ロクでなし魔術講師と禁忌教典 フィーベル家の執事   作:黒月 士

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 前回、長くしないと言ったな?あれは嘘だ、まあ書きたいことを書いたらこうなったと言いますか……


EpisodeⅠ-Ⅱ愚者との対面

「……こ れ は ひ ど い 」

 

 その教室の惨劇に、俺はがくりと肩を落とした。

 

 新任講師のグレンはくぎを口にくわえ、カナヅチを肩に担くその様子はまるで日曜大工だ。もちろん真面目一辺倒の堅物であるシスティーナがそれを許すわけもなく、決闘を申し込んだのだ。

 

 結果はシスティーナの圧勝であったが、魔術師同士で交わした約束を反故にするのかと問いかけられた、その時グレン先生はこう言い放った。

 

「だって、俺、魔術師じゃねーし」

 

 その言葉に皆は理解できずただ立ち尽くしたが、俺はその理由を理解していた。彼は魔術師ではなく魔導士、それは正論であり、暗殺の限りを尽くしたあの《愚者》に約束も正々堂々もくそもない。

 

 それを俺自身、はっきりと理解していた。理由もなく虐げられるスラム街の子供たち、それを守る法もないし、たとえ約束を交わしても向こうが守ると言う確証はどこにある?裏切らない根拠は?貴族であっても目撃した子供を皆殺しにして後から理由なんていくらでもつけることが可能では?

 

 戦いにおいて協定を結んだ場合ある根拠によって正々堂々もないと言われている、それは協定違反しても罰する者が居ないからだ。停戦の約束を敵が裏切ったら?自分たちが裏切ったら?損をするのは停戦協定を信じた方のみ。先に裏切ったほうが利益を得る状況下では限定的停戦は成立することは無い。あるとすれば完全な調和だがそれはつまり、表世界と裏世界が融合することであり、国家の隠ぺいや貴族の洗浄(ロンダリング)された裏金情報が雨のように降り注ぐ。つまり、完全な調和はあり得ることは無い。

 

 それを知っているためあの《愚者》は約束を守らないのだ。あの後ルナの情報ではグレン=レーダスは昨年発生した《天使の塵》事件を最後に宮廷魔道士団を退役している。あの《天使の塵》事件は俺たちの住処、スラム街にも被害はあった、周りの人間が廃人と化し、次々と人間としてではなくただの人形として死んでゆく。その惨状は二度と見たくない。

 

「グレン先生、あれがあなたの本心ですか?」

 

 放課後、俺は屋上で一人景色を眺めるグレンに問いかけた。当の本人であるグレン先生は俺に目線すら移すことないまま、素っ気なく返す。

 

「とーぜんだ、編入生。はら、さっさといってやれ。白髪のあいつの不満を聞いてやれよ」

 

 しっしと自分一人の時間を大切にしたいのだろうか、邪魔だと言いたげなグレン先生。そんなグレン先生にあの単語をぶつけるとどうなるのか、はっきり言って結果は火を見るより明らかで、そしてあまりにリスキーな行動だ。

 

 しかし、気にもなった。この自堕落、怠惰ランキングを作ろうものなら世界一位すらたやすく取れるであろうグレン=レーダスという教師ではなく、帝国軍時代に魔術師殺しとまで歌われたグレン=レーダスという軍人の顔を。

 

 貧民(スラム)街で暮らしていた時に軍人は山ほど見た。住宅街を規則正しく行進する部隊、罪人捕縛のため街中を疾走する軍人、空を鳥の背にまたがり駆け抜ける軍人を見上げたりした。時には盗みをする上での障害となり、時には話し相手にもなってくれた軍人たちとの思い出というのは少なくとも両手では数え切れないだろう。

 

 だからこそ、だからこそ、気になるのだ。この男の、教師という仮面の下にあるのはどんな顔なのか。あまりに愚策、殺される可能性ががあるにもかかわらず、俺は実行した。

 

「……もう一度問います、あれが魔道士としてのあなたの本心ですか?《愚者》」

 

 《愚者》その単語に反応し、グレン先生は俺に向き直るがその目は先ほどまでのやる気のないものではなく殺気がにじみ出ているものだった。

 

 ああ、あなたはそっち側か。ハイライトが真っ黒に染まった瞳はサンタクロースが居ないことを知った子供によく似ている。あれは絶望だ、夢を持ち、憧れを原動力として突き進み、そして夢と憧れが永遠に叶わぬことを知った時の瞳だ。

 

 親しいやつだとニックだろうか、あいつは妹と共に捨てられたが本人は父親の跡を継いで医者になるんだと言っていた。事実あいつは少しの、スラム街では奇跡に等しい治癒術を使えるやつだったのもあって大人になっても人を救いたいと思っていたのだろう。

 

 だが、そんなある日、あいつの妹が馬車に轢かれた。轢いた相手は轢いたことにすら気付く事なく駆け抜けていったらしい。ニックは急いで治癒をかけるも、馬車に轢かれた妹を救うには到底足らなかった。そこでニックは近場の医者の家に行き、妹を助けてくれと泣き叫んだ。

 

 答えは無情にもノーだった。妹は助からず、後日俺たちで埋葬した。埋葬したといっても、山に埋めただけなのだが。そんな時のニックの瞳によく似ている。何故だ、何故そんな瞳が出てくる?

 

「……なるほど、それがあなたの、いや、宮廷魔道士団特務分室No.0《愚者》としての顔ですか?」

 

 この人の瞳は、間違いなく一年前の、特務分室脱退に原因がある。だが、それを俺が知っているわけもないし、第一今俺は生死の淵に立たされていると言っても過言ではない。

 

「……おまえ、それをどこで聞いた?」

 

 ぶわっと殺気が広がる。付近で夕陽を優雅に浴びていた植物がピタリと凍ったように固まる。付近の生物がいっせいに仮死状態、またはそれに近い状態に入る中、俺は挑発を続ける。

 

「なあに裏世界では有名ですよ、外道魔術師を屠る《愚者》のグレン=レ-ダスの噂は」

 

「なるほど、おまえ、《天の知恵研究会》の差し金か?」

 

 天の知恵、か。奴らにも何個か物申したいことがあるが、それはそれ。今は関係ない。

 

「残念ながらそうではありません。数か月前までスラム街で暮らしていた、ただの執事ですよ?」

 

「なるほど、お前自身は答えてくれなさそうだし体に聞くとしようか」

 

 そう言った先生はポケットからあるカードを取りだした。そもそも体に聞くってなんだよ、拷問か?痛み系なら耐性は人以上にあるが、あれ程度じゃ魔術の世界じゃ足りないんだろうなぁと愚痴る。

 

 ふっ、と辺りの空気が一変し、暗雲が立ち込め始める。

 

「お前がどんな秘術を持っていようが、もう無駄だ。無力化させてもらった」

 

「ま、まさかそのカードが魔道器…!?」

 

 一、二呼吸置いて口からそんな典型的な言葉が飛び出した。いやいや、出るしかないでしょ。無力化?ナニイッテンノコノヒト

 

「ああ、俺の魔術特性(パーソナリティ)は『変化の停滞・停止』そしてこのカードに返還した魔術式は俺を中心とした一定効果範囲内における魔術起動の完全封殺」

 

「なるほど、それがあなたを魔術殺しとたらしめた技か……ん?でも待てよ、それって一定効果範囲内なんですよね?」

 

 俺の問いに先生は警戒を解かずに静かに頷く。

 

「なら、グレン先生も魔術使えないんじゃ……」

 

 先ほどの先生の説明が正しいなら自分が使えないのは当たり前。そうなったらその場には魔術が使えない魔術師が二人ちょこんと居るだけだ。そんな魔術に何の意味がある?

 

 そんな俺の問いに答えるように先生はステップを踏み始める。

 

「大丈夫、大丈夫、こいつがあるから」

 

 ニカっと影が一切ない満面の笑みで先生は握り拳を作り、こちらに向けてくる。 

 

「もしかして……拳ですか?」

 

「もしかしなくても拳」

 

  バネがはじけたかのように右ストレートが眼前に飛んでくる、それを左腕でぎりぎりいなすと続けざまに左アッパーが襲い来る。右足を高く上げ先生の肘を蹴り軌道を変える。そのまま上がった足で先生の左腕を蹴り、距離を取る。だがそれを元軍人が許すはずもなく右手ががっちりと胸倉をつかんでいた。足をはらわれ、腕もつかまれ、大きく振りかぶって投げられる、地面との衝撃はさほどであったが筋肉にダメージが蓄積し受け身を取った左肩は少し俊敏性に欠ける。

 

「……アレンジが入っていますがそれは間違いなく帝国式軍隊格闘術ですね?」

 

 帝国式格闘術、昔広場で演舞を行なっていたのを見たことがあるのと、軍人に捕まった仲間を救出するために駐屯地に襲撃をかけた際戦闘になった時のことを体が覚えていた。

 

「ああ、ここでお前を殺してやるよ。外道」

 

 そこからの戦いは防戦一方のものだった。先生の精錬された格闘術の前に魔術を封じられた俺はなすすべもなかった。いくら一年のブランクがあるとはいえ腐っても元軍人。たかがたらふく腹を満たしただけの餓鬼では勝ち筋すら見えない。

 

(やばい!このままじゃ本当に……死ぬ)

 

 すさまじい威力を秘めた右ストレートに選ぶ選択肢はたった一つ、回避だ。首をほぼ直角に曲げ、拳の端がこめかみをかすったその時、左腹部に激痛と衝撃が走り、地面を転がり、柵に激突する。

 

「…がはっ……ほ、ほんとうに……殺る気かよ」

 

 血の塊が口から飛び出し、胃袋がひしゃげた感覚がする。肋骨は数本持っていかれあばらにもひびが入っているだろう。下半身はさらにひどく、足の甲は見たくもないほど無残な状況。満足に動くこともできず、次の一撃を躱すことはできない。出来ることと言ったら地べたを這いつくばって気持ち程度回避を試みるだけだ。

 

「外道魔術師を殺すのが俺の役割、ひいては特務分室の務めだ。悪く思うな転入生」

 

 先生がが拳を振りかぶる、ああ、無理だ。この距離を軍人が、ましてやこの魔術封鎖環境において肉弾戦で最も戦ってきた男が一撃を外すわけがない。終わりだ…

 

 だがそんな俺の視界の端に映ったのは、握りしめられた拳ではなく差し出された手のひらだった。

 

「悪いなルグナ、どうやら俺は大きな思い違いをしていたらしい」

 

 先ほどの殺気は何処へやら、ゲリラ豪雨の雨雲のように消え去った先生の顔はいつもの教師の顔に戻っていた。

 

「お、思い違い……?」

 

 引っ張り上げられるが、立てる力もない。壁に寄りかかり精々呼吸するのでやっとだ。

 

「つい先日、学院に関する書類に一部書きかえられた跡があって、それが今回転入してくる生徒ではないかとセリカが言っていたんだが…まったく

セリカも気をつけろ」

 

 ふわりと香水の香りが鼻腔をくすぐったかと思うと、次の瞬間先生の脇にはあの大魔術師の姿があった。

 

「悪かったな。ルグナ、君の怪我は全て私の責任だ、直ぐに《治る》さ」

 

 ぽぅと俺の全身を温かな光が包む、アルフォネア教授の魔術特性(パーソナリティ)『万里の破壊・再生』によって、傷ついた俺の細胞が再構築を始めている。ひしゃげた胃袋が戻っていくことに少々なんとも言えない違和感を覚えながら、喋れるようになった口から疑問が飛び出す。

 

「そういえば…俺がなんで黒じゃないってわかったんですか?」

 

 そう問いかけると先生の雰囲気がまた先ほどの殺気を帯びたものに変わる。大魔女の周辺ではバチバチと電撃が走り出し、ただ事ではないことが簡単に理解できる。

 

「簡単だ、今此処に人払いの結界が張られ、俺たち三人以外にこの学院に居るやつはただ一人。そいつが犯人だ」

 

 先ほどの口調とは打って変わり、さらに低い声となった先生。

 

(という事は、俺の時は本気じゃ無かったのかよ……)

 

 自分の実力不足と、それをたやすく先生の観察眼に舌を巻く。先生たちの行動から察するに間違いなく相手は俺より強い、そんなやつが人払いの結界まで貼って俺たち3人にした。

 

 狙いとしてはアルフォネア教授だろう。自身の弟子と弟子の教え子である俺という荷物があれば狩りやすいと考えたのだろうか。

 

「そいつはいったい誰なんですか……?」

 

 その時、パンパンパンとまるで大物作家が描いた舞台に贈られる賞賛のように音を響かせた拍手が屋上に響き渡った。三人の視線がその音源、屋根の淵に佇みこちらを眺める人影が夕日に照らされ、風が吹き荒れフードが取れる。

 

「あ………」

 

 息がとまる。この数ヶ月間、忘れたことなどなかった。自分を攻撃するよう命令し、その様を優雅に眺め、そして今度はあの二人を人質に取ったあの男。

 

「ルシファー!!」

 

 俺がそう叫んだ時、二人は訝しげな表情を浮かべたがそんなことを気にするほど俺に余裕はない。側から見れば家族を殺された一匹狼にでも見えるかもしれないという自覚を持ってなお俺はあいつを睨むことをやめなかった。

 

「そう怒りに溺れるな、なあに今日あたりに金色の髪の方を、確か…ルミアとか言ったかな?まあそいつを殺そうと思っていたがお前たちが戦っているのを見たらその気が失せた」

 

「てめぇ!いったい何者だ!」

 

 先生がそう叫ぶあたり、奴は軍でも認識されていない人物らしい。となると新参のテロリストか、いやあれだけの手だれの部下を連れていたあたりそれはない。

 

「なぁに、貴様の預かり知らぬ事だ《愚者》貴様には一切関係のない事だ。気にする」

 

 そこから先の言葉は無かった、アルフォネア教授が放った三重の呪文、B級軍用呪文【プラズマ・カノン】、【インフェルノ・フレア】、【フリージング・ヘル】がルシファーに襲い掛かったからだ。

 

「敵が話してる間に攻撃とか……第七階梯(セブンデ)の名が泣くぞ?」

 

「なに、愛弟子が侮辱されることは私の名に泥が塗られるより耐えがたいものでな。まあとっとと《死ね》」

 

 その呪文はルシファーではなく、足場の屋根を狙ったものであり、屋根は粉々に砕けた。ルシファーが呪文を唱えた様子もない、土煙が飛び交う中落ちたと確信した。だが、

 

「「「……ッ!?」」」

 

 土煙がはれた時、空中に不死鳥のように燃え盛る炎の翼を生やしたルシファーがにやりと笑みを浮かべていた。

 

「大魔女、俺はおまえたちと殺りあう気はない。俺の望みはルグナの抹殺、ただそれだけだ」

 

「なぜだ!なぜおまえは俺を狙う!?」

 

 俺はやつに心からの叫びをぶつける。何故だ、何故だと。あの日から1日たりもと頭から消えない疑問。俺はただスラム街で暮らしていただけなのに、お前たちの邪魔をしたことは…まあ多少あったとしても、殺しに来るほどのことではなかったのに。

 

「お前はこの世界に存在してはならん存在、それを俺が無能な神々に代わってお前を罰する、ただそれだけだ」

 

 あいつはただ、一切の抑揚ない機械的な一文を俺に投げた。

 

「神…神だと?」

 

「然り、お前は生きる事、いや生まれてきた事そのものが罪だ。お前は生きているだけで他者を業に引き込む、歩く災害だ」

 

「だが、無脳な神はお前を殺さない。だからこそ、俺が神に代わりお前を殺すだけだ」

 

「ふざけるな!俺は誰かに手綱を握られるのが一番嫌いだし、第一そんな理不尽な理由に従うわけないだろ!」

 

 俺はそう言い放つと、壁から一気に柵へ走り、そのまま飛び越える。此処は3階、勿論地面と距離は怪我なしでは着地できないほど十分ある。

 

「《三界の理・天秤の法則・律の皿は左舷に傾くべし》!」

 

 【グラビティ・コントロール】で自身にかかる重力を減らし、学院のベランダや突起物を足場とし、地面に降りる。

 

「逃げようと無駄な事だと知れ!」

 

 俺が着地するのと同時にやつは眼前まで迫り、腰から引き抜いた剣を振る。先ほどのダメージはなく躱すことは容易い。

 

「あめぇ!」

 

 カウンターをお見舞いしようと俺の右フックがやつの顎に刺さる。そのはずだった、

 

「がっ・・・!?」

 

 左肩口に激痛、熱せられた火かき棒を思いっきり叩きつけられたかのような痛みが走り、右フックは途中で止まる。左肩口に突き刺さっているのは間違いなく先ほど回避した剣がせせら笑うかのように光をこちらに反射する。血液が足元に一瞬で血溜まりをつくり、左肩から先の感覚が消え失せていく。

 

「ここまでだ」

 

 ルシファーがゆらりと上段に振りかぶった瞬間、なぜかルシファーは一気に距離を取る。

 

「ちっ!貴様、錬金術で鎖を作っていたな!」

 

 さまざまな空間から鎖が出現し、それは空を駆けるルシファーを追尾する。自分で言うのも虚しいが、俺は落下中に錬金術を行えるほど優秀じゃない。

 

 この鎖は俺少し前にカッシュの逃亡を阻むために通るであろう此処、中庭に仕掛けておいたものだ、他の誰かがかからないように任意起動式にしておいたのがここで役に立った。

 

「ははっ、……魔力容量(キャパシティ)も技術も全部で劣る俺にはこれしか手は無いんだよ……」

 

 血溜まりが光を帯び、突きだす俺の右手に光の粒子となって集まる。アルフォネア教授にかかれば奴とはいえひとたまりもないだろう。だがどうやら奴はあの二人にも攻撃を仕掛けているらしい。俺の優先順位はあいつの中では確かに高いだろうがアルフォネア教授がいては話は別だ。

 

「あいつ……自分の血を触媒に…?」

 

「ああ、お前が【イクスティンクション・レイ】を唱えるときに使う虚量石(ホローツ)みたいなものだな」

 

 先生と教授の魔術がルシファーの攻撃をいなすのを視界の端におさめ、俺は大魔術を展開していく。

 

 血を魔力処理し簡易的な魔術触媒を生成する、右手には主となる大型の円法陣の上に大小さまざまな円法陣が出現し不規則に回転を始める。

 

「《それは愚かなる名・だが時は望む・不屈の英雄・その物語を》」

 

 円法陣は少しずつ重なり、それは一つの砲台と言える形を取り始めた。左足を引き、神経が半分無くなったかもしれない左手を右肩に気持ち程度置く。

 

「いいだろう、かかってこい!」

 

 紅蓮の翼はさらに火力を上げ、鎖の包囲網を破り、上空に陣取る。血の触媒程度では自身の攻撃を止められないとでも思っているのだろうか。

 

「撃ち抜け!黒魔改【運命の詩(レクイエム・レコード)】」

 

「《燃えよ!我が命、我が魂!》【エンドレス・オーバー・ストレイム】!」

 

 ルシファーの空間斬撃と俺が放った呪文は空中で激突し、校舎を揺らした。だが徐々に【エンドレス・オーバー・ストレイム】が吸い込まれていくように押されていく。だが俺の呪文は奴の斬撃を打ち消しこそすれ打ち破るほどではなかった。空中で霧散し、奴と俺の間には霧散した呪文の光粒が漂う。

 

「……やはりお前は殺さねばならん、その魔術特性(パーソナリティ)はあってはならぬものだ」

 

 そう言い残し、ルシファーは飛び去った。惜しくも呪文がルシファーに当たることは無かったが今は撃退しただけでも良しとしよう。先生の方も攻撃が止んだのだろうか、三階から飛び降りてくる。

 

「……成功したか、成功率50%ではあったけど、つらいものは、つらいな……」

 

 大出血で血の海をまた作りながら俺は芝生に倒れこむ。今度は完治するまでどれくらいかかるだろうかと意識を失う直前、そんなことを考える俺だった。




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