「おねーちゃん大丈夫?」
「……これが大丈夫に見えるのかしら?」
ジェットコースターに乗り終えた私たち。元気な二人と対照的に、私は一人気分が悪くなっていた。こういう乗り物は苦手なのにそれを乗らない方向へ持って行こうとしない辺りは昔と変わらない。正直そこに関しては一番変わっていてほしい部分だったのに。
「あたし飲み物買ってくるね!蒼くんとおねーちゃんはここで待ってて!」
そう言って日菜はどこかへ行ってしまった。
突然私と一緒に取り残された蒼夜は少し戸惑っているように見える。それでも私の気を紛らわせようとしてくれているのか話すことだけは止めようとしなかった。
「紗夜は意外と付き合いがいいんだね」
「……それはどういう意味」
「ジェットコースター、苦手なのに乗ってくれたでしょ。待っててもよかったのに」
乗らなかったら日菜が強引に乗せるように仕向けていただろうから対して変わりはない。日菜はどうにかしてでも乗せる。それは蒼夜が止めようとしても止められないだろう。私に拒否権はほとんどない。
「蒼夜は、絶叫系の乗り物が好きじゃない」
「もしかして僕が乗るって言ったから乗ったの?」
「……悪い?」
「なんて言うか、驚いたよ……」
何に対しての驚きだろうか。私は蒼夜が相手でなければ乗っていなかったのは事実だ。
「紗夜ってあまり人と関わっているようには見えなかったから」
どういう意味かわからなくて彼の顔を見つめれば「悪い意味じゃないよ」と続ける。
「誰とでも一定の距離で話せていたからすごいと思っていたんです。多分僕には真似できないことだから」
うそつき。それは貴方が一番得意だったことよ。
「僕は恩人と自分のためにしか動けないような人間だから羨ましいよ」
それはどちらかと言えば私の言葉だ。
「蒼夜は……私のことをどう思っているの」
自分勝手でわがままで自分の思い通りに全てが動いてほしくて、今もこうやってあなたのことを困らせている。
めんどくさくて最低な女。
「紗夜は真面目だよね。記憶のない僕にも優しく接してくれて、隣にいてくれて、感謝してる」
「そんなの幼なじみなんだから普通よ」
恋人だと言えないのは私の弱い所だろうか。
「それにギターを弾いている姿はかっこよくて
「ッ……!!」
天才。今の貴方は他の人と変わらない評価をするのね。前の貴方ならそんな的外れなこと絶対に言わなかったのに。
「けど__」
「もう、いいわ」
「紗夜?」
「……日菜のこと、探してきて。多分何かに目移りでもして遅くなるはずだから。私はここで待っているわ」
これ以上貴方ではない発言を聞きたくはない。聞かせないでほしい。
その意思を汲み取ってくれたのか蒼夜は日菜を探しに行ってしまった。
__私が追い払っておいて行って
自分から近づいて勝手に傷ついたから突き離して。
突き離しておきながら寂しいと思う。
都合が良すぎるし馬鹿なことをしている自覚ももちろんある。
今の彼は別に私を必要をしていない。
私がどれだけ必要としていても彼には関係のない話だ。
記憶が戻らない限り、きっと彼は私を必要だとは思わないだろう。もしかしたら戻っても必要と思われないかもしれない。私ではない他の誰かと手を繋いで笑い合っているかもしれない。
「ッ……そんなの嫌、いやよ……」
自分で考えて勝手にネガティブになっていたくせに零れる言葉は変わらない。
もし彼でなければ私は普段通りに接することができたのだろうか。
もし彼と恋人同士でなければ私はこうはなっていなかったのだろうか。
無駄な自問自答を繰り返す。
そんな妄想に意味はないと知っていても。
あの日の
もし仮に私と恋人ではない世界があってそこで蒼夜が隣で笑っているのなら。
「…………その方が、いいのかしら」
そうなったら私は上手く笑えるのかしら。そんなことを考えて空を見上げた。
私の感情とは真反対の雲一つない晴天だった。
十分経っても二人は戻って来なかった。だから私は二人を探すことにした。
蒼夜がいるから大丈夫だろうと思っていたけど、思えば彼は方向音痴だったことを思い出す。性格が変わりすぎて忘れていた。
どこかで迷っていて、日菜のことを見つけられていないのだろう。ただそれだけだと思っていた。
自動販売機がたくさん並んでいる場所があった。多分、飲み物を買うのならここだろうと思った。
行かなければよかったと、後悔する。
「ッ!!」
蒼夜と日菜がいた。ただ状況はいつもと違う。
日菜の背には壁、その日菜を壁と挟むように距離を詰めている蒼夜。腕を壁に付いて、日菜はそんな彼に抱きつく。
何をしているの、どうして日菜が蒼夜に抱きついているの、蒼夜はどうして日菜に俗に言う壁ドンというものをしているの、どうして、日菜は私が蒼夜を好きなことくらい知ってるでしょ、それなのにどうして、ねえなんで。
二人の距離が段々と近くなっていくのがわかる。
その時にチラッと見えた日菜の表情はどこか少し切なそうで、だけど今の私には、私を嘲笑っているようにしか見えなかった。
その場から逃げるように走り出す。途中で人にぶつかって、転びそうにもなったけどなりふり構ってはいられない。
言いたいことは色々あった。聞き出したいことだってもちろん。だけどそれはあの二人を見ただけで一瞬にして消え去った。息が詰まって、何も言えなくなって、ただ抑えていた感情が流れ出す。
二人が仲いいことくらい知っていた。それは過去も今も変わらない。知っていて、ずっと目を逸らし続けて来た。日菜は優しいから何も言わずに応援してくれていた。
けどだからって、その感情が変わるはずがないのにね。
「あああぁぁぁぁ……ッ!!!」
涙が止まらなかった。