合宿二日目。
今日もまたシャッフルバンドによる練習が始まる。
昨日よりも明らかに違う空気感に嫌気がさす。みんなぎこちなくて特にあたしと話している時が無理に笑っているように思えた。
部屋の隅で椅子に座ってギターを軽く弾いてみる。
楽しくない。いつもならるんっとするのに今日はるんっとしない。
「あ、あの日菜先輩‥‥」
「ん?どうしたの有咲ちゃん」
ギターから視線を上げればそこにいたのは同じシャッフルバンドの一人ポピパの市ヶ谷有咲ちゃんがいた。
少し申し訳なさそうに眉をひそめている。
「えっと、弦巻さんたちが練習しようって言ってて‥‥」
「あーそう言うこと。わかった」
どうやらあたしのことを呼ぶためだけに来てくれたらしい。それなら別に申し訳なさそうにしなくてもいいのになー。
そう思い椅子から立ち上がった。
後輩しかいない空間。
事情を知って少しだけ遠くなった距離。
なんて居心地が悪いんだろう。
個人的には同種族だと思っていたこころちゃんですら普段より少しだけ大人しいのは本当に違和感でしかない。
新曲ができたわけじゃない。けどできているところをやってみてそれから更に曲を考えていくそう。
ギターパートはいつもならすぐ思いつくのに今日は全く。昨日の内にできた分しかない。
「それじゃあ新曲の最初からやるわよ!」
『よし!そんじゃあ新曲頭からやるぞ!』
しかもこれは、あぁ参ったなあー。
持ち場についてそう思った。
重なって見えた姿に目を見開く。
手が震えていた。まるでギターに「弾くな」と言われているみたい。
一度両手を握りしめてみる。やっぱり震えは収まってくれない。
わかんない。なんで今こんなことになってるの。
だってこんなこと今まで一度だってなかったのに。
「日菜?どうしたの?」
「…なんでもないよ。気にしないで」
ほんとはわかってるくせに。
どうしようもないほど似てたんだ。
こころちゃんの姿がいなくなる前の蒼くんに。
あの元気で明るいムードメーカーだった蒼くんに。
バカだけど真っ直ぐな蒼くんに。
いやバカはあたしか。
今こんなことになってるのだって全部あたしのせいだもん。
あの日怖くて蒼くんに手を
蒼くんを助けられなかったから。
もしもあの時蒼くんに手を伸ばしてたら、未来は変わってたのかな。
おねーちゃんが死ぬ未来を変えた昨日の蒼くんみたいに。
神様から蒼くんとおねーちゃんには記憶を失う、っていう罰が与えられた。
ならあたしはどう償えばいいの。
蒼くんを
あたしにはわからない。
「日菜ちゃん?大丈夫?」
「…何が?」
「何がって!めちゃくちゃ真っ青じゃないですか!」
「…あぁ。大丈夫だよ」
「む、無理はダメだよ!」
「…無理?してないって」
そう。これくらい無理なんかに入らない。入っていいわけない。
きっとこれは罰の一部。
だからあたしは受けないといけない。何がなんでも全部。
「日菜様。僕と一緒に来てください」
あぁ。君はいつだってそうだ。
あたしたちが困っていたらすぐに手を貸してくれる。いつだってタイミングよく現れてくれる。
あたしは何回、その手に救われて来たんだろう。
「…蒼くん」
「お嬢様、僕は日菜様と大事な話があります。なので彼女を少しの間お借りしてもよろしいでしょうか」
「ええ!もちろんよ!頑張ってね日菜!」
全く何を頑張れって言うのかな。
でも練習できそうなコンディションじゃなかったからありがたいよ。
あたしは蒼くんの後ろをついて行く。
少しだけ大きくなっていた背中に涙が出そうだった。
着いた先は誰もいない一室。
そして後ろ手に扉の鍵をかけられる。もう逃げられない。
「日菜様、遠回しに聞いても仕方がないので単刀直入に聞きます」
「何?」
「僕と、いや
昔から変わらない真剣な表情。
記憶はないはずなのにおねーちゃんを想う気持ちが嫌というほど伝わって来た。