとアルトリア・ペンドラゴン(リリィ)
同じく騎士王アーサー・ペンドラゴン。
セイバークラスで召喚された「」の器、両儀式。
自称JK鈴鹿御前。
白百合の騎士、シュルヴァリエ・デオン。
龍殺しの英雄、ジークフリート。
剣術無双、柳生但馬守宗矩。
アーサー王に至っては宝具レベルが3だ。要するに三人も来たのだ。セイバークラスはそうそうたるものだが、アサシンクラスも負けていない。
自称セイバー、謎のヒロインX。
世界最古の毒殺者、女帝セミラミス。
中国三大悪女の一人、武則天。
ゴルゴン三姉妹の長女、ステンノ。
甲斐武田氏に仕えたくノ一、望月千代女。
直死の魔眼を持つ少女、両儀式。
鬼の首領、伊吹童子。
代表的なところはこんなところである。他にアーチャー、ランサー、バーサーカーはそこそこ居るのだが、キャスターとライダーは極端に少ない。主力を張れるのは、キャスターならば、オケアノスのキャスターとある日突然現れたジーク。ライダーに至ってはアストルフォしかいない。この三名は事あるごとにパーティーに組まれるため、特に疲労が著しい。
あまりに酷使されるため、アストルフォがボイコットしヤヨイが特別な魔力供給をすることを約束し、事なきを得たのは記憶に新しい。
マシュはそんなことを考えながら食事をしていた。今日も今日とて先輩の作る料理はおいしい。きっと良いお嫁さんになるとも考えながら。
食事を済ませると、マシュとヤヨイは召喚サークルが設置されている室へ向かう。聖晶石と呼符が十分な量が用意できたためである。
「先輩、今度こそ優秀なライダークラスの方をお呼びしましょう!」
「そうだね!・・・・・・・でないと私の体がもたない」
「?何か言いましたか先輩?」
「何でもないよ!さあ張り切っていこう!!」
「でもさっき・・・・」
「いいから気にしない!さぁやるよ!」
「はい!先輩!」
マシュが呼符や聖晶石をセットし、ヤヨイが詠唱する。いつもと変わらぬ光景だ。
「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公。降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ・・・・」
三本の筋が空に浮かぶ・・・・そして現れたのは・・・・
「新選組一番隊隊長、沖田総司推参! あなたが私のマスターですか?」
「おお!あの三段突きで有名な、天然理心流の天才剣士の!!やった!・・・でもあのダンダラ模様の羽織は?」
「え、羽織? それがどこかにいってしまいまして……」
「そんなこともあるんだぁ~。」
「そんなこともあるみたいです。」
(先輩・・・お喜びのところ申し訳ありませんが、又もセイバーですよ・・・・とは言えません、喜ばしい事には変わりありませんし、何より沖田さんの前ではあまりにも失礼です・・・・。)
大喜びのヤヨイをよそに、またもやセイバーを召喚したことを目の当たりにし、若干がっかりしているマシュであった。
「いやぁ、マスター現代の方なのに色々詳しいですねぇ。」
「私こう見えて、武術好きなんだよね~、書文先生や胤舜さんにもいろいろ習ってるんだぁ。下手の横好きだけどね。」
「いえいえ、大したものですよ、是非お会いしたいです。」
ヤヨイと沖田は馬が合うのか、会って間もないのに随分楽しそうに談笑していた。その後、部屋を後にしヤヨイは沖田にカルデアを案内しに、マシュは指令代行であるダビンチちゃんに報告に向かうため、別行動をとった。
「失礼します・・・・」
「どうしたいマシュ?疲れたような声出して。もしかして、爆死かい?」
「不穏なことを言わないで下さい。・・・・一言多い当たり誰かに似てきてますよ。」
「そうかもしれないねぇ・・・・」
二人は、二度と会えぬであろう一人の男のことを思い浮かべていたが、そのしんみりした空気を打ち破るようにダビンチは声を掛ける。
「それで、召喚の結果はどうだい?見事アタリを引けたかな?」
「アタリと言えば、アタリなのですが・・・・」
「歯切れが悪いなぁ~。とりあえず言ってみなって。」
「・・・・セイバーの沖田総司さんです。」
「ありゃ、またセイバーかぁ。まあ、セイバーは最優とも言うし・・・いいんじゃない。」
「そうかもしれませんが、先輩の負担を考えると・・・・」
「そうだねぇ~。まあでも、本人も大分楽しんでるかもよ♪」
「そうでしょうか・・・・」
マシュは例の約束を果たすため、アストルフォの部屋に意を決して向かい、半日後に衰弱しきって出てきたヤヨイの事を思い出していた。マシュは魔力の消費が激しいためと思い込んでいたが、ナニをしていたかは皆分かってはいたため、口には出さず大人の階段を上ったヤヨイをやさしく労わっていた。
余談ではあるが、後日数名のサーバントにアストルフォが襲われ、医務室に担ぎ込まれていた。
「それで、お聞きしたいことがあるのですが・・・・」
「?何、魔力供給のこと?」
「いや、そうではなく・・・」
何故かニヤニヤしているダビンチをよそにマシュが疑問を口にしようとすると、その声を遮るものがあった。
「何故、セイバークラスばかりが召喚されるのか。だろう、ミスマシュ。」
「ホームズさん!そうなんです!明らかに偏ってます!」
「やっと戻ってきたか、名探偵。」
マシュの疑問を言い当てたのは言わずとしてた名探偵。シャーロック・ホームズその人であった。
「魔術的なことはあまり詳しくないが・・・聞けば、英霊の召喚には触媒や召喚するものの性質が関係しているという。・・・・まあ、あくまで験担ぎの域を出ないかもしれないがね。」
「ですが、これまで召喚に応じて下さった英霊の方の中には、先輩の出身地域や出自に関係している方も少なからずいることも事実です。」
「確かにその通りだ。しかし、だとしたら、ランサーの方やアサシンの方がもっと多いはずだ。」
「その通りなんです。先輩が得意とすることなども含めれば、そのはずなんです。」
「確かにねぇ~」
矢島ヤヨイという人物は現代に置いては少々特異な特技を持つ。それは古武術である。彼女は齢23歳にして、高木楊心柔術と九鬼神流棒術免許皆伝の腕を持っている。そのため、魔術師よりも武術家の方が向いているのではないかとサーバントは勿論、カルデアの職員にすら言われている。
つまり、召喚者であるヤヨイの性質が召喚に影響しているならば、セイバーよりも体術を得意とするアサシンや棒術と近しい槍術を使うランサーなどが多くなるはずなのだ。
「しかし、李書文などランサーも召喚されている。他にも彼女に所縁のある英霊が召喚されている。間違いなくミスヤヨイの性質が反映されているだろう。しかし、こうも極端にクラス偏りがある事実を考えれば、間違いなく別の力が働いていることは間違いないだろう。」
「別の力?」
「そうだとも。原因は限られる。」
「ほう、なにか分かってるのかい。それじゃあ教えてもらうじゃあないか。」
面白そうに二人の会話に耳を傾けていたダビンチが口を開いた。シャーロキアンであるマシュもかたずをのんで、ホームズの推理を聞こうとしていた。
「まだ、結論を言うべき段階ではない。」
「出たよ。お約束だ。まったく名探偵というのは面倒くさい人種だよ!」
「お褒めにあずかり、光栄だよダビンチ女史。」
ちょっとがっかりしつつも、ホームズの名言を聞けて満足しそうになったが、衰弱したヤヨイの姿を思い出し、ホームズに問う。
「では、調べれば、このサーバントの皆さんのクラスの偏りの原因が分かると云う事ですね!」
「そうだとも。証拠、証拠だ。粘土がなければ・・・・」
「煉瓦は作れない!ですね。不詳マシュ・キリエライト!頑張ります!」
元気いっぱいに折角の名台詞を邪魔され、ホームズは少し眉を挙げたが、すぐに気を取り直して助言をする。
「・・・・これまで召喚されたサーバントのマテリアルを調べてみたまえ。答えはそこにあるだろう。」
「分かりました!」
そういうと、マシュは指令室を後にして、マテリアルを確認しに行った。
その様子をダビンチは見送ると、ホームズの方に向き直った。
「・・・それで、君はどんな仮説にたどり着いたんだい?」
「まったく、君は私が確証を持たないまま、仮説を述べることを嫌うということを知っていて言っているだろう。」
「もちろん♪」
「・・・・はぁ~。おそらく君と同じ仮説にたどり着いている。」
「ほぅ~つまり、ことの原因は彼女か・・・・」
「恐らくそうだ。」
所変って、カルデアの資料室。ここにはこれまでの特異点での記録の他に、召喚したサーバントの情報も収められている。マシュはこれまでの召喚の記録を調べていた。
「・・・・こうしてみると、本当にセイバーに偏っています。ですが、どこかにその原因があるはずなのですが・・・・」
当初はバランスよく、各クラスのサーバントが召喚されていたのだが、ある日を境に、セイバーとアサシンに偏り始めたのだ。
「・・・・一番最初は、タマモキャットさんとエリザベートさん。それから、ジークフリートさんにアタランテさん・・・・!ここからです!ここからセイバーとアサシンの方ばかりが召喚されるようになったんです!・・・・・アサシンの式さんと、浅上さんそして・・・・セイバーの式さんが召喚されて以降!!・・・・・でも、なぜここから何が分かると・・・・・」
『サーバントのマテリアルを調べてみたまえ』
「サーバントのマテリアル!ホームズさんは、サーバントのマテリアルと仰っていました!でも、サーバントに関する情報から何が・・・・」
そうして、アサシンの式と浅上藤乃のマテリアルを調べ、突如現れたセイバー、「両儀式」のマテリアルを調べ始めた。
「・・・・・単独顕現!ビーストと同じスキルじゃないですか・・・・・おまけに根源接続!?・・・・オガワハイムの時から思っていましたが、やはり普通のサーバントではなかったんですね・・・・万能の願望器の証!・・・・・「両儀式」さんが召喚された日が境になっていますが・・・・でも・・・・どうなんでしょうこれは、聞いてみるしかないでしょうか・・・・・」
「両儀式」の召喚を境にセイバークラスが増加の一途をたどり、且つ「両儀式」が持つスキルが破格のものであり、今回の件に関係している可能性が高い。「両儀式」に直接話を聞けば早いが、遭遇すること自体が困難であるのだ。
カルデアに所属するサーバントや職員は「両儀式」の存在は知っている。逢ったこともあるものも少なくはない。だが、出逢ったことの無いもの者少なくない。マシュもオガワハイムで出逢って時と召喚されたとき以外は逢ったことがない。その為、「両儀式」に逢ったものには幸運が訪れる、あるいは願いが叶うという都市伝説じみた噂すら広まっている。
しかし、マスターであるヤヨイがその力を必要としたときには必ず現れるのだ。謎に満ちた存在であることは確かだが、古参のセイバーでありヤヨイの信頼は絶大だ。
「先輩に頼むのが一番早いのでしょうか・・・・・ですが!粘土が無くては煉瓦は作れません!カルデアに召喚されて以降の「両儀式」さんの行動を調べてみましょう!まずは聞き込みです!!」
誰もいない資料室で一人意気込みマシュは探偵気取りで「両儀式」に遭遇した者たちへの聞き込み調査を始めた。
マシュが「両儀式」について調べ終えたころ、ホームズはダビンチに自身の仮説を披露する羽目になっていた。
「あくまで仮説だが、カルデアの召喚に「両儀式」が関わっている可能性が極めて高い。彼女が持つスキル、召喚後のサーバントのクラスの偏りという事実からも明らかだ。」
「根源接続・・・・・多くの魔術師の悲願だが、それをなした存在が関わっているとなれば、その仮説が正しければ、少々厄介だね。単独顕現もだが、彼女は大きな危険も孕んでいる・・・・さながら、核弾頭を枕にして寝ているといった感じかな?」
「その表現が正しいだろう。彼女の事は念を入れて隠蔽する必要があるだろう・・・・」
「それはそうと、君の事だから探したんだろ?彼女をさ。」
デスクに向かうホームズに向かい、そう問いかけると、不機嫌そうに向き直る。
「そうとも!かねてより、この事態は以上だと思っていた。それ故にマテリアルを調べ、彼女に行きつき、真実を確かめようとした。それしか確証を得る方法が無いからね・・・しかし、痕跡は確認できても見つけることができない!・・・・意図して私に見つかるまいとしているとしか思えない!!まるで、あちらはかくれんぼでもして楽しんでいるようだ!」
シャーロック・ホームズという存在は真実を重視する。例え自身の推理に確証が得られたとしても、当事者に確認ができる場合には必ずそれを行い、寸分たがわぬ真実を知ることを良しする。それゆえ、意図して事実を隠すものを嫌う。第六特異点でのベティ―ウェールの態度に対して怒りを露わにしたのもそのためである。
「あはははは!流石は根源接続者だ!稀代の名探偵を見事煙に巻いている!こりゃ傑作だ!」
「・・・・・楽しそうだね、ダビンチ女史。」
「そりゃそうだよ!普段散々煙に巻かれているからね!君がそれをされているのを見るのは実に愉快だよ!・・・・・それで、マシュにヒントをあげたんだね?」
「あちらが意図的に私を避けている以上、真実を知るにはこれしか方法がない。ミスマシュならば、私が知りえなかった真実を知ることができるだろう。」
「うん?「両儀式」が召喚に影響を及ぼしていることは明らかなんだろ?それ以上何を知ろうってんだい?」
このセイバークラスの偏りについて、ホームズは明らかに固執している。ヒントをマシュに託してまでも、何かを知ろうとしている。ダビンチにはそれが気になったのだ。
「動機だよ。」
「動機?」
「そうとも。今回の件は「両儀式」にとってはなんのメリットもない。仮にミスXが関与しているならば、セイバークラスの殲滅と云う事で成り立つ。しかし、「両儀式」によって今回の事件は引き起こされた。何かしらの理由があるはずだ。」
「なるほどね~。案外しょうもない事のような気がするねぇ~。」
「だとしても、真実は真実だ。ミスマシュの報告を期待しよう。」
マシュは「両儀式」と接触したサーバントや職員に会うためまず食堂に向かった。このカルデアにおいて、食堂とトレーニングルームには常に不特定多数のサーバントや人間がいる。情報収集にはそうのような場所がうってつけである。
食堂にはシフト上がりの職員や素材回収から戻ったサーバントがいた。それぞれに「両儀式」と接触し、話をしたことなどはあるかと尋ねてみたが、ほとんどは見ただけで言葉を交わしたことは無いという返事がであった。しかし、数名のサーバントが話したことがあると返答した。
証言その1ブーディカ。
「式さん?ああ、あのセイバーの。前ちょっと話したことあるよ。朝早くに朝食の仕込みしてる時にね。それこそフラッと現れたんだよ。最初は新しく来たアサシンの子かと思ったんだけど、言葉にする前に「セイバーのクラスで召喚された式よ」って言ってきたんだよ。ちょっとびっくりしたね。でも、朝食には早いけど何か食べる?って聞いたらありがとうって言って、軽くトーストと目玉焼きを食べたんだよ。そしたら、「何かお礼をしたいから、何でも願い事を言ってみて」て言ったんだよ。」
「願い事?」
「そう。何だか不思議だなって思ったけど、言うだけはタダだから、「誰か料理ができる子に手伝って欲しい。」って言ったんだよ。そしたら、「アサシンの式が料理が得意だから頼んで見るといいわ」って答えたんだよ。でも、「式に私の事は秘密よ」っていうから、「式さんの事は伏せて頼んでみたんだよ。そしたら、ちょっと渋ったけど手伝ってくれるようになったんだよ。」
「そうだったんですか・・・・」
(願い事というキーワードが気になりますが、これといったことはしていないようです・・・・)
「ああでも、その少し後だったね。今、食堂を手伝ってくれているパールちゃんが来てくれたのは。おかげで最初の頃に比べれば随分楽になったねぇ。もしかして、私の願いを叶えてくれたのかな?」
(・・・・やっぱり、何かしていました!実際パールさんは色んな意味で戦力として活躍なさって居られて助かってますが。)
証言その2アーサー・ペンドラゴン
「セイバーの式か・・・しばらく前に逢ったことがあるよ。僕が召喚されて間もないころだったな。とりとめもない雑談をしていたんだけど、少し相談をしたんだ。」
「相談ですか?何か困ったことでもあったんでしょうか?」
「いや、何か困ったことがあったわけじゃないんだ。ただ、困ったことが起きないか不安だったんだ。」
「具体的にはどのような事でしょうか?」
「僕の以前のマスターは愛歌といってね。ちょっと困った存在で、もし彼女がカルデアに来るようなことがあれば、マスターやみんなに迷惑をかけるかもしれない。それが、不安だったんだ。」
アーサーはそう言うと、どこか落ち着きなく、手を組みながら親指を交互に動かすようにしてすり合わせていた。マシュはいつも落ち着いているアーサーらしくないと思い、続けて質問をした。
「はあ、その方はどんな方だったんですか?」
すると、アーサーは周囲を少し気にしながら小声でマシュに詳細を語った。
「他言しないで欲しいんだけど。いいかな?・・・分かった。では少しだけ教えよう。彼女はかつて僕のマスターだったが、生まれながらに根源に接続した存在だったとだけね。彼女はおそらくまだ生きている・・・・いや存在していると表現した方がいいかな。とにかく彼女が現れれば大変なことになるだろう。これは、式にしか相談できないことだったから、そのことを相談したんだ。式はそれを聞いて、「話し合い手になってくれたお礼に、何とかしてあげる。何より、マスターの為にもなるわね。」と言ってくれていたな。彼女が現れていないと云う事は、彼女は僕の願いを叶えてくれたみたいよ。」
(きっとアーサーさんは、式さんが根源接続者という事を知った上でご相談なさったんですね。思わぬところでカルデアの 危機が回避されていたようですが、このことは秘密にいておきましょう・・・・伝えたらダビンチちゃんたちの頭痛の種が 増えてしまいます。それにしても、なんというか「式」さんは気まぐれというかなんというか・・・)
証言その3静謐のハサン。
「以前、マスターのマイルームでお逢いしたことがあります・・・・」
「その時の詳細を教えていただけませんでしょうか・・・・なぜ、先輩のマイルームでお逢いしたかは問いませんので・・・・」
遭遇地点を聞き、またかと思い少し座った目で静謐のハサンを見つめながら質問を続けた。
「は、はい。私は、その・・・マスターの御そばに居たくて、褥の中に忍んでまいりました・・・・すでにマスターはお休みになっておりまして、その背を守るように・・・・あの、睨まないでください、こ、怖いです・・・」
「いえ、どうぞ続けて下さい。」
「は、はい。添い寝をしました。マスターの警護という意味もありまして、周囲を警戒しながらです。で、ですが、あの方は突然現れたのです!全く、気配を感じさせなかったのです!私は紛いなりにもハサン・ザーバッハ侵入者があれば気づきます!ですが、あああ、なんと情けない、私は気配を察知することができなかった。初代様がおられれば、間違いなく首を刎ねられていたでしょう。あの式という方を私は、声を掛けられるまでその存在に気付かなかったのです!!」
「落ち着いてください静謐さん!何があったんですか?」
話している内に興奮し、激しく動揺を始めた静謐のハサンを宥めながら、続きを話すように促した。
「す、すみません。あの時、私の方を突きながら、あの式という方は私に「静謐さん、楽しそうなことをしているわね、遠慮なく触れることの出来る人がいることがうれしいことも、マスターのことが好きなことも分かるけれど、ほどほどにね。そんな風に抱きしめていては、マスターが眠りにくいわよ。」と仰いました。私は後は式さんに任せて、すぐにマイルームを後にしました。ああ、恐ろしかった。まるで、初代様を眼前にしたかのような感覚でした。」
(静謐さんと「式」さんが実にうらやましい・・・・ではなく、先輩は最近は良く眠れると仰っていまっしたが、こう云う事だったんですね・・・・ますます「式」さんの行動が読めません・・・・・)
その後も他に「両儀式」に接触した者は見つからなかったが、アーサーが他に接触のあった者を知っていた。
「それなら、キャスターのクー・フーリンが最近あったみたいだよ。彼は今トレーニングルームに居るはずだ。理由はそこで分かると思うよ」
アーサーに教えられ、物理キャスターでは無いクーフーリンがなぜトレーニングルームにいるのか疑問に思いつつ食堂を後にした。
マシュが調査を進めている頃。当のマスターであるヤヨイは、新たに召喚した沖田に施設内を案内し、トレーニングルームに来ていた。ここでは、運動不足に成りがちな職員は勿論、暇を持て余していたり、体を動かすことを好むサーバントが良く利用し、特殊な樹脂で造られた武器で模擬戦を行うなど、いつも活気にあふれている。
「ほれ!背筋を伸ばせ!踏み込みも足りん!」
「書文殿の申す通り!鑓は手で突くのではない!体で突くのだ!腕と体は一体のもの、かつその体には天から一本の軸が貫いているものと心得よ!!」
「は、はい!」
鑓の宝蔵院と神槍の李書文が指導の下、稽古に励んでいるのは、自身と波長の合う少女を依り代として現界した女神パールヴァティーである。彼の女神は戦いの女神ではないが、その能力とスキル故に非常に高い戦力を有している。しかし、槍術というか、武術一般に疎かった。その為、ヤヨイと共に槍術の名手として名高い二人に指導を受けているのだ。
「おお、やってる、やってる。」
「マスター、あの方たちは?」
「向こうで、突きの練習をしているのが女神のパールヴァティーさん。で、指導している坊主頭の人が宝蔵院胤舜さん。赤い髪の人が李書文さん。私も時々稽古をつけてもらってるんだよ~。」
「へえ~あのお二人がですか。ですが、珍しいですね、サーバントが稽古を付けてもらってるなんて。」
「まあ、ちょっと訳があってね・・・・・」
ヤヨイはどこか遠い目をしつつ、苦笑した。沖田はかわいらしく小首をかしげてその様子を見ていたが、二人を見つけた胤舜が声を掛けた。
「おお、マスターではないか!そちらの女子は新たに召喚したサーバントか?」
「うむ、丁度良い。休憩にしよう。」
「は、はいいい~。」
そういうと、パールヴァティーはその場にへたり込んでしまった。見れば、滝のような汗を流している。所謂、空手着と言われるのに近いものを着ているが、汗でぐっしょりと濡れているが、女神らしい美しさを備えた顔には赤みが差し、玉の汗を流す姿はどこか欲情的である。
「三人とも紹介するね、今日うちに来てくれたセイバーの沖田総司さん!まだ分からないことも多いだろうから、よろしくお願いね。」
「新選組一番隊隊長!沖田総司です!!今後とも宜しくお願いします!!」
「ほう・・・お主が噂の新選組の剣士か・・・是非手合わせを頼みたいものだ・・・・」
「ふむ、またも女子であったのか・・・・」
「パ、パ、パールヴァティー、です、よ、よ、よろしく、お、お願しますぅ~」
ヤヨイの紹介に三者三様の反応を見せたが、沖田は女神がここまで疲労困憊するまで稽古をする理由が気になった。
「あ、あのう、そのよろしければお聞きしたいことがあるのですが・・・・」
「うむ!拙僧で良ければ答えてしんぜよう!」
沖田はどこか気まずそうに尋ね、胤舜はそれにはきはきと応じた。
「気を悪くして欲しくないのですが・・・・パールヴァティーさん・・・でしたっけ?女神様なんですよね?そのサーバントなのですから、稽古をして何か大きく変わるというわけでもないと思うのですが・・・・」
「ああ、其の事か・・・パールヴァティー殿はまだ息が整わぬから、拙僧から事情を説明しても良いかな?」
「コホ、コホ、お、お願いします。ハァハァ・・・・」
胤舜はパールヴァティーの許可を得て事情を説明した。
「原因はな・・・・実はそこにいるマスターにあるのだ。」
「マスターに?」
「アハハハハ、はぁ~。」
二人の視線に目を泳がせてヤヨイは苦笑する。事の起こりは、パールヴァティーが召喚に応じて間もない頃のことだ。例によって、ヤヨイがカルデアを案内している時の事。例によって、トレーニングルームにも案内した。そこでは、胤舜と書文が居り、二人はヤヨイの稽古も付けている事をパールヴァティーに教えたのだ。ランサーとして召喚されたばかりのパールヴァティは、自身もランサーであるから是非マスターと手合わせをして、その技量を知りたいと申し出たのだ。これが事の発端となった。ヤヨイと胤舜、書文は相手は紛いなりにもインドの女神、武術の心得があるだろうと思っていたのだ。
対してパールヴァティーは、戦いの女神ではないため、武術の心得などまるでなかった。しかし、相手はマスターとはいえ人間でありたやすく勝てると思い込んでいた。
「これでも女神ですので遠慮はいりません!」
「良し!じゃあ胸を借りるつもりで全力で行くよ!!」
結果はパールヴァティーの惨敗。ヤヨイは弱冠18歳で九鬼神流棒術と高木楊心流柔術の免許皆伝の腕を持ち、カルデアに来てからは、召喚された武名高き英霊や筋トレを好む英霊たちに教えを請い、さらにその腕に磨きをかけていた。魔術より、武術の方がはるかに才能に恵まれていた事と本人も体を動かすことが好きなため、瞬く間に上達しスケルトンなどの簡易なエネミーならば自身で撃破できるほどにまでなっていた。
結果、パールヴァティーは自信を喪失し、まるで使い物にならなくなってしまった。そのことに責任を感じた三人は、サーバントは身体的には成長しないが、技術は向上するのだから諦めてはいけないと、懸命に励ましたのだ。実際、召喚後に新たな趣味などに目覚め、その技量を上達させている者も少なからず居る。そのことを目の当たりにしたことと、三人の懸命な説得により、一念発起し槍術を学ぶに至ったのである。
「なるほど・・・それは何と言いますか・・・・ご愁傷様です・・・・」
「うううぅ。そう言わないでください・・・よけい傷つきます・・・・」
胤舜から説明を聞いた沖田はヤヨイの技量も気になったが、正直しょうがないような、自業自得のような何とも言えない気持ちになった。
二人の伝説の槍使いは、自分たちの弟子の成長を喜ぶべきか、女神をここまで追いつめてしまった罪悪感とに複雑な表情である。
ヤヨイとしても、やりすぎた感はあるがもうどうしたらいいか分からないと言った感じである。
気まずい雰囲気に、沖田は気分を変えて会話を続けることにした。
「そ、それで今日はどんな稽古をしていたのでしょうか?」
「あ、ああ。今日は基本的な鑓の使い方をな。」
「突きは勿論だが、受け、払い、鑓を持った状態での受け身だな。それを昼過ぎからやっておったのだ。」
「そ、それはなかなかハードな内容ですねぇ~。」
すでに、夕方に差し掛かるぐらいの時間である。一般的なトレーニングなら十分に長時間なのだが、ヤヨイはうっかり口を滑らせてしまった。
「え?でも、天然理心流は朝夕素振り五千回で、やたら重い木刀で稽古するんでしょ?それに比べたら大したこと・・・・」
「「「マスター!!」」」
「しまった!」
しかし、時すでに遅し。またもパールヴァティーの心はポッキリ折れてしまった・・・・。
「あははははは、私は普通の人間にすら劣っていたのですね・・・・そこの病弱そうな方にすら。」
遠い目をしながら乾いた笑いをする女神の姿はとても痛々しかった。
四人は急遽額を寄せ集めてどうするかを話し合った。
「どうしよう!?先生!?」
「まったく、お主は余計なことを!!」
「拙僧もそう思うぞ!みなそれぞれ得手不得手がある。パールヴァティー殿は豊穣の女神。元来、戦いは不得手なのだぞ!」
「でも、何とかしないと痛々しくて見ていられませんよマスター!」
パールヴァティーは戦いが不得手とはいえ、貴重な戦力であり、苦楽を共にした仲間だ。何とかしたいが、名案は浮かばない。今更慰めたところで、却ってその優しさが彼女を苦しめそうだった。
すると、沖田がある名案を思い付いた。
「そうだ!マスター!私と試合をしましょう!!」
「え?」
「なるほど!その手があったか!!」
「そのような名案拙僧には思いもよらなんだ!」
すると、四人は作戦を立てた。概要はこうだ。まず、沖田がヤヨイに試合を申し込む。ヤヨイは渋々この申し出を受ける。この時に、沖田は日本屈指の剣豪であると持ち上げる。パールヴァティは当然沖田の事は知らない。すかさず、胤舜と書文も後で是非にとここで試合を申し込むと共に、自分たちですら勝てるかどうか分からないと説明する。
そうして試合に臨み、沖田とヤヨイは試合をし、ヤヨイに苦戦しつつ沖田に負けるというものだ。つまり八百長試合をして、パールヴァティーが負けるのも仕方ない事だと思い込ませ、立ち直らせるというものだ。
「沖田さんはそれでいいの?勝つのは当たり前だけど、苦戦するなんて剣士として恥にならない?」
「いえいえ、そんなことありませんよマスター!別に真剣試合をするわけじゃありませんし、剣客もまた商売と申します。この試合を上手く彼女に売り込むんです!」
「胤舜さんや書文さんじゃダメ?」
「マスター、儂が手加減が下手なのを知っておるだろうが・・・」
「拙僧でも良いが、すでにパールヴァティー殿は拙僧の腕を知っておる。手抜きがバレるのは火を見るより明らかだぞ。」
この作戦は、パールヴァティーが沖田の腕を知らないという事が重要になる。また、八百長を知られないためにも、どちらかが全力で挑まねばならない。そうなると、手を抜いても気付かれないだろう沖田に、ヤヨイが全力で挑むのが最適なのだ。
「・・・良し!やろう!!」
「その意気です、マスター!ええ、この天才無敵の沖田さんが相手なんですから大丈夫です。!」
そうゆうことになった。
沖田とヤヨイは、模擬専用の武器を手に向かい合う。沖田は刀、ヤヨイは得意とする六尺棒だ。向かい合う二人は笑ってこそいるが真剣そのものだ。
「あの、先生方。あの沖田さんというのはそれほど強い方なんですか?」
「応!日の下に剣豪数いれど、あの沖田というのはその中でも五本の指に入る剣豪ぞ!!」
「儂も聞いただけだが、実際に戦場でも戦っておったという。そこらの道場剣術とはわけが違う。それだけの猛者。女神を倒した武辺者が居るとなれば当然試合を申し込むだろうて。」
パールヴァティーは不思議そうに二人を見る。自分をたやすく打倒したマスターと伝説の槍術使いが太鼓判を押す天才剣士。その勝負の行方を女神は見守っていた。
「それでは!拙僧が審判を勤める!それでは試合!始め!!!」
二人は構える。双方睨み合い、武器を構え、じりじりと歩みを進める。沖田は得意の月の構え、ヤヨイは棒を抱えるようにして正眼に構える。互いの間合いに後半歩というところで、ヤヨイが動いた。
突如、棒を床に叩きつけたのだ。ただ叩きつけたのではない、沖田の爪先目掛けて叩きつける。
不意の事に沖田は足を下げた。すかさず、ヤヨイは攻撃を仕掛ける。
九鬼神流棒術、棒回し。
九鬼神流棒術の基本動作だが、充分に実戦に仕える技だ。それこそ棒を回転させるようにして、下段、上段、反対の下段とタイミング、順番を変えながら打ち込み、不意に突きを織り交ぜて目まぐるしく攻撃を加える。
樹脂同士がぶつかり合う鈍い音がトレーニングルームに響き渡る。
序盤は主導権を取られたように見えるが、沖田はいたって平静だった。的確に防御、時折反撃をする。
その反撃をヤヨイは受けるのではなく、棒の上を滑らせるように受け流していく。
(流石!幾多の特異点を修正し、幾多の英霊に鍛えられただけはある!本気出しちゃいましょう!)
(うわぁ~やっぱ音に聞こえた幕末の天才剣士!敵わないな・・・)
二人の攻防は白熱してく。フェイントを取り混ぜたヤヨイの攻撃を、沖田は的確に見切り、打ち返し、躱していく。二人はもう、八百長試合という事を忘れている。そこにはマスターとサーバントは居なかった。ただの二人の武芸者が居た。
((二人とも当初の目的を忘れておる!!!))
胤舜と書文はちらりとパールヴァティーを見る。二人の激しい打ち合いに見とれている。とりあえず問題はなさそうであり、ホッと胸を撫でおろした。
この作戦どちらが勝っても問題はない。つまるところ、パールヴァティーが自身が遅れを取っても仕方がないと納得することにあるのだ。
(・・・そろそろ、決着を付ける!!)
沖田は、ヤヨイの攻撃を躱し、一気に距離をとる。
沖田が生前から得意とし、宝具にすら昇華させた技。三段突き。それを繰り出そうとしている。
ヤヨイはその気配を確かに感じ取っていた。繰り出されれば確実に負ける必殺の技。ヤヨイも勝負に出た。
棒を正面斜めに構え、渾身の力を籠めて棒を走らせた。
この技は、古武術を教えてくれた師匠が教えてくれた捨て身の技。
棒を擲つ技には、槍投げのように擲つものや、回転させながら擲ち、足をからめとるものなどあるが、ヤヨイが行ったのはその中でも特殊なものだ。棒を地面に対して縦に、それこそ棒が走り出しているかのようにして擲つ。敵の溝内や、足の甲や爪先にダメージを与える技だ。
突如の事に沖田は思わず、走ってくる棒を打ち払う。それがヤヨイの狙いだった。
月並みだが、そちらはフェイント。ヤヨイは一気に沖田の懐に飛び込み、正拳付きと肘打ちの二撃を胸部に見舞う。
「ゔ!」
体制が崩れたところで、沖田の襟を取り、トレーニングルームの壁目掛け投げ飛ばした。
巴御前直伝の投げである。ヤヨイは古流柔術の使い手である。打撃も投げも得意とするところであった。
本来ならここで勝負ありであるが、沖田は反撃に出た。
空中で猫のように体制を整え、壁を蹴り三段突きを繰り出したのだ。
沖田の反撃はまさに神業。天才の名にたがわぬ早業だった。
(あ、私、死んだ)
ヤヨイはその目に、はっきりと自身捉えた切っ先を見た。とても躱せない。防御するにも棒はない。死を覚悟したが、沖田の剣はヤヨイの胸元に軽く触れたところで止まったのだ。
沖田は着地点を少し手前にずらして勢いを止めたのだ。
「勝負あり!!!勝者!沖田総司!!」
「マスター無事か!!」
「マスター!」
思わず、ヤヨイの下に皆が駆け寄る。その場でヤヨイは座り込み大きく息を吐いた。
「死ぬかと思った!!!!!」
ヤヨイの体を皆でまんべんなく調べたが傷一つなかった。しかし、勝者である沖田の方が重傷だった。
「こふぅ!!」
お約束の吐血をしていた上に、ヤヨイの拳と肘が胸部にめり込み、ダメージになっていたのだ。
「お二人とも大丈夫ですか!!」
「私は平気!それよりも、沖田さん大丈夫!!ああ!!胸がへこんでる!」
「やりすぎだマスター!人間なら死んでおるぞ!!」
「全くだ!拙僧が念仏を唱える羽目になるところだったわ!」
沖田は大事をとってヤヨイと胤舜に医務室に担ぎ込まれた。トレーニングルームでは、先ほどの試合と沖田の吐血の話題で持ちきりとなっていたが、周りが少し落ち着いたころ、書文はパールヴァティーに語り掛けた。
「分かったか。あのマスターは元より武術に関しては達人の域に近かった。それを、儂らが鍛えたのだ。お主が遅れをとっても何も不思議ではないのだ。」
「・・・・はい。ご迷惑をお掛けしました・・・・私はサーバントである前に女神です。そのプライドが目を曇らせていたようです。」
パールヴァティーは深く息をついた。その様子を見て書文ははにかみながら言葉を続けた。
「そうだとも。それにお主には、共に戦う仲間を癒し、戦いを助けることができる。我らには逆立ちをしてもできないことだ。」
「はい!私にできることで皆さんのお役に立ちます!それはそうと、今後ともご指導ご鞭撻をお願いします!」
「うむ!心得た。」
二人はそう言うと笑い合っていたが。不意にパールヴァティーは書文に言った。
「あ、そうです。今度から、内緒話はもっと小声で、当事者に分からないようにした方がいいですよ。」
聞こえていたのはマスターには内緒ですよと女神は笑い、神槍は、今更ながらにパールヴァティーの目の前で話し合い作戦を決行したことに気付き、大きく口を開き、呵呵と笑った。
何時にもまして、賑やかなトレーニングルームにマシュが訪れたのはそんな頃であった。ざわざわと何かの話題に持ち切りである。耳を欹てて聞くと、「吐血」「マスター」「医務室」などのワードが聞こえる。何か不穏な予感がし、それを裏付けるかのように、床にはべっとりと血だまりがあり、丁度、書文とパールヴァティその後始末をしようとしてるところだった。
「あの、書文さん、先ほどこちらで何かあったのでしょうか?」
「応。先程、マスターと沖田がここで手合わせをしたのだ。」
「ま、まさか!先輩!!」
ヤヨイと沖田が試合をしたと聞いて、マシュは最悪のシナリオを思い浮かべたちまち顔を蒼くていた。しかし、そのようなことは一瞬の内に吹き飛んでしまった。
「きゃあ!!」
「おう、相変わらずいい尻してんなぁ、嬢ちゃん!」
そこには、やたら機嫌のいいクー・フーリンが赤い槍を携えて立っていた。一瞬ランサーの方かと思ったが、どこか若さというかフレッシュさが無く、すぐにキャスターの方だと分かった。
「うん?キャスターの槍兵ではないか?ここで何をしておる?それに、その槍はどうしたのだ?自分に借りたのか?」
「字面だけ見ると、訳わかんねぇぞ「二の打ち入らず」それはそうと、嬢ちゃんにちゃんと説明しとかねえと、面倒くせぇことになんぞ?」
そう言うと、クー・フーリン(キャスター)がマシュに掻い摘んで説明した。ヤヨイのうっかり発言のせいで自信を無くしたパールヴァティの為に沖田とヤヨイが試合をしたこと。
その結果、沖田が勝利したものの、ヤヨイが胸部に加えた一撃のショックと持病の労咳から吐血し、医務室に担ぎこまれたという事を教えた。
「いやー!いい勝負だったぜ!あの沖田ってのは中々だったが、マスターも流石だぜ!!全く、魔術師にしとくのが勿体ないぜ!」
「何をしているんですか先輩・・・・・それにキャスニキさん、先輩はその事を大変気にしてらっしゃいますので、くれぐれも先輩の前で言わないようにして下さい。それはそうと、セクハラですよ。今回は不問にしますので、こちらの質問に答えて下さい。」
証言その5クー・フーリン(キャスター)
「へ?「両儀式」あのアサシンの姉ちゃんの事か?何?違う?セイバーの方?ああ!!あの着物の姐さんか!ああ!知ってるぜ。前から何度かクエストも一緒になっててよ、時々逢うんだよ。それで、この前折角だかって飲みに誘ったんだよ。何?下心?いやさ、無かったとは言わねぇけど、丁度俵のアーチャーからいい酒貰ってたからさ、手酌で飲むのもなんだから、誘ったんだよ。そしたらよ、あっさりOKしてくれてよ。『素敵なお誘いね、今晩お伺いするわね』て言ってよ、帰ってから酒と杯の用意をして、部屋も少し掃除して、終わるかどうかって時にいつの間にか部屋に居たんだよ。驚いたぜ、全く気配がしなかった・・・こりゃとんでもない奴をマスターは召喚したもんだなって改めて思ったぜ。何?そんなのを部屋に呼ぶ方もどうかしてる?まあ、そういうなよ、あんな美人な姐さんは滅多に居ないんだからよ。それで、ちょいと驚いてたらよ、『驚かせてごめんなさい。あんまりに楽しみだったものだから、押しかけてしまったわ。肴を持参したから許してね?』って言ってよ。ほら、マスターが作った、ノザワナだっけ、そいつをもって立ってたんだよ。仕草から何まで、そりゃ色っぽかったねぇ~。でよ、お互いに酌しながら飲んでてよ『素敵なひと時ね、お酒を飲むのがこうも楽しいなんて初めて知ったわ。何かお礼がしたいのだけれど、何か望みはないかしら?叶えてあげられるものなら叶えてあげるわ』って言うじゃんか。オレも噂は聞いていたからよ、言うだけはタダだから言ってみたのさ。『オレは今でこそキャスターだけど、やっぱ槍がないと落ち着かねぇ。この際贅沢は言わねぇから、どんなのでもいいから槍が欲しいなぁ~』って言ったんだよ。そしたらさ、『今のあなたはキャスターだから、戦闘では使えないけどいいのかしら』っていうから、そうれでもいいって返したら、『いいわ、何とかしてあげる』って言ったんだよ。そんで、期待してるぜって言ったら、もう跡形もなくてよ。おまけに、綺麗に食器を片付けてあってよ。まるで夢のようだったぜ。そしたら、今朝枕元にこの槍と手紙が添えてあったんだよ。確かこんなこと書いてあったな『あなたの望む槍ではないかもしれないけれど、あの夜のお礼にこの槍を贈ります。皆朱の朱槍は勇者の証。あなたに相応しいでしょう。』ってな。それがこれよ。」
クー・フーリンは上機嫌に語り、自慢げに鑓を見せた。長さ7尺ばかりの見事な朱槍だが、ケルトなどのヨーロッパの槍ではない。戦国時代に日本で良く用いられていた素鑓である。しかし、どこか気迫がある。きっとなのある武人の持ち物だったのだろう。
(「式」さんは何かしらのお礼として、願いを叶えているようですが。相手が望む通りの願いを叶えています・・・・。まったく悪意は感じません。もう少し、データを集める必要がありそうです。)
クー・フーリンから証言を得ることができると、クー・フーリンは槍を持って、去っていった。おニューの槍を早く振るってみたいのだろう。すると、パールヴァティが話に加わって来た。
「あの・・・「両儀式」さんとは、もしかして、着物を着た御姫様のような方でしょうか?・・・」
「パールさん、お逢いしたことがあるんですか!?」
意外なところから情報が入ってきた。さっそく話を聞こうとしたが、パールヴァティが直接逢ったわけでは無いようだ。
「いえ・・・私ではなく、胤舜先生が以前、おそらく「両儀式」さんと思われる方とお話しているのを見ましたよ。」
噂とすると蔭、とはよく言ったものである。丁度、胤舜が医務室から戻ってきた。
「おう、胤舜。二人はどうだ?」
「書文殿。ああ、大事無い。沖田は胸にあざができた程度、マスターも異常はなさそうだが、念のため検査を受けておる。」
「あ!胤舜さん。丁度良かったです!お話をお聞きしたいと思っていたところです!」
「?拙僧に何か用かな。」
書文とパールヴァティは稽古に戻り、マシュは胤舜から話を聞いた。
証言その6宝蔵院胤舜
「ああ、あの「両儀式」か!確かに知っておる。初めて逢った時はどこぞの姫かと思ったわ!クエストの後で、気が高ぶり夜中少し散歩して居った時であった、しずしずと歩いておるのに出くわしての。あれでいてよく剣を使うと聞いて居ったから、暇なら一つ立ち会ってみないかと誘って、一度立ち会ってみたのよ。結果は引き分けであったわ!しかし、存外、楽しめたらしくてのう。楽しめた礼に、何か望みを叶えようと申したのだ。拙僧は英霊のこの身になっても、やはり鑓のことしかこの坊主頭にはない。しかし、他にも当然、槍術の達人は居るはず、叶うのならば、能力や血の力に頼らぬ槍の達人と仕合うて見たいと言ったのだ。その前後であったな李書文殿が召喚されたのは。軽く手合わせをしてみたが、それ以上はな・・・・殺し合いになる。マスターに果し合いは禁じておるから、その後はやっては居らんが、槍について互いに語り合える友に出会えた・・・・拙僧の願い以上の事が叶ったわ!」
(・・・・やはり、「両儀式」さんはカルデアの召喚に影響を及ぼしているとしか、思えません。ブーティカさん、胤舜さんとあった後に、それぞれの願いを叶えてくれるであろう英霊が召喚されています。・・・・おまけに共通しているのは偶然会ったという方がほとんどです・・・・お逢いするのは難しいかもしれません。)
マシュは胤舜の話を聞き、質問に答えてもらったことに感謝を述べたが、逆に胤舜から質問をされた。
「胤舜さん。ありがとうございました。」
「いや、拙僧で役に立てたのなら何より・・・しかし、なぜ、彼の女性の話を聞いたのかな?」
「いえ、そのですね・・・私も一度お会いしたいと思いまして・・・皆さんからお話を聞けばどちらにいらっしゃるか分かるかと思いまして・・・・」
少し、しどろもどろになりながら、答えたが、嘘は言っていない。胤舜は何か事情がありそうだと思い、それ以上は追及しなかった。
「ふむ、そうか。ならばそれ以上は問うまい。」
「そうしていただけると助かります・・・・」
「ならば、医務室に行けば良い。」
「はい?」
「ほれ、このカルデアで一番「両儀式」に接触したことのある人物が、まだ検査を受けておるはずだぞ?」
「!!そうでした。ありがとうございます!!」
「おう!礼には及ばんぞ!」
胤舜の助言を得て、マシュは医務室へと向かった。
その頃、医務室では件の二人が説教を受けていた。現在では、パラケルス、サンソン、ジョロニモ、そして言わずと知れた、婦長ことナイチンゲールがカルデアの医療を一手に引き受けてる。普段は静かな医務室からは怒号が飛んでいる。
「マスター!どういうつもりですか!!トレーニングに勤しむのは構いません!運動不足よりはよっぽどましです。ですが、ケガ人を出すことは許容できません。まして、病人を痛めつけるなど、もってのほかです!!」
「・・・・はい。申し訳ありません・・・・」
「あ、あのう・・・婦長さん?あの沖田さんの体は仕様ですので、お気になさらないでください・・・・それに、合意の上でのことですので、その辺で・・・・」
「あなたは安静に!黙っていなさい!」
「はい!!」
その様子を見ながら、みな苦笑しつつその様子を見ていた。タイミングを見てマシュが入室した。その様子を見て、助けが来たとばかりにマシュの方へ向かう。
「あ!マシュ!何かあった!すぐ行くよ!!」
「マスター!まだ話は終わってません!!」
しかし、マシュはヤヨイの味方をするわけでは無く、説教をした。
「いえ。先輩。今のところ緊急の事態は起きておりません。しかし、聞きましたよ。トレーニングルームの一件はお聞きしましたよ。ナイチンゲールさんの言う通りですよ。よりによって、沖田さんが御出でになった当日にケガをさせるとは何事ですか。それに、聞けば先輩も大けがをするところだったそうじゃないですか。沖田さんが達人だったから無事だったものの何かあったらどうするつもりだったんですか!トレーニングルームの血を見た時の私の気持ちが分かりますか!!そもそも、先輩はご自身の体をなんだと思っているんですか!人理が修復されたとは言え、先輩はカルデア唯一のマスターであることに変わりはないんですよ!それに、こんなことを繰り返しているから物理魔導士とか、ジェダイマスターとかカンフーマスターとか言われてしまうんです!!聞いてますか、先輩!!!」
「・・・・・・・・・」
怒涛の説教はヤヨイのハートにクリティカルヒットを決めてしまった。随分とへこんでおり、さすがの婦長も止めに入った。
「マシュ。その辺でやめなさい。気持ちはわかりますが、その辺りでおやめなさい。マスターも反省しているようです。それで、何か用でも?」
ナイチンゲールの言葉に思わず我に返り、当初の目的を思い出した。
「そうでした!先輩に用がありますが、沖田さんの容体はどうでしょうか!まずは先輩がケガをさせてしまった沖田さんの様子を確認しなければなりません!」
診察用のベットに横になっている沖田の様子をマシュは確認した。胸元にはこぶし大のあざが着物の襟もとから覗いていた。
「あ、沖田さんは大丈夫ですよ!ちょっと痣になってるだけですから。コフぅ!あ、これはいつもの事ですから、お気になさらず・・・・」
「本人はそう言っていますが、人間であったら、胸骨が骨折していました。下手をしたら骨が内臓を傷つけていたでしょう。幸いサーバントでしたので、痣で済んでいますが。」
沖田は大丈夫とは言うが、ナイチンゲールの見立てと、沖田との様子を見ると正直言って大丈夫そうには見えないが、スキルとして病弱があるため仕方ないことなのだろう。次にヤヨイの様子を確認した。
「先輩は大丈夫ですか?」
「・・・・ありがとうね、マシュ。カンフーマスターにはケガはないよ~。」
「幸い、マスターにケガはありません。しかし、マシュのいう事はもっともです。くれぐれもケガには気を付けなさい。今度このようなことがあれば、原因となる手足を切断しますので、そのつもりで。」
「・・・・はい、以後気を付けます。」
「よろしい。」
そう言うと、ヤヨイは一足先に医務室を後にし、ナイチンゲールは沖田の治療に戻った。その様子を見て、サンソンはマシュに語り掛けた。
「あまり、マスターを責めないであげて下さい。彼女も反省していますから・・・・」
「ですが・・・・」
「彼女なりに頑張っているんですよ。サーバントのみんなの足を引っ張りたくない。そしてあなたの先輩として、あなたを守りたい。そういった思いで彼女は、日々学び、体を鍛えているんですから・・・・」
「分かっています・・・でも、心配なんです。」
サンソン達の会話から、沖田はマスターであるヤヨイが皆に慕われ、愛されていると感じた。彼女は後方で指揮をとり、偉ぶるような人間ではない。ともに戦場に立つ仲間なのだと実感した。それは、ヤヨイの体が物語っていた。治療を受けている間、ヤヨイが検査を受けている姿を見たが、その体は引き締まり、多くの傷が残っていた。それを思い出すと、あのマスターに呼ばれて良かったと心底思った。
そんな会話を聞いていたが、怒りに我を忘れて当初の目的を忘れてしまっていたマシュに沖田は声を掛けた。
「あの~こんな状態の沖田さんが言うのもなんですが、マシュさんはマスターに用があったんじゃあ・・・・」
沖田の言葉にマシュは目を見開いて、当初の目的を思い出したようだった。
「そうでした!先輩にお聞きすることがあったんでした!それでは、沖田さんお大事に!!」
そういうとヤヨイの後を追い、マシュは医務室を後にした。
ヤヨイはその頃とぼとぼと歩き、マイルームへ戻っていった。正直、マシュの言葉が突き刺さっていた。召喚した当日にサーバントを傷付けるとは、マスター失格だ。
部屋に戻り、ベッドに身を投げ出して天井を仰いだ。
「・・・・・何してんだろ、私・・・・・」
すると、インターホンが鳴った。モニターを確認するとマシュがマイルームの前に立っていた。
『あの?先輩?入ってもよろしいでしょうか?』
「どうぞ、どうぞ、物理系素人魔術師の部屋へお入りください~」
無機質な音と共にロックが外れ、ドアが開くと、おずおずとマシュが済まなそうに入ってきた。
「・・・・先輩、失礼します・・・・」
「遠慮しないでいいよ。」
「・・・・先ほどは申し訳ありませんでした。」
「・・・・いいよ。事実だし。」
「それでも、失礼な事を言ってしまいました。」
「謝らなくていいから。気にしてないよ。」
どこか、気まずい雰囲気が漂う。気にしなくてもいいとは言うが、ヤヨイの目にはいつもの明るさも、覇気もない。しかし、マシュは意を決して言葉を紡ぐ。
「先ほどは、ああいいましたが。先輩は、最高の先輩です。それは、職員の皆さんも、サーバントの皆さんも知っています。陰ひなたなく努力なさっていることも知っています。例え魔術を得意としなくても、先輩は最高の先輩であり、唯一無二の存在です。だからこそ、心配なんです。ご無理、なさらないでください。」
「・・・ありがと。」
「先輩・・・・・」
ヤヨイは、パッンと両手で自分の頬をたたき、立ち上がる。その目にはいつもの輝きと、明るさが戻っていた。この目が、皆を引き付けて止まないのだ。
「それで?何か用事があったんでしょ?」
「はい。実はセイバーの「両儀式」さんのことで・・・・」
「「式」さんかぁ・・・・まさかとは思うけど何かあったの?」
「両儀式」の名前を聞くと不思議そうに小首をかしげる。マシュが彼女の事を尋ねるとは思ってもみなかったのだ。大概、マシュが英霊の元を訪ねるときは大概が注意を促したり、連絡事項がある時である。しかし、「式」はキャスター陣やキッチンメンバーなどのようにカルデア内で仕事をしているわけでもない。さらに言えば、「セイバー!!」と叫びながら他のサーバントに斬りかかると言ったような問題を起こしたとも聞かない。
「あ!もしかして、Xでも襲った?」
「いえ・・・そういうことではないくてですね・・・ちょっとお話を伺いたいことがありまして・・・・・」
「ふ~ん。そっか・・・でもあの人どこに居るか分かんないんだよねぇ~。気が付いたらいるし、呼ぼうと思ったら居るし・・・・」
そういって、ヤヨイは「両儀式」の行動を思い出した。アサシンの式に比べれば、猫のようなぶっきらぼうな気まぐれさは少ないが、気まぐれに現れ、マイルームに入り込んでくるところは猫のようだ。それに、ヤヨイも例の噂は聞いている。そのことなのかと推理しつつ、口を開いた。
「う~~ん。多分そのうち逢えると思うから、私からマシュに逢いに行くように言っとくね。」
「分かりました、お願いします。」
そう言ってマシュはマイルームを後にした。今日は一日がやけに長く感じられたが、夕食のブーティカ謹製のウサギのシチューを食べ、シャワーを浴びると疲れはどこかに行ってしまった。
ヤヨイは、夕食後に食器を洗い終え、一人で風呂に入る。これがいつもの日課だ。シャワーでもいいが、やはり日本人としては湯船につかりたいものである。それでも人目を避けて入るようにしている。湯船につかりながら、体をさする。普通なら滑らかな肌の感覚があるが、ヤヨイにはそれがない。しなやかな筋肉、そして傷跡。それを見るたびにどこか悲しそうな笑みをこぼす。
歴史に記される事ない、戦いの記録か。それとも、ふがいない自分の証明なのか。もっと他の何か・・・・・いつも、心の中に居る彼に問う。
「・・・・・どちらにせよ、嫁には行けそうにないなぁ~」
風呂から上がり、浴場を後にするとマイルームに戻る。そこにはベッドに座る東洋美人が微笑んでいた。
「おかえりなさいマスター。」
「ただいま・・・式。」
「両儀式」いつか夢の狭間で出会い、オガワハイムで共闘し、カルデアにやってきた。彼女はカルデアでも古参のサーバントであり、辛く厳しい戦いには、マシュと共に常にそばにいた存在だ。
「今日はいつにもまして大活躍だったみたいね。お疲れ様。」
「・・・・うん。でも、今日来たばかりの沖田さんにケガさせちゃった・・・・ひどいマスターだ私・・・・」
「大丈夫よ・・・あの子もサーバントですもの。あれくらいへっちゃらよ。だから大丈夫。それにちゃんと謝ったのでしょう。ならもう済んだことよ。」
ヤヨイはそう言って、ベッドに横たわり、頭を「両儀式」の膝の上に預ける。その頭を「両儀式」は優しく撫でている。まるで親子か、日向で猫を撫でているかのようだった。
ヤヨイは「両儀式」と二人きりになると、こうして甘え、弱音を吐く。
ささやかな二人の秘密。ヤヨイが(後輩)マシュには見せられない姿。「両儀式」にとっては、不謹慎ながら誰にも見せない姿を自分にだけは見せてくれるのが、嬉しくてたまらない。
「今日はあなたが眠るまでこうしていてあげる。ゆっくりお休みなさい。」
「ありがと・・・・そいえば、マシュが「式」に逢いたいって言ってたよ。時間があったらよろしくね。」
「分かったわ・・・私の方から逢いに行くわね。」
暫くすると、ヤヨイは静かに寝息を立て始めた。そのまま数時間ヤヨイの顔を眺め、頭を撫でていたが、そっとその体を抱え上げ、枕の上に頭を置き布団をかける。そうして、立ち上がりヤヨイの頬を人撫でして一言つぶやいて姿を消した。
「良い夢を・・・私のマスター。」
翌朝
「フゥー!フゥ―!フゥフゥ―!」
「・・・・うぅん・・・・何ですかフゥさん。こんな朝早くに・・・・」
マシュは、早朝にフゥの声で目が覚めた。時計に目をやると起床時刻まではまだ一時間ほどある。何事かと目をこすりながら、眼鏡をかけると、そこには一人の女性が椅子に座っていた。
「おはよう。かわいらしい獣さんと後輩さん。」
「!!!「両儀式」・・・・」
「式で構わないわよ。マシュさん。」
目が覚めるような美人という言葉があるが、本当に眠気など吹き飛んでしまった。見ればフゥは総身の毛を逆立てて威嚇している。
「そう警戒しないで。大丈夫何もしないわよ。ごめんなさい起こすつもりはなかったのだけれど・・・・」
「いえ・・・こちらこそこんな姿で申し訳ありません。」
「いいのよ。押しかけたのはこちらなのだから。」
そうは言われたものの、居ずまいを正して「両儀式」を見る。ドアのそばのモニターを見るとロックがかかったままで、開いた形跡はない。その場に現れたとしか思えない。改めてそこの知れない存在だと思ったが、真相を知るためにマシュは問いかける。しかし、その前に「両儀式」口を開いた。
「私に聞きたいことがあるそうだけど、何かしら?」
「・・・・・召喚についてです。あなたが御出でになった後、異様にセイバークラスとアサシンクラスの方ばかり召喚されています。・・・貴方が、カルデアの召喚システムに影響を及ぼしているのではないかと、私は思っています。」
「そうよ。」
「!なぜです。クラスの偏りによって、サーバントの皆さんは勿論先輩に大きな負担がかかっています!なんでそんなことを・・・・」
「だって、私が来た後に、マスターが言うんだもの、セイバーとアサシンが少なくて大変だって。いけなかったかしら?」
マシュはその言葉に絶句した。まさか、ヤヨイの一言が引き金になっていたとは。確かにあの頃はセイバーとアサシンが少なかったが、それにしてもカルデアの召喚におけるクラスの偏りはヤヨイの願いを「両儀式」が叶えた結果だったのだ。
「それに、マスターも喜んでいるし、アストルフォくんとの事も結構楽しんでいたみたいだしね。マスターって意外とむっつりなのよ。」
「そうだとしても、限度があります!」
マシュは頭が痛くなってきた。その様子を見て察したのか、フゥが寄ってきて、前足でマシュをやさしく叩きながら、静かに鳴いた。
「フゥ~~。」
「あらあら、やさしのね。これで、納得してもらえたかしら?」
「・・・・最後に一つだけ、よろしいでしょうか?」
マシュはもう一つの疑問を口にした。ホームズが最も気にしていた事でもある。
「なぜ、なでしょうか。あなたが先輩やサーバントの皆さんの願いをかなえて回るのは。」
「ああ、其の事ね。」
「両儀式」は立ち上がり、どこかを見つめながら呟いた。
「私は知っての通り「」の器。本来なら召喚されることもなければ、ほとんどの人とは関わらない存在よ。でも、マスターと縁が繋がり、ここに来ることができた。不思議な感覚。これが、恋というものなのかしら。彼女の為ならどんな過ちも犯してしまいそう。でも、そんなことはしないわ。マスターが悲しんでしまうから。他の人たちの願いを叶えたのは、私にそれしかなかったから。それしか知らないからよ。」
「それしか知らない?」
「両儀式」の言葉にマシュは疑問を抱く。その様子を察してか、マシュに向き直って言葉を続けた。
「ええ。私は色々なことを識っているけれど、誰かと関わる事がなかったから、誰かと関わった時。何かをしてもらった時、どうしたらいいか分からないの。識っているのは、何かをしてもらったら、返す事。悪意であれ、善意であれね。マスターも他の英霊たちも私に良くしてくれる。だから何か良いものを返してあげたい。だから、それに似合うだけのささやかな願いを叶えているのよ。」
「」の器の少女の不器用なありがとうの形。それが、彼女の行動だったのだ。マシュはその姿がどこか寂しくも美しく思えた。そして最後の質問をした。
「分かりました。そう云う事だったんですね。では最後の質問をよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。」
「先ほど「式」さんはお礼の形として願いを叶えていると仰っていました。私がお話を聞いた方々も、皆なにかしらの事をしてもらっていました。ブーティカさんは料理を。アーサーさんとは会話という楽しい時間を。静謐さんの件はおそらく先輩のお願いで注意を。クー・フーリンさんにはお酒を。胤舜さんとは手合わせを。先輩からは何をしてもらったんでしょうか?」
マシュの質問に「両儀式」は静かに笑う。そして、静かに答えた。
「ここに呼んでもらったこともそうだけど。マスターとは・・・そうね、これは秘密にしておくわ。」
「え?」
「淑女ですもの、秘密の一つや二つあってもよいでしょう?それに、このことはマスターに聞いても駄目よ。二人だけの秘密なのだから・・・・」
そういって微笑むばかりで、マシュは困惑したが、どう質問しても答えてはくれず、結局諦めることにした。
「・・・わかりました。そう云う事にしておきましょう。でも、くれぐれも先輩の迷惑ななるようなことはしないでくださいね。」
「もちろんよ、安心して。じゃあ、私は行くわね。」
そう言うと、「両儀式」は出口に向かって歩き出した。するとふと足を止めて、マシュの方を振り返る。
「そうそう。あの名探偵さんに宜しくね。それと、こうも伝えて頂戴。『追いかけっこ楽しかったわ、私も思わず少し本気を出してしまったわ。いずれ、お逢いしましょう。』とね。」
言い終わったと同時か、瞬きをした瞬間に姿を消してしまった。マシュは朝からどっと疲れてしまったが、もう時間もほとんどなくなってしまい。身支度を整えて自室を後にした。
食事を終えると、調査の結果をまとめ、指令室に向かい結果を報告した。始めはダビンチしかいなかったが、ダビンチから連絡を受け、直ぐにホームズが現れた。
「・・・・・以上が報告になります。」
「いや、驚いたねぇ。まさか、ヤヨイちゃんの願いを叶えた結果だったとは。」
「ダビンチ女史の反応ももっともだが、この問題はいずれ解決できるだろう。ミスヤヨイが現在の状況を打開したいと望めば何とかなるのだからね。」
「はい。それとなく先輩に伝えておくことにします。では、他の職務もありますのでこれで失礼します。」
マシュは指令室を後にしようとして、マシュはある事を忘れていたことに気が付いた。
「あ!ホームズさん。一つ伝え忘れていたことがありました。」
「なんだね?」
「あの「両儀式」さんが『追いかけっこ楽しかったわ、私も思わず少し本気を出してしまったわ。いずれ、お逢いしましょう。』と仰っていました。では、伝言も伝えましたので、これで。」
そうして、マシュは指令室を後にした。後にはポカンとした二人がのこされたが、直ぐにダビンチが大笑いを始めた。
「アハハハハハハ!!!こりゃいい。「追いかけっこ」か!どうだい名探偵!必死の追跡も彼女にはお遊びの一つのようだよ!!」
「・・・・・はぁ。まったく君は・・・・」
「まあ、いずれ向こうから来てくれるんだ。そう落胆するなよ。それと、根源接続者に目を付けられた感想を聞いてもいいかな?」
「・・・いいわけないだろ。分かっていて言っているだろう。」
「もちろん。君にはこんなことでもなければ意趣返しができないからね。」
心底困った顔をする名探偵を見て、美の体現者は楽しそうに笑っていた。
「そうなの?私は楽しかったのだけれど、残念ね。」
「キャーーーー!!!!」
指令室にはダビンチちゃんの悲鳴が響き渡っていた。いつの間にやら件の「両儀式」がたたずんでいた。
「はじめまして、万能の天才さんと世界一の名探偵さん。追いかけっこのお礼に来たわ。あなたの望みはなぁに?マスターに迷惑が掛からない範囲で叶えてあげる。」
そう言って、根源の姫は静かに笑う。目を白黒させている万能の天才といつ振りかに驚愕する世界唯一にして至高顧問探偵を前にして。
今日はここに栞を挟み、夢の中。話の続きはまたいつか・・・・・・・・。
いかがでしょうか。ご感想、ご意見などありましたらどうぞ。
今年の二月の頭頃に初めまして、今はセイレムです。ホント、セイバーとアサシンばかりなのはなぜなのか。私なりに考えたのが当作品の原点です。シリーズタイトルは私の好きな漫画をもじったものです。
ヤヨイの使う古武術は実在していまして、私もできるものです。しかし、本作ほどの腕はありません。所詮、三段なので悪しからず。棒術が得意なのは本当。あと十手も。
正直な話、地元の関係のサーバントが活躍してるのは嬉しいです。巴御前来い!
但馬守は尊敬している剣豪の一人です。政治で活躍したばっかりに、何かと悪の黒幕扱いされていて残念ですが。但馬守来てください。お願いします。あなたがいると聞いて始めたんですから。
では、また機会がありましたら・・・・・