うっそうと茂った林には
一縷の望みも期待できるとは思えない
青々しい景色が広がる。
少女探偵は、大きな虫眼鏡を左手に携えながら
依頼者に尋ねる。
「おかあさん、いいですか?おこさんは、間違いなく
アゲハチョウをを追って行ったんですよね?」
「ええ・・・アゲハチョウの動きを目で追っていましたから・・・」
「蝶々ってどうやって飛びますか?」
唐突な探偵からの質問に、躊躇しながら、依頼者は答える。
「え・・・・ひらひらと・・・・・」
「そうです!ひらひらと飛ぶんですよ。鳥のように
まっすぐ飛ぶわけじゃないんです。
ということは、蝶のひらひらとした動きを追って
山の中に入ったわけですから、草むらを踏んづけながら
奥に入っていった可能性が高いんです」
「なるほど・・・・」
「どれどれ・・・・あ!草がなぎ倒されている。
ということは、こっちに入って行ったようですね。
くんくん・・・・チョコレートの匂いがする。
おかさん、お子さんは直前にチョコレート食べてませんでした?」
「え?あ・・・・食べてました。チョコを手に持ったまま
チョウチョウを追いかけて行きました。」
嗅覚も人並みはずれた少女探偵は、草むらから
かすかに漂うチョコレートの匂いをたどって行った。
「くんくん・・・・・ん。こっちだな。
草も踏んだ跡がある・・・・
あ!チョコの包装袋だ。もう近い。よし、こっちだ。
貞くーん、携帯かして!」
少女探偵・魔羽は、砂生田から、おもむろに携帯を奪うと
音楽を流し出した。
ガサっ・・・・
草むらの奥になにやら人陰がみえた。
魔羽は人陰の方に静かにゆっくりと近づいていった。
「あ!こどもがいる。きっとあの子ね。
こんにちは!おねえさんはチョウチョウさんのお友達だよ。
ほら、これ見て!」
魔羽は草むらにうずくまっていた子供に
携帯からアゲハ蝶の写真を見せた。
すると、その子供は目を大きく見開いて
携帯の写真に見入った。
「あのね。チョウチョウさんはおうちに帰ったのよ。
ほら、君がみたのと同じでしょ?」
こどもはゆっくりと頷いた。
「だからね、君もおうちに帰らなくちゃ。
おかあさんが、あっちで待っているよ」
一瞬びっくりしたような顔をした子供だったが
すぐに納得して、目の前の女の子が促すままに
草むらを後にした。
「さ、おねえさんと一緒に帰ろうね」
初対面であるのにもかかわらず、人なつっこい少女の笑顔に
安堵したのか、その子供は、少女の手をとって一緒に歩き始めた。
「あ、ほら、おかあさんだよ」
こどもは母親の姿をみつけると、駆け寄って母に抱きついた。
「大地!ケガない?大丈夫?」
依頼者である母親は、子供をしっかりと抱きしめながら
こどもの体調を気遣った。しがみついているこどもを
一旦、引き離すと子供の体全体を確認する。
すると、足首の辺りをケガしているようだった。
それに気づいた魔羽は、砂生田を呼び、こどもをおぶるように
命じた。
「貞君、おぶってあげて」
「かしこまりました」
砂生田は、子供の前にしゃがんで、自分の背中に乗せた。
「おかあさん、お子さん、大地君?ちょっとケガされているようですが
消毒してから、絆創膏を貼って、その上から冷やしてあげれば大丈夫ですよ。
打撲はたいしたことないようですから。
念のために医師に診せてくださいね。お昼も食べずに草むらに入っていったから
水も飲んでないと思いますし、脱水症状を起こしていないか診てもらってください。
とりあえず元気そうなので、大きな問題はないと思います。」
「ありがとうございました!とにかく無事で見つかったので
安心しました。主人にもすぐに知らせます。それで、料金は
いかほどですか?」
「はい、そうしてください。今回、見積もりをお出ししていませんでしたので
実費、3万円で結構です。」
(ふぇっ?なにその破格の値段設定・・・・ほんと、この人の基準って
わかんないよなぁ・・・・)
砂生田は、これまでの相談料及び解決料を思い起こし、まったくもって、彼女の
独断による料金設定であるということを、確信していた。
「おかあさん、3万円はいつでも結構です。振り込んでいただいても
現金書留でお送りいただいても。ネットバンキングをご利用でしたら
その方が便利ですよね?」
「ありがとうございます!この子から目を離すことがなかなかできないので
ネットバンキングだと助かります」
「期限は特にありません。ご都合のよろしいときに
お振り込みください」
「本当にありがとうございました!」
後日、振り込み完了の連絡と同時に、七色のマカロンが届いた。
ー先生、先日はありがとうございました。
主人も心から感謝していました。うちの子は
人見知りをするので、知らない人が声をかけても
従うことなどなかったのですが、先生にはすぐに心を開いたようです。
先日も、あのお姉さんは?と尋ねてきました。
親切にご対応いただきましてありがとうございました。
心ばかりですが、近所においしいマカロン屋さんがありまして
これはそちらで購入したものです。
よろしければ、秘書の方と召し上がってください。
それではお礼までー
「先生!ここのマカロンおいしいんですよ!!!
早速いただきましょう。お茶入れますね!」
「ぷはー、貞君は甘いモノに目がないね!
ま、今回お手柄だから、従ってあげるよ。」
「この辺りに出没するアゲハ蝶の画像を携帯で
すぐ表示できるようにしとけって、移動中に言われて
僕も焦りましたよ・・・・でも、すぐに見つかってよかった。
実は前に僕も検索したことあったんですよ。
散歩してたら、アゲハ蝶みつけて、おお、めずらしいなって
思ったもんだから・・・・」
「たまには、あんたのそういう変なクセが役に立つもんだわね」
「手厳しいなぁ・・・先生は。ま、でもとにかく
スィーツスィーツっ」
今回も半日かからずに事件を解決した少女探偵
濱汰魔羽。
困っている人にはとことんやさしく、子供が大好き。
もっとも自分自身がついこのあいだまで、子供だったわけで。
まったくもって独断対応ではあるのだが、困っている人を助けるという
ポリシーは揺るがないようだ。
さて、今度はどんな相談が舞い込んでくるのやら。
マカロン、おいしいですよね。
私も大好きです。