君を探して   作:茜崎良衣菜

19 / 31
捜索19

あたしは天才だと周りによく言われる。曰く、要領が良すぎる。曰く、そんな才能誰も勝てない。曰く、悩みがなさそう。

 

 

周りはみんな、私の外見しか見てくれない。結果だけ見て、普段の振る舞いを見て、それであたしのことを決め付ける。悩みだらけで苦しくて仕方ないのに。よく知りもしないのにどうして知ったような口ぶりなのか。やっぱり人の考えていることはわかんない。

だいたい生まれ持ったものに嫉妬されても困る。だってあたしはそれを望んでいなかった。才能がなければずっとおねーちゃんと仲良しだったのだから。まあ今は仲良しだから別にいいけど。

 

あたしの抱えている悩み。蒼くんとおねーちゃんの問題は未だに解決していない。糸口も見つかっていない。サポートは全力でするつもりだけど今のところ失敗しているしどうしようかな。

 

 

 

閑話休題(ま、それは一旦置いといて)

 

 

 

「それで?わざわざおねーちゃんがいない時に来た理由は?」

 

 

 

おねーちゃんがRoseliaの練習に出かけた今日この頃。

おねーちゃんがいないのを見計らって、奏ちゃんと春樹くんと蓮くんの三人が真面目な顔であたしの部屋に来ていた。

 

 

 

「日菜さん。日菜さんは今お兄ちゃんがどこにいるか知っているんですよね。ちゃんと答えてください」

 

 

 

数日の間で、まさかこんな時にピンチを迎えるとは思わないじゃん?

なんでこの子たちに蒼くんのことがバレているのかな。やっぱ蒼くんのことは家で話すんじゃなかった。

 

 

 

「あたしと撫子さんの会話、聞いてたんだね」

 

「偶然ですよ。ただお姉ちゃんの部屋の前を通ったら衝撃的な言葉が聞こえてきたから」

 

「日菜姉ちゃん、蒼兄ちゃんと会ったってほんとなのか!?」

 

「僕たちに隠していることがあるなら話してほしい。僕たちだって家族でしょ」

 

 

 

覚悟の決まった雰囲気が見えた。これなら話してもいいかもしれない。それにいつまでも隠していることは、彼ら相手にはできないとも思った。

 

 

 

「‥‥‥わかった。話すよ」

 

 

 

あたしは三人に今までのことを話した。

合宿での出来事。

蒼くんを見つけたこと。でも記憶がなかったこと。あたしだけでなく一番仲の良かったおねーちゃんのことまで忘れていたこと。それが悲しくて蒼くんに強く当たったこと。

おねーちゃんは蒼くんがいなくなったのを自分のせいだと思い込んでること。だから自殺願望があって、合宿中にも死のうとしたこと。それを蒼くんが助けたこと。その代償におねーちゃんは怪我をしたこと。

あたしは蒼くんが現れたことで他の人の行動が蒼くんと重なったこと。弱っているおねーちゃんを見るのも知らない蒼くんを見るのも辛いこと。今は弦巻家で働いていること。

 

 

全部、あたしの感情も含めて話した。

三人は静かに、あたしの話を最後まで聞いてくれた。

驚いた、けど安心した。そんな感情が混ざったような表情をしていて、なんだかおもしろい。

 

 

 

「つまりお兄ちゃんはこころって人の家にいるってこと?」

 

「うん。こころちゃんの付き人みたいな役割で働いてるみたい」

 

「‥‥‥私、弦巻さんの所に行きます。日菜さん、場所教えてください」

 

「無理だよ。今行ったって、蒼くんは連れ戻せない」

 

「そんなことないです。私たちが行けば連れ戻せます」

 

「たとえ連れ戻せたって蒼くんは奏ちゃんたちの知ってる蒼くんじゃないんだよ」

 

「わかってます」

 

「ううん。わかってないよ」

 

 

 

最初奏ちゃんが桐谷家に来た時は、本当に誰のことも信用していなかった。聞いた話では親から虐待され、そのうえで捨てられたのを保護されたという。そんな人間が疑心暗鬼になるのは当然のこと。誰の言葉も信用せず、ずっと人に懐かなかった。

そんな奏ちゃんのことを変えたのは他でもない蒼くんだ。何度突き放されても根気よく話しかけて一度だって見放すことはなかった。少しずつ少しずつ丁寧に築き上げ、繋いできたキズナ。それがあったから蒼くんの信用していたあたしたちとも話せるようになった。

 

言わば蒼くんは奏ちゃんにとって一番、何よりも大切で大好きな人なんだ。

だからこそ、忘れられているという事実が重くのしかかる。あたしなんかの比じゃない。

 

 

 

「あたしはね、おねーちゃんみたいな人を増やしたくない。奏ちゃんまであんな風に壊れる(・・・)くらいなら死んでも会わせないよ」

 

「私なら大丈夫です!」

 

「大丈夫じゃないよ。自分で思ってる大丈夫が大丈夫じゃないこと、わかってないでしょ。言葉で聞いてるだけじゃ蒼くんの記憶がないって事実は実感できない。会った時に初めて知るんだよ。そしてそれは奏ちゃんに受け止めきれるくらい軽いものじゃない」

 

「日菜さん!」

 

「あたしだって意地悪したくて言ってるわけじゃないんだよ。あたしの気持ち、わかってよ」

 

「ッ!もういいです!」

 

「お、おい奏!」

 

「ごめん日菜姉さん。お邪魔しました!」

 

 

 

奏ちゃんはそう言ってあたしの部屋から出て行った。その後に続くように春樹くんと蓮くんもあたしの前からいなくなった。

一変して静かになった部屋の中、あたしはベッドに倒れ込んだ。

 

 

 

奏ちゃんの気持ちがわからないわけじゃない。あたしだって同じ立場ならあれだけ必死になったかもしれない。それでも、あの蒼くんに合わせるのは危険だと思った。

 

会ったら泣くよ。きっと大号泣。

それを見ても今の蒼くんならハンカチを貸すくらいのことしかしない。多分自分の胸を貸したりしない。

逃げ出しても追いかけない。だって今はこころちゃんが一番大切だから。

 

忘れられてるってね、ドラマとかでよくあるじゃん。それでも最終的には思い出してハッピーエンド迎えるじゃん。けどこれはハッピーエンドになる気配が見えないんだよ。

忘れられる辛さって実際に経験しないと分からない。そして言えることは知らない方がいいってことだけ。

 

 

 

寝返りをうって天井を見上げる。部屋の電気が眩しくて目を閉じた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。