「かんぱーい」
「乾杯」
エンシェントキラーズのマスターことコダイと、ブラックキラーズのマスターことクロ。2人は居酒屋で杯をぶつけ合っていた。
「くーっ、疲れた身体に染み渡るなぁ!」
「同感だ」
コダイは豪快に、クロはちびちびとだが、それぞれ旨そうに酒を呑む。
「やー、あれだな」
「何だ?」
「こうして夜、街に繰り出すのも一苦労だと思ってよ」
「確かに」
コダイの言葉に、クロは苦笑せざるを得なかった。出かけようとすれば「どこへ行くのか」と聞かれ、場所を言えば「誰と会うのか」と聞かれ、会う人間を言えば「何時に帰ってくるのか」と聞かれ、しまいには「一緒に連れていけ」と言われるのだ。そして断ると十中八九「夜道は危ない」だの「1人じゃ駄目」だの「マスターの身に何かあったら」だのという無限コンボに繋がるのだ。
2人ともお小言は話半分で聞き流し、さっさと抜け出してきたわけである。
「キル姫全員連れて来れるわけがないだろう」
ブラックとエンシェント。それぞれのキル姫全員を連れてきたらちょっとした宴会になる。店を貸し切らなければいけなくなるだろう。
「あー、やっぱそっちもそんな感じなのね」
皆まで言わずとも、クロの哀愁漂う空気を察したコダイは笑う。
「そっちも、と言うことは、コダイ君もそうか」
「おー、こっちも酷いぞ。ネスなんて『節制が足りない』とか言って俺の財布を氷漬けにしようとしたんだぜ」
「解凍された頃には、札は使えなくなっているな」
「そうそう。本末転倒ってやつだ。おやっさん、ビール追加でー!」
豪快にジョッキを傾けたコダイが叫ぶ。
「そうだ。キル姫のことで思い出したのだが」
「何?」
「ババ抜きの件だ。負けが嬉しいというのは間違いないようだ」
「へー、お前のところもそうなったんだ」
枝豆をぱくつきながらコダイは言う。
「実はさ、ナナにもその話してみたんだけど」
ナナとは、セブンスキラーズを率いるコダイとクロの後輩マスターである。
「どうやらナナのところもそうだったらしい」
「本当か。それなら、お前の言っていた仮説は事実のようだな」
クロが難しい顔をしながらジョッキを傾けた。「へい、お待ち!」とお代わりのビールを受けとったコダイもそれに倣う。
「キル姫ってやつは奥が深いなぁ」
「そうだな。俺たちの一般常識では計り知れないものがある」
しみじみと頷き合う2人のマスターに、後ろから声が掛かった。
「なんだ、珍しいな。酒の席で真面目な話か?」
突如掛けられたその声に、コダイとクロは勢いよく振り返る。ただ、その声を掛けてきた人物を見て、2人は肩に入れていた力を抜いた。
「ファウスト先輩、お疲れ様でーす」
「ファウストさん、お疲れ様です」
頭を下げるコダイとクロに頷き、ファウストがコダイの横の席に目を向ける。
「隣、構わないか?」
「もちろん歓迎ですよー」
コダイが席を引く。礼を述べたファウストは、座りながら注文を取りに来た店員にビールを頼んで下がらせた。
「ファウスト先輩、よくこの時間に来れましたね」
「意外か?」
「意外です」
質問したのはコダイだったが、ファウストからの質問返しに答えたのはクロだった。ファウストはコダイとクロの先輩マスターで、従えているのはファーストキラーズと呼ばれているキル姫たち。戦闘ではとても頼りになるマスターではあるが、その私生活は完全にキル姫たちの尻に敷かれていた。
「まあ、たまにはな」
そう言いつつ目が泳いでいることを、コダイもクロも見逃さなかった。が、武士の情けでスルーしてあげることにする。
「それで……、何の話をしていたんだ?」
「あー、それがですねぇ」
コダイが自分の実体験とクロ、ナナの話も交え、ババ抜きの話をする。「キル姫はババ抜きで負ける方が嬉しい」という仮説を話したところで、ファウストが笑い出した。
「ははは、相変わらずお前たちは鈍いな」
「鈍い?」
「それはどういう意味でしょう」
コダイとクロは同時に首を傾げる。
「負ければ正当な理由でお前たちに甘えられる。勝ったキル姫たちはね、嫉妬しているのさ」
「ははは! 嫉妬? まさか。クロちゃんのロンギヌスじゃあるまいし」
「ロンギヌスの抱える大罪は伝染するという新たな仮説ですか?」
「……お前たちはもう少し自分の立ち位置を自覚した方が良いぞ」
取り付く島もない反応を示すコダイとクロに、ファウストは重苦しいため息を漏らす。しかし、従えているはずのキル姫たちの尻に敷かれているファウストも、自分の立ち位置は自覚した方が良いだろう。
「信じられないのなら、次はこうしてみるといい」
ファウストから与えられた助言に、コダイとクロは首を傾げながらも頷いた。
……。
後日。
ババ抜きをして勝ったキル姫に対して、「やっぱり頼りになるな!」やら「お前がいてくれて心強いよ」やら「可愛くて強いとか弱点ないじゃん!」やら「この隊はお前無しでは考えられない」やら盛大に甘やかして見たところ、見事にババ抜きへのスタンスが逆転し、キル姫たちはこぞって1位を狙うようになったのだった。
「やっぱファウスト先輩すげぇ」
「流石はファウストさんだ」
「気付いてほしかったのはそこじゃないんだよなぁ……」