ロクでなし魔術講師と禁忌教典 フィーベル家の執事   作:黒月 士

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 次回からは長ったらしい文章ではなくなる予定です!(必ずそうなるとは言っていない)


EpisodeⅠ-Ⅰ災いの手紙

 執事と言うのは案外楽な仕事だった。俺が来るまで使用人を一切雇っていなかったようで屋敷の管理維持や家事は召喚されたお手伝い妖精(ブラウニー)に任されており、俺が入る隙間がないように思えた。

 

 しかし、お手伝い妖精にもミスはあり俺は指揮官の任と料理や洗濯の当番をこなしていた。料理に関しては純粋にやりたかったからであり、洗濯に関しては二人の服のサイズが大きく違う部分があったため洗濯にも注意が必要で過去に一度だけ下着を間違えて運んだ時はシスティーナが泣き叫んでいたらしく俺にレクチャーしてくれたお手伝い妖精の顔がひきつっているのを見る辺り相当のものだったらしい。

 

 そんな俺の一日は普通に考えれば早いのだろうが、今までの暮らしからすればあまりにゆったりとした一日だった。

 

 朝六時、目を覚まし寝間着を脱ぐと執事服、正確にいえば高級料理店のウエイターのような服に着替え、自室を後にする。自室には壁一面を使って本が並べられていてこの本すべてがシスティーナのものである。彼女が所有する本の数は彼女の自室に収まる規模ではなく使われていなかったこの部屋に移動させられており俺も暇さえあれば読んでいる、元々歴史に興味があったため彼女の説明は実に面白いものであった。

 

 

「ふむ、今日はどうしようか……」

 

 

 ちらりと昨日市場で買ったさまざまな食材に目を移す、朝から多くては授業に差し支えがあるだろうし少なくては授業に集中できないだろう。

 

 数分後、ハーブが練りこまれたパンを炎系魔術で焼きあげながら、ベーコンとスクランブルエッグを作っていた。自覚しているが俺の作るご飯は炎を使うものが多い、その理由は実に簡単、俺が炎系魔術が得意であるからだ。理由は知らないがシスティーナに呪文を教えてもらっている最中、なぜか炎系魔術だけ上達が早く、今では細かく威力を調整できるほどだ。

 

 

 四月と言ってもまだ朝は冷え込むためポトフを少し熱いくらいに煮込み、焼きあがったパンにチーズを乗せ、再度焼く。

 

 

 十分もすれば朝食の完成だ。六時半になると上から物音が聞こえ出し、階段を勢いよく降りてくる音が響く。

 

 

「朝ごはん出来てる?」

 

 

「出来てるから先にシャワー浴びてきたら?制服置いておくから」

 

 

「そうするわ。あ、あとルミアよろしく!」

 

 

 浴室に続く洗面所に消えていくシスティーナを見送り、俺はルミアの自室に向かう。

 

 

 普通俺と彼女らは主従関係にあり、敬語を使わねばならない立場なのだが

 

 

「敬語はいいから普通に喋って!」

 

 

 と、いうシスティーナの要望に俺が反対すると、

 

 

「主の命令よ!Do you understand?」

 

 

 という威圧には屈するしかなく服装に見合わない話し方で二人と接している。

 

 

 ルミアの自室は実に年頃の女の子らしいものでありシスティーナの部屋と比べれば天地の差である。

 

 

「おーい、ルミア、起きろー」

 

 

 肩を揺さぶるがルミアが起きる気配はない。システィーナは朝に強いがルミアは朝にめっぽう弱く起こさなければ永遠に寝ている感じだ。

 

 

「さて……どうしたものか」

 

 

 場合によってはセクハラになってしまうため、起こすことにも配慮が必要だ。轟音で起こすと言うのも手だがそれではまたシスティーナのお説教タイムが始まってしまう。

 

 

「ならば今日は……こうするか」

 

 

 ルミアがつかんでいる掛け布団をはぎ取り、綺麗に折り畳む、ルミアの膝を折り曲げ出来たスペースに掛け布団を置く。この時期の冷え込み具合なら起きるはずなのだが……

 

 

「……ん……」

 

 

 ルミアは寝返りを打っただけだった。そうルミアの起こし方がこの一日に於いて最も苦労するものであり、システィーナが食事を始めるまでには起こしておきたい。

 

 

 相手が男子なら服をはぎ取るなり、ベットから叩き落とすなり手はあったのだが相手はか弱い女子。過去にスラム街では姉さんのように俺にふるまってくれた女子が居たのだがそいつも朝が弱く、そういう時はいつもこの起こし方をしてくれと言われていたが、それをルミアに実行したことは無い。

 

 

「……やってみるか」

 

 

 ルミアの耳元に顔を近づけ一言だけつぶやく。すると、ルミアはいつものおっとりした雰囲気からは想像もできないくらいの速さで跳ね起き、顔は赤く染まっている。

 

 

「よし、起きたなら下で待っとくから、朝ごはんできてるぞ」

 

 

 踵を返し、手を振りながら俺はルミアの自室を後にする。階段を降り、食堂に戻る。

 

 

「ルグナ、丸いパンにチーズを乗せる発想はなかったわ」

 

 

 そこにはパンにチーズが乗っている光景に唖然とするシスティーナがいた。

 

 

「まあ、おいしいから問題ない。それより、昨日の続きを頼む」

 

 

「ええ、あの《メルガリウスの天空城》が建造されたのは西暦前4500年くらいになっちゃうの。確かに次元位相に関する術式が古代文明において本格的に確立したされているのが古代中期なんだけど、西暦5000年にはすでに《メルガリウスの天空城》らしきものが浮かんでいたと物語る壁画や遺物が残っているの。つまり―――(略)だからあの人がどうもその500年を誤魔化すためにこじつけをならべて―――(略)―――(略)―――(略)―――ということなの」

 

 

「なるほど、つまりそういうことから前に出されたそのフォーゼルっていう人の論文が気に食わないってわけか」

 

 

「そうなの、だから直談判しようか迷ってて……」

 

 

「まあ学者同士の考えが一致しないのは普通のことだろ?俺的にはレドルフさんが書いた論文が最も矛盾が少ないしあれの全部があってるとは言わないが、俺はレドルフさんを信じてるよ」

 

 

「そう、まあお爺様が全部合ってないのは少し悲しいけど」

 

 

「あの後判明した新事実や異物や壁画の遺物、それらが後十年早く見つかってればあの論文の姿は変わってただろうな……最も十年早く見つかってても次に見つかる証拠にもそういうこと言っちまうんだろうが……」

 

 

「そういえばルミア遅いわね、しっかり起こしてきたの?」

 

 

 かちゃかちゃと食器が鳴る音が響き、システィーナはベーコンをちぎったパンに巻き、口に運ぶ。

 

 

「ああ、跳ね起きてたのをしっかり見たからな」

 

 

 俺はそう言いながらポトフをすする、ほとんどが野菜でありながら少しだけあるソーセージが肉の風味を醸し出し、野菜は溶けるように柔らかい。

 

 

「にしても、あの講師、どうにかできないものかしら……?」

 

 

 システィーナが不満そうにそうつぶやく。

 

 

「ん、どうかしたのか?」

 

 

「実はね、ヒューイ先生の代わりに先生が来たんだけど……」

 

 

「確か……ひと月前に急に講師を辞めたって言ってたな。そんでその代わりの先生がどうしたんだ?」

 

 

「史上最悪の講師よ!魔術を冒涜するみたいにてきとうな授業をして!……私が授業したほうが絶対ましよ!」

 

 

「そ、それはすさまじいな……その講師の名前は?」

 

 

「確かグレン=レーダスとか言ってたわ、なんでも教授の斡旋とかなんとか」

 

 

「教授ってあの音に聞くセリカ=アルフォネアか?」

 

 

 セリカ=アルフォネア、スラム街に暮らしていた俺でも聞いたことがあるほど有名な魔術師。スラム街ではこんな言い伝えがあった。

 

 

『セリカ=アルフォネアが現れたらすべてを捨てて逃げろ、そこは直ぐに更地と化す』

 

 

 まあ実際にそんなことが可能だと知った時は泡を吹いて倒れそうになったが、それほど優秀な教授がロクでなしな魔術講師を学院に斡旋したりするだろうか。

 

 

「……少し調べてみるか」

 

 

 数分後、目をこすりながら降りてきたルミアも食卓につき、時間は流れ、二人は玄関に立っていた。

 

 

「それじゃ行ってくるから後はよろしく」

 

 

「ルグナ君、行ってきます」

 

 

「行ってらっしゃい、今日も勉強がんばって」

 

 

 そう応援のメッセージを送り、二人の後姿を見送る。

 

 

「さて、俺もやりますか」

 

 

 食器の片付け、屋敷内の掃除をお手伝い妖精と分担して行い、洗濯はどちらがどちらのものか間違えないように慎重に分け、自分の昼食を作り、この家の主人であるレナード、フィリアナご夫妻に二人の愛娘の状況を細かく手紙に記す。

 

 

(そういえばグレン=レ-ダスに関して書くべきだろうか?)

 

 

 あの二人の権力を持ってすれば簡単に辞めさせることができるだろうか、まだ全容が見えていない以上伝えるべきではないだろう。

 

 

「さて、俺も行きますかね」

 

 

 屋敷を後にし、執事服のまま、俺は市場を目指した。

 

 

「おっちゃん、今日はなにがいいんだ?」

 

 

 行きつけの肉屋で足を止め、店主にそう問いかける。

 

 

「おっ、フィーベル家の坊主か。今日は……そうだなこいつとかどうだ?今日入った良物だ」

 

 

 そう言って見せてきたのは美しい牛肉だった。色合いも良く、脂ものっている、これで料理するならカレーなどがいいだろう。

 

 

「じゃあそれにしよう、量は……200で頼む」

 

 

 カレーにはどうやら疲れを取る効果があるらしく講師のロクでなしさに精神をすりきらせているシスティーナにはもってこいだろう。

 

 

「あいよ!坊主、そういえば聞いたか?数ヶ月前に起こった事件」

 

 

「数ヶ月前の事件がなんでいまさら出てくるんだ?」

 

 

「なんでも貴族と政府が秘匿していたらしくてなたまたま聞いた靴屋の親父が今みんなに言いふらしているらしい」

 

 

 貴族と政府が事件を秘匿することはあまり珍しい事ではないらしいがそれでも良い話でない。

 

 

「へえ、そんでどんな事件だったんだ?」

 

 

「なんでも大雪が降る数日前に起こった事件らしいんだ、大手宝石店にあった宝石やネックレス、挙句の果てにはソファや時計まで全部消えていたらしい」

 

 

「……その宝石の行方は?」

 

 

「それがまったくわかんねえらしい。軍もお手上げだってよ」

 

 

「ふーん、そうか。あっこれ代金な」

 

 

「まいど!」

 

 

 その後、さまざまな店を周り、カレーの準備を整える。

 

「さて、買い出しは終わったし後は……あいつのところだけだな」

 

 

 狭い路地を通り抜け、きらびやかな看板の店に入る。そこは真昼間だと言うのに人でにぎわっている、仕方ないことだ、なにせここは違法カジノ施設なのだから。だが俺はそんなものに目もくれず店の奥へ歩き、大男二人が守るドアの前に立つ。

 

 ポケットからあるカードを取り出し、一人に渡す。それを確認するとドアを開けてくれた。ドアの向こうは先ほどまでいた場所が夢物語とでも思えるほど質素なものだった。

 

 

「あら、あんたが来るなんて珍しいわね?フィーベル家の執事になって安定しているらしいじゃない~?」

 

 

 ワインをたしなみながら俺をもてなした金髪の女性は裏世界を牛耳る大商会ヴァイン商会の元締め、ルナ=セル=ヴァインその人だった。

 

「おかげさまでな、一つ聞きたいことがある」

 

 

「ああ、あの宝石消失事件の事でしょ?」

 

 

 どうやら俺がここに来た理由は見透かされているらしい。

 

 

「それなら話が早い、なんで貴族と政府はあの事件をもみ消そうとした?」

 

 

「簡単よ、あの事件にはどうやらイグナイト家が関わっているらしいわ」

 

 

「イグナイト、帝国王家の遠縁、分家筋のか?」

 

 

 イグナイト家、帝国王家の分家にして三大公爵家の一角を担い、イグナイト家が代々帝国魔道士団で世の中には公表されていない組織特務分室の室長を担っているらしく現当主であり、女王府国軍大臣兼国軍省統合参謀本部長の席に座るアゼル=ル=イグナイトが前室長であり、今はその娘が室長らしい。

 

 

「ええ、そういえば噂話なんだけどなんでもイグナイト家には長男がいるらしいわ」

 

 

「長男?だったらなんでそいつが特務分室の室長にならないんだ?」

 

 

「さあ?私たちも今さっきつかんだ情報だからよくは知らないわ。っとごめんなさいね、通信が入ったわ」

 

 

 半分割れた遠隔通信の宝石を耳に当て、背を向け、相手と話し始める。

 

 

「私よ、なにかあったの?……なんですって!?あいつらが!ちっ、直ぐに逃げなさい!今の損傷率は?…47%?むしろそれぐらいで助かったと思いなさい!直ぐに逃げなさい、命令よ!」

 

 

「おい、どうした?」

 

 

「猟犬が出たらしいわ」

 

 

「猟犬?使い魔か何かか?」

 

 

「いえ、れっきとした人間の部隊よ。私たち裏組織の人間を叩き潰すために動いているらしいわ、一応政府に潜入している奴に確認を取らせたけどそんな部隊はどこにもないらしいわ」

 

 

「ということは第三勢力か?天知恵も被害を受けているんじゃないか?」

 

 

「さあ?私たちはあいつらに大損させられてからは敵同士よ」

 

 

「そういえばお前はそんな奴だったな」

 

 

「はっ、あの時あなたを助けたのは誰か忘れたのかしら?」

 

 

「まさか、感謝してるよ。さて、俺はそろそろ戻るとしよう」

 

 

「あっ、ちょっと待ちなさい。あなたに手紙よ」

 

 

 そう言ってルナは一通の封筒を俺に渡した。封筒にはなにも書かれておらず、裏面にもなにも書かれていない。

 

 

「誰からだ?」

 

 

「答えなかったわ、唯一わかっているのは隻眼の赤髪ってことだけ」

 

 

 隻眼の赤髪、その単語に俺の背筋は凍りつき、恐る恐るその封を開ける。中には一通の手紙が入っていた。

 

 

『拝啓ルグナ様

 

 あの時の傷が癒えたようでなによりです、我々はあなたの所在をすべて知っており、その気になればフィーベル家一家を皆殺しにすることも一興ですがそれでは面白みに欠けるため、あなたの大事なものを奪っていくこととします。手始めにあなたを救ったあの少女たちから。その二人の亡骸を見た時のあなたの表情を楽しみにしております。先に言っておきますが逃亡などと言うつまらない策を考えることをすればその瞬間にそのカジノも火の海として差し上げましょう。それでは健闘を祈ります。         猟犬部隊隊長ルシファーより      』

 

 

「……俺も学院に行くしかないみたいだな。レナードさんに情報の操作を頼むとしよう、そういえばルナ、グレン=レ-ダスという男を知っているか?」

 

 

「もちろんさ、あの魔術師殺しでしょ?」

 

 

「魔術師殺し?」

 

 

「曰く―――《愚者》こそ恐れよ。()の者の前に、神秘は陳腐(ちんぷ)な妄想と堕ち果てて、魔術師(かしこきもの)(すべか)らく無力な赤子と化す―――こう言われるほど恐れられた魔術師、それが宮廷魔道士団特務分室No.0《愚者》のグレン=レ-ダス」

 

 

「なるほど、ますます興味が湧いてきた。俺は行ってみるとするよ、アルザーノ魔術学院に」

 

 

「精々殺されないことだねぇ、あの魔術師殺しが殺した数は少なく見積もっても二十四人。正真正銘魔術の闇に浸かった暗殺者さ」

 

 

 俺はルナの忠告を有り難く受け取り、カジノを後にし、直ぐに家に帰ると学院に行きたい旨の手紙を送った。理由は実に簡単で魔術を学びたいため、ということにしたが二人が帰ってきた頃にはもう返事が返ってきて、情報操作も無事完了し、制服は三十分後に遅れてやってきた。なんでもこうなることを予測してあらかじめ作っておいたらしい。二人は大いに喜んでくれたがルシファーがいつ彼女らを襲ってもおかしくは無かった。

 

 そして次の日を迎え初めて学院の門をくぐることとなった。  

 

 

 

 

 

 




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