君を探して   作:茜崎良衣菜

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捜索24

 

 

 

紗夜の向かう場所なんてわからない。だから俺は日菜に言われた通りライブハウス周辺を探していた。

日菜からの連絡はない。それはすなわちまだ見つかっていないということなのだろう。

 

紗夜が突然いなくなった理由を俺は知らない。だからそれも聞き出さないといけなかった。

 

 

そうして向かったCIRCLE。

そこで出会ったのは三人の少年少女たち。

俺のシャツをこれでもかってくらい握りしめた女の子は言った。

 

 

 

「やっと……やっと見つけたよ、お兄ちゃん!」

 

 

 

それは言ってしまえば最悪の出会い方だった。

 

 

 

「……君たちは、誰ですか」

 

 

 

俺は彼らのことを知らない。

そして彼らは俺が彼らを知らないということを知らない。

それがどれほど人のことを傷つけるのか、俺は知っている。

 

 

 

「な、何言ってるの……?私だよ、御門奏!」

 

「すみませんがその名前に覚えはありません。人違いではありませんか?」

 

「兄ちゃん!本当に俺たちのこと忘れたのかよ!!」

 

「今まであったことも全部忘れちゃったの!?」

 

「僕は人を探しているので……」

 

 

 

彼らはきっと俺の過去を知っている人間なのだろう。まだ中学生くらいに見える。それに呼び方は俺の妹や弟のよう。

だが、俺は覚えていない。今思い出している余裕もない。

今は何よりも紗夜を探すのが先決で……。

 

 

 

「……紗夜さんのこと、探してるの?」

 

 

 

彼女の口から聞こえて来たのは俺が探している人の名前だった。驚いて動揺してしまう。

どうして知っているのだろう。そう思って視線を向ければ彼女は悲しそうな顔をしていた。

 

 

 

「やっぱり、紗夜さんの方が大切なんだね……」

 

「え?」

 

「お兄ちゃんはいつだって紗夜さんのことばっか。いつだって私のことを見てくれているようで見てくれない。記憶がなくても、それは変わらないんだね」

 

 

 

俺の袖を掴んでいた彼女の手が緩む。残るのは手を伝って感じていた体温と吹き抜ける風の冷たさ。

胸の奥が、締め付けられて痛かった。

 

 

 

「……君は、君たちは僕の何を知っているんですか」

 

 

 

俺のことを知っている。

紗夜のことを知っている。

ということは日菜のことも知っているのだろう。

 

僕と、紗夜と、日菜と、その他いろいろな人と。

俺が関わってきた、俺の人との繋がりを知っている人物かもしれない。

俺が、記憶を取り戻す手掛かりになるかもしれない。

 

 

気づけば俺は彼女の手を掴んでいた。

驚いた表情の三人が俺のことを見ていた。

 

 

 

「お兄ちゃんは私たちの家族だよ」

 

 

 

家族。この子たちが俺の家族。

彼女は俺の手を掴んで握り直す。

 

 

 

「帰ってきてよ、お兄ちゃん……」

 

 

 

彼女は泣いていた。その瞳からポロポロと涙が零れる。

それを見て二人が動いた。俺の両腕をそれぞれが掴んで俺に想いをぶつける。

 

 

 

「蒼兄ちゃん。俺も蒼兄ちゃんに帰ってきてほしい。また家族みんなで楽しく過ごそうぜ!」

 

「兄さんに話したいことがたくさんあるんだ。だから戻ってきて」

 

 

 

三人の目は本気だった。

本当なら俺はここで彼らの想いに答えるべきなんだろう。

 

 

だけど今優先するべきなのはそれじゃない。

 

 

俺は腕を振りほどいた。驚いた顔が二つ。一つは俯いたままだ。まるで答えがわかっていたかのように拳を握りしめて動かない。

 

 

 

「僕は君たちと一緒に帰れない。僕には探さないといけない人がいるから」

 

 

 

けどね。と俺は続ける。地面に片膝をついて彼女の握りしめられた拳を取った。肩が、ピクリと揺れた。

 

 

 

「全部終わったら。今の僕がやるべきことが全部終わったら君たちの元に帰ると誓うよ」

 

「……ほんと?」

 

「ああ。何年経とうと、絶対だ」

 

 

 

俺は彼女の拳をゆっくり開かせてその小指に自身の小指を絡めた。そのまま子供がよくやる約束を取り付ける文言を唱える。彼女に笑いかければ彼女は小さく頷いた。何度も何度も頷いた。

 

 

 

「約束、破ったら許さないからね」

 

「約束なら破らないよ」

 

「……うん。知ってる」

 

 

 

立ち上がって別れの言葉を告げる。だけどこれが最後じゃない。きっとこれは始まりだと信じて俺は彼らに背を向けて歩き出した。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「紗夜。何があったのか、聞いてもいい?」

 

 

 

公園で泣いていた紗夜のことを保護したアタシたちはアタシの家に紗夜を連れてきていた。公園にそのまま置いては置けないし何があったのか気になって仕方なかったから。

 

聞いていた話では今日は紗夜と日菜と蒼夜の三人で遊園地に行っていたはずだ。

なのに紗夜は一人。日菜と蒼夜はどこにも見当たらなかった。一人で孤独に泣いていた。

その理由が気にならないわけがなかった。

 

 

 

「…………私は、どうすればいいんですか……」

 

 

 

紗夜から聞こえて来たのは疑問だった。ベッドの上に座って壁に背を預け頭を抱える姿からはいつもの凛とした雰囲気は感じられない。アタシたちの目の前にいるのはただのか弱い女の子だ。

 

 

最近ずっと紗夜の弱いところばかりを見ている気がする。そのせいで紗夜への印象が変わった人も多いと思う。アタシもその一人だった。

 

 

紗夜があまり笑わないのも、意見が正論以外から外れることがないのも、日菜と仲が悪かったのも。

全部蒼夜が関係している。一人の人間の影響で何もかも変わってしまうほど氷川紗夜という人間は弱い者だった。それをアタシたちは認識していなかった。当然だ。そこまで紗夜のプライベートに踏み込んでいなかったのだから。そもそも踏み込んでいたとして日菜ですら解決できていないような問題をアタシたちが解決できる見込みはゼロに等しい。現に解決できそうな問題ではなかった。

 

 

紗夜の力になりたくて紗夜の闇に踏み込んでおいて、解決できないからと見ないフリをしようとしているアタシはとんだ裏切り者だ。

 

 

 

「……いかないでよ、蒼夜。はなれないで……」

 

 

 

状況をなんとなく察してもなお解決策は見つからない。

やっぱりアタシたちじゃこの問題は解決できそうにない。

この問題を解決できるのは蒼夜だけなんだ。

 

結局他力本願になってしまうアタシは俗に言う偽善者ってやつなんだろう。

そんなことを思いながらアタシは日菜からの電話に出た。

 

 

 

 

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