ロクでなし魔術講師と禁忌教典 フィーベル家の執事 作:黒月 士
「「作品勝手に消すな!」」
すんません、実のところあの作品の展開に行き詰まった結果、消すと言う展開に……
そこでいろいろ考えた結果この結果に行き着きました。今回は消しませんから、三度目の正直です!えっ?二度あることは三度あるって?……気にしたら負けです。
雪化粧をしたフェジテ、12月によく雪が降ることで有名だがある場所にはなにもなく一つの異物を除けば完全な白の世界だった。そう、一つの赤色の異物を除けば。
「はーっ……はーっ!げふっ、ごふっ……」
一人の少年、年齢的には十四歳と言ったところだろうか。雪と同じように白い髪、それに今は雲に覆われていて見えないが空のように蒼い瞳、その青年の周りには十数人の男たちが群がっていた。
「ったく、手間取らせやがって。スラム街のやつと侮ったのが悪かったか。まさかこんな業物の剣を持ってるなんて考えられねえよ」
一人の男が吐き捨てるように言った、その男の手には数分前まで地面に倒れた青年、ルグナ=トーシイ=フシイァンが持っていた一振りの剣があった。その剣は丁寧に磨かれ手入れが行き届いている、男は迷いなくその剣を横たわるルグナの右腕に突き刺した。
「あ…がぁああ…あぁあああ!!」
「おっ、痛覚を与えれば鳴くんだな。それじゃあ死なない程度の呪文でも撃ちますかね」
苦しむルグナをよそに男たちは呪文を紡ぎ、死なない程度の威力でルグナに撃つ。
「おお!死にかけなのに良く鳴くこと!頭、どうします?なんなら左腕もぎ取ってやるのも一興ですが…どうです?」
男は後ろでルグナに対する蹂躙が始まってからいっさい動かずただその光景を切り株に腰かけ、ワインを飲みながら見ていた男は静かに立ち上がった。
その男の髪は真っ赤に燃える紅蓮のようであり、フードをかぶっているが左目を覆い隠す眼帯と口元を隠す布は確かに見える。
「ほおっておけ」
男はそうぐぐもった声で命令した。
「はぁ、なぜに?」
「この時期なら狼が食料を求めているはずだ、たとえば……シャドウウルフみたいに嗅覚が鋭いやつもだ」
「頭もずいぶんと悪趣味ですね~?」
「精々狼どもの養分となってもらうとしよう、行くぞ」
男たちが去った後、そこには血を流し続けるルグナだけとなったがその姿は惨いものだった。
頭部からはとめどなく血が流れ、左腕は踏みつけられた跡が残っている。右腕は地面に張り付けるかのように剣が突き刺さり、右手は血の気を無くし始めている。胸は覆っていた服がびりびりに裂かれ、少し残った服も燃やされており、そこらじゅうに赤色のあざが惨く残っている。足は両膝に剣が突き刺さり逃亡を不可能にし、足のそこらじゅうに切り傷が残っている。
「げほっ……ごほっ……」
俺がいったい何をした?その疑問だけが彼には残っていた。別にスラム街に住む彼の中では暴力は日常茶飯事、恐れるものでもなかった。しかし、今回は度が違った。
突如十数人に囲まれたかと思えば広い場所に連れてこられてそこからは一方的だった。身なりから察するに平民以上の者たち、自分とは接点のせ、すら見つからない生きる場所が違うやつらがなにを思って自分を襲ったか知りたいがもう体が動きそうにない。
普通ならこういうとき、心配してくれる親や友達が居てくれるだろうが残念なことにルグナにはいなかった、それどころか記憶がないのだ。気がついた時にはスラム街に捨てられており、一年と少し前の記憶しか今のルグナにはない。
できることなら狼に襲われることなく死にたいが、なにもしないまま死ぬのは少し心残りがある。ふとたった今思いついたのはやつらの魔術を再現してみることだった、魔術のま、も知らないルグナだが一番最初に放たれた雷閃はあまりに威力が別次元だったため、その呪文を警戒するためにずっと覚えていた。
「……最後に………やってみるか」
ふらふらと左手を雲に覆われた空に向ける。弱弱しく呪文を紡ぐが血が邪魔したり、噛んだり、ダメ―ジのせいで言えなかったりと成功せず、成功したのは三十七回目の事だった。
「………《猛き雷帝よ・極光の閃槍以て・刺し穿て》」
極々小さい雷閃が人差し指から放たれ、上昇していく。
「登れ、登れ……もっと、登れ」
崩れ落ちた左手には目もくれずルグナはただ自分が放った雷閃が見えなくなるまで眺め、そして消えた。
もう、心残りはない。ルグナは静かに目を閉じた。
(にしても、どういう感じで死ぬんだろ俺。あいつらの言ってた通り狼に喰われて死ぬのか?いや、でも凍死のほうが早いか?それともなんかに轢かれて死ぬとかもあり得るよな)
(死んだ世界ってどんなものだろう?楽しいのかな、それとも苦しいのかな、というかそもそもそんな世界あるのかな?)
どれぐらい経っただろうか、ザクッと雪を踏みしめてこちらに駆け寄ってくる足跡が鼓膜を叩いた。
(来た、狼で死ぬのか俺。規則正しい足音が二つ、それが二セット。二匹の狼が俺を殺すんだな、まあ苦しいのがこれで終わるって考えたらいいか)
そして一つの気配が自分の数メル先で止まった。次に来た感覚は肩甲骨と腰が持たれるものだった。
(ん?狼って自分の巣に食べ物持ち帰るっけ?あっ、そっか。今は冬、一つでも多く食料を残しておくべきだもんな、軽いぞ、俺は)
「……え………を……」
だが聞こえてきたのは人の声、それも女性の声だ。
ルグナは両目を開ける、その視界いっぱいには金色の髪で同じように蒼い瞳を持った少女が居た。
「システィ!生きてるよ!早くセシリア先生に連絡して!」
「したわよ!到着するまで一分だって!ああっ!ルミアダメ!剣抜いちゃダメ!!」
二人の少女の声、この雪景色のなか、どうしてここに?
(まあいいや、もう、無理……)
瞳を押し上げる力すら無くなったルグナは静かに意識を手放した。
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ローズの匂いが鼻腔をくすぐる、なるほど。どうやら天国には薔薇が咲いているようだ。
(ん……?この匂いは……)
だがローズの香りに混じってアルコールのにおいがする。そんなものは神聖な天国には不要だろう、つまりここは……
ゆっくりと瞼を上げ、両手をふかふかの地面に突き、起き上がる。地面はベットで、体には高級そうな掛け布団がかけられており、服はほつれている個所は一切見つからない。突いた両手と両腕を見ると丁寧に包帯が巻かれており、意識すれば腹部や股関節、脚部などのところ、まあ体全身に包帯が巻かれており、頭にはひときわ強く巻かれている。
「……助かったのか?俺」
部屋を見回してみると、ベットの他にもドレッサーやクローゼット、ふかふかそうなソファに勉強机の上に積まれた本の数々。間違いなくこの部屋に住んでいるのは学生だろう、まず自分が誘拐された可能性は無くなった。最も家もないただの男を誘拐してなにになると言うのだ。
ふと、もぞりとベットの右側が動いたような気がした。よくよく見ればその部分だけもっこりと上がっている。
「……え?いや、嘘でしょ?」
恐る恐る布団をめくると見えてきたのは金色の髪、続いて小さい少女の顔。間違いない、あの時ルグナを助けようとした少女だ。
「……ん、……んぅ……」
瞼を二度こすり、一度かわいい欠伸をすると、目を開けルグナと視線があった。
数秒間、両者は見つめあい、そして、
「うぁあああぁ!?」
「うぉおおお!?」
驚いた少女と、その声に驚いたルグナ、両者が飛び退きぐらっとバランスを崩す。
「ルミア!どうしたのって……」
ドアから顔をのぞかせた銀髪の少女は年頃の男女が同じベットに居る光景を見て、
「し、失礼しました~」
「待て待て待て!誤解だー!」
ルグナの必死の抗議の声が屋敷内に響き渡った。
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「ルグナ君、終わりだ」
数分後、俺は長テーブルを挟んである男と対峙していた。
「さて、それはどうですかね?」
重々しい空気が場を支配し、そして、俺たちはバネが弾けたように手を出す。
「フルハウスだ!」
「フォアカードです!」
勢いよくトランプを叩きつけ、俺は勝った。
「くそぅー!もう一戦だ!」
「お義父さま、これで五戦全敗ですけど……」
先ほどの少女、ルミア=ティンジェルが少し笑い、銀髪の少女、この家の家主で俺に全敗しているレナード=フィーベルの娘、システィーナ=フィーベルがやれやれと肩を落とす。
先ほどの誤解を解いたはいいもののなぜかポーカーでの戦いを挑まれた俺だったがまずポーカーとはなんぞや、というところから始まり、ルミアの丁寧な説明のおかげで完全試合を繰り広げた。
「とにかくあなた、先に彼の無事を祝うべきよ」
「な、なにを言ってるんだぁ!私が勝つまで続け―――――」
その後の言葉はレナードさんの奥さん、フィリアナが締め落とし沈黙させていた。
「……やっぱりこれ日常なの?」
「うん、お義父さまとお義母さまが帰ってこられた時はいつも」
「この人の遊びにつき合わせちゃってごめんなさいね。さて、ルグナ君、あなたは約一週間昏睡状態にあったことは知っているのね?」
俺は静かに頷く、先ほど騒動が治まった後、ルミアから全てを聞いた。あの時、雪の影響から森で遭難者が出ていたらしく、捜索隊が組まれていた。その中に二人が居たらしく、遭難した時の救援信号がたまたま俺の撃った呪文【ライトニング・ピアス】だったらしい。後はあの二人が駆け付けてくれたと言うわけだ。
俺の怪我は学院のセシリア先生と言う方がその捜索隊に加わっていたために治してもらいそれからはルミアが世話をしてくれていたらしい。なんでも俺はよくうなされていたらしくそのたびに包帯を張り替えてくれたそうだ、もちろん全身の。
「そしてあなたには帰るべき家は無い、あなたの家族が誰かも知らないし、親の顔すら思い出せないのね?」
「お、お母様!そ、それはさすがに……!」
「はい、俺には一年と少しの記憶しかないので……誰と過ごしたかなんて一切……」
「あなたには引き取り手が居ないし、住民登録がされていない、つまりあなたが生きていると証明するものは一切ない」
「お義母様!?な、何を……!何を言われているんですか!?」
つまり、俺が死んでも捜査されることはない。ということを言いたいのだろう。
「ええ、そうです。煮るなり焼くなりお好きにどうぞ」
「そう、ならあなたはフィーベル家の執事になりなさい」
「……は?」
予想の斜め、いや、ほぼ直角の解答が帰返ってきた。
「別に何とでもできるわよ?養子でも、どちらかの婚約者でも、申請を正式に脅し通――通すことができるから」
「今なんか怖い単語が出ませんでしたか!?」
「気のせいよ、気のせい。気にしたら負けよ」
「……本当にこの国、大丈夫なのか?不安になってきた……」
「で、答えは?」
「……謹んでお受けさせていただきます」
そして俺、ルグナの第二の人生が始まった。
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