とある飛空士への遠望   作:江華

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第1章 大瀑布を越えて
或る1人の飛空士


ミヤキ・アカハは空を駆けていた。正確にはーー彼が乗る単発単座戦空機・赤華(せっか)が、だ。赤華は鋼鉄の翼を翻し、敵機からほとばしる火線を避けるべく縦横無尽に澄んだ深く青い空を飛び回っていた。振り返り風防の外にいる敵機を確認する。ウルベラF2、アルビザーノ州連合の主力戦空機だ。敵機はまだ未熟であるらしく、まだ距離があるにも関わらず機銃を撃ってきている。アカハは機体を少し上昇させながら緩ロールをとる。そして機体が描く円の頂点に達したとき一気に機体を翻す。そうして縦方向の機動から横方向のドックファイトに移した。機体にかかるGにより操縦桿は鉛の様に重くなる。アカハは敵機の背後を捉えるべくそのGに遠のきかける意識を奮い立たせ、翼にたわむシワを横目で見ながら機体が分解するそのギリギリを見極め、最小半径で回る。そこで敵機の飛空士は強烈な遠心力に耐えかねドックファイトの輪から抜け出した。すかさず敵機の背後にピタリとつき必中の間合いまで詰まるのを待つ。いずれの動きには激しい負荷(G)がかかり、そのたびに肺腑からは空気が絞りとられ意識が遠のきかける。それでも最後に生き残るのはこの激しい負荷に耐え抜いたものだけなのだ。汗ばんだ手で操縦桿を握り直す。アカハはゆっくりと深呼をする。先程まで自分を追いかけて来た敵機が今では自分の前方にいる。ここぞとばかりにアカハは目一杯スロットルを開く。距離は次第に縮まり、遂に照準器から敵機の翼がはみ出る程接近した。アカハは必中の間合いに入ったのを確認すると右手に力を込めトリガーを引いた。20ミリの徹甲弾、曳光弾、炸薬弾は敵機へ向かって一本の赤い線となり、一つの火球を作った。この敵機の撃墜でアカハの今日の撃墜数は4となった。アカハは風防の外の空域の様子を伺う。戦況は落ち着いて来たようだ。味方の戦空機、赤華(せっか)と同じ単発の青吹(あおぶき)、双発の翠翔(すいしょう)はほぼ健在だ。敵の規模と練度を見れば当然といえば当然であるが。

『隊長機から各機へ。これより残る敵爆撃機の掃討戦へ移行する。逃げる戦空機は墜とさなくていい、爆撃機は確実に仕留めろ。』

アカハが所属する第36防空隊の隊長、クルセから通信が入る。どうやら任務はほぼ終わったらしかった。直掩機のいない爆撃機、特に今日侵攻して来た州連合の爆撃機、ランバード7Bはできる限り爆弾を詰め込むために「空の鉄城」の異名を持つ州連合の主力爆撃機、グランダ10Bと違い装甲は薄く、装備も最低限だ。残りの掃討戦もすぐに終わることはアカハにも容易に想像できた。

『『了解』』

隊員達は短く答え、自らの任務を果たすべく行動を開始する。

『敵さん随分とあっけなかったな。』

分隊のみに繋がる回線のランプが光る。その声の主は士官学校からの腐れ縁、トウセ・ミアキだ。

『今日のはーー威力偵察だな。まあ、練度が低かったし、ランバード(空軍機)が出張ってたから、大方レキソナ基地から来た部隊だろ。』

『そうだな。味方も死んだ奴はいないし…っと、9時の方角に敵さんだ。追うか?』

アカハが見ると明らかに味方では無いーーエンジンが後方に、つまりプロペラが後ろに付いた推進式(プッシャ)の飛空機らしき黒い点が雲から飛び出て来たところだった。

『あれはーー推進式(プッシャ)の爆撃機じゃないか?』

推進式(プッシャ)の爆撃機はアカハの知っている限りではデレリア15Bーーつまり、州連合の最新鋭爆撃機しか存在しない。アカハは自慢の視力でさらに注意深くその黒い点を観察する。

『おい、アカハあれを見ろ!分かるか!?』

ミアキが何かを見つけたらしく急に叫ぶ。

『ーーああ、分かるよ。あれは…』

アカハもそれを見てミアキに答える。アカハとミアキが見たものーーそれは雲を次々と突き破りてでくる、陣形を組んだ爆撃機とそれを直掩する戦空機。それはこの紅萊王国とアルビザーノ州連合の境界の空を一面、覆い尽くすほどの大軍勢だった。

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