とある飛空士への遠望 作:江華
アカハは目を凝らした。無数のデレリア15Bは7機編隊でV字型の陣形を組んでいる。しかし上空の爆撃部隊のメインは15機編隊のグランダ10Bのようで、護衛にはウルベラ7Fと州連合の新型機ハダル12Fも確認できた。さらに爆撃部隊の前方には無数の制空部隊と思われる機影がみえた。
『こちらアカハ。州連合の新たな爆撃部隊を確認。目算でおおよそ直掩機70機以上爆撃機、攻撃機100機以上。また、無数の制空部隊も確認しました。このまま迎撃任務を続行しますか?』
それを聞いたクルセからは無線越しにも驚愕の気配が伺えた。
『くそ…ついに州連合の大規模侵攻が始まったか。全隊員に伝える。これより我が部隊は全機天城基地へ帰投し再出撃する。全速力で基地に戻るぞ!』
そうクルセが命令を下した瞬間、悲痛な叫びが通信に入ってきた。
『大変だ、制空部隊の一部がこちらへ向かってくる!戦闘で消耗していることを知っているんだ!』
水素電池スタックの電力残量が既に半分をきっているのを見てアカハは呻く。
「さっきの爆撃機部隊は陽動、こちらを消耗させるためだったのか…!」
『全機
アカハは緊急加速のレバーに手をかける。電力残量を見るに、緊急加速を使っても基地に帰投できるだけはある。しかし、そうでないものもいた。
『それがっ…電力残量が少なくて…緊急加速を使うほど余裕がありませんッ』
敵制空部隊はこちらより高い位置を取っており、逃げるとなれば不利な状況は明確だった。アカハは少し考えた後、意を決して言った。
『私が足止めをして時間を稼ぎます』
向かって来るのは互角の性能であるウルベラ7Fが8機。不利ではあるが耐えきれないほどでないーーアカハは思考する。
『…分かった。アカハ、お前は紅萊空軍の中でも間違いなくトップエースだ、お前なら任せられる。だが、危なかったら迷わず逃げろ。いいな?』
『アカハ、何ひとりでかっこ付けてんだ?俺も混ぜろよ』
ミアキが回線に割り込んで来た。
『そうそう、俺ら同じ分隊なんスから。』
そう言って割り込んで来たのはオウセ・イツキ。ミアキもイツキも同じ分隊で優秀な列機だ。
『構いませんよね、隊長!』
『…ああ、構わない。だが、お前達の分隊の技術は群を抜いている。失えば我が空軍にとって大きな痛手だ…それを理解して絶対に生きて帰ろ。いいな?』
『『はっ‼︎』』
3人の声が重なった。その声を合図に王国防空部隊から3機の赤華が飛び出す。その熟練した編隊機動は一つの槍となって敵機に踊り出す。瞬く間にその槍はウルベラを一撃で貫いた。一つの赤い花弁が蒼穹に染まった空に咲く。
ーーやはり敵機の飛空士は未熟だ。
1機目を撃墜したあとアカハはそう確信した。
『確実にやれば問題無い!さっさと片付けてこの空域から離脱するぞ!』
『『おう‼︎』』
アカハは赤華の翼を翻し次の敵機に目をつける。手信号と目配せ、無線を巧みに使いながら3人が作り出す一本の槍は次々と敵機を撃墜していく。誰かがウルベラに回り込まれ後ろを取られそうになると残りの2人が巧みにカバーし、追い返す。2機、3機、4機…と堕としていくうちに追従して来た敵制空部隊は8機とも全機眼下いっぱいに広がる深緑の大森林へと叩き堕とされていた。
『十分時間稼ぎになったんじゃないすかね。そろそろ離脱しましょ』
イツキから無線が入る。アカハは答える。
『ああ…そうだな。離脱しよう、緊急加速準備だ』
『アカハッ‼︎上だっ‼︎』
ミアキの悲痛な叫びが無線を通して操縦席に響く。その声を受けて上を咄嗟に見るとそこに敵の最新型戦空機、ハダル12Fがこちらにその銃口を向けて迫っていた。機体は背後の強い光に隠れて詳しくは分からない、それで発見が遅れた。
ーー太陽を背にして急降下してきたのかッ‼︎
中々の空戦知識を持つ飛空士が州連合に居たのにアカハは驚く。ちらりと見えたのは白の大蛇のノーズアート。恐らく州連合のエースだろう。ハダルはあと僅かで必中の間合いに入ろうとしていた。アカハはほぼ脊髄反射で右フットバーを蹴りつける。と同時にハダルの銃口が火を噴いた。真っ赤な濁流はアカハのいる操縦席を狙ったものだったが咄嗟の反応により僅かに逸れた。ガガガッと銃弾がアカハの赤華の尾翼の一部を穿つ。アカハが乗る赤華のバランスがぐらりと崩れる。
『アカハッーー‼︎』
ミアキは絶叫する。ミアキはアカハの機体が錐揉みしながら眼下の森林へと落ちていくのを見送る事しか出来なかった。