約束の日は、すぐに訪れた。
日菜に連れられて遊園地の入り口で蒼夜のことを待つ。
いつもよりオシャレをした。蒼夜に喜んでほしくて一生懸命選んだ服。メイクだってしてみた。前みたいに、綺麗だって言ってくれるのかしら。
「お待たせしました」
「あ、蒼くん遅いよ~!」
「すみません。旦那様の手伝いをしていたら遅れてしまいました」
彼は前に会った時のようなスーツ姿ではなく、カジュアルなスタイルで現れた。見慣れた姿に私は息をのんだ。
その姿がどこか昔と重なるのは同一人物だから?服の好みは変わっていないというの?
「紗夜さん?どうかしましたか?」
「……さん付けはやめて」
その姿の貴方にさん付けをされるのは、初対面みたいな敬語を使われるのは、気が狂いそうだ。
私たちと遊びに来て、ここに弦巻さんはいない。なら気を遣うべき人間はいない。そうではないのだろうか。
「……では、紗夜と呼ばせてもらいます」
「……敬語もいらない」
「紗夜と、呼ぶよ」
未だに疑ってやまないのは彼が私たちのことを本当は覚えているんじゃないかということ。同一人物と言えど記憶がないうえで昔と同じような格好をされたら、似すぎているの範囲を超えられたら。
記憶がないのなら、同じような困った表情をしないで。
「ほら!おねーちゃんと蒼くんはいつまでそんなやりとりしてるの?早く行こうよ!」
「そうだな」
「……ええ」
日菜の発言で私たちはチケットを買って遊園地の中に入った。
遊園地内は休日ということもあって家族連れや友人同士など人が多い。その中でも目立つのはやっぱり恋人であろう人たちだ。手を繋いで楽しそうに歩く姿に嫉妬する。
どうしてこんなにも思っているのに届かないのか。
私は今でも貴方が好きなのにどうして伝わらないのか。
否。伝わっても、返ってこない。
彼は私を雇い主の娘の先輩としか認識していない。記憶がないのだから仕方がない。
そうだとわかっているのに私は自分のことばかりだ。
蒼夜は好きで記憶をなくしたわけじゃない。なのにそんな彼を私は責めている。
申し訳なさそうに下がった眉と知らない人だと切り捨てた声。今でも思い出しただけで胸が痛い。自分の余裕のなさに笑えた。
「もう、おねーちゃんも蒼くんも!せっかく遊園地に来たんだから楽しもうよ!」
日菜が笑顔で手を引く。昔とは違う。昔は私と蒼夜が引っ張っていたのに。
その手を引くのは私でありたかった。引いてくれるのも蒼夜であってほしかった。
最初に向かったのはジェットコースター。遊園地の中でも絶叫系が有名なここだが絶叫系以外にも色々な乗り物がある。それなのにも関わらずわざわざジェットコースターを選ぶというのは完全に日菜の趣味だろう。
私があまり絶叫系が得意でないことも分かっているはずなのにこの子はこういう時に気が回らない。
「それじゃあまずはあれに乗ろう!」
「日菜。私、絶叫系は……」
「いいね。乗ろう」
私の言葉をかき消すように発言したのは蒼夜だった。彼の表情を見ればポーカーフェイスが少し崩れ、少なからずワクワクしているのがわかる。
そうだった。蒼夜は絶叫系の乗り物が好きなんだった。
「紗夜。いいか?」
「……わかったよ」
記憶がなくても私はその姿と声で何かを頼まれると弱い。蒼夜は別に狙ってやっているわけではないだろう。
せめて似ていなければどれだけ楽だったか。
ジェットコースターでは日菜の計らいで隣同士にさせられた。嬉しいような嬉しくないような複雑な気持ちで。彼を見ればワクワクしているように見えた。そういうところも変わっていない。
「っ……」
「大丈夫だよ。俺がついてるから」
握られた右手微笑んだ蒼夜が私を見ていた。
それに驚いて、歪な顔をしてしまったのはきっと。
「……嫌、だったか?」
「……いえ。そのままでいいわ」
今日は昔の貴方を思い出す要因が多い。
強く強く、蒼夜の手を握りしめた。
♢♢♢
おねーちゃんと蒼くんは仲がいい。
初めて出会った時からすぐに仲良くなって、それからあたしが加わって。
蒼くんの家族を紹介してもらってみんなで遊ぶようになって。
始まりはおねーちゃんと蒼くんが出会ったから。
終焉はおねーちゃんと蒼くんが離れ離れになったから。
この物語のヒロインはおねーちゃんでヒーローは蒼くんだと知っている。そう決まっている。
だからこそあたしのこの想いが絶対に届かないものだってことも理解している。
それでも諦めきれないのはそれだけ好きだから。
好きで好きで堪らないから。
今にも爆発しそうなくせに、それでもおねーちゃんと蒼くんのことを優先したのは同じくらい二人の関係が好きだから。
そうじゃなきゃ、応援できるわけがない。しようとも思わない。
「……けど、やっぱり」
羨ましいな。
その言葉だけは飲み込んで、また私は二人の隣にいる。
今の関係性が一番いいんだって、そう自分に言い聞かせる。
それでも溢れ出る想いは器用に笑顔の仮面に隠して。
何度だって二人に笑いかけるんだ。