ファントムオブキル 短編集   作:まりごのまりも

3 / 4
【奏官】かんぱい

「かんぱーい」

 

「乾杯」

 

 エンシェントキラーズのマスターことコダイと、ブラックキラーズのマスターことクロ。2人は居酒屋で杯をぶつけ合っていた。

 

「くーっ、疲れた身体に染み渡るなぁ!」

 

「同感だ」

 

 コダイは豪快に、クロはちびちびとだが、それぞれ旨そうに酒を呑む。

 

「やー、あれだな」

 

「何だ?」

 

「こうして夜、街に繰り出すのも一苦労だと思ってよ」

 

「確かに」

 

 コダイの言葉に、クロは苦笑せざるを得なかった。出かけようとすれば「どこへ行くのか」と聞かれ、場所を言えば「誰と会うのか」と聞かれ、会う人間を言えば「何時に帰ってくるのか」と聞かれ、しまいには「一緒に連れていけ」と言われるのだ。そして断ると十中八九「夜道は危ない」だの「1人じゃ駄目」だの「マスターの身に何かあったら」だのという無限コンボに繋がるのだ。

 

 2人ともお小言は話半分で聞き流し、さっさと抜け出してきたわけである。

 

「キル姫全員連れて来れるわけがないだろう」

 

 ブラックとエンシェント。それぞれのキル姫全員を連れてきたらちょっとした宴会になる。店を貸し切らなければいけなくなるだろう。

 

「あー、やっぱそっちもそんな感じなのね」

 

 皆まで言わずとも、クロの哀愁漂う空気を察したコダイは笑う。

 

「そっちも、と言うことは、コダイ君もそうか」

 

「おー、こっちも酷いぞ。ネスなんて『節制が足りない』とか言って俺の財布を氷漬けにしようとしたんだぜ」

 

「解凍された頃には、札は使えなくなっているな」

 

「そうそう。本末転倒ってやつだ。おやっさん、ビール追加でー!」

 

 豪快にジョッキを傾けたコダイが叫ぶ。

 

「そうだ。キル姫のことで思い出したのだが」

 

「何?」

 

「ババ抜きの件だ。負けが嬉しいというのは間違いないようだ」

 

「へー、お前のところもそうなったんだ」

 

 枝豆をぱくつきながらコダイは言う。

 

「実はさ、ナナにもその話してみたんだけど」

 

 ナナとは、セブンスキラーズを率いるコダイとクロの後輩マスターである。

 

「どうやらナナのところもそうだったらしい」

 

「本当か。それなら、お前の言っていた仮説は事実のようだな」

 

 クロが難しい顔をしながらジョッキを傾けた。「へい、お待ち!」とお代わりのビールを受けとったコダイもそれに倣う。

 

「キル姫ってやつは奥が深いなぁ」

 

「そうだな。俺たちの一般常識では計り知れないものがある」

 

 しみじみと頷き合う2人のマスターに、後ろから声が掛かった。

 

「なんだ、珍しいな。酒の席で真面目な話か?」

 

 突如掛けられたその声に、コダイとクロは勢いよく振り返る。ただ、その声を掛けてきた人物を見て、2人は肩に入れていた力を抜いた。

 

「ファウスト先輩、お疲れ様でーす」

 

「ファウストさん、お疲れ様です」

 

 頭を下げるコダイとクロに頷き、ファウストがコダイの横の席に目を向ける。

 

「隣、構わないか?」

 

「もちろん歓迎ですよー」

 

 コダイが席を引く。礼を述べたファウストは、座りながら注文を取りに来た店員にビールを頼んで下がらせた。

 

「ファウスト先輩、よくこの時間に来れましたね」

 

「意外か?」

 

「意外です」

 

 質問したのはコダイだったが、ファウストからの質問返しに答えたのはクロだった。ファウストはコダイとクロの先輩マスターで、従えているのはファーストキラーズと呼ばれているキル姫たち。戦闘ではとても頼りになるマスターではあるが、その私生活は完全にキル姫たちの尻に敷かれていた。

 

「まあ、たまにはな」

 

 そう言いつつ目が泳いでいることを、コダイもクロも見逃さなかった。が、武士の情けでスルーしてあげることにする。

 

「それで……、何の話をしていたんだ?」

 

「あー、それがですねぇ」

 

 コダイが自分の実体験とクロ、ナナの話も交え、ババ抜きの話をする。「キル姫はババ抜きで負ける方が嬉しい」という仮説を話したところで、ファウストが笑い出した。

 

「ははは、相変わらずお前たちは鈍いな」

 

「鈍い?」

 

「それはどういう意味でしょう」

 

 コダイとクロは同時に首を傾げる。

 

「負ければ正当な理由でお前たちに甘えられる。勝ったキル姫たちはね、嫉妬しているのさ」

 

「ははは! 嫉妬? まさか。クロちゃんのロンギヌスじゃあるまいし」

 

「ロンギヌスの抱える大罪は伝染するという新たな仮説ですか?」

 

「……お前たちはもう少し自分の立ち位置を自覚した方が良いぞ」

 

 取り付く島もない反応を示すコダイとクロに、ファウストは重苦しいため息を漏らす。しかし、従えているはずのキル姫たちの尻に敷かれているファウストも、自分の立ち位置は自覚した方が良いだろう。

 

「信じられないのなら、次はこうしてみるといい」

 

 ファウストから与えられた助言に、コダイとクロは首を傾げながらも頷いた。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 後日。

 ババ抜きをして勝ったキル姫に対して、「やっぱり頼りになるな!」やら「お前がいてくれて心強いよ」やら「可愛くて強いとか弱点ないじゃん!」やら「この隊はお前無しでは考えられない」やら盛大に甘やかして見たところ、見事にババ抜きへのスタンスが逆転し、キル姫たちはこぞって1位を狙うようになったのだった。

 

「やっぱファウスト先輩すげぇ」

 

「流石はファウストさんだ」

 

「気付いてほしかったのはそこじゃないんだよなぁ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。