ファントムオブキル 短編集   作:まりごのまりも

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【ホワイト】トランプ

「お、何してるんだ?」

 

 野暮用を終わらせてきたマスター・コダイは、自分に従うキル姫たちが車座になっているのを見てそう声をかけた。

 

「あー、マスター君だー! おかえりなさ~い」

 

「お帰り、マスター」

 

「マスター!」

 

 コダイに一番近いところに座っていたフライシュッツとラグナロクが振り向いて出迎えてくれる。ブンブンと音が鳴りそうな勢いで手を振るダモクレスへ、コダイも手を振り返してから部屋に入る。

 

「で、何やってるの?」

 

「ババ抜きだぞ」

 

 コダイは、答えてくれたグラーシーザの視線を追う。

 

「こちらのカードから希望の香りがします! とりゃー!」

 

 エルキュールが勢いよくネスの手札からトランプを1枚引き抜いた。

 

「希望は散りました!!」

 

 そのままひっくり返る。スカートが短いせいでコダイにもぱんつが見えた。希望とは美しいまでの白である。

 

「マスターくーん? どこを見て頷いているのかなぁ?」

 

「見えてない見えてない。俺の位置からは見えなかったから」

 

「墓穴を掘ったわね、マスター。シュッツは具体的な事は言っていなかったのに、マスターのその言い方だと何のことだか分かっているじゃない」

 

「ははは、そうとも言うかもしれんね」

 

「あ、ちょっと待ちなさい!」

 

 ラグナロクからの追撃をひらりと躱したコダイは、ぐるりと回りこんでミネルヴァとスイハの間に座った。

 

「残りはあの2人なのか?」

 

「はい」

 

「そうです」

 

 ミネルヴァとスイハがそれぞれ答えてくれる。ミネルヴァの肩に乗るニケもこくこくと頷いていた。

 

「おー、ニケ。お前のご主人様は何位だったんだー?」

 

 ふさふさした毛を撫でながらコダイが聞くと、ニケはビッと翼を立てた。

 

「1位か。流石だな。まあ、ミネルなら予想通りと言うべきか」

 

「ふふっ、当然です」

 

 ミネルヴァにしては珍しいどや顔である。

 

「2位がラグナ、3位が私、4位がグラシー、5位がクレス、6位がシュッツでした」

 

 隣に座るスイハがそう捕捉してくれる。

 

「シュッツが6位なのが意外だ」

 

 コダイの率直な感想に、シュッツが蕩けそうな笑みを浮かべた。

 

「えへへ~。やっぱりマスター君は私の事何でも分かってるんだねー。次はきっと1位だよ~」

 

「……シュッツ。多分、貴方が想像しているものと真逆の感想をマスターは抱いているわよ」

 

「え~? そんなことないもんねー、マスター君?」

 

「おう、そんなことないぞシュッツ。俺はお前に可能性を感じている」

 

 瞬く間に軌道修正したコダイに、「また適当な事を言って……」とラグナロクはあきれ顔だ。そんな会話をしている間にも、ネスとエルキュールの死闘は続いていた。先ほどから、お互いにババを引き合っているらしい。「これです! 見えました!」だの「これぞ私の希望への方程式!」だの言っているが、結局引いているのはババだ。

 

 つまりは何も見えていないし方程式も組めていなかった。

 

「ねーねー、マスター。マスターはどこ行ってたの?」

 

「ん? クロちゃんのところ」

 

 後ろから抱き着いてきたダモクレスをあやしつつ、コダイが答える。

 

「クロちゃんというと……、黒奏官のところか? ブラックキラーズ達に何かあったのなら力になるぞ」

 

「いや、きな臭い話は何も無いから安心してくれ。ちょっとした雑談だよ」

 

 そう口にしながら早くも愛槍に手を伸ばそうとするグラーシーザを、コダイはやんわりと止めた。

 

 黒奏官ことクロちゃんとこのコダイは旧知の間柄である。ちなみにコダイは黒奏官からコダイくんと呼ばれていた。

 

「やった! ババじゃない!!」

 

 ふと歓喜の声に皆が視線を向けてみれば、エルキュールが手札を放り投げたところだった。

 

「正義は勝つ!!」

 

 ブービー賞なのにこのどや顔である。エルキュールの咆哮に、グラーシーザだけがうんうんと頷いていた。天井を突き破らんばかりの勢いで拳を振り上げたエルキュールの顔がコダイの方へと向く。

 

「あ、マスター! 帰ってたんですね!! お帰りなさい! 見ててくれましたか!? このエルキュールの華麗なるしょうぺう!?」

 

「ふええええええええん!!! お兄ちゃああああああん!!!!」

 

 華麗なる勝利宣言の最中だったエルキュールを押しのけ、ネスがコダイのもとへと突撃してくる。半泣きになっているネスをコダイは優しく受け止めてやった。

 

「負けちゃました~! うぇぇぇ」

 

「おー、よしよし。そんな悔しかったのかー」

 

 抱きしめつつ、頭を撫でてやる。

 

 

 

 ぎりっ。

 

 

 

 そんな音が、コダイの耳にはサラウンドで聞こえた。

 

「ん? どうかした?」

 

「何が?」

 

 応えたラグナロクは、にっこりスマイルである。

 

「何がって……。今なんか変な音しなかった? 色んなところから」

 

「しなかったよ~?」

 

 間延びした声でフライシュッツが答える。

 

「いや、したでしょ」

 

「していません」

 

 スイハは目も合わせずにそう口にした。

 

「いや、したって」

 

「してないと言っているだろう」

 

 グラーシーザが口を「へ」の字にして否定する。

 

「でもなぁ、歯ぎしりのような」

 

「幻聴では? 疲れているんですよ、マスター」

 

 天使のような笑みを浮かべてミネルヴァは言う。

 

「えー、そうか? クレスはどう思う?」

 

「マスターが馬鹿になったー! あはは!」

 

「ひでぇ」

 

 エンシェントキラーズ達は笑ってその場を誤魔化した。

 

 

 

 

 その日から。

 エンシェントキラーズたちがババ抜きをする時は、なぜか勝ち上がると悔しがるようになるのだった。

 

「あれ? 勝った方が嬉しくない?」

 

 その異様な光景に、コダイは首を捻るしかなかった。

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