私はこの日ある場所にギターとスマホだけを持って尋ねていた。
「お久しぶりです撫子さん」
「あら紗夜ちゃん!久しぶりね。元気にやってる?」
普通よりも大きな家のインターホンを鳴らせば出迎えてくれたのはセミロングの茶髪の女性だった。彼女の名前は
「はい。撫子さんはどうですか?」
「うん。私もバッチリ。家の子たちもみんな元気にしてるよ」
「それはよかったです。今日も弾いていいですか?」
「もちろんだよ!入って入って!」
撫子さんの後に続くように家の中に入った。
あいかわらず長い廊下。扉の向こうからは小学校低学年くらいの子たちが顔を覗かせていた。そして私を見るなり笑顔で走ってくる。
「あー!さよおねーちゃんだ!」
「さよおねえちゃん!」
寄って来た4人の子どもたちに視線を合わせるためしゃがみ込む。
「みんな久しぶりね。元気にしてたかしら」
「うん!げんきだったよ!」
「わたしも!」
「ぼくも!」
「‥‥うん」
元気いっぱいの返事に控えめな返事。どれも可愛らしくて微笑ましい。
そんな彼らに手を引かれ大部屋に入る。
全面畳部屋のそこには他にもたくさんの子どもたちがいた。それも当然だろう。ここは撫子さんの家であり撫子さんのお爺さんが作った身寄りのない子のお世話をする孤児院でもあるのだ。私たちが小学生の頃はお爺さんが経営していたがお爺さんの亡くなった後は撫子さんが子供たちの面倒を見ている。正直20とちょっとで大人数の子供を相手にするなんてとてもすごいことだと思っている。
折り紙やおままごとをして遊んでる子。勉強をしている子。お昼寝をしている子。全員が見覚えのある子でそのうちの一人が私の方に歩んできた。
「お久しぶりです紗夜さん」
「久しぶりね奏ちゃん」
キリッとした目元が印象的で見た目はボーイッシュでカッコいい。外見だけでも男女問わずモテそうな彼女だが未だに恋人がいたことはないとかなんとか。勘違いされやすいがお堅い感じはない。むしろ会話しやすく誰とでも仲良くできる人の良さが彼女の売りだ。人望の厚さや彼女の性格を考えても生徒会長はまさしく適任である。
「今日もギター弾きに来たんですか?」
「ええ。奏ちゃんは勉強を教えていたの?」
「はい。あ、良ければ後で私のも見てもらえませんか。わからないところがあって‥‥」
「構わないわ」
目を輝かせ嬉しそうな奏ちゃんにつられて私も口角が上がってしまう。
奏ちゃんはしっかりしているけど私が来ると私に甘えてくれる。そこらの高校生並みかそれ以上に大人びている彼女だけどその行動で中身はまだ中学生ということを毎度実感させられるのだ。
あと姉の様に頼られるのが単純に嬉しかった。日菜の時には味わえなかった姉感がここにはあったから。
「それじゃあ紗夜ちゃん。早速始めちゃう?」
「そうですね。端の方使いますね」
畳部屋の隅っこ。そこがいつもの練習場所。ただ私がギターを持ってそこに移動すると今まで遊んでいた子たちが遊び手を止めて演奏を聞きに来るのだ。練習というよりはミニ演奏会みたいになっている。
Roseliaの曲を弾くのはもちろんのこと、きらきら星やかえるのうたのような有名な曲も弾いて皆で合唱する。それが一人ではやることのできないここに来ての楽しみでもあった。
その後奏ちゃんの勉強を見ていれば時間があっという間に午後6時を回っていた。楽しい時間は過ぎるのがとても速い。
「紗夜ちゃん今日はありがとうね」
「いえ楽しかったですから。それに、私もお世話になっていますから」
撫子さんにも、彼にだって。
「‥‥そっか。ならまた暇な時に遊びに来てね。いつでも歓迎するよ」
笑顔の撫子さんに私はお辞儀をして家を後にする。
ギターケースを握る手には力が入っていて早足で帰宅する。
また今日も彼のいない世界が回っている。その事実を信じたくなくて唇を噛んだ。
痛くてしょうがないのに、その傷を癒してくれる人は今日1日どれだけ待っても現れてはくれなかった。
♢♢♢
「お嬢様ここにいらしたのですか。一体何をされているんです」
人気のない公園。そこにあったジャングルジムの上に座り込む少女に青年が声を掛けた。
ニコニコ笑顔の赤いドレスにため息を吐く黒スーツはここでは場違いだった。
「何か笑顔になれるものがないか探しに来たのよ!」
「探したくなる気持ちもわかりますが勝手にパーティーから抜けられるのは困ります。旦那様も心配されておりました」
「そうなの?それなら戻りましょうか
「はい」
ジャングルジムから飛び降りた少女の後を青年が続く。
月灯りが2人を照らし胸元にかかっていた三日月型のペンダントを輝かせた。