「あこ、燐子、今日は付き合ってくれてありがとう」
「ううん。あこも練習したかったから誘ってくれてありがとうリサ姉!」
今日はRoseliaの練習が休みで、一人で練習するのもあれだったからあこと燐子を誘ってスタジオで練習していた。
友希那も誘ったんだけど用事があるらしい。紗夜は、誘わなかった。前日に日菜から遊園地に行くという話を聞いていたから邪魔はできないと思った。
練習はいい感じに上手くいって、これなら次の練習でも問題なく練習できそうだと思った。
「……帰りも、送ってくれて……ありがとうございます……」
「あははっ。別にいいよ。練習に付き合ってもらったお礼だし。なんならこの後ファミレスでもよってく?」
「ほんと!?行きたい行きたい!」
「なら進路変更だね。燐子もそれで大丈夫?」
「はい……」
燐子の了承もありアタシたちは進路を変える。
いつものファミレスは少し遠いから近場のファミレスを探しそこに行くことにした。ファミレスまではすぐ。この公園を抜けた先にあるらしく……。
「え、紗夜!?」
公園の中央。遊具がある側で蹲る姿。見たことある後ろ姿は明らかに紗夜で、公園で遊んでいたのであろう子供たちが心配そうに見つめていた。
「紗夜!どうしたの!?」
「紗夜さん!」
「氷川さん……!」
近寄ってその肩を揺すればゆっくり顔を上げた。
涙に濡れた顔。揺れる瞳からはとめどなく雫が零れ落ちる。地面は既に色が変わっていた。
どうして紗夜がここにいるんだろう。だって今日は蒼夜と日菜と出掛けているはずなのに。それに泣いている理由だって。
「あこ、燐子、進路変更ね」
「う、うん」
「は、はい……」
紗夜がここまで泣いているのなら原因はきっと蒼夜にある。それがわからないほどバカじゃない。問題は何があったか、だ。
この状況で日菜を呼んでも多分何も解決しない。というか悪化するかもしれない。それなら。
「紗夜、立てる?場所移動しよっか」
こくりと首を縦に振った紗夜が立ちあがる。
向かうのはここから一番近いアタシの家。事情はそこについてから聞こう。
♢♢♢
「おねーちゃん!おねーちゃん!!」
あたしは珍しく焦っていた。理由はおねーちゃんがいなくなったから。
飲み物を買って、そこで蒼くんと合流して、戻った時には既におねーちゃんはいなかった。
電話をかけても繋がらない。遊園地内を探してもおねーちゃんらしき人を見つけることはできなかった。
「蒼くん!おねーちゃん見つかった!?」
「いや全くだ。もう遊園地内にはいないんじゃないか?」
そうなるとさらに探さないといけない範囲が広くなる。遊園地内なら最悪出入り口付近で待機しておけば絶対に見つかったのに。
唇を噛みしめる。
おねーちゃんがいなくなった理由はなんとなく見当がついていた。ついていて、目を逸らしている。
だって、絶対におねーちゃんにはバレちゃいけないことだったから。そもそもやってはいけないことだった。
それでもあたしは。
「蒼くん!手分けしておねーちゃんのこと探そう!」
「手分けすると言ってもどれだけ広いと思って。そもそも俺は紗夜が行きそうな場所なんて」
記憶がないのはこういう時に不便だ。だけどそんなこと思ったってどうしようもない。
今更だし、今更どうにかできる問題でもない。
「蒼くんはライブハウスとその周辺を探して。あたしは友だちに連絡してみるから」
「ああ。任せてくれ」
蒼くんが走り去る。
あたしはスマホを取り出してメッセージアプリを起動させ電話をしていく。千聖ちゃん、彩ちゃん、麻弥ちゃん、友希那ちゃんに順番に連絡していく。けどみんな繋がらなかったりおねーちゃんの居場所を知らなかったり。一応探してくれるメンバーもいた。
次に掛けたのはリサちー。3コールで出たリサちーにも他のメンバーに言って来たような内容を話すつもりだった。
「紗夜なら家にいるよ」
「え……」
開口一番リサちーから聞こえて来たのは予想外の言葉だった。
どうしておねーちゃんがリサちーの家にいるんだろう。
「紗夜はアタシが面倒見てるから安心して」
「う、うん。あのリサちー、今からそっちに……」
「ダメだよ」
耳を通るのは否定の言葉。またまた想定外の言葉であたしは動揺してしまう。
「日菜、いくらなんでもダメだよ。紗夜から奪っちゃ」
「……わかってるよ」
「ううん、わかってないよ。日菜は中立でいなきゃ。どっちかに傾いちゃダメだよ」
「そうしてるじゃん」
「そうしてたんなら少なくとも紗夜は今泣いてないよ」
「っ……」
リサちーは珍しくキレたような声だった。初めて聞くその声に焦りが生まれる。
おねーちゃんが泣いていた。その理由はきっと一つしかない。
「とにかく、紗夜のことはアタシは見てるから。日菜は日菜がやらないといけないこと、自覚しなよ」
「……そんなこと言われたって、あたしは……」
「……紗夜が落ち着いたら連絡するよ」
またね。そう言われ電話を切られる。あたしの耳に届くのは同じ言葉を繰り返す機械音だけ。
あたしのせいでおねーちゃんが傷ついているとわかっているのに。
あたしの行動はおねーちゃんを傷つけていると理解できてるのに。
募るのは罪悪感。
虚しくて空しくて、涙が零れた。