「はい・・・え?わかりました。すぐに手配します」
砂生田が慌てて魔羽に駆け寄る。
「どうしたの?貞くん。血相変えて」
「先生、この間講習した小学校で、児童が行方不明になったそうです」
「え?すぐ行くわ。車出して。車の中で先方に電話してその旨伝えるわね」
「わかりました。すぐ参りましょう」
二人は急いで車に乗り込んだ。
学校に到着して職員室に向かうと、先日担当した教師が応対した。
「先生、ありがとうございます。こんなことでお呼びするのは
不本意なんですが・・・・」
「どうされました?」
「はい、うちの女児がいなくなってしまったんです。」
どうやら、おわりの会を終えて掃除をしているときに
3年生の女児が見当たらなくなり、あたりを探してもみつからず
途方に暮れているというのだ。
「先生、この子です」
担任教師が行方不明になった女の子の写真を魔羽に見せた。
「この子・・・・あ!この間の勉強会の時に
一番前に座っていた子じゃ?」
「あ!そうです。一番前で一生懸命、先生の話を
聞いていた子です。」
「覚えています。じっと私の方をみながら
ペンケースについていたストラップのラバーダッキーを
握りしめていたので、印象的だったんです」
「はい・・・この子は、零香(れいか)・マッケンジーといいまして
ハワイから転校してきたんです。おじいちゃんが日本人の日系人で
お父さんが中国系アメリカ人です。ですから、見た目は東洋人ですが
日本語は微妙にニュアンスが伝わりにくいことがあります」
「なるほど・・・そういえば、髪の毛の先がカールしていて
生え際がくりんくりんだったわ。なんとなく日本人離れしたところがあるなとは
感じていたんです」
「さすが先生です・・・まだ、こちらにきて間もないので
学校内で迷子になったのではないかと、あちこち探してはいるんですが
みあたりません・・・外に出た形跡はないようなのですが、物騒なことに
巻き込まれたのではないかと・・・警察にも連絡はしてありますが
先生の方が到着が早かったです」
「先生。私、見当がつきました。ちょっと探してきますね」
「え???もう、わかったんですか・・・・私も一緒に行きます」
魔羽がこの学校に来たのは2回目だったが、小学校のつくりはだいたい
似たり寄ったりなので、すぐに場所を把握した。
「先生、体育館の倉庫はこちらですか?」
「あ、はい。その奥が倉庫です。」
「中に入りますね。」
「ええ・・・どうぞ。そこも探したんですが・・・」
「Head, Shoulders, Knees & Toes Knees and toes ♪」
魔羽が歌いながら体育館の倉庫に入っていった。
「Well....I guess... you are here!! ダダーン!」
と言いながら、跳び箱の一番上の段をずらして中をのぞいた。
「WOW! How did you get to know?」
小さい女の子が毛布を抱えながら立ち上がった。
「先生、零香ちゃん、いましたよ」
駆け寄る担任教師。
「零香!ここにいたのか!」
「もうだいじょうぶだよ。こんどはお姉さんが『おに』かな?
でも、その前に体を温めた方がよいから、先生のお部屋でココアでも
飲もうか?」
ハワイから来た女の子は、寒さで小刻みに震えていた。
担任教師が抱きかかえるように、女児を促すと
「Wait a moment!]
と、女児は歩みを止めた。
「零香ちゃん。大丈夫よ。おねえさんが預かってあげるね」
「OK]
女児が手に持っていたのは、卵だった。
どうやら、給食ででたゆで卵をみた瞬間
それを温めていたら、雛が孵るのかと思ったようだ。
その日は4時間授業だったため、給食後
すぐに終わりの会があり、掃除、という流れだった。
女児は終わりの会で、卵を抱きかかえ終わるのをまち
速攻で体育館倉庫に移動した。
倉庫にあった毛布に卵をそっとくるみ
跳び箱の上段をずらし毛布をゆっくり中に入れてから
自分も入り、上の段を閉じた、というわけだ。
女児がハワイにいた頃、ラバーダッキー競争といって
運河にたくさんのラバーダッキーを投げ込むレースがあり、
女児もそのイベントに参加したらしい。
女児はラバーダッキー競争イベントが大好きで、いつも楽しみにしていた。
家でも本物のアヒルを飼っていた。
ところが、日本に移住してからは、都会でアヒルを飼うことは難しく
ゴムのラバーダッキーに囲まれて暮らしていた。
「零香ちゃん、アヒルが恋しかったんでしょうね。
先生、最近はセサミストリートも日本で放映していないんですよ。
ご存知ですか?」
魔羽はめがねをはずしながら、担任教師に問いかけた。
「セサミストリートって、パペットショーの番組ですよね?
全部英語で字幕なしの・・・・」
「ええ。あれって、もともと非英語圏の子供たちのための
無料番組なんです。アメリカでは中南米人が多くて、英語より
スペイン語が基本言語になりそうな勢いで、移住民が増えてしまい
その子たちに無料で覚えてもらえる番組をつくったんですよ。
それがセサミストリート。その中に登場するアニーという男の子が
大好きなのがラバーダッキーなんですね。アメリカでは人気の子供むけキャラなんです」
「なるほどね・・・外国に来て不自由な暮らしを強いられているんだろうな
とは思っていましたが、卵をみてそれが孵ると思うなんて
最近の日本人小学生では考えられなかったから、盲点でした・・・・
僕ももうちょっと外国の文化を勉強しなくちゃ、ですね」
「なかなか難しいですよね。でも、わかろうとしてがんばっていると
いつかかならずわかる日が来ますよ。というか
人のことって同じ日本人でもすべてわかるってわけじゃないですよね。
大切なのは『わかろうとする心』なんじゃないかな、って思うんです。」
「先生、お若いのにすばらしいですね。先生のその心構えが
事件即解決につながるんですね。勉強になりました。この間に引き続き
先生にいろいろ教えていただきました。
今度また、お仕事とは別に遊びにいらしてください。
こどもたちも先生と一緒に遊びたがっています」
「ええ!ぜひ!私容赦しませんから!全身全霊を込めて
こどもと遊んじゃいますよ!」
「楽しみにしていますよ。」
砂生田と魔羽が車に戻ろうとすると、校舎の2階から
子供たちが手を振っていた。
振り向いて児童達に手を振りながら、女探偵とその秘書は車に戻り帰路についた。
「先生、みつかってよかったですね」
「ええ。一瞬、外に出てしまって迷子になったのかなって
思ったけど、ラバーダッキーが解決のポイントになったわ。
セサミストリートであれと似た場面があったのよ」
「先生もセサミストリート見てたんですか?」
「うん。あれで英語しゃべれるようになったようなもんよ」
「へえ!すごいですね。まあ、おもしろいですもんね。
キャラ立ちしてるし」
「あたし、実を言うと英語苦手なのよ。英文法ね。
だから、セリフで覚えようと、セサミストリートみまくって
セリフ完コピしてたの」
「ほぉ・・・なかなか真似できない勉強法ですね」
「だから、勉強じゃないのよ。あれって反射能力だから。
こう言われたら、こう返すっていう、テニスでボールが飛んで来たら
反射的にラケット振っちゃうっていう、それと同じよ」
「まあ、たしかに・・・・お相撲さんとか日本語ぺらぺらですもんね?
あれって、どう考えても机の上だけでお勉強しましたって感じじゃないですもんね?」
「そうよ。生活を共にして、たくさんしゃべって、日本のドラマ見まくってって。
谷町のおっさんなんか、日本語しかしゃべらないでしょう?必然的に
日本語覚えちゃうわけよ」
「なるほどですね・・・ぼくも覚えた方がよいのだろうけど
先生いるからいいや、ってなっちゃいます・・・・」
「べつにいいわよ。できることをちゃんとしてくれれば。無理やりやっても
上達なんかしないから」
「ですよねーーーー!!!!はいっ、データ整理とか、秘書業務
しっかりがんばります!」
「じゃ、事務所戻って請求書でもまとめようかね。貞君」
「は、はい・・・・・それ残ってたんだ(ボソッ)」
夕日がきれいな秋の日、探偵社のドアがオレンジ色に輝いていた。
知ろうとすることって、大事なんですね。
わからなくても、理解しようとがんばっていると
いつかはっきり見える日がくるのかもしれません。
にしても・・・
いつも本編内容薄くてごめんなさい!!!