21.合同任務
僕は今、ASEからの任務で新大阪駅に来ていた。
今回の任務の性質上、どうしても深夜しか対応できないからだ。
ASEのスタッフに案内され、時間まで待機する控室に通されたのが
そこで目に入ったものは六道冥子さんがパイプ椅子に座って優雅に紅茶を飲んでいる姿だった。
やっぱり育ちのいい人は仕草に出るのだろうか
そしてこちらに気が付いたのだろう、嬉しそうにこちらに手を振っている。
そこで気が付く、まさかASEと六道除霊事務所の合同任務か?
たしかに事前ブリーフィングでは霊能者を一名併せて派遣するという話だったが六道除霊事務所とは聞いていなかった。
いや、逆を言えば冥子さんが来ないとも聞いてはいなかったが、ASE所属の霊能者がくるものだと思いこんでいた。
どうしてこうなった・・・
それは六道家に報告に訪れてから幾日たったとある日、ASE所有ビルの一室で今回の任務の事前ブリーフィングが行われた。
ASEへの借金を返す一環なのだが、海外の任務よりは国内の任務のほうが安全だろうと思い受諾した。
ブリーフィングの内容を大雑把にまとめてしまえば、JR東海管区の新幹線を運転し、JR新大阪から東京までの間で東北新幹線の最高速度である320km/hの記録を更新してほしいと言うものだ。
何故このような依頼がASEに着たかと言えば、全ての始まりは
JR東海の新幹線運転指令部に一通の手紙が届いたそうだ。
通常この場所は極秘になっているのにも関わらずだ。
最初は誰か職員のイタズラかと思っていたらしいが、全員に尋ねても誰もこんなことはしていないという。
一応中を確認したところ、東海道新幹線は後から作られた他の新幹線の最高速度でまけていることが悔しい我々はまだやれるという内容だった。
そして差出人はN700と書いてあった。
完全に誰かのイタズラだと思い、誰のイタズラか分からないが今後このようなことをするなよと注意をしてその場はお開きとなった。
それから暫くすると、また手紙が届いた。
東海道新幹線、最高速度の計画は検討して頂けているだろうか?
我々は計画の達成の為に尽力を惜しまない N700
2度目の手紙に運転司令部はまたイタズラだと思い、職員に尋ねるが誰も名乗りあげない。
言い出しづらいのだと思い、改めてもうしないようにと注意するにとどめた。
それから、日が経ち3度目の手紙が届いた。
しかし今度の手紙は今までとは違いで真っ赤な色の手紙だった。
3度も続き、今回は今までとは違い手紙の色まで違う。
流石に気味が悪いと思うが一応手紙の内容を確認した。
我々の悲願を叶えて欲しい。
協力してくれれば我々は目標達成に命の限り力を尽くす。
どうか、計画を実施して欲しい
だが、協力が無い場合には我々にも考えがある。 N700
ここに至り、運転司令部も本社に対応を依頼したが、N700Aの運行が始まり従来より営業速度も上がったこと、またそれ以上の速度を求めるならリニアモーターを開発している事などの理由から最高速度の試験はしないと決定し、あくまでもイタズラだと判断した。
それからだ、検査場で合格判定された車両が、現場の運用に戻ってからモータの出力が上がらず速度が出ない、車内の電灯が消える、突然車内放送が入る等の
明らかにおかしい不具合が起こるようになってしまった。
現在のところ運航には支障がでていないが、いつもっと重大な不具合が起こるともしれない
そこでようやくJR東海本社も重い腰をあげた。
まずはお抱えの霊能者に届いた3通の手紙を見てもらったのだ。
その結果、差出人はN700系新幹線の付喪神だということが分かった。
多くの人が心血を注いで作り上げ、運用している車両なのだ、魂が宿ってもおかしくはない
そう、その霊能者は語った。
不具合の起きている車両全てをお祓いすることも検討されたが、膨大な手間とコストがかかること。またJRお抱えの霊能者では対応出来ないとの回答だった。
そこでJR本社は以前、同じような付喪神の幽霊車両の案件で美神除霊事務所に事態の解決を依頼した美神除霊事務所に再度事態の解決に向けて依頼を申し込もうとしたが、あの案件で後処理を担当した部署から待ったの声がかかった。
それはまず料金面では法外な料金を請求されたこと。
また、架線の損傷、その修理と復旧、また列車の回収など後処理にかなりの時間がかかり、翌日の営業を圧迫した。
その苦い経験が関係の脳裏によぎったのだ。
それに今だに不具合が起きているが乗客に直接的な害が無いことなどから、悪質な付喪神ではないだろという判断から、お望み通り最高速試験をしようと社内で調整された。
そこで最高の運転士を社内で探したが、試験車を運転するような運転士も当然在籍しているが、オカルト案件にも対応できるような特殊な訓練を受けた運転士がいなかった。
脱線事故などの最悪の事態を想定してASEに依頼することに決定した。
ASEならば万が一の場合でも補償が効くだろうという打算も当然あった。
余談だが、ASEへの依頼料が補償を含め高額にはなったが、それでも前回美神除霊事務所に支払った金額より安く、提示された計画もスマートで納得のいくものであった。
また計画が進行してから、ぴたりと車両の不具合が止まり、やはり付喪神の仕業だったかと関係者は胸を撫で下ろした。
一部の者から、不具合が収まったから計画を中止してしまえばと言う意見も出たが、付喪神の怒りに触れ、さらなる不具合の発生、そして今度はその怒りが乗客に向いてしまうことを恐れ粛々と計画は勧められた。
またまた余談だが、何故美神除霊事務所の依頼料が高額で、あのような殿様商売でも依頼が絶えないのか考えたことはあるだろうか。
それはオカルトという異常事態に対し、即応出来るからだ。
これが出来る除霊事務所は少なく、また出来る事務所は人気がでる。
不動産業など悪霊が部屋に住み着いているなどの、悪い噂が立つ前に秘密にこっそりとそして速やかに対応したい。
しかし他の多くの除霊事務所の場合、事前調査を行い。原因を特定してから自分達で祓うか、手に負えないと判断すればGS協会経由で他の事務所に譲ったり、または斡旋をしてもらい依頼を達成する。
そのため、一般的に解決にかなり時間がかかる場合が多いのだ。
これはわざと受け、つながりのある事務所に仕事を流し、差額をもらうなどの行為にも繋がるため、GS協会でも問題にはなっている。
ところが美神除霊事務所は突然現場に放り込まれても大量の霊具を使用することで力業で解決する事が出来る能力がある。
依頼料は高額かもしれないが、解決するまでの時間が段違いという点がかなり大きい。
勿論これには向き不向きがあり、地鎮祭など儀式系に特化した事務所もあり、そういうところは既につき合いの長いお得意様がいるので、悪霊を祓うなど攻撃的な依頼を受けなくてもやっていける事務所もある。
美神除霊事務所も、もちろん出来なくはないがあまり得意ではない。
実際は所長の美神GSが堅苦しいという理由で嫌がっているという噂も聞く
さて前置きが長くなってしまったが、今回ASEが受けた案件は当然だがオカルト案件である。
そのため、マルチドライバー一人ではGS協会から抗議があるかもしれないこと、またASEの企業としてのコンプライアンス遵守のために心霊現象特殊作業免許、通称GS免許所持者の同行が求められた。
そこでまず、先ほどから何度か話題に出ているJR東海のお抱え霊能者に悪霊が出た場合の対処を依頼したが、彼女は悪霊を祓うことよりも占いに特化していた。
そのため、緊急時の事態に対応できないと判断された。
美神除霊事務所に依頼すれば前回の二の舞になってしまうと腰が引けた。
どこの除霊事務所に合同任務として依頼するかがボトルネックになってしまっていたが、この彼女の発言により事態は一気に進行した。
実を言えばこの彼女、六道女学院の出身でそこでGS免許を取得をした才女だった。
しかし今回の案件は手に負えないと、六道女学院に相談したところ、六道家当主の六道冥菜が応対したのだ。
この彼女にしてみればOBとして軽く相談したつもりが、六道家の当主との面会となり緊張しきりだった。
話を聞いた六道冥菜はにんまり笑いながらこの案件の対応を六道本家で対応することを確約しASEへの協力体制を申し入れるように彼女に指示したのだった。
六道冥菜曰く「六道関係者のお願いですもの~無碍になんて出来ないわ~おまかせなさい~」
そして、冒頭に戻る。これがここに冥子さんがいる理由だ。
たしかに希代の式神使いであり、六道家の誇る十二神将がいれば大抵の事態は解決ができる。
それが解決なのか、壊滅なのかはさておいてになるが。
六道冥菜には他の思惑ももちろんあるが、今回はそこには触れない。
さて、冥子さんにお茶を一緒にのみましょ~と誘われ、時間までやることもないので隣に座ってお茶を飲んでいたのだが、どうも冥子さんはお姉さんぶりたいようで
僕をかいがいしく世話をしてくれる。
普段から、メイドさんがお世話してくれる環境にいるので新鮮なのだろうか
しかしこうやって改めて冥子さんを見ると可愛い系の美人さんだよなぁ
スタイルもスレンダーかと思っていたけど、出るところはしっかり出てるし
普段の性格は名家の出だけあって大らかで包容力もあってなにより優しいお姉さんって
感じだしなぁ
ただ、式神の暴走(ぷっつん)がすべてを台無しにしているのは間違いない
この人、オカルト関係に関わってなければ本当に引く手数多なんだろうなぁ
「優君、冥子をじっと見てどうしたのかしら~」
「すみません、冥子さんちょっとぼーっとしてました。」
「も~冥子さんじゃなくて冥子お姉さまでしょ~」
そう言いながらも、クスクス笑っている。
清姫には悪いがちょっとの間、冥子さんの相手をして貰おう。
任務の時には冥子と僕の護衛を務めてもらう。
頼んだよ清姫
「畏まりました。ご主人様、余人には指一本触れさせませんわ。
・・・特に女人は・・・・・・」
背筋がゾクっとした。そうこうしている内に任務開始直前の最終ブリーフィングの時間がやってきた。
最終ブリーフィングの開始直前に一人の男性が入室してきた
あれ?どこかで見た覚えがあるんだが、D-LIVE関係者か?
「よう、お前が今回の計画の運転士か?今回も面白そうなことやるみたいだな」
ASEのスタッフがアドバイザーの稲垣さんだと紹介してくれる。
木村ボンバーズ事件、東京モノレール着陸プロジェクト、碓氷線プロジェクトなどの
鉄道に関するプロジェクトにアドバイザーとして参加しており。
本日はたまたま大阪で鉄道のイベントが有り、こちらにいらっしゃっていたようで
せっかくなので参加していただくことになったようだ。
「初めまして、横島優です。ASEのマルチドライバーで今回JR東海道新幹線を操縦させていただきます。」
では、最終ブリーフィングを始めさせていただきますという言葉とともに
ASEのスタッフが司会を務める。
まず最初に前日に新幹線電気軌道総合試験車、通称ドクターイエローが線路、架線、関連設備の検査を実行し、問題がなかったことが報告された。
今回使用する車両は手紙の差出人がN700だったのでN700を使用することになっている。
なお、今回使用する車両にはATCで許容速度を表示するが自動ブレーキはかからないように設定したそうだ。
ATCの再開はボタン一つで再開できるようにしてある。最悪何かあっても、自動ブレーキで安全に停止できる手段が確保された。
また、CTC(列車集中制御装置)総合指令部より無線により連絡ができる体制を整えた。
次に冥子さんには悪霊が憑いていないか、霊視をしてもらったので報告してもらう。
「クビラが見た限り~悪霊はついていないわ~ むしろ良い御霊がいらっしゃるわ~」
最後に稲垣さんからアドバイスを貰う。
「東海道新幹線は1960年代に竣工が開始した古い設計の線路でカーブの半径が2500m以上に設計されている。最近の新幹線は半径4000m以上の設計だから、カーブのきつさが分かるだろう。
まぁなんせ当時は最高時速200km/hを目指していたからそれでも十分な設計だった。
そしてこのきついカーブが至る所にあるのが東海道新幹線の最高速を上げられない理由だ。
それでも、多い時は5分に一本の過密ダイヤ、年間平均遅延時間24秒、N700Aに至っては車両傾斜機能を搭載して275km/hの営業速度を達成した。
それはもう凄い路線なんだ。今日もこちらに来るときに利用させていただいたが、毎回初めて乗った時の感動を今でも思い出す。
一応速度が出せそうなポイントは新大阪~米原、岐阜羽島~浜松、掛川~三島、小田原~新横浜の4区間くらいだろう」
斑鳩さんも言っていたが、本当にこの人の人生は鉄道一色で構成されているんだな。
さて、最後にJRさんから現在の天候は晴れ、終着駅の東京も晴れで天気によるトラブルは無し、線路上にあるすべての列車は待避線に移動済み、オールグリーンというGOサインが出た。
良し、あとは僕が操縦するだけだ。
~新幹線 運転台~
発車の前に計器のチェックを実行する。
電圧、空気圧を始めすべての項目は正常。
マスコンを握り、こいつは走れると確信する。
『こちらCTC、最高速試験車両聞こえるか』
「こちら試験車両、感度良好」
『CTC了解、では試験走行を開始する。』
「試験車両了解、これより試験を開始する。」
さぁCTCからGOサインがでた。
いくぞN700 お前に、生命を吹き込んでやる!!
16両編成のN700は臨時回送車としてゆっくり新大阪駅を出発した。
最高速トライの1区画目新大阪~米原間はこの車両になれるための区間に使うつもりでいる。といっても2区間目の岐阜羽島~浜松間まで時間としては約40分くらいしかない
「斑鳩と比べて、お前の運転はなんというか、大人しいな」
一緒に運転台にいた稲垣さんがそう感想をつぶやく
まぁそうでしょうね。今はまだ新幹線の操作になれるためにATCに表示されている速度通りに走っていますから
でも、稲垣さんも気が付いてるみたいだがさっきからジワジワ速度が上がってきているんだよなぁ
もっと早く早くというN700からの意思表示だよなぁこれ・・・・・・
操作にも慣れてきたし、車両の感覚も掴めてきたしそろそろ全開走行に移りますかね。
「なぁ横島、ATCの速度を大幅にオーバーしているだが、ちょっと速度出し過ぎじゃないか、この先にもカーブがあるいくらなんでもこれじゃあ脱線するぞ!!」
「大丈夫です。稲垣さん、いけます」
うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!
運転室に稲垣さんの絶叫が響き渡る
カーブを抜ければ長い直線区間だATCも270を表示している。
あれ?270の表示が340に変わった?
「おい、横島いまATCが270から340に変わったの見たか?」
「えぇ稲垣さんしっかりみました
CTCこちら試験車両、ATCが340を示しているそちらで操作したか?」
幾らかの間があったあとCTCから連絡が入る
『こちらCTC、試験車両のATCは270を指示している。こちらからは340の指示はしていない』
やはり、この車両からの意思表示か
幸いまだ直線区間は続いている、それにATCの表示は340のままだ
マスコンを最大まで加速にいれる
300を超えてから徐々に加速が鈍くなってきた。
お前に魂があるなら応えろ!!
これ以上倒れないマスコンを握り締め、車両を応援する。
また徐々にではあるが加速を開始した。
330を突破・・・337・338・339・・・・340・341
「こちら試験車両、CTC聞こえるか?」
『こちらCTC、感度良好、もうすぐ東京駅だなそして凄い記録も取れた。』
「東京駅に到着。試験車両、最高速試験完了」
『試験車両お疲れ様。』
最終的に342kmを記録したそうだ。
導かれるままに操作したので、途中の記憶があいまいだが
隣にでみていた稲垣さんからはやはりASEのドライバーは頭がおかしいという
お褒め言葉をいただいた。
稲垣さんとも携帯の番号を交換したので、これから何か鉄道関係のイベントがあれば連絡を取ることにしよう。
そういえば、冥子さんが大人しいと思ったら、グリーン車でそのまま眠ってしまったようだ。
清姫も一緒に寝ている姿を見て、なにやらほっこりしてしまった。
さぁ清姫、冥子さん、家に帰りますよ・・・・・・
旧国鉄のJ〇をそのまま出していいのか微妙なので
JLという架空の鉄道会社にしました。
お楽しみいただければ幸いです。
では、また次回