合宿当日。5バンドが合宿所に集まり午前練と午後練をした。
午前練は主にグループ単位の練習。
1バンドずつスタジオに通されてそこで練習をしたのだけど、ここはスタジオじゃないのか疑った。
シンバルやシンセサイザーを替えてみたいと宇田川さんたちが言えば黒服の人たちが持ってきてくれて、しかもそれがなかなかにいい音をしていた。それならと私たちも色々試して大満足の練習時間だったと言える。
正直毎日ここで練習したいくらいだ。
そして午後練はバンドシャッフルで行われた。
分け方はクジ引き。バンドのボーカル、ギター、ベース、ドラム、キーボードがそれぞれ集まってクジを引きその番号でチームを作る。これはクリスマスにCIRCLEで行う合同ライブのバンドメンバーにもなるらしい。そんな適当な決め方でいいのかと思ったがみんな賛成していたので何も言わなかった。
私のメンバーは美竹さん、牛込さん、宇田川巴さん、若宮さんだ。学校はバラバラではあるものの私一人だけが年上。他のメンバーはそれぞれ交流があるのだろう。集まって何やら楽しそうに話していた。
私は性格も性格なため近寄りがたいのだろうか。4人が仲良さそうなのが少し羨ましい。
「あの、紗夜さん。紗夜さんもこっち来てくださいよ」
「‥‥紗夜さんのアドバイスも聞かせてほしいです」
「え、あ、はい」
宇田川さんに呼ばれ輪の中に入る。私もいていいのか聞けば「紗夜さんもここのチームでしょ」なんて笑われてしまった。こういうのは慣れていないんだからそう言われてもという感じだ。
宇田川さんの気遣いと若宮さん、牛込さんの優しい微笑みに美竹さんの不器用なりの歓迎もあって仲良くさせてもらっている。後輩に気遣われたことに申し訳なくなるも、とてもありがたかった。
他のバンドも上手くばらけたように見える。まあ、奥沢さんと市ヶ谷さんが大変だろうというのは想像はできるけど。
私たちは新チームなのでまだ曲がない。だからまずはどういうコンセプトにするかを決めることになった。
話し合いの末、宇田川巴さんと美竹さん、そして若宮さんの強い意志により「和ロック」。牛込さんと私は異論はなかったのでそれに決定した。
作詞は曲ができてからにすることになり作曲に取り掛かる。Roseliaとは違った空間での曲作りは充実していて楽しかった。
「宇田川さん、ここなんですけど‥‥」
「紗夜さん。宇田川さんだとあこと被っちゃうので巴でいいですよ」
巴さんたちメンバーとの距離が縮まったのは言うまでもないことだろう。
練習終了後私たちは1つの部屋に集められていた。なんでもこの別荘の設備の説明をするらしい。25人が同じ部屋にいるというのに暑苦しさも圧迫感もないのはそれだけ部屋が大きいからだろう。
一度ここに来たことのある松原さんたち曰く部屋には全て鍵が付いていて一人部屋二人部屋があるとのこと。ホテルだと思ったのは私だけではないはずだ。
まだ話し合いが始まりそうになかったためカバンの中から水と取り出しキャップを開けた。
「こころ。いつになったら説明始めるの?」
「
「え…」
「蒼夜くん来るの?やったー!」
「や、やっと解放される…」
水を飲もうとした時耳に入った言葉に私は自分の耳を疑った。
そうや。
確か彼女たちはそう言っていた。思いもよらない名前に私は固まってしまう。
いやでも彼女たちの言う
「紗夜?どうかしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
今井さんの不思議そうな顔から目を逸らし私は水を一気に煽った。
「蒼夜!やっと来たわね!」
「すみませんお嬢様。遅くなってしまって」
扉の開閉音の後に弦巻さんと男の人が会話しているのが聞こえる。
弦巻さんが呼んだ名前はそうや。振り返って見ればそこにいた人物は私を狼狽させるには十分だった。
手から力が抜けて持っていたペットボトルを落としてしまう。まだ半分ほど残っていたそれが床に水たまりを作った。
今井さんが焦ったように何か言っていたけれどその声を気にすることはできなかった。
目の前に現れた黒髪から目が離せない。知っている姿に昔から聞き覚えのある声。そして何より胸元の
「それじゃあ」
「蒼夜。貴方蒼夜よね」
止まっていた針が動き出した。
「はい。そうですが…」
肯定の言葉に私は目頭が熱くなった。
あぁ。やっと見つけた。それが第一に思ったこと。
これで撫子さんたちの日常も私の日常も元通りに…。
「貴方はどちら様でしょうか。お会いしたことありましたっけ?」
「……は?」
彼が何を言っているのか理解できなかった。
どちら様?
お会いしたこと?
何の冗談だ。あんなに仲が良くて
「紗夜です!氷川紗夜!覚えてないわけないですよね!?」
声が大きくなってしまう。
彼はたまに冗談を言うことがあったがこの冗談はタチが悪すぎる。
「ごめん。紗夜を驚かせたくて」って言って。
昔みたく笑って誤魔化して。
そのあとにギュッと抱きしめて。
ねえお願い。困惑顔で見たりしないで。
「…氷川紗夜という名前に覚えはないのですが、僕たちどこかでお会いしていましたか?」
「ッ!?」
限界だった。目から涙が溢れてくる。
口調は知らない人。一人称も変わっていた。私のこともキレイさっぱり忘れている。
その事実が私の胸に深く突き刺さった。
耐えきれなくなって部屋から逃げ出す。
日菜らしき声が聞こえた気がしたけど全て無視した。