19.そうだお礼参りにいこう。3
~熊野古道~
無事に天照様にもご挨拶が出来き東京から伊勢まで来たかいがあった。
天照様の予知とも神託ともとれる占いの結果もかなり気になるが、東京を出る前に六道婦人から伊勢に行くならついでに熊野詣もしてくればいいと言葉が脳裏にこびり付いている。
あの、六道婦人がわざわざ寄ってこいというのだから、何があるかはわからないが、
きっと何かあるのだろう。
せっかく近くまで来ているのだから調査に寄っていこう。
何も無ければ無いで、熊野詣もついでにしてきましたで完了なんだし、悪い話ではない。
それに人のお金で旅行できるなんてこんなチャンスは滅多に無いだろうからな。
見鬼くんが無いので、気配を探るくらいしかできないが、木漏れ日の中、心地よい気候の参道を歩きながら怪異の気配を探っているが、悪霊などによる負の雰囲気は感じられない
昔から信仰の対象になっている熊野三山のせいか、聖域となっており神性な空気さえ感じる
六道婦人に担がれたか?
参道には熊野詣に参る参拝客が道を通っており、本当に平和そのものだ。
こんなところに何の怪異があるのだろうか
調査なんだし、何もなければそれはそれでいいかと思い直し、リフレッシュを兼ねてのんびりと参道を歩く
ふと、気が付くと辺り一面に霧が出現し見通しが急激に悪くなり視界を真っ白に塞ぐ
こんな標高の低いところで霧が発生するものなんだろうか
道を見失うこと、踏み外すことを恐れその場に立ち尽くす。
この手も見ない濃霧のなか、参拝客が何事もないかのように器用に僕を避けて歩いていく
中にはグループで話しながらこちらも見ずに歩いていくが、僕にぶつかる事はない
彼らにはこの濃霧が見えていないのだろうか
そして、方向感覚を失っていることに気が付き、背筋がゾッとする。
僕は御神苗君の能力なのか方向感覚が異常に鋭い
彼曰く、渡り鳥並みの方向感覚があると漫画にあったがそのせいだろう
どんな時でも方角を間違えることはない。
その御神苗君譲りの方向感覚が、この霧が発生してから全く機能していないことに気づいた。
これが怪異かと思い、ポケットの中にすぐに使えるように文珠を用意する。
しばらくすると若い女性の声が聞こえてくる。
「もし・・・・・・もし・・・・・・」
誰かに声を掛けているような、そんな声が徐々に聞こえてくる。
この声は霧が出る前は山のさえずりと参拝客の雑踏や話声のみで全く聞こえてこなかった。
そしてその声が大きく聞こえるようになるにつれ、だんだんと霧が晴れてきた。
完全に霧が晴れるとそこには和服っぽい物をきた金眼緑髪の少女が現れた。
そしてその少女は道行く人にもし、もしと可愛らしい声で声をかけていく
しかし誰も気がつかない、まれに何かを感じ取ったのか辺りを見渡す人もいるが気のせいと思い足早にその場を離れていく。
この少女が怪異の正体なのかと思い、離れたところから様子を伺う
いきなり豹変して襲われるかもしれないので、ポケットの文珠には{滅}を装填しておく。
参拝客が通るたびに、その少女がもし、もし、と声を掛け続けるが
誰も聞こえないのだろう、少女を無視するようにそのまま通り過ぎていく。
参拝客がふいに途切れた。
声を掛ける人がいなくなった少女はその金眼の大きな瞳に涙を溜め、何かを堪える様にぎゅっと服を掴み、下を向きながら安珍様とつぶやいた。
あぁそうだ何故今まで思い出せなかったんだ。熊野詣といえば、清姫伝説じゃないか
もし、あの子が清姫なら、霊能者でないと存在を感じ取れないのだろう
そして、今でも清姫は安珍を待っているのかもしれない、安珍の居場所を聞くために
通りすがりの人に声をかけ続けているのだろう。
清姫伝説では安珍は熊野詣での後に清姫を迎えにくると言って出発したのに、嘘をついて逃げ、最終的には清姫がその思いのあまり竜に変化して鐘の中に隠れる安珍を焼き殺してしまう話だ。
ふうと肺に溜まった息を漏らしてしまった。
誰も通らなくなったことで、僕の吐いた息は思いがけずその少女の元まで届いてしまったようだ。
下を向いていた少女が僕のため息に反応して、その顔を上げた。
そして清姫と僕の視線が交錯した。
清姫がこちらを見ながら「もし」と声をかけてくる。
自分も清姫を見ながら「はい、どうされましたか?」と返事をした。
清姫は初めて話せる人を見つけたという喜びの表情を見せ、こちらに小走りに駆けよってきた。
こちらに駆け寄ってくる清姫を見つめていると、先ほどの涙のせいだろう
潤んだ金眼がどうしても目に付く
僕は女性の涙に弱いんだよ。それで失敗したことはないんだが
前世でも妹に泣かれると如何していいか分からなくなるし、なんとか泣き止んで貰いたいと思ってしまう。
僕の心情は、もう単純に浄化すればいいとは思えなくなってしまった。
いっそ攻撃してくれれば楽なのにとさえ考えてしまうあたりかなり末期だろう。
そうこうしている内に清姫がこちらに近づいてきてこう話しかけてきた。
「もし、旅のお方、安珍様をお見かけしませんでしたか?」
もはや安珍はこの世にはいないと分かっている諦めと、それでも約束を守り転生をして会いに来てくれるという一途な思い感じた。
清姫といえば嘘つきは焼き殺すやばい女性かと思っていたが、実物を見ると愛らしいお嬢さんでただただ一途なだけじゃないか、そんな気がしてくる。
そしてやはり、清姫は安珍を探しているようだ。
そして伝承の通りだとすれば清姫は嘘が嫌いなのだろう、正直に答える。
「申し訳ありません、安珍と言う方は見かけておりません。もしや貴女は清姫さんではありませんか?」
「はい、わたくしは清姫と申します。熊野詣でから帰ってくる安珍様が遅いのでここで道行く人に声をかけ、安珍様の行方を尋ねているのですが、誰からも返事がもらえず途方ふくれていおりました。
あなた様は何故わたくしの声が聞こえるのでしょうか?」
やはりこの清姫は安珍を未だに待っているようだ。
どうにも不憫で仕方がない
「そうでしたか、清姫さんこれから衝撃的なことを言うことになるとは思いますが、嘘偽りは言いません。憶測が混じる部分もありますが気をしっかりもって聞いてほしい。
まず私は霊能者で昔でいう民間の呪い師や祓い師のようなものです。
清姫さんの時代から数えてすでに1000年の時を経過しております。
1000年の時がたてば転生していてもおかしくはないのですが、アストラルの海
いやそうだな、輪廻に戻ったときにすべてを忘れてしまっていると思われます。」
安珍がこの世に居ない、いても会いに来てくれないと理解してしまった清姫は
その金眼の大きな眼から涙をこぼし、声を殺して泣き始めしまう。
「わたくし、嘘は何故かわかってしまうのです。
貴方様のお話にはまったく嘘偽りがありませんでした。」
泣き崩れ、嗚咽混じりに答える清姫
前にも言ったが僕は女性の涙に本当弱い
清姫はどんな状態なのか気になり、{滅}の文珠を{探}に変更して
清姫の状態を確認する。
どうやら、熊野の地に括られてはいるが、そのくくりは緩いそして清姫伝説という伝承と祀られていることで半ば神のような存在になっていた。
悲しみのどん底といった風な清姫にハンカチを渡して涙を拭くようにすすめる。
泣き止んではいないが話を聞けるくらいまで持ち直した清姫に今、貴女がどんな状態にいるか説明を始める。
「さて清姫さんの今の状態ですが、どうもこの熊野の地に括られています。
ただそのくくりは非常に緩い、また清姫伝説という伝承と信仰、そして貴女のその強い思いのおかげで半ば神のような存在になっています。」
安珍さんを探しに行くなら、括りを解けますよ。とそう告げる。
決められず泣いている清姫を見ながら、そういえばかの安倍晴明は橋姫を式神にしたんだっけとか六道の式神は家族同然だよなぁとか見当違いのことを考えていた。
ふと気が付けば、清姫がこちらをじっと見ている。
どうやらつぶやきが聞こえてしまったようだ。
こちらを見ているので何か話さなければと焦り
清姫を見つめながらこんな事を言ってしまった。
「そうだ僕の家族(式神)になりませんか」
清姫が顔を上げてこちらを見上げる
清姫のその美貌が段々と赤面してくる
あれ?なにかおかしな事をいったか?
家族とか結婚してくれと言っているような・・・・・・
そんなあって間もない殿方から告白されるなんて、家族ってことは結婚よね。でも結納も祝言も上げていないのに、子供は何人欲しいのかしら、ご家族にご挨拶も・・・・・・
お見合いでは顔も知らぬ殿方と結婚するんですもの・・・・・・・
そうだわ、まだご主人様のお名前を伺っていないわ・・・・・・
下を向いて猛烈な勢いで清姫がつぶやきだした。
あ、これもう手遅れなやつだ・・・・・・
真っ赤な顔でこちらを見ながら清姫から開口一番
「好き!! ではなくてご主人様のお名前を教えてくださいまし」
あかん、あかん、小竜姫様になで斬りにされる
「横島 優といいます。優しいという字の優です。あの、そのですね清姫さん」
「素敵なお名前ですね。優さま、みな迄おっしゃらなくてもわかっておりますわ
子供は男の子と女の子一人ずつですわよね。
清姫にはちゃんとお見通しですよ。」
あかん、なにもわかっちゃいない・・・・・・
誤解されたままではいずれ小竜姫様にもばれて首ちょんぱな未来しか見えない
「あのですね。清姫さんせっかく喜んでいるところ非常に言いづらいことではありますが
僕には小竜姫という竜神の許嫁がいます。」
腹に雑誌を仕込むわけではないが{耐}の文珠を即座に装填する。
「え?そんなことですか? わかりましたわたくしは側室ですね。
末永くよろしくお願い致します。」
あれ?いいの?清姫さん的にそれは有りだったの?
昔の価値観の人だから、ある程度は許容されるのかなと思っているとぼそりというつぶやきが聞こえてしまう。
「側室といえど、正室に勝るご寵愛を頂戴すればいずれはわたくしのものですわ・・・・・・」
僕は何も聞こえなかった。そう、何も聞こえなかったんだ。
もう後には引けない、清姫には式神としてついてきてもらうことを説明した。
術者の僕と式神は一心同体だと話したらひどくあっさり承知してくれたことが印象的だった。
「では清姫さん、僕の式神になる術式を展開しますね。」
「畏まりました。ご主人様、この清姫、結魂の準備はばっちりです。
それとご主人様、わたくしのことは清姫と呼び捨てにしてくださいませ。」
本当は式神にするのにいろいろ手順があるのだろうが、もう面倒なので文珠の力でごり押しで進める。
{放}の文珠を使い、まず熊野の地から解放した。
次に{絆}の文珠を使えばとりあえず式神にできるが流石にあまりに味気ないのでそれっぽい呪を唱える。
「汝の名は清姫、我、横島優の式神として仕えるか?」
「わたくしはご主人様と結魂いたします。」
「よろしい、受諾とみなし清姫を式神とする。」
{絆}の文珠が発動し清姫との間に霊力の絆がつながった。
式神を作ったことがないのではっきりわからないが、こんなにしっかりと認識できるような絆ができるものなんだろうか?なにか魂までくっついているような・・・・・・
東京への帰り道で新幹線などの文明をみて、目を大きくした清姫の話は別のお話
旦那様、小竜姫のことを許嫁と言ってくれて嬉しかったですわ
背後からぼそっと耳元から聞こえた小竜姫様の声を聴いて、玉がひゅんっとなったのも別のお話